D-WAVE!ーチルアウト☆ヘレティックー   作:太刀黄泉

10 / 10
6万ジュエルで水着シンデレラ2体という結果に全身の痙攣が止まりません。

水着マルチャーナ先生は怒りのマイレ交換です。

ペンちゃん4号がイケボで草でございますのよ。


♪ウインドショッピング♪ ‐ SeCToR-B【映え見っけ☆】

人類の繁栄が遠い過去となった、静寂の街。

ひび割れたアスファルトを突き破って雑草が生い茂り、立ち並ぶビルの群れは、陽光に晒されて白く風化している。風がサビた看板を揺らす音だけが響く、文字通りの廃墟――。

 

その虚無の空間に、突如として『亀裂』が走った。

 

ガラスが割れるような、あるいは空間そのものが悲鳴を上げたような、ピンクルビーの光の奔流。

グニャリと歪んだ空間は、まるでカーテンを開くように左右へと割れ、その向こう側に、さっきまで二人がいたはずの荒野の景色を映し出す。

 

「到着~☆」

 

何事もなかったかのように、空間の裂け目をゲートのようにくぐって現れたのはリヴェラだ。

 

【……本当に、あなたの『だるい』という感情はろくなことをもたらしませんね】

 

ゲートの向こう側――まだ荒野に浮遊しているちぃエニが、心底呆れ果てた顔でこちらを見ている。

 

ちぃエニとその後ろを追う水晶玉(カメラ)が、リヴェラの開いた空間の門(ワープゲート)をくぐり抜けると、その裂け目は最初から何もなかったかのように静かに閉じた。

 

:映像ソースを再確認。……フェイクではない。空間の歪みによる重力レンズ効果、および向こう側の気圧差による大気の微細な流入を検知。

:空間トポロジーの局所的、かつ直接的な位相幾何学的改変。言葉を選ばずに言えば、空間そのものを『切断して繋ぎ直して』いる。

:……理解不能。ミシリスの次世代量子研究所が開発中のプロトタイプですら、微小なゲートを数ミリ秒維持するのにアークのサブ電力網を1基丸ごと消費する。あの安定性は計算が合わない。

:エネルギー効率だけではない。特異点(シンギュラリティ)形成における莫大な質量積算、および展開座標の固定(量子アンカリング)のプロセスが完全に不自然だ。何段階もの演算手順が消失している。

 

:なんかガチ勢が早口で考察始めてて草

:つまりどういうことだってばよ

:ミシリスの技術者たちが明日から会社行きたくなくなるレベルのバグ技を、ネキは「だるいから」って理由だけでノーコストで発動したってこと

:まぁ、前回ボロ船再構築させてたし。多少はね?

 

:……ボロ船の再構築?

:この規模の事象を、既に一度起こしているのか!?

:詳しく説明してくれ。私は今、非常に冷静さを欠こうとしている

:アーカイブ見てこい。『地上のアクティビティ』ってヤツな

 

 

「ねね、ちぃエニ☆ ここらのビルさ、な~んかリッチな感じするんだけど☆」

 

リヴェラは厚底ブーツでひび割れた地面を踏み鳴らしながら、並び立つビル群を見上げる。

彼女の隣を浮遊するちぃエニが、金色の瞳を瞬かせて周囲をスキャンした。

 

【――データ照合。……リヴェラ、驚くべきことに、ここはかつて地上で最も華やかで、最も贅を尽くした大通りです】

 

「そうなん?☆」

 

【はい。一流の仕立て屋や、大理石をあしらった格式高いデパートが軒を連ね、流行の先端を行く人々が絶え間なく行き交っていた場所。磨き抜かれたショーウインドウには世界中の宝石やドレスが飾られ、歩くだけで富と洗練された空気に圧倒されるような、そんな特別な街並みだったようです】

 

「テキトーに降りてみたけど、当たりの街じゃんね☆」

 

 

荒廃したストリートを二人は曲がっていく。すると――。

 

「うっは☆www ちぃエニ、みんな、見てアレ!☆www」

 

リヴェラが指差す先に水晶玉(カメラ)が向くと、そこには廃墟ビルの入り口に群がるように、ラプチャーの残骸が倒れていた。

 

:黒山の人だかり(ラプチャー)

:は? なんだこの数……。入り口に埋まってるじゃん

:あ! この四角いフォルム……!

