鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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この人ならこのくらいやってのけそうという不思議。


日輪の耳飾りの剣士

 ボサボサの長い黒髪を後ろで纏め、異国情緒溢るる衣服を着こなし、腰に変わった形の剣を差している、健康的な偉丈夫。鮮血のように赫い瞳と燃え上がるような赤い痣、それと相反する物静かで優し気な顔立ち。「ムザン」たちと同じ黒髪である事を鑑みるに、この男もこの名も知れない国の出身みたいね。それもかなり手練れの武芸者と見たわ。だって、剣の柄に手を掛けているのに、殺気らしい殺気が全く感じられないんですもの。

 

 

 ――――――シャリン。

 

 

『わぁ~お♪』

 

 ふと嫌な予感がして、無造作に仰天倒置してみたら、さっきまで私の首があった辺りを不死鳥みたいな斬撃が飛んで行ったわ。剣を鞘から抜くという行為を極限まで高めた、至高の一閃ね。私でさえ見逃しちゃう♪

 ……って、感激してる場合じゃないわね。あれだけが彼の全てとはとても思えないし、ムザンの時と同じく、さっさと逃げるとしましょうか。

 

「何処へ行く」

『わきゃー!?』

 

 だけど、そうは問屋が卸してくれなかった。偉丈夫が無数の不死鳥を放ってきたんですもの。これ、魔法じゃないのよね?

 地上じゃ話にならないわ。空へ逃げましょう。

 

「逃がさんぞ」

『嘘でしょ!?』

 

 偉丈夫が走って追い掛けて来たわ。目にも止まらぬ早さで足踏みして、空中を疾走しているの。おかしいわねぇ、人間って魔法も無しに空を飛べるような生き物じゃ無かった筈なのだけれど。世の常識を疑うわね。人間の可能性は無限大かもしれないけれど、この可能性だけは絶対に無いと言い切れるわ。だって、身体能力のみで空中闊歩なんて魔族でも無理だし。

 

 

 ――――――ゴォォォオオオッ!

 

 

「【円舞(えんぶ)】【碧羅(へきら)(てん)】【烈日紅鏡(れつじつこうきょう)】【灼骨炎陽(しゃこつえんよう)】【陽華突(ようかとつ)】【日暈(にちうん)(りゅう)頭舞(かぶりま)い】……」

 

 その上、空中に居ながら、舞い踊るように剣劇を繰り出してきたわ。呼吸が人類の出しちゃいけない音をしてるわね。しかも、斬撃のついでに不死鳥の騎士団が襲い掛かって来る始末。これは流石に不味いわね。逃げるので手一杯で、反撃の暇すらありゃあしない。空中サーカスなんてする気分じゃないのよ、こっちは!

 

「……空を舞う鬼は初めてだが、もう慣れた。終わりにしてやろう、陽光の下で歩く鬼よ」

『………………ッ!』

 

 なーんて考えてたら、避けた先に斬撃が飛んで来て、撃ち落とされちゃった。まるで私がどう動くのか視えているみたい。バンナソカナ~。

 

「きゃっ……な、何事!?」

 

 おっと、着地点の近くに第一森人発見。こんな山奥で暮らしているなんて奇特な女ね。妊娠している所を見るに独り身では無いようだけど……まぁ良いわ、この際誰だろうと何だろうと利用させて貰うわよ。

 

『……あら、こんな所に丁度良い肉盾が。えいっ!』

「わきゃーっ!?」「くっ!?」

 

 という事で、しつこく追撃してくる偉丈夫に通りすがりの妊婦を押し付け、その隙に逃亡した。森の木々を魔法で薙ぎ倒しながら。

 

『ぐぇっ!?』

 

 置き土産に右腕を切り飛ばされたけど。何で千二百枚も重ね張りした【魔力の盾】が一刀両断されるのかしらね。とは言え、これぐらいの重傷、生きてさえいればどうとでもなるわ。それよりも、もっと遠くへ逃げないと!

