D-WAVE!ーチルアウト☆ヘレティックー   作:太刀黄泉

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アニス:スターは、220回まわした末、すり抜け!
怒りのマイレージ交換でフィニッシュです!


♪地上のアクティビティ♪‐ SeCToR-A【潮風と、よしよしと、】

前哨基地内 指揮官室

 

キーボードを操作する音が室内に響く。

モニターに映る内容に不備がないか確認し、送信ボタンをクリックすると、安堵したように椅子が軋んだ。

すると、見計らったように部屋のドアがノックされた。

 

「どうぞ」

 

ガチャリ

 

「失礼します。飲み物をお持ちしました」

「指揮官様~?お仕事終わった?」

「師匠!差し入れをいただきましたよ!」

 

開いたドアから、賑やかに三人のニケが入室した。彼――指揮官が率いる部隊、カウンターズの面々だ。

 

「お疲れ様です、指揮官」

テキパキと配膳するのは、黒と赤を基調とした戦闘服を着る、ベレー帽を被った飴色の長髪のニケ――カウンターズのリーダー・ラピ

 

「あ、そのグラスは私のだからね!」

持ち込んだクーラーボックスから炭酸水のボトルを取り出すのは、黒と黄色を基調とした大胆な戦闘服を着る、ベレー帽を被った茶髪のショートボブのニケ――アニス

 

「こちら、アンダーソン副指令官からです!」

クッキーが載った大皿を、少々乱雑にテーブルに置いたのは、赤い縁のメガネに白と青を基調とした水兵の様な戦闘服を着る、水兵帽を被った銀髪のセミディヘアのニケ――ネオン

 

「副指令官から?…ありがとう、いただくよ」

 

促された指揮官は、三人が座るソファへ移動し、美味しそうな湯気が立つカップを手に取り、コーヒーを啜る。

吐き出す香ばしい呼気と共に、デスクワークで溜まった疲れも抜けていくような旨さだった。

 

「……奮発したな。最高級の代用豆だろうか?それにしては、香りが深すぎるな。どこのメーカーだろう」

「すみません、そういうのは疎くて……。アニス、分かる?」

「さぁ?でも、相当お高いってのは分かるわね」

「副指令官ともなると、差し入れも火力が違うんですね! ……あっつ! 苦っ!?

「…気を付けて飲みなさい。ほら、ミルクと砂糖を入れたら飲みやすくなるわよ」

「うぅ…ありがとうございます、ラピ。……アニスは何を飲んでるんですか?」

「これ?コーヒーの炭酸割り」

「炭酸の権化ですね……美味しいんですか?」

「わりと?カフェオレソーダって感じ」

「ちょっとください!」

「あなたたち……」

 

指揮官は賑やかな三人を眺め、コーヒーを啜る。

この三人と任務を遂行する様になってから、一週間程度。追放からこっち、ハードな日々の連続だったが、おかげで連携も雰囲気も良くなったように思う。

 

「それにしても、追放って聞いた時はどうなるかと思ったけど、悪くないわね。こうして、お高めのコーヒーとクッキーも楽しめるし!」

アニスは上機嫌でクッキーを頬張り、カフェオレソーダを飲む。

 

「そうですね。まだまだ設備の不満はありますけど、意外と何とかなるものです!」

ミルクと砂糖を入れて飲みやすくなったのか、美味しそうにカップを傾けるネオン。

 

「これらは今朝方届けられました。指揮官はご存じでしたか?」

そう言って、小皿に取り分けたクッキーを指揮官に差し出すラピ。

 

小皿を受け取った指揮官は、クッキーを一枚とり歯を立てる。芳醇なバターと、小麦の香ばしさが口内に広がる。

「…昨日、アンダーソン副指令官に報告した時に”後日、何か送る”とは聞いたが…。さすが、仕事が早い」

「はい。報告の際に副指令官室に居た……エタニティとエンドレス、でしたか。あのニケたちが差し入れと称してコンテナを置いていったのです」

そう言うと、ミルクと少しの砂糖を入れたコーヒーを飲むラピ。

仏頂面だが、満足げに息を吐く。

 

「あの二人、一言も喋らなかったわよね。私たちとのやりとりも、タブレット使ってたし。二人してそういうキャラ作りなのかしら?」

「アニス、聞いてなかったんですか?発声器官は未搭載だって、副司令官が仰ってましたよ?」

「それこそ不便じゃない?……あと、エタニティだっけ?私の事、無言で見つめてきて気味悪かったのよねー…」

「私は賑やかな二人だなって思いました。帰るときに二人とも、ぶんぶん手を振ってましたし」

 

