D-WAVE!ーチルアウト☆ヘレティックー   作:太刀黄泉

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MINIKKEよかったなぁ
あれ?オールドテイルズって四人?
五人いたような……?

あ!エイブのことかぁ!(すっとぼけ


♪ワンダリング・スノー♪‐SeCToR-B【巡礼者×配信者】

廃カフェテリアとコメント欄は、リヴェラの「チル☆」ですっかり弛緩した空気に包まれていた。

 

そんな中、スノーホワイトがぽつりと。

 

「呆れたら小腹が空いたな。……リヴェラ、おかわりを出してくれ」

 

:さっきいっぱい食べてませんでした?

:ウッソだろお前www

:まだ食うの!?

 

「う~い☆ ……って、そうだっ☆」

 

ピンクルビーの渦(クローゼット)を開けようとしたリヴェラだったが、何かを閃いたのか、桜色の光粒子がすぐに霧散した。

 

「ただ食べるのもアレだし、ゲームしない?☆」

 

「ゲーム?」

 

【……何か碌でもないことでも思いついたのですか?】

 

ニンマリしているリヴェラを、胡乱気に見るちぃエニ。

 

「やー、楽しいレクリエーションだって♪☆ ……ね、スノーホワイト☆ 『非常食』って、今持ってる?☆」

 

「……私の貴重な食料を、何に使うつもりだ?」

 

「まぁまぁ☆ 持ってるなら、見せてほしいなって思って☆」

 

リヴェラのお願いに、スノーホワイトは渋々と外套(マント)の内を探る。

程なくして、ガントレットの右手に握られた布製の小袋が取り出される。

水晶玉(カメラ)が、それを注視するようにズームした。

 

「お~っ!☆ これが『例のアレ』かぁ!☆」

 

【……あ、あの、スノーホワイト……】

 

まるでその小袋の『中身を知っている』かのように、ハイテンションではしゃぐリヴェラ。

 

しかし、隣に浮かぶちぃエニは戸惑うような様子で――。

 

 

【その小袋】

 

 

【微かに、動いていませんか……?】

 

 

ゴソ……ゴソ……カサカサ……カサッ……

 

 

ちぃエニの指摘通り、不気味に蠢いている『非常食』が入った小袋を、水晶玉(カメラ)が鮮明に捉える。

その映像に、リスナーたちも戦々恐々としている。

 

:こわっ……

:マジでちょっと動いてて草

:このピルグリム何持ち歩いてるのwww

:何が入ってるんだか……

:どうせ碌でもないもんだろ

 

スノーホワイトは小袋を開けると、左手を入れた。

 

「これは貴重なタンパク源だ。地上の過酷な環境を生き抜くためのな」

 

なおも淡々と解説を続ける。

 

「普段はそのままいく(・・・・・・・・・)のだが、最近探索した廃農園で小麦粉を見つけてな。それにハチミツ、砕いた木の実、昔仲間にもらった香草の残りを混ぜた。貴重なタンパク質と糖分を効率よく摂取できる、私の――自信作だ」

 

真顔でドヤ顔を決めながら、彼女が取り出したモノ。

 

土色の球体から、イモムシやムカデのお尻が覗き、蠢いている。――虫ダンゴが現れた。

 

スノーホワイトの左手に載せられた蠢く土塊を、ちぃエニは呆然と見つめていた。

 

:ヴォエエエエエエエエ

:これはひどい

:グロ注意

:土塊に虫が刺さってて草

:エグいてぇぇぇぇぇぇ!!!!

:極めて何か生命に対する強い冒涜を感じます

 

「……冒涜? 感謝を込めて頂くに決まっている。地上で食糧確保の難しさは、重々承知しているからな」

 

【……正気ですか? 衛生観念および、食材の定義を再計算する必要があります】

 

「言っといてなんだけど、思ったよりゴツいの出てきて草☆ 見た目まんま土じゃんね☆」

 

……画面の端。笑顔を浮かべるリヴェラだが、着崩したジャケットから覗く褐色肌の肩を、こっそりさすっている。

 

気を取り直すように、リヴェラが口を開く。

 

「てコトで、この虫ダンゴ実食が罰ゲームのババ抜きしようぜ!☆」

 

【えっ!?】

 

:うおおおおおおお

:恐怖のゲームの始まりだぜぇ!?

:それな!www

:ちぃエニ声でっか

:本気で驚いてるやんwww

 

「――待て」

 

リヴェラの提案でデスゲーム(ババ抜き)が始まろうとした瞬間、スノーホワイトが待ったをかけた。

彼女は小袋に虫ダンゴを戻し、外套の内にしまった。表情には不満が浮かんでいる。

 

「私の貴重な食料を、賭けの対象にするのは納得いかん」

 

「まぁまぁ☆ もう少ししたらお昼だけど、その時にカレー出すからさ☆ それでチャラってことでどう?☆」

 

「カ、カレー、だと……?」

 

ゴクリ、と唾を飲むスノーホワイト。

その内心を表すように、琥珀色の瞳が静かに、されど激しく明滅している。

 

「それにさ?☆ 勝ったらカレー、負けても虫ダンゴでしょ?☆ どっちにしろ何か食えるんだから、スノーホワイト的に得しかなくね?☆」

 

「なる……ほ、ど……? ……ふむ、理に適っているな」

 

【どこがですか。思考回路が完全に胃袋に支配されていますよ】

 

その後。

 

【私はデータだけで十分です】、【拒否権を行使します】と必死に拒否するちぃエニを、スノーホワイトが「好き嫌いは良くない」、「貴重な糧だ」と善意100%で嗜める一幕があり――。

 

【負けられない戦いになってしまいました……!】

 

「そうこなくちゃ☆ 流石あーしのチャンネルのモデレーター兼マスコット~☆ 愛してるぜ!チュッチュ☆」

 

【私をこのような不衛生極まりない賭けに巻き込んでおいて、よく言えたものですね。……ですが、配信の盛り上がりとリスナーの満足度を考慮すれば、ここで拒否することは不利益と判断します】

 

「へーき、へーき☆ 勝てばいいんだから!☆ それに、確率とかそういう計算?☆ 頭いいから得意っしょ?☆」

 

【遺憾千万と言っておきましょう。……それで、ババ抜きにはトランプを使うのでしょう?カードの準備は?】

 

「これを使いまーす☆」

 

リヴェラはピンクルビーの渦(クローゼット)から、水晶玉に台座が付いたものを取り出し、テーブルの中央に置いた。

 

:ネキの不思議ガジェットきちゃ

:パッと見、スノードームみたい

:これもテトラ製?いや、ミシリス製か?

 

水晶玉が桜色に淡く光ると、空中にホログラムのトランプの束が現れた。

束からカードが次々と浮き上がり、虹が架かるようなシャッフルモーションが始まる。

大道芸のような演出は、カードが一塊になり光の玉となって爆発、光の粒子が散っていくことで終わる。

 

三人の前には、それぞれ6枚のホログラムカードが浮かび上がった。

 

:何今の!

