鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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カニにまつわるイグザクトリーッ!


蟹食べに逝こう!

「な、何だ、こいつ!?」

「か、蟹ですよ、ご主人様! たぶん、「蟹坊主」とかいう妖怪です! 答えが蟹になる問答をしているし、絶対に間違い無いです、たぶん!」

「絶対に間違えない多分って何だ!?」

 

 棘だらけで赤々しい甲殻に身を包み、二本の鋏を天に頂いて、四本の脚にて大地を掴む。古びた巨大な髑髏を背負い、脚が一対少ないという違いはあるが、その姿は何処からどう見ても蟹――――――というか「タラバガニ」である。

 

「……いや、水蟷螂(みずかまきり)だな」

「えっ、螳螂!? 縁壱様、何を――――――」

「螳螂ではない、水蟷螂だ」

 

 だが、縁壱は否定する。彼には一体何が見えていると言うのか。

 

「蟹の目に見えるあれは、色の付いた触角だ。それに田亀(たがめ)と同じ、獲物に突き刺す為の鋭い棘がある。何より、蟹ならある筈の(・・・・・・・)褌や鰓室が(・・・・・)見当たらない(・・・・・・)。何故なら水生の昆虫だからだ」

 

 ※ミズカマキリやタガメは、肉食性かつ水生のカメムシです。

 

「で、では、何故蟹みたいな姿に?」

「全ての甲殻類の行き着く先は蟹だと言われている。なら、遠い親戚である水生昆虫が、似たような進化の選択を取っても不思議では無いだろう」

「不思議だと思うけどなぁ……」

 

 言っている事は分かるのだが、どうにも腑に落ちない泰斗であった。

 

『キシェエエエエエィッ!』

「あ、本当に螳螂だ」

「水蟷螂」

「律儀に訂正しなくて良いですから」

 

 しかし、蟹坊主が鋏をキシェイと展開して一対の鎌に変えた事で、否定する要素が無くなってしまった。蟹の鋏に見えたあれは、単に折り畳んでいただけなのだ。

 

 

◆『分類及び種族名称:螂閣(ろうかく)超獣=蟹坊主』

◆『弱点:腹部』

 

 

『カニトエビ、ドッチガスキ!?』

 

 と、実は水蟷螂の癖に食通振る蟹坊主。

 

「えっと、海老の方が好きだが……」

『カンタムカニバァァサミィィッ!』

「いや、カンタムって何……危な!?」

 

 その上、縁壱が律儀に問いに答えている隙を突いて、鎌で切り掛かってきた。物を挟み込む為の鎌なので切れ味は無いに等しいものの、単純な質量とフィジカルのせいで岩盤を捲り上げる程の鈍器と化している。

 

「あんた何やってんですか!?」

「いや、だって問いに答えぬのは無作法という物だろう?」

「兄弟揃って何言ってんだよ!」

 

 縁壱は人の良い馬鹿だった。

 

「……とりあえず、後退して下さい。こんな蟹の化け物なら俺一人でも殺れます」

 

 すると、泰斗がサイコロステーキになりそうな死亡フラグを立てて、刀を抜く。

 

「水蟷螂。……それにしても、お前に刀が振るえるのか? 普段表立つ事の無いお前が」

「たった今あんたが頼りにならなくなったから頑張るんだよ! ……【霜の呼吸・壱ノ型 粉凍(こなごお)り】」

 

 

 ――――――ヒュォォォォ……!

 

 

 そして、まるで霜が降りて来たかのような冷たい呼吸が、周囲の体感温度を下げる。

 

「「水の呼吸」の派生か?」

「俺独自の呼吸法ですよ。権力に胡坐を掻いてるだけじゃ、あの糞爺の二の舞になるんでね」

「素晴らしい心掛けだ。呼吸にも無駄がない」

 

 泰斗の見事かつ独自の「全集中の呼吸」を見て、縁壱は素直に賛辞を贈った。

 「日の呼吸」は難しく自分一人しか会得出来いない専用技だが、多くの隊士たちがこれを研究し、「水」「炎」「雷」「月」と、様々な派生を生み出した。

 しかし、それらはまだ研究段階かつ、言い方は悪いが日の呼吸の劣化品でしかない為、独自性と引き換えに多くの問題も抱えている。型同士の連携を取り難いのが、その際たる例だろう。鬼殺隊の柱となる上級隊士たちでさえ、この有様なのだ。その上級隊士すらも、今は一人も居ない。

