D-WAVE!ーチルアウト☆ヘレティックー   作:太刀黄泉

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ネオ・ネオンもマイレージ交換しました!


♪地上のアクティビティ♪‐ SeCToR-B【レタッチと、夏色と、】

穏やかな波の音と、乾いたパームツリーの葉が擦れる音。

そこに、場違いなほど軽やかな打撃音が重なる。

 

ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち

 

 

「ちょぉw ちぃエニww あーしのケツはたくのやめて~www」

 

 

ピンクルビーの水晶玉(ドローンカメラ)が捉えたのは、無表情で頬を膨らませたちぃエニが、一心不乱にリヴェラの尻で『ケツドラム』を奏でる姿だった。

 

:ちぃエニ、マジギレで草

:さっきの『演技』でガチ炊きしてますねぇwww

:波打つネキの『煮卵』の弾力よ。揺れすぎだろ

:健康にいい映像だ。ありがてぇ……ありがてぇ……

 

「ごーめんて、ちぃエニ~☆ ほら、冷たいので仲直りのKP(乾杯)しよっ☆」

 

わざとらしく尻をさすったリヴェラが、パチンと指を鳴らす。

ふくれっ面のちぃエニの前にピンクルビーの渦が生まれ、結露を纏った瓶コーラが音もなく現れた。

 

目の前に浮遊するコーラと、「あーしもこれにしよ~☆」と上機嫌に笑うリヴェラを見比べ、ちぃエニは渋々といった様子で瓶に手を伸ばした。

 

「うぃ~☆ KP~☆」

 

カチンッ。

 

瓶同士が触れ合う澄んだ音を合図に、水晶玉(カメラ)がゆっくりと旋回し、二人の背後へと画角を広げていく。

 

突き抜けるような青い空と、入道雲。

砂に埋もれたアスファルトの道。

それに沿って等間隔に並ぶ、枯れかけたパームツリー。

 

キンキンに冷えたドリンクを楽しむ二人の向こう側には、キラキラと残酷なまでに輝く青い海が広がっていた。

 

まるで旧時代のCMを再現したかのような光景の中、「けぷっ」と、小さく愛らしい音が響く。

 

【……以後、気を付ける様に】

「りょ~☆」

 

ぺちんっ、と最後の一撃。

 

:『明日の活力、今日の一本。』

:『スプレンダ・コーラ』

:※ミシリス・インダストリーの提供でお送りしました(嘘)

:CM入ったw

:やめろ、コーラ飲みたくなってきた。今すぐ自販機行ってくる

:いや、今の何!?どっから出した?!

:初見か?まぁ、ゆっくりしてけよ

:概要欄見たか?ルール守らないと命にかかわるからな?いや、マジで。

 

 

 

 

「いわゆるオーシャンドライブって場所なんだけどさ☆ 昔はここ、光と音でヤバかったらしいよ?☆ 信じらんないよね、こんなに静かなのに☆」

 

リヴェラが瓶を掲げて指し示した先には、半壊したアールデコ様式のホテルが、透き通った海を背景に完璧なコントラストで突っ立っていた。

ひび割れたネオン管や、脱色されたプラスチックの看板が、カラフルな残骸となって足元に散らばっている。

かつて無数の観光客で賑わったであろう海岸線。

今はただ風化を待つだけの贅沢な廃墟を、水晶玉(カメラ)はどこまでも無機質に映し出し続ける。

 

「マジ映えじゃない?☆ 100年放置されたガチのヴィンテージって感じ☆ パステルカラーのホテルとか、イイ感じに色が褪せてさ。正直、今のほうが断然センスいいわ☆」

 

:これが、本当の地上なのか……

:物悲しいけど、確かに綺麗だ。

:なお、足元は砂まみれの模様。

 

 

オーシャンドライブを外れ、瓦礫の街へと歩を進める二人。

それを見つけたのは、半壊したカフェテラスの前だった。

 

「見てよちぃエニ☆ これってレア物じゃね?☆」

【……これは……】

 

テラスにのしかかるように横たわる、錆びた鉄塊。

四角い箱のような不格好なフォルム。だが、よく見れば正面には二つの「目」と思わしきレンズがあり、側面には錆びついたバルカン砲と、力なく折れ曲がった四本の脚。

 

:なんこれ

:ネキよりちょっとデカい?

:目みたいなのある

:こっち見んな

 

【……アーカイブ参照。照合中……。一致率98%。間違いありません。“第一世代ラプチャー”です】

「だよねー☆ てか、眉間に一発とかw……う~ん、グッドキル!☆」

【……まるで、実物を見たことがあるような言い草ですね】

「まーね☆ 本物はあーしも初めて見るけどさ☆」

 

リヴェラはコンコンと鉄塊をノックし、手にした瓶コーラを煽る。

それを訝しげに見つめるちぃエニ。

だが、二人のやり取りをよそに、コメント欄の速度がにわかに加速していく。

 

:第一世代ラプチャー!?