:ちゃんと裏側透けないの凝ってるな

:これも今後テトラから出るの?

:ちょっと欲しいかも

 

「ごめんけど、非売品☆ 一応ルール説明するけど、同じ数字揃えてカード無くしたら勝ち☆ 最後までジョーカー持ってたら負けね☆」

 

「シンプルでいいな。始めよう」

 

【……スノーホワイト。そのヨダレを拭いてください】

 

こうして、敗者には虫ダンゴ(地獄)が待つ危険なババ抜きが始まるのだった。

 

 

テーブルを挟んで対面に座るスノーホワイトとリヴェラ。その通路側の空中には、ちぃエニが浮かんでいる。

3人の表情を水晶玉(カメラ)が映し出し、ゲームスタート。

 

「順番はスノーホワイト、あーし、ちぃエニね☆ 引くのは自分の『次』の人から!☆」

 

「了解した」

 

【了解しました。……手札の組み合わせと確率論を駆使すれば、敗北の危険性は極限まで下げられるはずです】

 

自分を奮い立たせるように呟くちぃエニだが、その小さな体はどこか緊張で固い。

 

「じゃ、スノーホワイトからどぞ~☆」

 

 

スノーホワイトの手前には、6枚のホログラムカードが浮かんでいる。

 

その上方には、同じく6枚のリヴェラの手札が、裏面を向けて並んでいた。

 

「カード選んでタッチすれば手札に加わって、揃ったら自動で消えるよん☆」

 

「わかった」

 

リヴェラの補足を聞き、スノーホワイトは琥珀色の瞳を鋭く光らせ、空中に浮かぶ6枚の手札をじっと見つめた。

 

裏面のデザインは全く同一で、揺らぎ一つない。

 

「……これだ」

 

意を決し、スノーホワイトが選んだのはリヴェラの手札の右から2番目のカード。

指先で触れると、カードはスノーホワイトの手札へと吸い込まれ、表返る。

 

引いたカードを確認した瞬間、スノーホワイトの動きがぴたりと止まった。

 

「…………」

 

琥珀色の瞳がわずかに揺らぐ。 そして、無言のまま対面のリヴェラをじっと睨みつけた。

 

「どったの?☆ いきなりガン見じゃん☆」

 

「……悪趣味だな」

 

ニマニマと笑うリヴェラに、スノーホワイトは小さく息を吐いた。

彼女の手札には、早くも不穏なカードが紛れ込んでいた。

 

:ペア成立ならず、か

:まぁ、序盤も序盤だし

:ドンマイスノホワ

:次はネキのターンか

 

 

リヴェラは楽しそうに鼻歌を歌いながら、ちぃエニの手札を見やった。

 

「う〜ん、どれにしよっかな~♪☆ ちぃエニ~、どれがアタリ?☆」

 

【回答を拒否します。……そもそも、アタリなど存在しません】

 

「つれないねぇ☆ じゃあ……これっ☆」

 

リヴェラが指を伸ばし、ちぃエニの手札から中央のカードを選んで軽快にタップする。

 

カードが手札に加わると、リヴェラは一瞬それを確認し、にっこり微笑んだ。

 

「ビンゴ~☆」

 

引いた『ハートの3』が、自身の手札にあった『クラブの3』と合体し、光となって弾ける。

カードを1枚引かれたちぃエニの手札は5枚に減り、ペアを揃えたリヴェラの手札も4枚になった。

 

:ネキ順調やん

:計算(笑)

:がんばれちぃエニ負けたら虫ダンゴだぞwww

 

 

【……私の番ですね】

 

引く相手は、先ほどリヴェラからカードを引いて手札を7枚にしたスノーホワイトだ。

 

【(スノーホワイトの手札は7枚。元々の6枚に、直前にリヴェラから引いた1枚……。彼女個人の行動データはありませんが、ババ抜きでは、新たに獲得した札を無意識に『端』へ挿入する確率は、極めて高い……!)】

 

ちぃエニの金色の瞳が、フォーカスを絞るように細くなる。

 

【これです……!】

 

ちぃエニがスノーホワイトの中央のカードを選択し、小さな手で力強くタップした。

 

そして、手札に加わったカードを確認した瞬間――。

 

【……なっ、何ですか!?この不愉快極まりない顔面のカードは!!】

 

ちぃエニは思わずカードを両手で引っ掴むと、そのまま主催者(リヴェラ)の目の前まで一気に詰め寄った。

 

そこに描かれていたのは――。

 

 

両手で中指を立て、真っ赤な舌をペロリと出している人型のラプチャーという、極めて煽り性能の高いデフォルメイラストであった。

 

 

水晶玉(カメラ)がそのカードを映した瞬間、コメント欄が加速する。

 

:あ

:あっ(察し)

:ジョーカーキターーーーーー(゚∀゚)ーーーーーー!!!

:何この歯茎むき出しのゴリラwwwww

:両手中指は大草原不可避wwwwww

:絵柄煽り散らかしててワロタwwwwww

:てかこれ耐えたのか、スノホワwww

:俺なら噴き出す自信あるわwww

 

「ぶはははは!☆ あーしの特製ジョーカー☆ めっちゃウケるっしょ?☆」

 

【どこがですか!? 悪意の塊のようなデザインです!!】

 

ぷりぷりと怒るちぃエニ。

その小さな両手に掲げられたジョーカーが、煽り全開の絵柄を晒しながら、ピカピカとホログラムの光を放っていた。

 

二人のやりとりを黙って眺めていたスノーホワイト。

その視線は、ジョーカーを捉えたまま険しくなっていた。

 

「……トーカティブ……」

 

「あっは☆ やっぱ、チャッターくん(・・・・・・・)追いかけてんの?☆」

 

その声にスノーホワイトが視線を向けると、ストローを咥えてドリンクを飲むリヴェラと目が合った。

リヴェラはピンクルビーの瞳を細め、楽しげに笑っている。

 

「……奴を知っているようだな」

 

「あ、場所聞くのはやめてね?☆ 個別のラプチャーの居場所まではわかんないし、今ゲーム中なんで☆」

 

【……二人とも、先程から何の話をしているのですか?】

 

ちぃエニの声に、リヴェラとスノーホワイトが揃って顔を向ける。

トーカティブ(ジョーカー)のカードを抱えるちぃエニは、怪訝な表情で二人を見ていた。

 

【その口振りですと、このカードのラプチャーを知っているようですね?】

 

「あぁ。長年追っているラプチャーだ」

 

「……ちぃエニは(・)知らないカンジ?☆」

 

【はい(・・)。アークにも情報が無い(・・・・・・・・・・)未確認のラプチャーです】

 

「そっか☆……まぁ、エニックも言えないよねぇ」

 

:え?こいつ実在すんの??

