テンプレだけど死んだらアルペジオに転生ですか!? やった、じゃあ男だけどこのままメンタルモデルになってバカスカと激しい海戦を…………あれ? 作:五々階道寺希ノ之乃
前略。北海道へ向かってます。
目指せ稚内、宗谷岬!! と言うことで俺ってば漁船を運転してます、意味もなく。操舵席から見える前方の甲板ではズイカクが漁船に備え付けられた道具を興味津々と見て回っていた。
尚、ズイカクは現在本船を離れて行動中だ。不味いんじゃないの? って聞いてみたけど「どうせ誰も来ないし大丈夫」とのことだったので俺は悪くない。
漁船の運転は全て俺の意志でできるから本当のところこんな風にレバーを握ったりする必要性は皆無なんだが、暇なんだから仕方ない。この漁船には娯楽が無いのだ。上陸した時に可能なら積み込もう。据え置きでもポータブルでもいいからゲームがあればいいかもしれない。やりこみ系のRPGならばなおよし。
かれこれ1時間船を走らせ、ようやく遠くに陸地が見えてきた。……あれ?
「……おかしいな」
「? どうした、急に」
操舵室を離れ船首の乗り出しじっと先を見てわかったのは、宗谷岬なるものが確認できなかったことだ。
「…………ああ、なるほど。そう言えば海水面が上昇したんだっけか。道理でない訳だ」
「地球温暖化の影響というやつか?」
「その通り。しかしこうなると人がいるかどうか微妙だなぁ……」
下手をすれば人がいるところまで北海道をぐるりと回ることになるかもしれない。
いやしかし諦める訳にもいかない。いずれにせよ陸に上がって物資の調達をしなければならないことには変わらない、ここは素直に粘り強く人を捜すしかあるまい。幸いにも時間は充分ある。
「面舵いっぱぁーい。北海道西部をぐるりと迂回しよう」
人間がいるところが見付かればいいけど。
さてどれくらい走ったか。耳に聞こえるのは漁船の軽いエンジンの音と波を割る絶え間ないざわめき。俺は操舵室を離れ左舷の船の縁に陣取り北海道沿岸沿いをじっと眺めていた。ズイカクは特に何かをする訳でもなく俺の後ろでボーッと三角座りをしており、背中合わせでその表情は窺い知れない。
「暇やねぇ」
何となくボソッと呟いてしまう。マイシップことこの漁船に娯楽がないのは察しの通りで、専らやることと言えば陸を眺めて観察したり意味も無く狭い甲板上をうろつくくらい。つらたん。
「暇、だって?」
「応ともさ。暇だ」
「面白い感性だな。それは言葉で説明できることか?」
難しい質問だな……。
「あー……そうだな。手持無沙汰でやることが無い、ってことかな」
「景色を見ていれば良い話じゃないのか?」
「うーん、パッと見て地平線の景色って大体同じやん?」
「波の大きさも形も違うぞ」
「んなこまけぇこたぁどうーでもええねん。大雑把に見れば海と空の境界線が延々続くんだ。いずれこの景色は見慣れたものになっていつか景色から見えるモノになる。感想を抱かなくなった時点でそれはつまらない、ようは暇を持て余すことになる……んじゃねーの?」
言葉で説明って難しいのん。そも暇だ云々だの感性も人によりまちまちだし、メンタルモデルは人間的な経験値が軒並み低いからわからないのも無理はない。
「オッケー。じゃあ陸に上がろう。内地なら何かあるかもしれない。海は飽きた」
メンタルモデルが言っちゃいけないこと言った気がするけど気にしなーい。
艦首を回頭して陸地へ一直線に進む。港なんて勿論ないので座礁しないギリギリのところまで進み……。
「やべ、こっからどうしよう」
「アホか」
水深が浅すぎて漁船だと進めない。陸までまだ結構距離あるし……。
「まぁ、跳べばいっか……ズイカクの甲板までジャンプできた訳だし」
それでもまだ足りるか不安……あ、そうか。
「わかった、空母の航空機発艦の原理を使えば良い!!」
「…………ああ、そういう……、」
「そうと決まればもう1回沖合に行ってから加速しよう!!」
再び沖合へ回頭。陸地がかなり遠くに感じるくらいにまでなれば充分だろう。
そう言えばこの漁船どのくらいまで速度出るのかな。考えつつ甲板上に暇潰しにと弄っていて散乱していたモリや網を撤去して綺麗にし準備完了。
船へ意志による命令を送れば重力子機関が唸りを上げて回転数を上げ漁船が加速を始める。最高速度は……100ノット!?