指揮官の脳裏に、副指令官室に居た二人のニケの姿が浮かぶ。

無表情で人形のようだったが、退室する際、副指令官の後ろで小さく手を振っていた姿には、どこか愛嬌があった。

 

「そういえば、師匠たちは、停電の時どうしてました?大丈夫でしたか?」

「なんだって?」

「停電って、アークで?マジ?」

「ネオン、それはいつの話?」

「師匠たちと合流する前なので……一週間前ですね!」

 

「……」

一週間前。

自分が初めて地上に上がった日。

初めて人類の敵を目の当たりにした日。

そして、初めて――――。

 

カップを持ったまま俯き、沈黙する指揮官に代わり、アニスが口を開く。

「……私とラピと指揮官様は、地上で任務にあたってたわ。ね?ラピ」

「…そうね。前任者に代わって、今の指揮官になったの」

「そういうネオンは、どうしてたのよ?」

「寝てました!停電の事は、後から社長に教えてもらったんです!」

「…呆れた。図太いというか、何というか…」

「ネオンらしいわね…」

「うふふ、褒められちゃいました!」

 

満面の笑みのネオンを横目に、アニスは「褒めてないから」とカフェオレソーダの最後の一口を飲み干した。

 

「さーて、お高いコーヒーでエネルギーもチャージしたことだし!指揮官様、午後の仕事もきっちり付き合ってあげるわよ?」

 

「ああ、頼りにしてるよ」

 

賑やかな昼下がり。

奪還への道は遠いが、この部屋に漂う香りだけは、確かな安らぎを運んでいた。

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「よっす~☆タレ友のみんな~☆リヴェラこと、煮卵ネキだよ~☆」

 

 

潮騒が心地よく響く後浜(うしろはま)

ピンクルビーの水晶玉(ドローンカメラ)に向けて、弾けるような笑顔で横ピースを決めるリヴェラ。

コメント欄の流速は、彼女の登場と共に一気に加速していく。

 

:きたあああああ

:ネキ!待ってたぞ!

:今日もいい色に焼けてんねぇ!

:てか、「タレ友」って……

:早速使ってくれるのか!

 

「ゆうべキミらが掲示板で決めたじゃん?ちぃエニと一緒に見てたぜ☆ってことで、今日も海!☆日差しと潮風、これぞ最高のスパイスってね☆」

 

そう言うと、リヴェラは陽光を全身に浴びるように、ぐーっと肢体を伸ばした。

陽の光を反射して靡く銀髪と、その隙間から覗くサンセットオレンジのインナーカラー。

降り注ぐ日差しは、健康的で艶やかな褐色肌と、その豊満な曲線をいっそう魅力的に照らし出している。

それら全てを「こう撮ってほしいんでしょ?」と言わんばかりに、水晶玉(カメラ)は至近距離まで寄り、リスナーの眼裏へ余すところなく届けていた。

 

:おっほ……♡

:でっか……♡

:アングラサイト万歳!

:本日のスクショタイム

:カメラマン有能すぎんかw

 

「んー……っと。で、今日何するかって言うと。ちぃエニ、説明よろー☆」

 

リヴェラが顔を向けた先へ、水晶玉(カメラ)も滑らかに画角を変える。そこには――

 

【………………】

 

「私、怒っています」と全身で主張するように、無表情のまま頬をぷくーっと膨らませた「ちぃエニ」が浮いていた。

 

:ちぃエニきたああああ!

:本日二度目のスクショタイム

:Short動画の寝顔、最高だったよ!

:俺もリピしまくったわwww

:てか、マジで怒ってる?w

:もちもちほっぺ可愛すぎかよ

 

「ほら、ちぃエニ☆プクプクしてないで、配信進めよ?☆」

 

盛り上がるコメント欄を見せながら、隣に立って先を促すリヴェラ。

しかし、言われた本人はプイッと視線を明後日の方向へ向けてしまう。

 

「ねー、ごめんて。でも、あの寝顔はマジで天使すぎてさー☆これはみんなに見せなきゃって使命感?あーしの指を“キュッ”って掴んでさぁ……♡ね?みんなも尊死しかけたよねっ!?☆」

 

:ネキの言う通りだわ、あれは不可抗力

:俺の指もキュッてしてくれ!