:実際に中指立てて煽ってくる……ってコトぉ!?

:ばかやろうwww

:人型のラプチャーとか、前代未聞だろ!?

:急に新情報出すのやめてね?

 

唐突なラプチャーの新情報にコメント欄がざわつく中、リヴェラはドリンク片手に何食わぬ顔で笑っていた。

 

「ま、固い話はナシナシ☆ ほら、ゲーム進めるよ〜☆」

 

 

ジョーカーの位置が割れたことで、ゲームは一気に慌ただしくなった。

その後も激しいカードの押し付け合いは続き――。

 

淡々とカードを選ぶスノーホワイト。

 

露骨な顔芸で翻弄しようとするリヴェラ。

 

焦りを隠そうとするも、隠しきれていないちぃエニ。

 

それらを愉快に眺めるリスナーたち。

 

――ついに、一抜けする者が現れる。

 

「はーい、上がり~!☆ あーしの勝ち☆ 1抜けいただきました〜!☆」

 

七色に輝くポップな『WINNER!』の文字が、リヴェラの頭上に躍り出る。

 

:ネキ流石すぎるwwww

:勝負強くて草

:やりますねぇ!

 

「ふっふーん♪☆ あとは二人で地獄の虫ダンゴ争奪戦を楽しんでね♪☆」

 

そう言うと腕を組み、豊かな褐色の双丘をたぷんと揺らし、高みの見物と決め込むリヴェラ。

そのドヤ顔を一瞥したちぃエニは、すぐにスノーホワイトに向き直る。

 

【……続けますよ、スノーホワイト……!虫ダンゴは、アレだけは何としてでも……!!】

 

「なんだ、ちび助(・・・)。先程も言ったが、好き嫌いは良くないぞ?」

 

【ちぃエニ(・・・・)です!……たしかに栄養はあるのでしょう。ですが、これは私の気持ちの問題なのです!!】

 

「難儀なやつだな……」

 

:ここまで必死なちぃエニは初めてだなwww

:まぁ、気持ちはわかる

:あのビジュはなぁ……

:不思議そうな顔してるスノホワ草

:日頃食い慣れてるのがわかるなwww

:地上って大変なんだなぁ(ポテチ パリパリ

 

 

リヴェラが悠々(ニマニマ)と見守る中、場に流れる空気は、まさにデスゲームのそれであった。

 

互いの手札は極限まで削られ、盤面は最終局面を迎えた。

 

スノーホワイトの手札:残り1枚(普通のカード)

ちぃエニの手札:残り2枚(普通のカード / 煽りトーカティブ)

 

スノーホワイトのターン。

冷徹な琥珀色の瞳が、ちぃエニの手札を見据えていた。

ちぃエニは平静を装っていた。だが、その小さな体は、意思に反してかすかに震えている。

 

【(……さっきから、行ったり来たり。早くジョーカーを選びなさい!スノーホワイト……!!)】

 

点滅するカーソルが、ちぃエニを弄ぶように2枚のカードの間を行き来していた。

 

自身が持つ『たった1枚の普通のカード』を引かれれば、スノーホワイトが勝利する。

 

そうなれば――。

 

そこまで考えたちぃエニは、ぷるぷると顔を振った。目の前に浮かぶ自身の手札を、改めて見据える。

 

【(……落ち着きなさい。まずは、ここを凌いで――)】

 

「――ちび助」

 

その静かな声は、不思議と響いた。

呼び間違いを正そうと、ちぃエニが顔を向ける。

その先で、静謐な琥珀色の視線とぶつかった。

 

「力み過ぎだ」

 

【(――ぁ)】

 

その瞬間、ちぃエニは悟ってしまった。

 

「貰うぞ」

 

選ばれたカードが消え、スノーホワイトの目の前で、ペア成立を示す桜色の光が花開いた。

 

 

立ち上った光粒子が消えていく様を、呆然と眺めているちぃエニ。

――手元に残されたのは、あざ笑うようなトーカティブ(ジョーカー)ただ一枚。

 

完全なる敗北の瞬間であった。

 

空中からへなへなとテーブルに座り込んだちぃエニを、水晶玉(カメラ)が無情に捉える。

 

:きまったぁぁぁぁ!!!!wwwwww

:オワタwwwwwwww

:ちぃエニ敗北確定の瞬間である

:虫ダンゴ!虫ダンゴ!虫ダンゴ!

:呆然としてて草

:まぁ、意外と態度に出てたよな

:ジョーカー選ばれたときに、キュッって手に力入ってたからなwwwww

:ポーカーフェイス出来てなかったで!

:でも可愛かったぞ!

 

画面の向こうでリスナーたちが大歓声とともに、好き勝手にコメント欄を埋め尽くす中――。

 

ーザザッ……ザザジジッ……!ー

 

空中に佇む、ただ一枚のホログラムカード。

その表面に描かれた醜悪な顔面が、あざ笑うかのように怪しく発光し始める。

 

次の瞬間、カードの枠を飛び出すようにして、カフェテリアの空間に巨大な赤黒いホログラムが立体投影された。

 

『ぐわはははははは!!』

 

大嘲笑とともに現れたのは――上半身だけのトーカティブ。

 

メカニカルで、はちきれんばかりに発達した体を揺らし、呆然と見上げるちぃエニを見据える。

ギラリとセンサーアイを赤く光らせ、赤黒い両手の中指を突き立てると、鋭い歯が並ぶ口から巨大な舌をデロリと垂らし、さも愉快でたまらないといった声音で――。

 

『 無様だな、敗北者が! 虫でも喰って地を這うが良い!! 』

 

『ぐわはははははは!!』

 

カフェテリア全体に響き渡る、大音量の高笑いと煽りボイス。

 

ジョーカーに仕込まれていた、リヴェラ謹製の敗北者煽り演出である。

 

:ファッ!?wwwwwwww

:ホログラム出たwwwwwwwww

:煽り演出凝りすぎだろwwwwww

:ぐわはははははwwwww

:うるせぇwwwwwwww

 

巨大なホログラムが、舌をベロベロしながら消えていく。やがて、カフェテリアに静寂が戻った。

 

【…………】

 

しばし呆然としていたちぃエニ。

その金色の双眸が、みるみる冷え切った輝きへと変わる。

 

【……何ですか、今のは。極めて不快です……!!!】

 

「ってことで、ビリはちぃエニ!☆ ゆ~るーず!☆」

 

【う、うるさいですよ! あの演出は、無礼にも程があります!!】

 

「顔真っ赤で草~☆ ささ、ちぃエニ――」

 

小さな手でテーブルをぺしぺしと叩き、ギロリと睨みつけるちぃエニを意にも介さず、リヴェラはニヤニヤとピンクルビーの瞳を細めた。

そして、怒れるちぃエニの前に、コトリとお皿を置く。

 

「お 食 べ ♪☆」

 

