鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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坊や、良い子だ、想像しな。


魔王

 白み始めた夜空。燃え盛る家々。阿鼻叫喚の人々。物言わぬ骸の数々。

 

「うぅぅ……」

 

 そして、死に掛けのわたし。

 いや、正しくは死に掛けではなく、殺され掛けている。それも最愛の妹に。生きたまま腸を引きずり出されて、野晒にされた。半刻もしない内に、わたしは完全に死ぬだろう。

 しかし、これは仕方が無い事だ。言われたのだ、「姉妹で殺し合え」「生き残った方を見逃がそう」と。それが本当に実行されるか分かった物ではない口約束だが、わたしたちに選択肢は無かった。“そいつ”は、人智の及ばぬ化け物だったから。

 だから、せめて妹だけは……そう思っていたのに!

 

『おめでとう! 君は人間の屑だね! 知ってた? 屑に生きる資格は無いんだよ♪』

「げぼぁっ!?」

「あ……あぁ……っ!」

 

 “そいつ”はわたしの目前で、妹の腹に腕を突っ込み、腸を引きずり出した。しかも、それで彼女自身を荒巻きにして、わたしの前に差し出して来たのである。何て惨い事を!

 

『君もお腹が空いてるよね? ほら、お食べ♪』

「あ……ぐぅぅっ!?」

 

 さらに、わたしの首筋に指を突き立てると、何かを流し込んで来た。その瞬間、最早鈍くなり掛けていた痛みが吹き飛び、身体が元通りに再生され、その代わりに焼け付くような空腹感が襲い掛かって来る。

 ああ、駄目……そんな事をしては……だメ㎁乃4/}:[?!

 

『ガグルゥグガァッ!』

『良いね良いね、その調子その調子♪ 腹が減っては何とやらってね~♪』

 

 気付けば、わたしはあんなに愛おしかった妹を、骨も残さず貪り食っていた。先ずは腸から。次いで肺や心臓、肝臓と来て、周りの赤身へ。とても美味しかった。この世の物とは思えない、極楽浄土のご馳走のように、本当に、本当に美味しかった……反吐が出る程にぃっ!

 

『何で! 何でこんな事を!?』

『それはもちろん、愉しいからに決まってるじゃないですか! それとも君は、作業としてこんな事をするんですか? だとしたら、頭が悪いですね! 非効率極まりない! その点、僕は心の底から愉しんでいるので、これは謂わば、一人遊びの一環ですよ! いやぁ、愉しいなぁ! 人生(いのち)を弄ぶって愉しいなぁ!』

『この化け物!』

『嫌だなぁ、化け物(それ)は今の君でしょ? 僕は化け物なんかじゃない! 僕は正真正銘、“本当の悪魔”です♪』

 

 本当の悪魔が、ケラケラと嘲笑う。残酷で、無邪気に、悍ましく。

 そして、漸く明けた夜と共に、わたしの命運も尽きる事となった。

 

『さぁ、夢から覚める時間ですよ♪ 化け物は日の下を歩く資格が無いんですから!』

『……ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!』

 

 今まで作物やわたしたちを育んできた陽光が、今度はわたしを灰に変えていく。人生で味わった事の無い、全身を火達磨にされる痛みを伴って。妹に殺され、妹を食って、最後はお天道様に見限られる。こんな皮肉な事は無い。

 でも、これでやっと、わたしも妹やみんなの所に……、

 

『【服従させる魔法(アゼリューゼ)】』

 

 だが、“そいつ”ではない別の声が、わたしの魂を天秤に乗せた。その支配下に、縛り付けた。感覚で分かる。絶対に逃げられないと。昇天も獄落も許さない、絶対的な運命なのだと。見れば、妹や他の皆も、根こそぎ支配されていた。誰一人として助からなかったのだ。

 

眷属(手足)が不足していて困っていたのよね。実験も成功した訳だし、そろそろ私も戦力を補充したいわ』

『良かったですね、アウラ様! これでいっぱい玩具が増えますよ! 褒めて下さい!』

『それはソリテールにでも頼みなさいな』

『え~、何でですか!?』

『性に合わないからよ』

『そんなぁ~!』

 

 身体があれば歯を食いしばる程に憎悪を燃やすわたしを余所に、悪魔たちが呑気に駄弁っている。ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁっ!

 しかし、本当の恐怖はこれからだった。

 

『実験するなら、この子は私に弄らせてほしいわ。とっても活きが良さそうなんだもの♪』

 

 もう一人悪魔が加わり、魂のわたしを愉しそうに見下ろす。その顔は、どんな悪鬼羅刹よりも悍ましかった。

 

『さぁ、私と「お話」しましょ?』

 

 わたしの声にならない悲鳴は、最早誰にも聞こえない……。




◆魔王

 文字通り魔物や魔族の王。ソリテールの世界では、力尽くて魔族を従え、「人類との共存」を謳いながら人類を虐殺する、理解の及ばぬ存在だった。
 今作では、分かり易く邪悪な分、余計に脅威でしかない。話は通じるし、言葉も分かる筈なのに、あえてそれを無視して命を奪いに来るのだから。次に何をされるのか、想像出来てしまう恐ろしさは、殺された者にしか分からない。
 そして、殺された者の魂に自由は無い。死は、始まりに過ぎないのだ……。
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