:これ前回の配信に出てきた、第一世代のラプチャーか!?

: あの朽ち果ててたやつか! 今回は山積みやんけ!

:アングラ配信マジで最高だわ。公式アーカイブじゃ絶対に見られない歴史遺物じゃん

:ビルの入り口だけじゃなくて、壁にも突っ込んでる。当時の突撃の勢い凄まじかったんだな

:ラプチャーと瓦礫の山で入れそうにないな……

 

廃墟ビルに近づき、リヴェラが厚底ブーツのつま先で、もっとも手前に転がっていた残骸を軽く小突く。

カラン、という軽い金属音とともに崩れたのは、今のラプチャーにはない、鋳鉄の頑丈な金庫にそのまま武装を取り付けたかのような、ただただ無骨で四角い鉄の塊だった。

 

【……データ照合。以前、別の区域で確認された個体と同一モデル。初期侵攻時に多数投入された、第一世代ラプチャーの群れです。……興味深い。当時のラプチャーは、質量を無視して標的を力尽くで囲い込む戦術を採っていたようですね】

 

「てか、こいつらが囲んでたこの廃墟、気になってくるじゃん☆ ちぃエニ、なにか判る?☆」

 

【少々お待ちを――】

 

ちぃエニの金色の瞳がせわしなく動き、廃墟ビルの外周を見つめる。

レンズのように絞られる彼女の瞳が、蔦に覆われた外壁の剥落跡、歪んだ鉄骨のフレーム、そしてエントランスの天井付近に辛うじて残る、ひどく錆びついた紋章の輪郭を素早く捉え、形状データを測定していく。

 

【――建物の構造や、残されているエンブレムを見るに、どうやらこの廃墟はかつてデパートだったようですね。それも、ラグジュアリークラスの】

 

「マ? テンアゲなんですけど!☆ どっかに入れそうなとこないかな~☆」

 

:高級デパートまじか!?

:既視感あったけど、あれだ。バーゲン初日

:世紀末のバーゲンセール会場はここですか?

:ラプチャー並びすぎワロタ

:なお全員閉店(物理)させられた模様

:不謹慎すぎるwww

 

リヴェラは両手でひさしを作り、廃墟デパートの外周を見渡す。

すると、当時の戦闘の余波だろうか。3階部分の大きな窓が割れ、ぽっかりと口を開けているのを発見した。

 

「おっ☆ 開いてんじゃ~ん!☆ ちぃエニ、いくよっ!☆」

 

【えっ】

 

すぽっ☆

 

ちぃエニを褐色の谷間に収めると、リヴェラは軽く膝を曲げ、地面を蹴った。

 

ドン、と空気を破るような炸裂音が響き、アスファルトに蜘蛛の巣状の亀裂が走る。

重力を嘲笑うかのように、リヴェラの体は一瞬で垂直に跳ね上がった。

わずか一跳びで地上15メートル──デパートの3階、ガラスが派手に割れた窓枠へと正確に到達する。

リヴェラは滞空の頂点で、まるで階段を一段降りるかのように優雅に窓縁へと足をかけ、何事もなかったかのようにデパートの内部へと着地した。

 

【……ヘレティックの筋力出力特性を考慮すれば容易な質量移動ですが……、この運び方には甚だ不満があります】

 

「メンゴ☆」

 

少し遅れて、ふわりと窓からデパート内へ滑り込んできた水晶玉(カメラ)

激しくブレた画面がようやく安定すると、そこには、リヴェラの豊かな谷間から這い出し、空中で不機嫌そうに、小さな手のひらで服の皺を伸ばしているちぃエニの姿が映し出された。

 

【……次からは事前に申告してください。リスナーの前で醜態を晒すところでした】

 

「りょ☆―― じゃ、水晶玉(カメラ)も追い付いたことだし、おジャマしまーす☆」

 

画面の向こうのコメント欄が、一斉に色めき立つ。

 

:は?????