【―――】

 

ヒュッ―、と息を吞むちぃエニ。

思い出したのだ、敗者に課される虫ダンゴ(罰)を。

 

 

白磁のお皿に乗る土色の塊。

そこから突き出すイモムシやムカデの一部。

わずかに漂う湿った草とハチミツの香り。

 

視覚と嗅覚から流れ込む情報の食い違いに、ちぃエニの感覚器官は混乱の極みに達した。

 

じっとりと汗をかき、金色の瞳は滲む。

 

心臓(コア)がバクバクと異音をあげている――そんな錯覚に陥る。

 

ちぃエニが這い寄る嫌悪感に固まっていると――。

 

「おー♪ たー♪ べっ♪☆」

 

陽気な悪魔の催促の声が響く。

ちぃエニと水晶玉(カメラ)が声の主をみると、笑顔のリヴェラが手拍子をしていた。

 

「おー♪☆」

両手を合わせ『O』の形に。

 

「たー♪☆」

両手を組み合わせ『T』の形に。

 

「べっ♪☆」

両手の人差し指で、チロリと出したピンクの舌を指さし、リヴェラはちぃエニにウインク。

――こうして、エンジンが掛かるようにコールが始まる!

 

「お~食べ♪☆ お食べ♪☆」

手のひらを上に向けて、ちぃエニに「どうぞ!」と差し出すように交互に前に出す。

 

「すいすいお食べ♪☆」

人差し指と中指の2本を立てて、口に運ぶイメージで、口元へ交互にすいすいと動かす。

 

「ググッとお食べで♪☆」

親指を立ててグイッと飲むようなジェスチャー。

 

「よいちょまる〜♪☆」

両手でギャルピースを決めるリヴェラ。

 

突如始まった奇行(コール)に、スノーホワイトは怪訝な表情で口を開いた。

 

「どうした急に。気でも触れたか?」

 

「いやいやwww☆ ちぃエニが食べやすいように、盛り上げてるだけだから!☆」

 

:スノホワwww

:ネキを心配してて草

:ちょwww ちぃエニ固まったままwww

:ネキがやりたかっただけやんけ!wwww

 

リヴェラの容赦ないハイテンションコールがカフェテリアにこだまする中、意を決したようにちぃエニが動き出す。

 

緩慢な動作で小さな両手を伸ばし、震えながらも虫ダンゴを掴む。

 

:スノホワが持ってた時は思わなかったけど、サイズ感エグいな……

:大きめのクッションくらいない?

:虫ダンゴクッション嫌すぎるwww

:お!

:ちぃエニ、いくか!?www

 

ちぃエニは目をキュッとつむり、小さな口を開いてかぶりつこうとするも――。

 

【……!? ッヒィ!!】

 

土色の生地に埋まるイモムシのお尻が跳ね、ちぃエニの鼻先を掠める。咄嗟に顔を背けた。

 

……もう一度、引きつった手で虫ダンゴを口元へ引き寄せる。

 

だが、鼻腔を突く独特の匂いと、先ほど目の前で跳ねた光景が脳裏に蘇り、本能が全力で拒絶の信号を出し続けていた。

 

覚悟を決めて口を開けようとしては、直前で身体が跳ねるように拒絶し、引きつった唇が「はく、はく」と声もなく開閉を繰り返す。

 

運ぶ手と拒絶する口元が、わずか数センチの距離で絶望の往復運動を続けていた。

 

:あかんwwwwエラー起こしてるwwww

:口がパクパクするだけで全然前に進んでなくて草

:はくはくちぃエニ助けたいwww

:虫さん抵抗してて草

 

「……ちび助が食べないならもらっていいか?」

 

「だ~め☆ これ罰ゲームだからwww☆ ほら、ちぃエニ!☆ 行けー!☆ く、ぇ―――」

 

笑いながらスノーホワイトを窘めていたリヴェラは、ちぃエニへ視線を向け―― ピタリと止まる。

 

金色の瞳からポロポロ涙をこぼし、口元を震わせながら、内股座りで虫ダンゴを持つちぃエニ。

 

全身をぷるぷるさせながら見上げてくるその姿に、リヴェラは――。

 

「~~~っ!! 無理!! あーしが食う!!!!」

 

声を荒げ、虫ダンゴを奪い取ると、大口を開けてかぶりついた!!

 

「っ……んぶっふぉおおおおおおお!!!!???」

 

:いったぁああああああwwwww

:お前が食うんかいwwwww

:ちぃエニの罰ゲームじゃなかったのかよwwww

:あのちぃエニ見ちゃあなぁ

:ようやった!それでこそ漢や!

 

口元を押さえて床でのたうち回るリヴェラを見て、コメント欄はさらに加速していく。

その姿を呆れたように眺めるスノーホワイトと、食べずに済んで安堵のため息をつくちぃエニの様子を水晶玉(カメラ)が映す。

 

:ちぃエニ心底ホッとしてて草

:介抱したれよwwww

:スノホワの冷めた表情よwwwww

:ネキ、エビ反りで悶えてらwwwwwww

 

 

悶えながらも虫ダンゴを食べきったリヴェラは、よろよろと起き上がり虚ろな目で口を開いた。

 

「……よかった、ヘレティックで。ニケだったら思考転換起こすところだったわぁー……」

 

:食べ手の精神が試されるシロモノかよwwww

:どんだけだよwwwww

:てか、急に老け込んでません?

:ネキしょぼしょぼで草

 

「……味の感想言うね? まず、ハチミツの香りがイケそう感出すんだけど、噛むと口いっぱいに古い油のニオイと湿った草のニオイがすんだよねー……。で、イモムシのぷちっとした――」

 

:よせよせ!!!!!

:ええて

:淡々と語るな

:プレーンのパーフェクト食う方がマシwww

 

リヴェラの地獄のような食レポを聞きながら、スノーホワイトは小袋から虫ダンゴを取り出し、口に放り込む。

 

「……大袈裟なやつだな。普通に食べられるじゃないか」

 

【……あなたも相当な悪食ですね】

 

不思議そうに首を傾げるスノーホワイトを見て、ドン引きするちぃエニだった。

 

 

「……じゃあ、お昼用意するねー……」

 

ふらふらと厨房へ向かうリヴェラを、水晶玉(カメラ)が追いかけていく。

 

しょぼしょぼ顔でドリンクをストローから啜りながら、リヴェラは厨房へ入るなり、無言で指を振った。

桜色の光粒子が舞い、荒れ果てた厨房が、たちまち新品同様の輝きを取り戻した。

 

「……ぷは。あー……、ちょっと持ち直したかもー……」

 

:まだ背中曲がってますよ

:おばあちゃんやんwwwwww

:大丈夫そ??

