フラスコの中の小人
ここは四国地方、「
四国地方は“島国の中の離島”という九州地方と似通った立場で、かつては流刑地とされた事もあってか、おおらかだが逞しい人間が多い気がする。特に四国南部は北部と違ってダイレクトに外洋と接触しているせいで、津波や台風などの災害に見舞われ易いから、自然とそうなるのかもね。
あるいは、統治している「
そんな血気盛んで割切りの良い男が治める土佐国に、私――――――ソリテールは身を潜めている。もちろん、アウラも一緒よ。
そして、今私たちが拠点にしているのは、土佐国最高峰「
むろん、原始時代みたいな生活をする訳にもいかない……というか、アウラが嫌がるので、研究施設も兼ねてそこそこの拠点を構えている。頂上付近にある「
さらに、
そして今、ここで
『あなた、「ホムンクルス」は知っているかしら?』
自前の眼鏡をクイクイと弄りつつ、黄金の棒で“材料”を掻き混ぜながら、アウラが言う。今彼女は、人間一人がスッポリ収まる程に大きな、黄金の丸底フラスコをじっくりコトコト煮込んでいる。
もちろん、これは唯の金ピカなフラスコではない。【
私たちが何時の間に、こんな物を何処で用意したのか。
ちなみに、これらの材料となっているのは、元はドイツに居る時に“彼”の嫌がらせで黄金に変えられた調度品、謂わば“思い出の品”であり“彼の遺品”だったりする。アウラに言わせれば“使い道の無いゴミ”らしいけど、本当の所はどうなのかしらね?
ともかく、私たちは【万物を黄金に変える魔法】を使ってまで用意した材料や器具を使って、とある実験を完成させようとしているの。
……ああ、そう、「ホムンクルス」を知っているのか、だったかしらね。
『もちろん、知っているわ。錬金術師「パラケルスス」が実験の末に生み出した、“人工生命体”よね?』
意味は「フラスコの中の小人」。物質から命を生み出すという神の領域に触れる禁忌故に、その命はフラスコという小さな箱庭でしか生きられない、不安定な存在だと言われているわ。
『流石ね、その通りよ』
『材料は確か、数種のハーブに動物の糞、父となる人間の精え――――――』
『いや、そこの解説は良いから』
え~、何でよ。
『まぁようするに、より生物的な「ゴーレム」って事よね』
『そうね。完全な無機物から作られるゴーレムと違って、ホムンクルスは有機物を主体にしている。だから不安定なのかもね。……そして、目の前にある“これ”は、そのどちらとも言えない。黄金の骨格に、「人間」「魔族」「吸血鬼」の遺伝子を肉付けする、ハイブリットな人工生命体だわ』
『ウフフフ、これ以上無いくらいの禁忌ね♪』
そう、これは神の領域を土足で踏み荒らす実験。【万物を黄金に変える魔法】により形作られた「破壊不可能な黄金の骨格」に、「
でも、成功すれば面白い事になるわ。
『
アウラの言う通り、私たちには盾となる前衛が居ない。端的に言うと、防御力が低過ぎる。再生能力があるとは言えアウラは直ぐミンチになるし、私の魔力の盾もこの世界では絶対とは言えないだろう。
その為の、この実験である。この子が完成すれば、理想的な肉壁が出来上がるかもしれない。
『じゃあ、行くわよ。……【
定着が終わったタイミングで、アウラが【服従させる魔法】を発動させる。
――――――フワリ。
すると、可視化された魂が、天秤に導かれるように、黄金のフラスコの中へ入って行った。
これが、この世界における【服従させる魔法】の効果。
この世界の【服従させる魔法】の本質は、
この“抜き身”というのがミソで、浮遊する死者の魂は際限無く操れ、それが乗り移る為の
さらに、魔法が解ける条件は、
つまり、これから生まれて来るであろう子と私たちは、
『……今、絶対不謹慎な事考えてたでしょ?』
『そんな事無いわよ?』
さてさて、そんな事より結果はどうなったかしら?
――――――スポォォォオオオンッ!
やけに小気味良い音を立てて、フラスコの中身が飛び出してきた。名前に反して、フラスコの外でも平気そうなその子は、朗らかな笑顔でクルリと回り、私たちに向かって告げる。
『や~りましたぁ~っ♪
◆ホムンクルス
かつて錬金術師「パラケルスス」が実験の末に生み出した、「フラスコの中の小人」。蒸留器に人間の精液と数種類のハーブを詰め合わせ、数日間密閉して腐らせた後、毎日人間の血を与えて煮込み続ければ、やがて小人の形を成すという。その存在は不安定で、名前通りフラスコの中でしか生きられないが、神にも等しい叡智を持つとされる。現在で言う所の「バイオテクノロジー」や「人工授精」の先駆けとも言える存在だが、一体誰の精液を使ったのだろうか……。
今作では産屋敷 犀月樹の精液にソリテールとアウラの血液を混ぜ合わせ、【万物を黄金に変える魔法】で形作られた黄金の骨格に定着させた、謂わば「サイボーグ」……もしくは「ターミネーター(T-800)」みたいな奴が爆誕した。