:今さらっと15m跳んだぞ!?

:カメラ置いていかれててワロタ

:重力仕事しろwwww

:ちぃエニそこ代われ

:役得すぎて草

 

ジャリッ――。

荒れたうす暗い店内へリヴェラは歩き出す。

身なりを整え終えたちぃエニも、その隣へと並んで後に続く。

二人の後ろから水晶玉(カメラ)が続き、100年放置されたありのままの姿がリスナーへ届けられる。

 

そこはかつて富裕層が買い物の合間にくつろいだであろう、広々としたラウンジスペースだった。

長年の雨風に晒され、すっかり色褪せてバネの飛び出た高級ソファ。

その足元には、割れた窓ガラスの破片と、強風で吹き込まれた土砂や枯れ葉が層を成して積もっている。

奥へと続く通路には、うつ伏せに倒れて四肢を損なったマネキンが何体も転がっており、まるで凄惨な事件現場のようだ。

しかし、それらが身にまとっているのは、ボロボロに朽ち果てつつも、かつて世界を魅了したであろう一流メゾンのドレスやスーツの残骸だった。

 

「うーわ☆ メチャクチャ☆」

 

【劣悪な環境にさらされ続けた、当然の結果ですね】

 

:マネキンが転がってるの、一瞬人間の死体かと思ってビビったわ

:着てるのも昔の一流メゾンのドレスだったんだろうけど……今はボロ布、か

:てか天井高すぎん? アークの商業エリアより全然広々としてるわ

:柱の彫刻とか、剥げかけの金箔とか……元は相当ヤバい高級店だったろこれ

:床の大理石も、土砂に埋もれてるけど本物っぽいな。贅沢すぎる

:ソファのボロボロ具合がリアルで廃墟感ある

:成れの果て感やばいな……

:こんな不気味な場所でもネキは通常運転で草

 

リスナーが好き勝手に盛り上がる中、リヴェラたちはショップの奥へと進んでいく。

最初のうちは、窓から吹き込んだ土砂や割れたガラスが床を覆っており、彼女の厚底ブーツがジャリ、ジャリと不快な音を立てていた。

 

だが、ラウンジを抜けて通路へと差し掛かった瞬間、足元の感触が不意に変わる。

 

――カツン、カツン。

 

風雨に晒されなかったその場所は、100年前の白大理石が奇跡的な輝きを保ったまま遮るものなく露出していた。硬質で高い足音が、静まり返った廃墟に心地よく響く。

 

「あれ?☆ なんか奥の方あかるくね?☆」

 

リヴェラが前方を指差す。

その言葉に反応したかのように、彼女の斜め後ろを浮遊していた水晶玉(カメラ)が、すーっと滑らかな加速でリヴェラを追い越した。左右に整然と並ぶ高級インショップ――かつて世界中の富を集めたであろうブティックのガラス壁の間を、すり抜けるようにして先行していく。

 

薄暗い通路の先、左右の壁が途切れたその場所へ飛び出した瞬間、画面の明度が爆発的に跳ね上がった。

 

水晶玉(カメラ)が捉え、リスナーたちへリアルタイムに届けられたのは、圧倒的な「光の空間」だった。

 

:うおっ、まぶしっ!?

:おいおいおいおい、なんだこれ……!!

:壁がねえ! っていうか真ん中が丸ごとぶち抜かれてる!?

:天井……、全面ガラスドームかよ! 割れた隙間から本物の太陽光が入ってきてるのか!

:光の柱が1階まで突き刺さっててヤバ……。埃が反射して金粉みたいに踊ってる……

:アークの人工太陽じゃ絶対にこんな光作れないわ……。綺麗すぎるだろ……

:これ、ただのデパートじゃないぞ。神殿か何かか?