:お前ら目の前の光景にもリアクションしろよwwwww

 

「……うっし☆ じゃ、カレー作ってくどー☆」

 

飲み終えたカップをピンクルビーの渦(クローゼット)にしまうと、リヴェラは背筋を伸ばして指を鳴らした。

 

すると、リヴェラの頭上で桜色の光粒子が煌めいた。

 

シルバーのセミロングがスルスルと形を変え、ポニーテールへと編み上げられていく。

 

アウターであるシルバーのクロップド丈のジャケットは、黒のエプロンに。

 

シルバーネイルは、爪先が清潔感のある白に、爪の中央が健康的な桃色へと変わった。

 

「ヘレティックって、ニケと違って全身ナノマシンだからさー☆ ちょい応用すると、こんなカンジで着替えとかヘアチェンもできて便利なんだよね~☆」

 

:は???

:羨ましい……!

:朝とか超助かるやつじゃん

 

厨房内の手洗い場で手を洗い、消毒を済ませたリヴェラは、鼻歌交じりに仕込みを始めた。

 

「まずはお米の準備☆ スノーホワイト居るから……とりま4升いっとくか~☆ ちな、カレーの時は固めに炊くとイイらしいよ?☆」

 

:4升!?

:約40合。炊き上がり約13〜14kg

:給食センターかな?

:というか、そのお米何?高そうな紙袋に入ってるやつ

:画像検索かけたら、アークでも一部でしか流通してない米袋がヒットしたんだが……

:ロイヤルのヤツらでも手に入りにくいやつじゃん!

:そんなワケwww……ない、よね……?

 

リズムよくシャカシャカと米を研ぎ、手際よく研ぎ汁を流していく。

やがて四台の大型炊飯器が順番に起動し、厨房内には軽快な作業音が響き始めた。

 

:この調理音気持ち良すぎだろ

:ネキ、手慣れてるなぁ

:ポニテ褐色ギャルのエプロン姿良いよね……

:うん……いい……

:小さく聞こえるネキのハミングも高ポイントですよ

:何の審査員だよwwwwww

 

大鍋に油を引き、薄切りにしたタマネギを投入する。強火で一気に炒めると、厨房内に香ばしく甘い香りが広がった。

リヴェラは頬を緩め、鍋底が焦げ付く寸前に少量の水を差す。旨味をこそげ落とすように、木べらを手際よく動かしていく。

それを繰り返すうち、タマネギはみるみる綺麗な飴色へと変わっていった。

 

:あー、いけませんよこれは……!

:もう絶対うまいやつじゃん

:飴色タマネギとか『クッキングクラス』でしか見たことないんだけど

:手が込んでるなぁ

 

「カレーの旨味は、タマネギで決まるらしいよ?☆ ……ちぃエニは、どう思う?☆」

 

【……!】

 

リヴェラの問いかけに、思わず小さな息づかいが漏れた。

そのわずかな音に反応したように水晶玉(カメラ)が旋回する。

 

そこに映ったのは、カウンターの端で落ち着かない様子のちぃエニだった。

小さな両手を前にしてモジモジと動かし、金色の双眸も、いつもとは違って頼りなげに揺れている。

 

直接見なくても、こちらを伺っている気配はわかる。

リヴェラは苦笑し、視線を手元に向けたまま言葉を続けた。

 

「……お手伝いは間に合ってるから、後で味見お願いしてもいい?☆ ちぃエニの舌なら、あーしも自信持てるんだけど☆」

 

【あ、えっと、その……】

 

リヴェラが顔を上げ、ちぃエニに笑いかける。

 

「あと、出来上がるまでスノーホワイトの相手お願いね☆ ボッチにするとかナシっしょ?☆」

 

【……わかりました。お任せください】

 

いつもの笑顔を浮かべるリヴェラを見て安心したのか、ちぃエニはふよふよとスノーホワイトが居るテーブルへ戻っていった。その背を水晶玉(カメラ)が追っていく。

 

:……ネキが身代わりになったの気にしてたのかね

:普段雑な対応してるのに?www

:ちぃエニが元気そうでいいじゃんね

 

 

水晶玉(カメラ)がテーブルへ戻ると、スノーホワイトは武器の整備を続けていた。

 

テーブルの上には、分解された拳銃と、いくつかの工具が並んでいる。

スノーホワイトは部品の状態を確認しながら、布で丁寧に汚れを拭い取っていた。

 

【……よく手入れが行き届いていますね】

 

「必要な時に、必要な働きをしてもらうためだ。整備は欠かせない」

 

:さっきのクイックドローすごかったよな

:一瞬でネキに銃口向けてたもんね

:思い返すと、よく銃口向けてきた相手とババ抜きできたよなwww

 

やがて拳銃を組み直すと、スノーホワイトは手の中でわずかに角度を変え、全体を確かめた。

問題なしと判断したのか、彼女は拳銃を外套の内へ収め、椅子に立てかけているアサルトライフルに手を伸ばす。

 

拳銃よりも大きな銃身と機関部を目視で確認し、表面に付着した汚れを布で拭い取っていく。

銃身の付け根や機関部の周辺、照準器の固定状態。各部を順に確かめ、わずかな異常も見逃さない。

やがてストックの伸縮と固定まで確認すると、スノーホワイトは手の中でライフルの角度を変えた。

 

:プロの眼差しやん

:これ、エリシオン系統の古いやつか?

:……いや、細部が違う

:少なくとも既製品じゃないな

:まさか、これ自作か?

 

【摩耗しているようですが、パーツ交換はどうしているのですか?】

 

「探索で発見した武器庫や、……斃れたニケのものを使わせてもらっている」

 

淡々と整備を続けるスノーホワイトの横顔を、水晶玉(カメラ)が静かに映す。

 

:でもさ、アークで補給を受けたりはしないの?

:わざわざ地上で廃品漁りするより効率よさそうだけど

:バカ。中央政府が指名手配してるって、さっきネキが言ってただろ

 

ふと、琥珀色の瞳が、流れていくコメント欄へ向けられた。

スノーホワイトは整備する手を止め、静かに口を開く。

 

「アークには行けない。……私たちの任務は、まだ終わっていない」

 

「地上を奪還する。そのために、私たちは戦っている」

 

「それを成し遂げる前にアークへ戻れば……まるで、これまでの戦いが失敗だったと認めるようなものだ」

 

ライフルに視線を落としたまま、淡々と話すスノーホワイト。

ちぃエニは彼女の横顔を黙って見つめている。

 

:そこまで考えてるのか……

:でも、アークに帰れば歓迎されるんじゃ?

:そうそう!ネキのぶっといコネ使えばいけるんじゃね?

:ピルグリムの一人くらい、なんとかアークにねじ込めるっしょ!

 

「歓迎に意味はない」

 

彼女は布を折り直し、再びライフルの表面を拭った。

 

「私たちが望んでいるのは、地上を取り戻すことだ」

 

「帰還することではない」

 

スノーホワイトは、それ以上何も語らなかった。

彼女は再びライフルの整備へと意識を戻す。

 

 

【……失礼。少し離席します】

 

ちぃエニが、空中でくるりと向きを変える。

 

:あれ、ちぃエニどこ行くん?

