「もっとやったってよお!」
「何だ、こいつらは……」
「島原のキリシタンじゃないですかね?」
「キリシタン? ……キリスト教は生贄を推奨しているのか? 大丈夫なのか、その邪教」
「いやいや……たぶん、あいつらは密教の過激派ですよ。似たような新興宗教も沢山ありますし。真言宗ですら九つの宗派に分かれてるぐらいですしね。なので、キリスト教への熱い風評被害は止めましょ? 一応、俺の実家もキリシタンなので……」
「なるほど……」
泰斗の解説に、縁壱はとりあえず納得する。祖父と同じ下衆な心根の持ち主ではあるが、流石にお目付け役の親族というだけあって、教養くらいはあるようだ。というかキリシタンだったのか貴様。この世界で一番似合わん。
だが、ならば何故に元密教の過激集団が、こんな所で反吐を撒き散らしているのだろうか。思い付くのは、教祖に当たる人物が居なくなった事による暴走であるが、果たして……?
「むっ!? そこの者々!」
「えっ、あ、はい」
と、自分に酔いしれていた教祖代理みたいな修道女が、縁壱たちに気付くと指をビシッと差し、
「その格好……我らが教祖、ソリティア・イノセンス様を追い立てた、鬼殺隊という悪党の構成員だな!? 正義の名の下に貴様らを虐殺する! 愛、それは暴力!」
「お前は何を言っているんだ?」
背後の信者共々、何処からともなく
まぁ、それはそれとして。
「当て身!」
「ぎゃん!?」
撃たれる前に、縁壱が教祖代理たちの延髄を打った。あまりに一瞬過ぎて、鬼でなきゃ見逃しちゃうね。
「とりあえず、縛り上げるか」
「そんな何でもないかのように……」
「鬼殺隊が斬るのは鬼だけ。だから無駄な抵抗が出来ぬよう縛るんだ」
「発想が殺人鬼なんですが」
「鬼殺隊とはそういう物だ」
当たり前のように教祖代理たちを縛り上げる縁壱に大地が突っ込むが、縁壱は何処吹く風だった。少なくとも問答無用で命を取りに来たのだから、縛り上げても文句は無かろう。このまま野生動物に提供してやっても良い。表情こそ死んでいて分かり難いが、嫌な事続きで縁壱の心は大分荒んでいた。
「それにしても、何だってこいつら、四国くんだりまで来たんですかね? 大人しく島原に居れば良かったのに……」
簀巻きにされたソリティア教徒たちを見て、泰斗が呆れ顔で呟く。正直、縁壱もそう思っていた。彼とは意外と気が合うのかもしれない。
「布教、とかですかね?」
「それは分かってるんだよ。問題は何で
「お、おっけー……?」
その上、ちょっと世間知らずな大地の疑問にも、淀みなく答えている。これで性根が腐って無ければと思う程度には頼りになる男である。
「一先ず、邪魔にならないように退かすとしようか」
「縁壱さん、まるで塵みたいな言い方……」
「人間の屑ではあるだろ」
「泰斗さんまで!?」
「いや、普通に残当だろ。こいつら、俺らが縛らなくても絶対銃ブッ放ってただろうし」
「う~ん……」
どうしよう、庇う要素が一つも無い。このまま領主に突き出した方が、よっぽど世の為人の為になる。連行しよう、そうしよう。
「うぅ……はっ!?」
と、思ったよりも早く教祖代理の女が目を覚ました。
「ど、どうして我々が新巻鮭に!? あ、あなたたち、今直ぐこの縄を解きなさい! 解いてくれたら、撃ち殺してやるからぁっ!」「そーだ、そーだ!」「我々が喚き散らしてんだぞ、いい加減にしろ!」
「お前らは交渉という物を知らんのか?」
「失礼な、知ってますよ! 眉間に銃口を押し付ける事でしょう!?」
「駄目だこいつ、早く何とかしないと……」
もちろん、それで冷静な話し合いが成立する筈も無く、縁壱は顔に手を当てて呆れ果てた。額に銃口を当てるのは世間一般では脅迫と言うのだが、そんな事も分からないのか、こいつらは……。
「質問してんのはこっちだ」
「ひでぶっ!?」
すると、見兼ねた泰斗が、溜め息交じりに教祖代理の女をぶん殴った。
「よくも、私の美しい顔を……あべしっ!?」
「美しい顔だ? そんな物、何処にある?」
「ひぎぃっ!? ちょ、止め……ぇはんっ!?」
「「………………」」
その上、追加で殴る蹴るの暴行を加える。それを止めもしない縁壱と、唖然として動けない大地。なぁにこれぇ?