 

水晶玉(カメラ)がゆっくりと旋回する。

建物の中心を最上階から1階まで豪快に貫く巨大な「吹き抜け(アトリウム)」。

 

その空間をぐるりと囲む回廊の美しさと、中心に鎮座する巨大な螺旋階段のシルエットが、差し込む光の中に神々しく浮かび上がっていた。

 

「バリエモじゃーん!☆……って、下すごいことになってんだけど!☆www」

 

かつては1階のエントランスから天井までを見上げるための開放的な大空間。

だが今、3階から見下ろすその底――水晶玉(カメラ)が捉えた1階フロアは、崩落した天井のコンクリート、へし折れた柱、そして入り口から強引に押し寄せたラプチャーたちの残骸で、完全に埋め尽くされていた。

 

:うわ……下、瓦礫の山じゃん

:待て、1階の瓦礫……崩れ方不自然じゃね?

:鉄筋が内側に千切れてる。外からの衝撃じゃない、内側から爆破されてるぞ

:あ、柱の根本に穿孔痕あるわ。指向性爆薬の跡じゃん

:マジかよ。当時の軍、2階まで丸ごと爆破してバリケードにしたのか

:おい、あの瓦礫の奥にあるの防爆シャッターだろ。ボコボコに凹んでる

:爆破バリケード+極厚シャッターの二重ロックか……。当時の軍のマジ度が伝わってくるわ

:ってことは、あの入り口のラプチャーどもは、閉まったシャッターに張り付いたまま圧死したのか

:えぐい防衛戦だな。下から入るの本当に無理なやつだわ

:ネキが3階の窓見つけて跳んで正解だったな

:あそこから這い上がってくるの絶対だるい

 

「それな!☆……て、ちぃエニどしたん?☆」

 

リヴェラは後ろを振り向き、ちぃエニへ声を掛ける。

しかし、リヴェラを見ることなく、ちぃエニの金色の瞳は瞬きすら忘れ、はるか天井から降り注ぐ光の柱と、その中で金粉のように舞い踊る塵のきらめきを、ただじっと見つめている。

少しして、どこか茫然とした声の呟きが返ってきた。

 

【……いえ。アークの人工太陽光の波長特性、および空間清浄度における浮遊粒子の完全排除データと照合中でした。……ですが、私の演算回路では、この光景を『非効率的で不衛生な廃墟』と切り捨てる記述が……うまく機能しません】

 

「でしょ?☆ なんか知らんけど、きれーじゃん☆」

 

:おい、あのエニックのプロキシがバグってないか?

:AIの計算限界を超える地上の絶景、ってコト!?

:ちぃエニがちょっと見惚れてるの、なんか人間味あって尊いんだが……

:アークの完璧な光しか知らないもんな、俺たちも彼女も。

:ネキの「きれーじゃん☆」のIQ3くらいの軽さで救われるわww

 

「それに計算じゃなくて、ハートで感じるのも大事なんだぜ?☆」

 

そういうと、笑顔のリヴェラは自身の豊かな胸元を手のひらでパタパタと叩く。

その様子にちぃエニは呆れた声音で。

 

【……心臓を示すなら、叩くのは右ではなく「左」ですよ。もっとも、ヘレティック(あなた)コア(心臓)がそこに在るのかは定かではありませんが】

 

「だいたい合ってればいいの☆ ……よし、ちぃエニもお気にのアトリウム、今回のサムネにしよー☆」

 

【たった今、情緒を語った者から出たとは思えない、情緒に欠ける発言ですね】

 

「え~?☆ だって超映えてるじゃん☆ みんなもそう思うっしょ?☆」

 

:雰囲気をぶち壊す天才かよwwww w

:ネキの配信者魂さすがに草

:ちぃエニの歴史的なフリーズが一瞬で台無しになってワロタ

:エモの使い方が軽すぎるwwwwww

:いやでもマジでサムネ映えはレベチだわ

:確かにこれはアーカイブの表紙確定

 