:厨房じゃね?

:ネキのとこかな

 

水晶玉(カメラ)が、ゆっくりとその姿を追う。

やがて、厨房に立つリヴェラと、彼女の前で停止するちぃエニの姿が映し出された。

カウンター越しに何かを話している二人。

だが、二人の声は集音範囲から外れているのか、配信には届かない。

 

:なんか話してるな

:いつ出来上がるのか聞いてんじゃね

:お

:今、ネキが驚いた顔してなかったか?

:すぐ笑顔になったし、悪い話じゃ無さそう

:ちぃエニ何話してんだ……?

 

二人の会話内容を予想するコメント欄。

ゆったりとした速度の会話ログに、そっとコメントが追加される。

 

:あの……スノーホワイトさん

 

:以前、地上で助けていただいたニケです

 

:あのときは、ちゃんとお礼を言えませんでした

 

:助けてくださって、本当にありがとうございました

 

カウンター越しの二人を映していた水晶玉(カメラ)が、スノーホワイトへフォーカスを移す。

整備の手を止めることなく、彼女は流れてきたコメントへ目を向けた。

 

「……すまない。いつの話だ?」

 

:あ、すみません! かなり前のことなので……

 

:地上の廃駅付近で、複数のラプチャーに襲われていた時のことです

 

:部隊から孤立した私を、スノーホワイトさんが逃がしてくださって

 

:アークに繋がるエレベーターの場所も教えてくれて。本当に……、本当にありがとうございました!

 

「……ああ」

 

スノーホワイトの手が、わずかに止まった。

 

「私を見たことは忘れろ、と言ったはずなんだがな。……無事、アークに戻れて何よりだ」

 

:本人にお礼言えて良かったじゃん!

:これは地上で助けた量産型、結構いるんじゃね?

:地上でずっと戦って、その上人助けまでしてるのか……

:スノホワ優しい!

 

「優しい、か」

 

スノーホワイトの口元が、かすかに歪む。

 

「……それこそが、ここまで私がやってこられた原動力だからな」

 

――それは苦みを帯びながらも、どこか温かい笑みだった。

 

 

静かに整備を続けるスノーホワイトの元へ、ちぃエニが戻ってきた。

 

【スノーホワイト。現在、必要としているものを教えてください】

 

「……いきなりどうした、ちび助」

 

ちぃエニはホログラムディスプレイを表示させると、改めてスノーホワイトへ向き直った。

 

【ちぃエニです。……先ほど、リヴェラと相談して許可をもらいました。整備道具、パーツ、弾薬。あなたが必要だと思うものを、アークから取り寄せましょう】

 

そして、わずかに身を乗り出す。

 

「……なに?」

 

【さぁ、教えてください。スノーホワイト】

 

:スノホワタジタジで草

:ちぃエニ、グイグイいくやんwww

:さっきのはネキとスノホワに援助する話してたのか!

:そうと分かれば遠慮はいらねぇ……!

:いっぱい頼んじゃえ!

 

ちぃエニの勢いに押されつつも、スノーホワイトは訝し気に尋ねた。

 

「……何が目的だ?」

 

【あなたの戦力を維持・向上させることが、地上奪還に繋がると判断しました。……ですが】

 

ちぃエニが言葉を区切り、スノーホワイトを見つめた。

 

【私の意思として。あなたの、その意志を応援したい。……無粋でしょうか?】

 

二人の視線が、静かに交わる。

 

やがて、スノーホワイトはふっと息を漏らした。

 

「本当に揃えてもらえるのだろうな? 言っておくが、私は遠慮しないぞ」

 

【はい。望む所です】

 

「では――」

 

必要な物資を諳んじるスノーホワイト。ちぃエニは応える様にホログラムディスプレイに視線を走らせ、要求された物資を次々と入力していく。

 

:長年補給無しで戦ってたんだから、多少はね?

:スノホワの要求に対して、ちぃエニが上位互換提示するの草なんだが

:エリシオンの最新の軍需品じゃん!

:ちぃエニのファンガムーブえぐくて草

:ファンガどころかスポンサーなんよ

:「応援したい」の結果がこれかよwww

 

 

必要な物資を記録し終えると、ちぃエニはリヴェラの元へ戻っていった。どこか弾む様な後ろ姿を追うように、水晶玉(カメラ)も厨房へと移動する。

 

「……ふむ。こんなところか」

 

構えたライフルをテーブルに置くと、スノーホワイトは呟いた。

 

と、その時――。

 

 

――ジュワァァァァァァァ!!

 

 

廃カフェテリア内に、食欲をそそる音が響き渡る。

 

「……何の音だ?」

 

スノーホワイトの鼻先を、香ばしい匂いがくすぐった。

厨房の方へ顔を向けると、リヴェラがカウンター越しに「何か」をちぃエニに食べさせている。

 

――ザクリッ!

 

「――ッ!?」

 

テーブルから厨房までは距離がある。

それでも、その音はスノーホワイトの耳に確かに届いた。

 

 

その少し前、水晶玉(カメラ)が映し出していた厨房では――。

 

たっぷりと油が張られた鍋の中で、カツが踊っていた。

 

先に揚げていたものをリヴェラが切り分け、一切れ摘まみ上げる。

水晶玉(カメラ)のフォーカスが絞られ、衣の下から現れた、柔らかな豚肉の断面に滲む脂がキラキラと反射している。

 

リヴェラから差し出されたカツに、ちぃエニが小さな口で齧りつく。

 

【はふっ…はふっ……。ザクリとした歯ごたえに、脂の甘味……。豚肉とはこういう味だったのですね。記録しなければ】

 

その残りにリヴェラも齧りつく。

 

「あーしも食べよっと☆ いただきまーす☆ ……うん、イイカンジに揚がってるわ☆」

 

二人はその出来栄えに、満足げに頷いた。

 

:今の音やばすぎだろ……!!