 そんな中で、「水の呼吸」を派生させ独自の呼吸法を編み出し、尚且つ上級隊士と比べても遜色の無い気迫を纏っている。縁壱の中での、泰斗のイメージは大分様変わりしつつあった。

 

『カニカマ、オイシイ!?』

「知らん!」

『カニバーサリィーッ!』

「だから知らんと言っている!」

 

 蟹坊主の蟹問答アタックを、文字通り切って捨て、お返しとばかりに斬り返す泰斗。剣技と言うよりは舞技のような、物静かだが流麗な、それでいて身も凍る程の鋭い一閃が放たれる。一つ一つの剣戟が粉雪を思わせ、見ているだけで低温火傷しそうである。

 

『キキキキキ……!』

 

 しかも、実際に相手の熱を奪う効果もあるようで、蟹坊主の斬り付けられた部分に霜が降りていた。

 

「くそっ、馬鹿みたいに硬いな!」

 

 だが、蟹坊主もまた見た目通りの硬さを誇っているらしく、ダメージを通すには至っていない。

 

『カニドウラクッ!』

「うおっ!?」

 

 さらに、背中と髑髏の隙間から翅を展開したかと思うと、まさかの飛翔を行い、口吻から爆発するシャボン玉を乱れ撃ってきた。どうやら、発火性の高い消化液の膜で爆発性の強いガスを包み込み、当たると弾けるように設計されているようだ。

 

 

 ――――――ギャリギャリギャリギャリッ!

 

 

『チョッキンナァッ!』

 

 その上、両鎌を研磨するかの如く擦り合わせると、目のも留まらぬ速さで急降下、落下の勢いも加えた強烈な一撃を放ってきた。

 

「甘いんだよ! 【霜の呼吸・参ノ型 蔓蓮華(つるれんげ)】!」

 

 しかし、そんな大技、そうそう当たる訳が無い。しっかりと読み切っていた泰斗が、蔓を帯びた蓮の花を思わせる斬り上げで、蟹坊主の両鎌の関節部分を撥ね飛ばす。

 

「【霜の呼吸・肆ノ型 (ふゆ)ざれ氷柱(つらら)】!」

『カニザンマイィィッ!?』

 

 そして、蟹坊主が怯んだ隙に今度は泰斗が上を取り、巨大な氷柱を落とすかの如く四連撃を叩き付け、蟹坊主の四本脚を破壊した。人間で言えば四肢をもがれたに等しい蟹坊主に、勝ち目はもう無い。

 

『……シャアアアアアッ!』

 

 と思われた瞬間、髑髏の中からハリガネムシのような無数の触手が伸びて、泰斗の背中を串刺しにせんとする。

 

「なるほど、それがお前の隠し玉か。……【霜の呼吸・伍ノ型 結晶ノ御子(けっしょうのみこ)】」

 

 だが、それも泰斗に読まれていた。彼の周りに漂う薄っすらとした冷気がセンサーとなり、蟹坊主の動きを察知していたのである。氷の結晶の巫女が舞い躍るような、ふつくしい連撃が触手を粉砕した。

 

『ヒタギ、クラブ……』

 

 万策尽きた蟹坊主が、訳の分からない言葉を残して、遂に力尽きた。

 

「フゥ……さて、闖入者も片付けた事だし、一先ず山を――――――」

 

 しかし、漸く事が終わったかに見えたが、それは始まりに過ぎなかった。

 

「皆さん、あれは何でしょう?」

 

 傍観するしか無かった大地が、空を指差す。

 

「流れ星? いや、彗星か? まだこんなに明るいのに?」

 

 見上げた泰斗の目にも、“それ”は映っていた。

 遥か天高くを流れる、赫々とした彗星。時期外れ処か時間すらも外れている“それ”は、

 

「いや、違う!」

 

 

 ―――――――ィィイイイイイン……ッ!

 

 

 音を置き去りにし、消し飛ばしてしまう程のスピードで、三角寺の境内に着弾した。

 

 赫い閃光と(・・・・・)共に全てが(・・・・・)灰燼と帰す(・・・・・)




◆蟹坊主

 池のある古寺に棲み付く蟹っぽい妖怪。人に化ける能力があり、出遭った者に「両足八足、横行自在にして眼、天を差す時如何?」という質問を投げ掛け、考えている隙に食い殺してしまう。
 正体はハリガネムシと共生したミズカマキリの化け物。僧侶の部分はハリガネムシが変形した物で、謂わば疑似餌のような存在。一見すると良く出来た共生関係に見えるが、実はパラセクトぐらい主従関係がはっきりしていたりする。
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