「でしょー☆ ――あ、そうだ!☆ ちょっと思いついた事あるから、ちぃエニとみんなは通路で待ってて☆」

 

悪戯っぽく笑うと、リヴェラは鼻歌混じりに先ほどのインショップの奥へと引っ込んでしまった。

残されたちぃエニと、浮遊する水晶玉(カメラ)は、言われた通りに吹き抜けに面した回廊へと視線を戻す。

 

 

天井のガラスドームから斜めに降り注ぐ太陽光が、大理石の床の一部を真白く照らし出し、天然のスポットライトを作り出している。その光のステージの前で待つこと、数分。

 

通路の闇の向こうから、――カツン、カツン、カツン。と、先ほどよりもどこか洗練された、心地よいヒールの音が響いてきた。

 

光と影の境界線で、人影がピタリと足を止める。

 

次の瞬間、リヴェラがまばゆい陽光の中へ躍り出ると同時に、くるりと優雅に一回転した。

 

刹那、彼女の纏っていたギャル服がガラスのように砕け、ピンクルビーの光粒子となって弾け飛ぶ。

 

眩い霧が引いたとき、そこにいたのは、いつもの騒がしいギャルではなかった。

 

身に纏うのは、光を吸い込んで妖しく艶めく漆黒のイブニングドレス。

豊かな肢体の曲線を美しく際立たせ、大胆な背中のカットと深いスリットからは、陽光に照らされた褐色の肌が眩いほどのコントラストを描き出している。

ドレスの裾から覗く華奢な足元には、鋭く気高い輝きを放つ漆黒のピンヒール。

それは彼女の足首のラインをより妖艶に、そして引き締まったものへと変貌させていた。

光の奔流は頭部へと駆け上がり、艶やかなシルバーとサンセットオレンジのウェーブを、美しい二色の夜会巻きへと一瞬で結い上げていく。

同時に、目元や唇のメイクも、ドレスの気品にふさわしいシックな大人の色香へと塗り替えられた。

 

あえてルーズに残され、うなじにハラリと零れ落ちた毛先がふわりと揺れる。

 

その髪の余韻と、伏せられた睫毛の影が、どこか物憂げな「貴婦人」の佇まいたるゆえんだった。

 

劇的な変化に息を呑むちぃエニと、リスナーたち。

完全に静まり返った廃墟の中で、彼女はゆっくりと動き出す。

 

「――皆様、ご機嫌よう」

 

ドレスの裾をそっと指先でつまみ上げると、漆黒のピンヒールが床を鳴らし、しなやかに斜め後ろへと引かれた。

深く膝を曲げるにつれて、人魚の尾ひれのようにタイトだったドレスが、床に大輪の黒い薔薇を開くように美しく広がっていく。

 

すっと頭を下げ、背筋を美しく伸ばしたまま――。

その傾けられた頭部から、夜会巻きに隠されていたサンセットオレンジが、褐色のうなじを縁取るように鮮やかに一筋の炎となって浮かび上がった。

外側のクールなシルバーハイライトと混ざり合いながら、ルーズに垂らした毛先がデコルテの上でハラリと妖艶に揺れる。

それはかつての王族に捧げるような、非の打ち所のない、優雅で気高きカーテシーだった。

 

ただ光だけが満ちていく空間で、誰もがその圧倒的な「美」に心を奪われ、声を出すことすら忘れていた。

 

その時――ゆっくりと顔を上げた彼女が、形の良い唇をきゅっと吊り上げる。

 

「……なーんてねっ☆」

 

パチン、と小気味よい音を立ててウインク。

一瞬にしていつもの「リヴェラ」に戻った彼女を見て、凍りついていたコメント欄が、文字通り大爆発を起こした。

 

:ひっ

:ア、ア、ア、ア、

:語彙力消滅した

:おい待て今のは反則だろおおおおおおおおお!!!!!

