鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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男は狼なのよ、気を付けなさい


聖母マリアの黄金の花

 四国地方(しこくちほう)伊予国(いよのくに)、「三角寺(さんかくじ)」。

 四国八十八箇所――――――つまりは「お遍路」に属する寺院の一つであり、六十五番目の札所に当たる。標高が465メートルもある「龍王山」の中腹に建てられ、弘法大師の像を参拝するには更に地蔵峠(標高765メートル)を越えねばならないなど、本当に巡らす気はあるのかと問い質したくなる程の難所としても有名である。

 名前の由来は、弘法大師こと「空海(くうかい)」がこの地を訪れた際、悪しき龍から農民を救い五穀豊穣を祈る為、三角形の「降伏護摩の秘法」を施した為と言われ、その跡が境内の「三角(みすみ)の池」に残っている。

 そんな修行僧しか用の無い、三角寺に向かう石段を上る影が三つ。一人は史上最強の剣士「継国(つぎくに) 縁壱(よりいち)」、残る二人は男女の鬼殺隊士だ。女の方は長髪を後ろで一つに束ねた凛とした二十代で、男の方は前髪を乱雑に切り揃えた十代後半くらい。それぞれ、名を「水尾根(みずおね) 大地(だいち)」(♀)、「賽之目(さいのめ) 泰斗(たいと)」(♂)という。

 

(鬼殺隊が壊滅したというのは本当のようだ……)

 

 大地と泰斗の有様を見て、縁壱が心の中で嘆息する。強き者、良い奴らは、あの万物を黄金に変える恐るべき真祖との戦いで命を落とした。残ったのは、経験の浅い新人ばかり。

 さらに、自らの兄である巌勝……否、今は「黒死牟(こくしぼう)」を名乗る鬼よって止めを刺され、偶然難を逃れただけの裏方やひよっこしか生き残れなかった。ここから立て直すのは難しい。いや、不可能と言い切っていいだろう。

 追放された時点で組織として腐敗し切っており、自浄能力が無いに等しい状態だとは思っていたが……まさか、ここまで落ちぶれてしまうとは。

 

(所詮、公家の逆恨みで生まれた、復讐の道具という訳か……)

 

 あまりの惨状に、縁壱は思わず天を仰ぐ。

 そう、彼は産屋敷(うぶやしき) 犀月樹(さつき)と話す内に、鬼殺隊の内情を知ってしまった。産屋敷家の意向を伝える「お目付け役」が強権を振る舞っていた、と。産屋敷という公家を発端に、その威光にあやかって、やがては彼らを「飾り」とする事で、実質的には組織全体を支配しているという構図は、藤原家の摂関政治と大差は無い。隊士という武力を用いて暴威を振るう事を考えると、余計に質が悪いと言えよう。揉み消されてこそいるが、裏で暗殺を担ったり、鬼の被害に見せ掛けた強盗紛いの事も行っていた様子。それを命じる方も、それに加担する隊士の方も、どちらも腐っている。極一部の事だと信じたいが、今となっては最早知る術も無い。

 

(いや、今は犀月樹の捜索だな……)

 

 理想と現実が食い違う事など、よくある事。産屋敷家が本当は平和など願っていない事と同じように。

 それでも、犀月樹は縁壱(じぶん)にとって数少ない心友である。歳の差はあれど、本音を隠さず話し合える相手は、他に居なかった。……今にも圧し潰され(・・・・・・・・)そうな心に蓋をして(・・・・・・・・・)他者を思いやれる(・・・・・・・・)彼を嫌う事など、出来はしない。

 だからこそ、縁壱は竈門家という温もりを捨て置いて、四国(ここ)まで来た。泰斗とか言う、何とも胡散臭い(・・・・・・・)男の情報を信じて(・・・・・・・・)

 

(こいつは確か、お目付け役の筆頭、賽之目翁の孫だったか……)

 

 無惨への復讐を掲げる鬼殺しの組織に、親の七光りで入隊する隊士が居るとは、世も末だ。世というか、鬼殺隊が終わっていただけなのだが。

 

(ただ、足取りが他に無いのも事実……)

 

 しかし、情報源が他に無いので、頼らざるを得ない。泰斗曰く、祖父と関りの深い商人から、“「吉備の穴海」付近で、船に乗り込むそれらしい人物を見た”という報せを受けたという。何故そんな探りを入れていたのかは、考えるまでもない。

 そんな事よりも、犀月樹の行方である。瀬戸内海の吉備児島付近に居たと言うなら、十中八九対岸の四国へ渡った筈。本土の土を踏む事すら嫌になっていたのだろうか。

 ともかく、犀月樹が身を隠しているとしたら、四国の可能性が高いのだ。どんなに怪しかろうと、行って確かめねばならないだろう。それがしくじってばかりの己がすべきせめての贖罪だと、縁壱は決意していた。今度こそは手遅れにならないように、と。

 

(まぁ、それはそれとして……)

 

 それとは別に、縁壱は確かめねば、聞かねばならない事がある。

 

「水尾根 大地。君に聞いておきたい事がある」

「はい、何でしょう?」

 

 縁壱の問いに、大地が首を傾げる。彼女は犀月樹探しを縁壱の所へ持って来た人物。同時に犀月樹やその弟「黄金海(こがみ)」と深い関りのある人間である。端的に言うと、痴情の縺れだ(・・・・・・)。担ぐ神輿が欲しい泰斗はともかく、彼らのせいで鬼殺隊でも浮いてしまっていた大地が、どうして犀月樹を探しているのか。合わせる(・・・・)顔も無い癖に(・・・・・・)

 

「君はお館様を……いや、犀月樹を見付け出して、何を言うつもり(・・・・・・・)なんだ(・・・)?」

「それは――――――」

 

 言い淀む大地。

 だが、これには答えて貰う。道中は見逃したが、四国入りを果たした以上、言い逃れは(・・・・・)許さない(・・・・)

 しかし、大地が口を開く前に、異常事態が巻き起こる。

 

「さぁ、皆の者! 我ら「ソリティア教」為に償いの血を注ぎ、極楽浄土へと至るのです!」

「「「えぇ……」」」

 

 境内のど真ん中で参拝者に布教する、とんでもない馬鹿共がそこに居た。




◆マリーゴールド

 「聖母マリアの黄金の花」を意味する、キク科の花。元はギリシャ神話における太陽神「アポロン」と、彼に恋焦がれる少年「クレムノン(もしくは「カルタ」という少女)」の、叶わぬ恋の哀しみが由来となっている。その為か、「生命力」や「真心」という明るい花言葉に加え、「嫉妬」や「絶望」という真逆の意味も込められていたりする。
 ちなみに「マリー(及びマリア)」という名は、「海のような苦しみ」や「神の寵愛を受けし者」を意味するヘブライ語「ミリアム」が起源とされている。
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