「おらおら、ここが良いんか? 右の頬をぶたれたら、左の頬も差し出せって、イエス様も仰ってたぞ!」
「ふぐりっ!? く、くそっ、あんなナザレのヒゲ野郎に傾倒するなんて、この恥知らずめ! 男ならもっとこう、ちっちゃくて可愛い女の子に懸想しなさ……あばずれっ!?」
「お前は何を言っているんだ」
「くっ、殺せ……あひぃん♪」
「人生が穢れるから嫌だ」
「も、もっとよ! もっとぶって! 蹴って殴って滾らせてぇ!」
「なら素直に喋りな」
「ひ、ひぐぅ! わ、分かりましたぁ! この雌豚に何でもお聞き下さいませぇ!」
「「うわぁ……」」
こうして、一匹の雌豚が仕上がった所で、泰斗の異教徒調教劇は幕を閉じるのだった。
「――――――で、真面目な話、お前ら何しに来たんだよ? お前らのショバは島原の筈だろ?」
流石にこれ以上は見せられないので、泰斗は真面な尋問を開始する。
「は、はひっ! 鬼殺隊の
「ですが?」
「ある日、南蛮貿易でお世話になっている商人から、四国の何処かに教祖様らしき人が飛んで行ったと、報せがあったんですぅ~」
「……何か普通に空を飛んでるけど、突っ込んだ方が良いのか?」
「は、はいです! 教祖様は人の姿をしていらっしゃいますが、その実、人智を超えた魔法を操る、可愛い可愛い天使様なのですよ!」
「
「そんな野蛮な真似はしませんよ! ほんの少し、償いの血を注ぐだけで良いのです! 燃費が良いでしょう!?」
「燃費の話はしてないんだがな……」
しかも、いきなり重要な情報がチラホラと。
「縁壱様。確か兄君が最後に向かった任務というのは……」
「……“真祖によく似た陽光の下も歩ける鬼”が島原に居るから、調査に向かうと豪語していたな。尤も、私はその後直ぐに追放されたから詳細は知らんが」
「なるほど。そいつが真祖なのかどうかはともかく、関係はありそうですね。しかも、そいつが四国に居るかもしれない。
やだ、この男、優秀過ぎない?
「まぁ、聞きたい事は大体聞けたので、さっさと領主に突き出しましょうか」
「そ、そんなぁ!? 見捨てないで下さいまし、ご主人様ぁ!」
「誰がご主人様だ。少し牢屋で頭を冷やせ。ほら、早く立――――――」
と、その時。
『両足八足、横行自在にして眼、天を差す時如何?』
「「ゑ?」」
気付けば“そいつ”はそこに立っていた。
それはさっきまで影も形も無ければ、見た覚えも無い顔の、それでいてずっと昔から寺に居るかのような格好の、良い歳をした住職であった。
しかし、顔色が致命的に悪い。まるで溺死したばかりの仏様だ。こいつ、絶対に人間じゃねぇ。
「……蟹だ」
だので、縁壱はサラッと答えつつ、バッサリと住職を袈裟に斬り捨てた。
『キェエエエエエエッ!』
すると、住職だったナニカは、何かに引っ張られるかの如く「三角の池」へ消えて行き、
『ゲェギャギャギャギャギャッ!』
◆ソリティア教
ソリテールが立ち上げ見捨てた、キリスト教系の密教。「辛い事や苦しい事はしなくて良く、する必要も無い」「代わりに教祖様へ償いの血を注げば、誰であれ極楽浄土へ至れる」というスーパー胡散臭い教義で成り立ってはいるが、実態は唯の養豚所である。
ちなみに、教祖代理の女の子の名前は「
ソリテール:『この子は良い豚になりそう♪』