:ギャルどこ行った!? え!? 誰!? 女神様!?!?

:早着替えしただけじゃなくて、身のこなしまで完璧なのなんなの!?

:ビジュで俺らの心臓殴ってくんのやめてよね

:カーテシー美しすぎて心臓止まった

:物憂げな表情からの「なーんてねっ☆」で無事死亡

:頼むから今のスクショ、アークの全街頭モニターで流してくれ

 

「いひひ☆ イケてるっしょ?☆ どう、ちぃエニ?☆ あーしのドレス姿は☆」

 

【……一瞬だけ、本当にどこぞの貴婦人かと思ってしまいました。癪ですが、よく似合っていると言っておきましょう】

 

「あっは☆ ちぃエニ、顔真っ赤じゃん☆……でも、あーしのターンはまだ終わりじゃないぜ!☆」

 

リヴェラが指先を弾くと、再びピンクルビーの光が彼女の身体を包み込んだ。

 

刹那、漆黒のイブニングドレスが光の粒子へ還ると同時に、頭部の夜会巻きがハラリと解ける。

シルバーとサンセットオレンジのウェーブが爆発するように広がったかと思うと、光の奔流は彼女の右側へと収束し、高めの位置で一本のポニーテールへと一瞬で結い上げられた。

 

次の瞬間、光が弾けて現れたのは――気高き『夕暮れの果実』。

いつものクロップドパファーを思わせる、圧倒的なボリュームのフリル。

それが幾重にも重なった、鮮烈なサンセットオレンジのミニドレスだ。

 

アシンメトリーなワンショルダーのデザインは、ポニーテールを結んだ側の肩を大胆に露出させている。

結び目から溢れるツートンカラーの毛束が褐色のデコルテで弾むたび、インナーのオレンジがドレスの色と共鳴するように鮮やかに躍動した。

 

そして、首元に新しく巻き付いたのは、太めの漆黒のレザーチョーカー。

ストリートギャルとしての彼女の魂を証明するかのような黒いアクセが、ビビッドなオレンジと褐色の肌を、これ以上ないほどエロティックに引き締めている。

 

さらに光の粒子は、彼女の健康的な美脚へと一気になだれ込んだ。

ドレスの裾から伸びる褐色の太ももを、漆黒のレザーストラップがクロスしながら艶やかに縛り上げていく。

フリルの境界線ギリギリまで編み上げられた、ニーハイ丈のグラディエーターサンダル。

その足元を支えるのは、床を鋭く穿つような漆黒のピンヒールだ。

 

いつものホットパンツで見慣れていたはずの脚線美は、黒いレースアップによって、目を背けたくなるほどに扇情的な「エロカワ」の極みへと再構築されていた。

 

「どう?☆ こっちのがいつものあーしっぽくて、落ち着くっしょ?☆」

 

悪戯っぽく笑うと、肩にかかるサイドポニーを片手でふわりとつまみ上げてみせるリヴェラ。

 

シルバーとオレンジが鮮やかに混ざり合う毛先、そして指先の向こうに覗く褐色の首筋に、画面の向こうのリスナーたちは完全にノックアウトされていた。

 

「あれー?☆ 反応薄いけど、みんなシカト~?☆ ……ほら、ちゃんとあーしのこと見とかなきゃ、どっか行っちゃうぞ?☆」

 

そこへ、彼女はさらに容赦のない追撃を仕掛ける。

 

リヴェラはくるりとカメラに背を向けた。

大胆に開いた背中の褐色肌と、サイドポニーの毛先がふわりと踊る。

 

次の瞬間、彼女は振り返りざまに、引いた片足のピンヒールをトントン、と小気味よく床に打ち付けた。

そのまま上半身を少し前に傾け、突き出したヒップのラインを強調しながら、上目遣いでカメラを覗き込む。

ドレスの裾がふわりと浮き上がり、漆黒の紐に縛られた豊満な太ももが描き出す「絶対領域」が、画面いっぱいにこれでもかと主張した。

唇の端をきゅっと上げ、人差し指を自分の唇にそっと添える、完璧な小悪魔のポーズ。

 