:マジもんの骨董品じゃん!

:よく今まで残ってたな……

:意外と可愛い顔してね?w

:今の連中より、なんか「メカメカしくない」っていうか

:……コミカル?

:それだ!

:たしかに、俺らが知ってるラプチャーっぽくないな

 

「……お。みんな見てこれ☆ ココに穴みたいなのある☆」

 

リヴェラが指さした先、バルカン砲の下にある円状のカバーへ、浮遊する水晶玉(カメラ)が寄っていく。

そのカバーを強引に引き剥がすと、中からずるりと、どす黒いホースのようなものが零れ落ちた。

リヴェラはそれを無造作に掴み、ちぃエニとリスナーへ誇示するように振り回す。

 

「これさ、なんか触手っぽくね?☆ これで昔の人間を捕まえて、パクついてたんかね?☆」

【……第一世代は現在のラプチャーと異なり、活動エネルギーを有機物から摂取していたという記録があります。その推論は、極めて合理的と言えますね】

「お、ココも開きそう☆……うひゃあ☆ これでバリバリいってたのかな? 痛そー☆」

 

“顔”の下部、口に相当するハッチをずらす。

その奥に潜んでいたのは、“歯”と呼ぶにはあまりに禍々しい「粉砕機」。

レンズ越しに映し出されたその光景に、リスナーが戦慄する。

 

:ヒエッ

:痛そうとかいうレベルじゃねーわ

:ミンチ確定演出。絶対遭いたくない

 

「……あーし思ったんだけどさ。これって“ブラックスミス”に似てね?☆ 武器に、触手に、捕食……。ね、イイ線いってない?☆」

【!……仮説の域を出ませんが、筋は通っています。現在のブラックスミスと構造上の共通点が多い】

「明かされるラプチャー進化の軌跡、みたいな?☆ 知らんけど☆」

 

リヴェラはそう言い捨てると、飲み干した空き瓶をラプチャーの残骸に置き、歩き出す。

ちぃエニも最後の一口を飲み干すと、倣うように隣へ瓶を並べ、水晶玉(カメラ)と共に彼女を追って飛び去っていく。

 

鉄塊の上に残された、大小二つの空き瓶。

それが陽光を反射し、去りゆく二人の背中を静かに見送っていた。

 

:興味深い考察だな

:え? ブラックスミスってニケを食うの……?

:サイト内に動画あったぞ。見るなら覚悟しろ。マジでグロ注意

:てか、二人ともゴミ置いていくなwww

 

 

 

 

荒廃したオーシャンドライブと街並み(かつて人類が最も人生を謳歌していた場所)を抜け、二人はヨット・ハーバーに辿り着いた。

 

風が吹くたびに、放置されたマストやワイヤーが「カラン、カラン」と乾いた音を立てて鳴る。

 

波間にゆらゆらと揺れる浮桟橋(ポンツーン)は、風化による隙間から暗い海が覗いていた。

 

それを取り囲むように浮かぶ、錆びついた船体。

さながら、ここは船の墓場といったところか。

 

:ひっでぇ荒れ具合で草

:足場もボロボロやんけ!

:意外と形保ってるのもあるな

:ありゃ、見た目だけだぞ。中身スカスカだわ

:当時はFRP(繊維強化プラスチック)製がメジャーだったっぽいからな。劣化えぐいぞ

:ワイ、初めて見る本物の船がゴミで涙目www

:マジでここから探すの……?

 

【リヴェラ。リスナーの皆さんの言う通り、ここから航行可能な船を探すのは絶望的です。どうするのですか】

「いーから、いーから☆ とりま、そこら辺のテキトーに選んじゃお☆」

 

リスナーとちぃエニの懸念を軽快に聞き流し、リヴェラが浮桟橋に一歩、足を踏み出す。

 

【待って、桟橋の強度が――!】

 

ちぃエニが警告を発した瞬間。

リヴェラのブーツが触れた場所からピンクルビーの波紋が広がり、一瞬にして朽ちた板が「新品の木目」へと上書きされた。

乾いた木質が鳴らす、小気味良い足音。リヴェラは何事もなかったかのように歩を進める。

 

「? ちぃエニ、なんか言った?☆」

【……いえ。そういえば、あなたには『ソレ(D-WAVE)』がありましたね。物理法則の私物化……相変わらず悪趣味な力です】

 

:出た!ネキの不思議パワー!

:テトラ脅威の技術力()

:そこはミシリスやろw

:ネキはテトラ否定してたぞ。というか今のはミシリスでも無理じゃね?