:カメラ君も断面に寄り過ぎなwwww

:もはやフードポルノだろ、これ

:お昼トンカツにしようかな……

 

和気藹々とした厨房内の様子。

しかし――。

 

「……を……る……」

 

ガタリという物音と共に、どこからか恨めしげな声が聞こえてきた。その声に反応したように、水晶玉(カメラ)が旋回する。

そこには、テーブル席から立ち上がったスノーホワイトが佇んでいた。……表情は俯いていて確認できない。

 

「何を……している……!!」

 

まるで地獄の底から響いてくるような声と共に、スノーホワイトがゆらり、ゆらりと幽鬼のような足取りでにじり寄ってくる。

白髪の下から僅かに覗く琥珀色の瞳は、爛々と妖しく光っていた。

 

「デカい声だして、どしたん?☆」

 

【スノーホワイト。先程の物資ですが、配信終了後に渡しますので安心してください】

 

「そうではない!!!」

 

バン!と両手をカウンターに振り落とすと、スノーホワイトはそのまま身を乗り出し、リヴェラへ詰め寄った。

 

「私を前にして、なぜお前たちだけで食べている!! 約束が違うだろう!!?」

 

「声でっかwww☆ ……や、今のは味見してたの☆ こーれ、料理する人の特権なんで☆」

 

「そ、それは……!!」

 

リヴェラの至極もっともな回答に、スノーホワイトは言葉を詰まらせた。自身も地上で野営する際、食事の支度をしながら味見をしていたことを思い出したからだ。

 

次の瞬間、バッ、とちぃエニを指さしスノーホワイトは、なおもリヴェラに言い募る。

 

「ならば、ちび助が味見するのはおかしいだろう!?」

 

【ちぃエニです。……それに、客人に変なものは食べさせられません。私は、いわば毒見というやつですね】

 

「私はニケだ!!」

 

憤慨するスノーホワイトをよそに、ちぃエニはふよふよとリヴェラの肩元へ寄っていく。

そして、小さな指でちょん、ちょん、と肩をつついた。

 

【もう少しください】

 

「っ!? ずるいぞ……!!」

 

【どうやらデータ解析に不足があったようです。困りましたね】

 

:食い足りないだけだろwwwww

:うまかったんやろなぁ

:スノホワもずるいって言っちゃってるじゃんwww

 

スノーホワイトの恨めしげな視線に晒されながら、満足げに味見を終えたちぃエニ。

どこからともなく取り出したハンカチで口元を拭うと、リヴェラに向かい口を開く。

 

【……これはワインの話ですが、検索したところ『テイスティング』というものがあるそうですね。客人が料理の味を確かめることも、決して失礼には当たらないのでは?】

 

「! それだ! でかした、ちび助!」

 

ちぃエニの発言に乗るスノーホワイトを見て、リヴェラは苦笑を浮かべた。

先ほど切り分けたカツにフォークを刺し、そのままスノーホワイトへ差し出そうとして――ふと、動きを止める。

 

そこには、真顔で口を開けて待機するスノーホワイトがいた。――その視線が、「早く食わせろ」と訴えている。

 

「……まだ熱いかもだから、火傷に気を付けてね☆ スノー?☆」

 

「……んぐ」

 

スノーホワイトは差し出されたカツを頬張ると、噛み締めるように味わっていく。そのたびに琥珀色の瞳が輝きを帯びていき―― 料理人(リヴェラ)に出来栄えを伝えているようだ。

 

「もうすぐ出来るからテーブルの上、片づけておいてね?☆」

 

幸せそうに咀嚼するスノーホワイトは、コクンと頷くと、足取り軽く戻っていった。

その後ろ姿を見つめるちぃエニは、ため息を一つこぼす。

 

【……ピルグリム・スノーホワイトの項目に、一言添えた方がいいでしょうか】

 

「かわいいよね☆」

 

 

スノーホワイトとちぃエニが、それぞれ布巾でテーブルを拭いている。

どこかソワソワしている様子の二人を、水晶玉(カメラ)がゆったりと映していた。

 

「おまたせー☆ お昼出来たよー☆」

 

リヴェラの声に二人がそちらを向き、同時に動きを止める。しかし、その反応はそれぞれ違っていた。

 

スノーホワイトは琥珀色の瞳を輝かせ、リヴェラの方を凝視している。

 

一方のちぃエニは、無表情のままポカンとしていた。ぽとり、とテーブルに落ちた布巾を気にすることなく、信じられないものを見るようにリヴェラを見つめている。

 

それぞれの表情を収めた水晶玉(カメラ)がリヴェラを映そうと旋回すると、そこには――。

 

 

動く山脈がこちらに向かってきていた。

 

 

――訂正。山脈の如くカチ盛られたカレーを、片手で運んでくるリヴェラだった。

 

危なげなくテーブルの上にサーブすると、もう片方の手に持っていた薬味かごも置く。

かごの中には、福神漬けやらっきょうが入った小瓶が収められていた。

その直後、水晶玉(カメラ)がテーブルの上へとゆっくり寄っていく。

 

大きな平鍋は、テーブルの一角を占領していた。

パエリア用の広大な箱庭へ盛られたライスは、もはや一食分という言葉では収まらない。

 

山脈のようにそびえ立つ白米の斜面。

頂から流れる芳醇なカレールゥの大河。

そして、白い山肌に岩棚のごとく並ぶ、揚げ物の数々。

 

その威容に、コメント欄も加速していく。

 

:デカァァァァァァァァイ!!説明不要!!!

:デカすぎんだろ……

:バカの盛り付けで草

:これ、スノホワ食いきれんのか?www

:あれ?罰ゲーム続いてる??

:総重量どんだけだよwwwww

:ネキもよく運べたな、と思ったけどゴリラだったの忘れてたわ

:500mのラプチャー釣り上げてたら、こんなの余裕だよなwww

:にしても、ちぃエニと比較するとやべぇ大きさだな……

:ちぃエニ呆然としてて草

 

リヴェラはピンクルビーの渦(クローゼット)からちぃエニと自分の分のカレーを取り出した。

次に、レモンスライスと氷が浮く水が入ったガラスピッチャーを取り出し、三人分のコップに注いでいく。

最後にサラダとカトラリーを配膳して、食事の準備が整った。

 

「それでは両手を合わせて☆ いただきます!☆」

 

 

リヴェラの合図で先陣を切ったのは、スノーホワイトだ。

スプーンを引っ掴み、白い山肌を掘削していく。

ライスとルゥが程よく載ったスプーンを眼前に掲げると――一息に頬張った。

 

「……美味い」

 

一口をじっくりと味わい、絞り出されたその一言。

唇を舐めると、猛然とスプーンを動かしていく。

 

:……噛み締めるように言うじゃん

:腹減って来たんだけど……!

:昼飯は絶対カレーにしよ

 

「んめんめ♪☆ ナンもいいけど、やっぱお米だわ☆」

 

【……あの、リヴェラ】

 

ぱくぱくとカレー(並盛り)を食べ進めるリヴェラに、ちぃエニが遠慮がちに声を掛けた。

スプーンを手に取ったものの、その視線は目の前にそびえ立つ山脈に釘付けだった。

 

【……スノーホワイトの盛り付けですが、いくらなんでもやり過ぎではないですか?】

 

ちぃエニがリヴェラの方へ視線を向ける。

 

リヴェラは咀嚼しながら、スプーンを持った手をスノーホワイトの方へクイッと向けた。

 

促されたちぃエニは、再びスノーホワイトへ視線を戻す。

 

【……ふぇ?】

 

その間、わずか数秒。

 

山脈が―― 小山になっている。

 

:ちぃエニ、そんな声出せるんだwww

:ふぇ?wwwwww

:でも、その気持ちわかるぞ!