「うっひょー!! はええ!!」
「時にダイゴ」
「あい何かね?」
「止まる時ことって考えた?」
「うん、何も決めてないね!!」
残念ながら既にトップスピードに入ったので止める訳には行かない。
「いいさ、跳んだら全力で速度落としつつサイドキックかましたる!! ってかズイカクついてくるよな? このまま待機してると振り落すことになるけど」
「元よりついて行く気だったからな、仕方ない!!」
同時に2人で床を蹴り不安定な足場を駆け抜け跳び上がる。同時に漁船の速度を落としてサイドキックをさせる。波を巻き上げて後方へ流れて行く漁船を見送り、俺とズイカクは強い空気抵抗の中を弾丸のように飛んで行き……。
「着地どうするーッ!?」
「知るか!! それも考えてなかったのかお前さんはぁぁぁぁぁぁ!?」
「めんごーッ!!」
反省はしている、後悔は微塵もしていない。
「あ、ヤバいこれ思った以上に怖いわ!!」
「アホ!! バカ!! スカポンタン!! お前さんこの衝撃だと身体に損傷部分が出るぞ!?」
「痛覚は今切ったから問題ない!! あとは着地時にどれだけ衝撃を拡散できるかだ!!」
演算で予測される着地ポイントを視界に映し出し同時にルートも表示。この分だと山の向こう側に落ちるか?
「ズイカク!! そっちのルートと着地ポイントは表示できるか!?」
「そんなの、朝飯前ッ!!」
「でかした!! 着地は下り斜面、まだ全容は見えないが森の木にさえ気を付ければ問題ない筈だ!!」
丁度今、山のすれすれを超えて……真下に森が広がって緩やかな傾斜が続いている。背の高い木がそろそろ掴めそうな気がする。麓には川っぽいのがあるからそこに飛び込めば多分大分衝撃減らせるだろ。
「あ!! ズイカク、クラインフィールドずるい!!」
「知るか!! そっちに付き合ってるんだこっちの身にもなってみろ!! とにかく身体部を構成するナノマテリアルは無駄にするなよ!! 私は直せないからな!!」
と、そこで影が木に差し掛かって見えなくなった。俺も森に突入し葉っぱの群れの中をすんごい速さで突き抜け、時に枝をへし折りながら着地。したけど勢いが勢いなので止まれないいいいいいいいいいいいいいいいい!!
「ぬおっ!?」
地面を何とか滑っていたら木の根っこに躓いて体が宙に浮いて回転し始め……おろろ、目が回る……こともない。流石はメンタルモデル。でも視界がブレまくってどっち向いてるかわからない。不意に背中から地面に落ちたらしく「ぐへっ」と情けない声が漏れつつしかし勢いは止まらないまま転がる。痛覚がない状態なのでどこを打っても何とも思わないので不思議だが、これ常人なら死んでる。それもそうか、100ノットにプラスして走った分の速度で地面に落ちたんだから当然の話。
体を丸めたまましばし転がり続け、突然一瞬浮遊感に包まれたかと思えば、直後に着水。しばし水切りの石っぽく水面を2回跳ねて川に落ちた。
「――――ぶはっ……はぁ……きっつ……、」
精神的に疲れた、うん。あんな視界ぐるぐるしてたらどんな三半規管持ってても酔うわ。メンタルモデルだから体が直接的に影響を受けることは無いけど、精神的にキツイものはある。
「無事かーダイゴぉ」
「おう、無事ー」
泳いで岸に上がると崖の上からズイカクが降りてきた。クラインフィールドで全部帳消しか、羨ましい奴め。
「いやー。楽しかった」
「楽しむ要素がどこにある……?」
いいじゃん、スリル満点で。そりゃしばらくする気は起きないけどさ。
「よし、じゃあ行くか。いやぁ、服乾かす手間が省けるからいいね」
濡れたジャージは全部再構成、濡れた身体もあっという間に元通り!! そう、メンタルモデルならね。
「で、どっち行けば人いるかな?」
「聞くな」
「じゃあこのそこら辺に落ちてた枝を使って……」
地面に立てて、手を離す。右斜め上に倒れた。
「よし、こっちだ」
「待て、やめろ、絶対ロクなことないから、やめて、やめてください」
ズイカクにメンタルモデルならもっと賢い方法あるだろ!? って怒られた。何だよそれ。俺バカだからわからん。
「電磁波を追えばいいのだ。発信源に向かえば自ずと人間には接触できる」
ほぉー、電磁波まで探知できるのかメンタルモデル。すげぇな君達。いや俺もだけど。
取り敢えずやってみたら電磁波をキャッチできたので進路を東へ。北海道初の旅が徒歩で道なき道とはね……。
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