 

呆れるちぃエニを連れて桟橋を歩いていたリヴェラだったが、目についた船体に近づくと、おもむろに指を突き出した。

 

「ぶはは☆ ウケるww 穴開いたんだけど!☆ 強度:ウエハースかよwww」

【紫外線でFRPがボロボロなのでしょう。というか、何をしているんですか貴女は】

 

:開けたんだよなぁ……

:ニケの指圧でどつけばそうなるだろwww

:何してんのwww

 

「はー、オモロw じゃ、この『ウエハース号』、サクッと『レタッチ』しちゃおっか☆」

 

リヴェラが指を鳴らすと、穴だらけの船体がピンクルビーの光に包まれた。

 

数秒のノイズ。

 

光が収まったそこには、眩いばかりの純白を湛えた豪華なキャビンクルーザーが鎮座していた。

磨き上げられた船体が、陽光をキラリと跳ね返している。

 

【物品の収納だけでなく、構造の完全修復まで……。……私の知る「常識」が壊れていきます】

「便利っしょ?☆」

 

:一瞬にして新品に……

:どうなってんだマジで……

:草も枯れるわ。どこのロストテクノロジーだよ

:これはミシリス(確信)

:いやヴィジュとノリは完全にテトラだろw

 

 

浮桟橋から、真っ新に「レタッチ」された船尾のステップへひょいと飛び乗る。

 

「じゃ、アーシの『ウエハース号』、ルームツアーいっちゃおっか☆」

 

水晶玉(カメラ)を先導させ、リヴェラはまずメインデッキのサロンへ足を踏み入れた。

磨き上げられたチーク材の床、柔らかな白革のソファ。棚には、当時の高級な酒瓶(中身は空だが)がオブジェのように並んでいる。

 

【……信じられません。これほど広大な居住スペースを、たった数人の「娯楽」のためだけに割いていたというのですか】

「あは☆ ちぃエニはマジメすぎ。見てよコレ、奥にはシャワーもベッドも完備。アークの安宿よりよっぽど豪華じゃね?☆」

 

水晶玉(カメラ)がキャビンの豪華な内装を一通りなめ回すと、コメ欄の速度が一段と跳ね上がった。

 

:船内にリビングとかキッチンとか、よくわからんな昔の人間は

:マジで娯楽だったんだな、海って

:これ実質「動く家」だろ……

:今更ながら貴重な資料過ぎて震えてきた。これアーカイブ残してくれ!

 

 

「で、ここが特等席! 操舵席(コックピット)ね☆」

 

サロンの奥にある階段を軽快に駆け上がり、リヴェラは最上層のデッキへと躍り出た。

そこは、遮るもののない空と海を見渡せるオープンタイプの操舵席だ。

 

だが、水晶玉(カメラ)が映し出した景色に、リスナーの困惑が広がる。

眩い日差しを反射する白いダッシュボード。そこにあるべき、円形のハンドルがどこにも見当たらないのだ。

 

:てか、これ燃料どうすんだ? 100年前の燃料なんて残ってないだろ

:それ以前に、ハンドルなくね?

:欠陥品かよwwww

:せっかく直したのに動かせないとか草

 

「んー? あはは☆ みんな、あーしのことナメすぎっしょ!☆」

 

リヴェラは呆れるリスナーをあざ笑うように、ダッシュボードの中央にある「不自然な窪み」を指差した。

 

「最後にコレ付けて、完成ってね☆」

 

困惑するリスナーをよそに、ピンクルビーの渦(クローゼット)からリヴェラが取り出したもの――。

 

:それって

:マジかよ!

【……ラプチャーコア!? ……まさか、それを使うつもりですか】

「そ☆ コレ付けて、 快適な船旅が約束されるってワケ☆」

 

リヴェラが取り出したのは、ドクン、ドクンと赤黒く脈打つ「眼球」――ラプチャーコアだ。

 

彼女がそれをダッシュボードの窪みへ強引にねじ込むと、死んでいた鉄の塊に「命」が宿った。

タービンが獣の唸りのような音を立て、船体が震える。

 

【……正気ですか。ラプチャーの心臓を動力源にするなど、危険すぎます。即刻破壊を!】

「あーし、ヘレティックよ?☆ この子を黙らせるなんて、朝飯前だし☆ ね?☆」

 

リヴェラがコアをパシッと小突くと、船体は怯えたように震え、従順な汽笛をひとつ鳴らした。

 

「じゃ、ウエハース号!☆ 魚が釣れるイイ感じのトコまで、ゴーゴー!☆」

 

リヴェラの声を合図に、純白のクルーザーが海原をかき分けていく。

背後の墓場は遠ざかり、視界の先には、青と群青に挟まれた鮮やかな水平線。

 

気持ちよさそうに銀髪を風になびかせるリヴェラ。

 

角帽に手を添え、呆れながらも広大な海原を堪能するちぃエニ。

 

初めて見る「動く船」と「本物の海」に、狂喜乱舞するリスナー達。

 

それら全てを乗せ、白い軌跡を描きながら進むクルーザーを、水晶玉(カメラ)はゆったりと追いかけていった。




第一世代ラプチャーのイメージは、NIKKEの初期PVから。つべに転がってると思います。
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