:見てたけど、食べるスピードとんでもなかった

:スルスル消えてったもんな……

 

ちぃエニは、しばしの間、スノーホワイトと小山と化したカレーを交互に見つめていた。

 

やがて、何事もなかったかのように視線を手元へ戻すと、スプーンでカレー(並盛り・ちぃエニサイズ)を掬い、小さな口へ運ぶ。

 

【……スパイスが効いていて、とてもおいしいですね】

 

「ちぃエニも気に入った?☆ 辛さは大丈夫そ?☆」

 

【はい。非常に複雑で、興味深い味わいです】

 

しっかりと頷き返すと、カレーを堪能するちぃエニだった。

 

 

スノーホワイトは山脈から小山程度になったカレーを前に、ふと岩棚――揚げ物の存在を思い出した。

 

目についた揚げ物を掬い、迷いなく口に運ぶ。

 

「……ん。これは、先ほど味見したやつか」

 

「そそ☆ 豚カツだね~☆」

 

【……こちらは、脂の風味が豚肉とは違いますね。これは?】

 

「鶏カツだね☆ ちな、今回はもも肉使ってみた☆」

 

二人の会話を聞きながら、続けて別のカツへ手を伸ばす。

ひと口噛んだところで、スノーホワイトの眉がわずかに動いた。

 

「……ん? 味と食感が違う……。肉の味が濃いような……」

 

「それ、牛カツ☆ ぜーんぶ『本物』使ってまーす☆」

 

:う……牛、豚、鶏ぃ!?

:本物!?

:ちょっと待て。そのカレーやばくね?

:なんだろう。急に食欲なくなってきた

:……とか言ってたら、スノホワ完食してら

:早すぎぃ!?

 

騒然とするコメント欄などつゆ知らず、スノーホワイトは最後の一口を飲み込むなり、リヴェラに告げた。

 

「おかわりだ」

 

「オッケー☆」

 

短くも力強い声に苦笑するリヴェラ。

ふと見れば、スノーホワイトの口の端にはバッチリとお約束の米粒がついていた。

 

席を立ち、空になった巨大な平鍋を引き取ろうとする―― その前に、スノーホワイトの頬に手を伸ばした。

 

「おべんと付いてるよ☆」

 

自然な動作で米粒をひょいとつまみ、そのまま自分の口へ放り込むリヴェラ。

スノーホワイトは、平然とした顔でうなずく。

 

「すまない。……あぁ、先ほどと同じ量で頼む」

 

:キマシタワーーーーー!!!!!!!!

:待って、今のやり取りなに????

:米粒取ってそのまま食べたぞ!?

:てぇてぇ……

:スノホワ完全スルーなの草

:距離感が夫婦のソレなんよ

:てか同じ量って何!? また山脈!?

:胃袋どうなってんのwwwwww

 

 

リヴェラが巨大な平鍋を持って厨房へと引っ込むと、テーブルにはスノーホワイトとちぃエニのふたりが残された。

 

【……驚異的な消化器官をお持ちなのですね。既存のニケの構造データと照らし合わせても、説明がつきません】

 

あまりの食欲に呆れたようにちぃエニが言うと、スノーホワイトは口元を紙ナプキンで拭いながら、静かに首を振った。

 

「記憶には少ないが……これほどのごちそうは久方ぶりだからな。食も進む。それに、食べないと戦えない」

 

そこまでは実に彼女らしい、ストイックで力強い言葉だった。

 

しかし直後、テーブルの端に置かれたガラス鉢――彩り豊かな生野菜のサラダ――に視線を落とした瞬間、スノーホワイトの表情が目に見えて陰った。

 

「……ん。『草』か」

 

露骨に難しい顔をして嫌そうにつぶやくスノーホワイト。

 

【野菜は苦手なのですか? これはあなたの嗜好データとして、更新しなければなりませんね】

 

ちぃエニが自分の分のサラダを手際よく食べ進めながら言うと、スノーホワイトはフォークでモソモソと「草」をつつき始めた。

 

「……腹に溜まらん。肉と違って力が出ないからな」

 

【……完全に野生動物の思考ですね】

 

呆れきったちぃエニは、小さなため息をひとつ吐くと、薬味かごを指さした。

 

【……そこのドレッシングを使えば、おいしく食べられますよ。自家製の和風タレだそうです】

 

「む……?」

 

言われた通り、かごから小瓶を取り出し、半信半疑でトロリとしたドレッシングを「草」に回しかけ、口に含むスノーホワイト。

 

直後、彼女の瞳がハッと見開かれた。

 

「……! 本当だ、美味い……! やるな、ちび助」

 

【ちぃエニです】

 

その後、ちぃエニから再三にわたって食べ過ぎを控えるよう忠告されたものの、スノーホワイトは見事なまでに聞き流していた――。

 

 

「……満腹だ」

 

都合、4回。

巨大な平鍋にそびえ立っていた『大山脈カツカレー』をすべてその胃袋へ収め、スノーホワイトは深々と、実に満足そうな息を吐き出した。

 

テーブルには、そんな様子のスノーホワイトを眺め、満足げな笑みを浮かべるリヴェラと、完全に呆れ果てた表情のちぃエニが並んでいる。

 

誰もが「ごちそうさま」の空気感に包まれた、その直後だった。

 

「――じゃ、デザートいる人~☆」

 

悪魔的な声がリヴェラの口から放たれる。

 

その瞬間、スノーホワイトの全身が凍りついた。

 

「……な……ん……だと……!?」

 

まるで世界の終末でも目撃したかのような、絶望と衝撃に満ちた表情でフリーズするスノーホワイト。

 

「あーしはプリンにしよっと☆ ちぃエニは?☆」

 

【私はバニラアイスを】

 

ピンクルビーの渦(クローゼット)からデザートを取り出し、楽しそうに堪能し始める二人。

 

腹が破裂しそうなほどパンパンなスノーホワイトは、わなわなと震えながら、血涙でも流さんばかりの眼光でリヴェラを睨みつけた。

 

「……おのれ……っ! 恐ろしい罠を仕掛けたな……ヘレティックめ……!!」

 

「目ぇこっわwww☆ ちゃんとスノーの分は取ってあるからwww☆」

 

ケラケラと腹を抱えて爆笑するリヴェラ。

 

そんな二人のやり取りを横目に、ちぃエニはバニラアイスを上品に口へ運びながら、心底呆れたように吐き捨てた。

 

【……だから、食べ過ぎないようにと、私は再三忠告したのですよ?】

 

スノーホワイトは膨れた腹をさすりながら、なおもデザートの残りを気にしていた。

 

廃カフェテリアに、リヴェラの笑い声が響く。

 

そんな穏やかな時間が、ゆっくりと過ぎていくのだった。

 




バニーギルティの攻撃モーション好き。
しかしすっげぇ身体してたなぁ。
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