 

『ふぅ……もっと遠くに、ど田舎にでも引き籠ろうかしらね』

 

 飛びながら、そう考える私。ムザンといい、ナキメといい、あの偉丈夫(ばけもの)といい、あんなのがうろついている世の中で「人間の研究」なんて、出来る筈も無いわ。ここまでの流れで真っ当な人間が森の妊婦さん一人とか、本当にどうなってるのよ、この国は。

 

『それに、もっとちゃんと「お話」したいしね』

 

 きちんと地に足を着いた、普通の人間とね。この国の言語も、きちんと習得したいし。流石に身振り(ボディ)手振り(ランゲージ)だけじゃ、お話にならないしね。

 そうと決まれば、拠点を探さなきゃ。何処が良いかしら。前みたいに漁村を再利用するか、それとも山の頂に隠れるか、もしくは逆張りで人口密集地にしてみるのも面白いかも。折角もう一度拾った命なんだから、大いに愉しまなくちゃ♪

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 上下左右が捻じ曲がった、終わりの無い廻廊が織り成す異空間、「無限城」。その一画でお茶会を楽しむ人影が二つ。この城の主である鳴女(なきめ)と、その上司たる鬼舞辻(きぶつじ) 無惨(むざん)だ。

 

『無惨様、無惨様』

『どうした鳴女?』

『先程、人間に寄生させておいた「使い魔(眼球)」が、見ていたんですけど』

『サラッと悍ましい事してるな、お前』

『「日輪の耳飾りをした男」と例の鬼が交戦し、男が鬼を取り逃したようです』

『何だと!?』

 

 鳴女の報告に、無惨がお茶(鮮血)を取り溢した。普段の彼らしからぬ激情だが、無理もないだろう。何せあの男――――――継国(つぎくに) 縁壱(よりいち)が鬼を仕留め損なったと言うのだから。鬼の始祖たる自分を一撃で八つ裂きにして呪い染みた傷を身体中に刻んだ奴を相手に逃げ果せるとは、信じ難い話である。

 いや、それよりも、だ。

 

『あの女、陽光を浴びて死ななかったのか!?』

『そうみたいですね~。ビッくらポンですよ』

 

 無惨にとっては、それが一番の問題であった。陽光に焼かれると塵へ還ってしまう己の不完全さに嫌気が差している彼からすれば、太陽を克服する足掛かりとなりそうな鬼が、こんな直ぐ傍に居たという事実は、悔しさしかない。

 とは言え、今出て行けば死の日光浴をする破目になるし、夜を待っても太陽と同じくらいに恐ろしい通り魔と鉢合わせしてしまう。

 

『クソッ、絶対に引っ捕らえて食ってやるぞ!』

『でもでも、どうするんです? 呪いが適用されていないって事は、足取りを追えないって事でしょ?』

『配下の鬼共を向かわせる。何匹何十匹何百匹犠牲になろうと構わん。私が真の不死身になる為ならばな!』

『頑張って下さいね~♪』

『お前も頑張るんだよ!』

『え~』

『え~、じゃない! お前は部下、私が上司! いい加減にしとけよ、貴様!』

『そ、そんな! 無惨様は私の演奏仲間じゃなかったんですか!?』

『一体何時からそんな設定になった!?』

『だって女装してたじゃないですか!』

『あれは潜入工作用なの! 好きで舞妓はんしてる訳じゃないの!』

『全国の鬼の皆さーん! ここに女装の変態が居まーす!』

『視界を奪ってまで全国放送するな! ええい、この……力強っ!?』

 

 無限城は今日も平和だった。




◆継国 縁壱

 ご存じ最強の鬼狩りの剣士。その力は鬼の始祖たる無惨ですら恐怖で引き籠ってしまう程。色々と人間を辞めているが、その心根だけは慈愛に満ちた優男そのもの。そして世界は彼に全く優しくない。
 今作でもその力は健在であり、無名の大魔族たるソリテールも全力で逃げ惑うしか無かった。
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