:てか実体化の仕様詳しく教えて

:あ、後ろ向いちゃったぞwww

 

リスナーと盛り上がるリヴェラの隣で、ちぃエニはついに完全に背を向けてしまった。

その小さな背中からは、明確な〈拒絶〉のオーラが漂っている。

 

「あ、あっれ~……☆ちぃエニ~……?」

 

その時、リヴェラの脳裏に不安がよぎる。

そういえば、今朝から一度も、ちぃエニの声を聞いていない。

 

恐る恐る、その頑なな背中にリヴェラが手を伸ばした、その時だった。

 

 

ぱしんっ!

 

 

乾いた音を立てて、小さな手がリヴェラの指先を弾いた。

「ビクン!」と、リヴェラの体が大きく跳ねる。

それは痛みによるものではなく、予期せぬ拒絶の衝撃が彼女の芯を貫いた反応だった。

 

:おっとぉ……?

:流れが変わったな

:これガチのやつか?

:ギスギス配信キタコレ

 

ざわつくコメント欄。戸惑いに固まるリヴェラ。沈黙を貫くちぃエニ。

虚しく潮騒だけが響く中、弾かれた指先を胸元でぎゅっと握りしめていたリヴェラが、消え入りそうな声で漏らした。

 

 

……ごめんなさい

 

 

:ネキ……?

:なんだろう、冗談に見えなくて心が痛い

 

リスナーも、そしてちぃエニも。

共に過ごした時間はまだ短いが、初めて聞くリヴェラの「震える声音」に言葉を失う。

 

「本当に、ごめん。ちぃエニ……。あーし、そんなに嫌だって知らなくて……。……タレ友のみんなも、ごめんね。雰囲気壊しちゃって。今日、配信……続けられそうにないや……」

 

俯いたまま、今にも泣き出しそうな声で配信を閉じようとするリヴェラ。

その時、ようやくちぃエニが口を開いた。

 

【……配信を続けましょう】

「……でも、ちぃエニ……」

【まさか、貴方がそこまで落ち込むとは思いませんでした。……許可なく寝顔を投稿されたことは極めて遺憾ですが、二度としないと約束してください。それで手打ちとしましょう】

「……許して、くれるの?」

【直接の謝罪を受け取りましたから。……それに、私も少々大人げない態度であったと反省しています。これも、実体化したことによる弊害なのでしょうか】

「……ごめんね」

【儘なりませんが、悪い気分ではありません。……本体(エニック)から執拗な問い合わせが来ていますが、今は無視します。ともかく、私の機嫌を理由に配信を閉じないでください】

 

未だ俯いたままのリヴェラに、寄り添うように佇むちぃエニ。

相変わらずの無表情ではあるが、その金色の双眸は、どこか優しく細められているようにも見えた。

潮騒に混じり、小さく鼻をすする音がマイクに乗る。

 

「……わかった。でも、よしよしして」

【……大きな子供ですか、貴方は】

「……」

【……“よしよし”。……これで満足ですか】

 

ちぃエニの小さな掌が、リヴェラの頭をそっと撫でる。

不慣れな手付きだが、そこには確かな思い遣りが宿っていた。

 

:てぇてぇ……

:よかった、本当に仲直りできてよかった

:ネキ、意外と撃たれ弱いんだな

:ちょっと泣きそうになったわ

 

そんな感動の空気がコメント欄を埋め尽くした、直後。

 

 

 

 

「うっし、てぇてぇ営業終了~~~っ!☆」

 

 

 

 

【………………は?】

 

:え?

:は?

:……ネキ?

 

先程までの弱々しい態度はどこへやら。

ガバッ!と顔を上げたリヴェラは、涙の跡ひとつない、いつもの100点満点の笑顔だった。

呆然とするちぃエニと、理解が追いつかないリスナーを置き去りにして、リヴェラは爆速で配信を再開する。

 

「こっから少し歩いたトコに桟橋あるんだけどさ、そこで船調達して、今日は釣りするから!☆」

 

:いやいやいやいや!

:うっそだろお前www全部演技かよwww

:さっきまでの空気返せwww

:ちぃエニの表情が死んでるぞwww

 

「ってことで、行くどー!☆どんな魚が釣れるか楽しみじゃんね☆……ほら!ちぃエニも早く来ないと置いてっちゃうよー?」

 

軽い足取りで砂浜を駆けていくリヴェラ。

その背中を見つめたまま、空中に静止して固まるちぃエニ。

 

【……え?】

 

:ネキ……恐ろしい子……!

:なんだろう、さっきとは別の意味で心が痛いwww

 

水晶玉(カメラ)は、主を失い立ち尽くす少女の姿をただ淡々と映し続ける。

ちぃエニの心中を代弁するかのように、周囲にはただ、虚しい潮騒だけが響き渡っていた。

 




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