先ほどの高貴な王族のカーテシーとは180度違う、男を狂わせるための、計算され尽くしたあざとい仕草。

 

その刹那、一瞬の静寂を置いて、配信画面のコメント欄が文字通り「限界突破」の大爆発を起こした。

 

:あ(尊死)

:むりむりむりむり

:たすけて

:カーテシーからのこれは情緒壊れるてwww

:男を狂わせる天才かよ

:どこにも行かないでくれ、リヴェラ!!!

:ポーズあざとすぎだろ!! 計算高くて最高!!!

:太もものレザーストラップ食い込んでるの、さすがにエロすぎない?

:サンセットオレンジのドレス、褐色肌に映えすぎててヤバい

:サイドポニーから覗くうなじ助かる

:ネキの「男の転がし方」のIQが急上昇してて草

:ネキ助けて!俺このリヴェラ好きになっちまう!

:同一人物なんだよなぁ

:さっきの貴婦人は幻だったのか……?

:こんなん全人類好きになっちゃうじゃん……

 

「あっは☆ みんな反応良すぎてウケるんだけど☆」

 

大満足といった様子でカメラにピースサインを送ったリヴェラだったが、ふと、水晶玉(カメラ)の隣に浮遊している相棒へと視線を向ける。

 

ちぃエニは、いつもの冷静な無表情を保とうとしてはいるものの、どこか不服そうに視線を泳がせ、自らの小さなドレスの裾を指先でしきりに弄んでいた。

その、ほんの少しだけソワソワとした空気を見逃すリヴェラではない。

 

「ちぃエニも女の子だもんね☆ おめかししたくなったんだ?☆」

 

【――っ、ありえません】

 

即座に、ちぃエニの金色の瞳が鋭くこちらを射抜く。

だが、目の前の小さな姿が必死にポーカーフェイスを維持しようとも、その美しいダークトーンの頬がわずかに熱を帯びて色づいた瞬間を、彼女の隣にいた水晶玉(カメラ)が至近距離で捉えていた。

 

【そもそも、この身体はアークの最高意思決定AIとしてのプロキシアバターであり、生体的な性別は存在しません。現在、私が衣服の形状を確認していたのは、先ほどのあなたの衣服再構成におけるエネルギー変換効率、およびナノマシン結合のプロセスに理論的バグがないかを観察していたに過ぎず、断じて『おめかし』などという非生産的、かつ情緒的な動機ではありません。加えて言えば、私にそのような美意識に基づく欲求は――】

 

「はいはい、そゆことにしてあげる☆」

 

【人の話を――】

 

画面の向こうのコメント欄も、このちいさな相棒の可愛い反抗に一気にヒートアップしていく。

 

:言い訳が早口オタクのそれなんよwwww

:本当はおめかししたいちぃエニ、尊すぎてアーク滅びる

:ツンデレAIたすかる

:AIに「ソワソワ」のログが記録されました

:システムがバグって言い訳を並べ立ててるぞww

:構わん、やれ

 

「オッケー☆ ちぃエニに似合いそうなの見つけたから、次はちぃエニのターンね☆」

 

【ですから、私の話を――】

 

未だに不満を言い募るちぃエニに対し、リヴェラは楽しそうに笑いながら、まったく悪びれる様子もなくその小さな身体へと手のひらをかざした。

 

「じゃ、いくよー☆」

 

瞬く間にリヴェラの手のひらから溢れ出したピンクルビーの光が、ちぃエニの20cmの身体を、そして水晶玉(カメラ)越しに見る画面のすべてを、まばゆい奔流となって覆い尽くしていく。

 

【ちょ、リヴェラ! あなたというヘレティックは――ッ!】

 

抗議の声すらも光の中に溶けて消え、配信画面は桜色の輝きに完全に包まれた。

 

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