鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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推奨BGM:「銀翼の凶星」


悪しき赫耀の死兆星

 私は……継国(つぎくに) 縁壱(よりいち)は、心の底から後悔した。この日この時が訪れてしまった事を。大地から話を聞いた時点でかなり不安視していたが、これは考え得る中で一番最悪の結果だ。

 

『いやぁ、すいませんでした! まさか居合わせているとは思ってなくて! 一緒に挽き肉にしちゃってたら、後悔してもし切れませんよ~♪ あっ、そうだ! お詫びと言って(・・・・・・・)は何ですが(・・・・・)大地を食べても(・・・・・・・)良いですよ(・・・・・)? こんがり肉にし掛けてしまった詫びです! 大丈夫、ご馳走を取られたくらいで怒ったりはしません! 僕らは(・・・)友達ですからね(・・・・・・・)♪』

 

 以前と変わらぬ朗らかな口調で、世にも悍ましい鬼畜な発言をする犀月樹。これが、あの彼なのか?

 最早、犀月樹は人間ではない。身も心も、鬼ですらマシに見える程の、悪魔と化してしまった。ならば、せめてもの手向けとして、自分が――――――。

 

「【日の呼吸・漆ノ型 斜陽転身(しゃようてんしん)】!」

 

 己が身を天に捧げるように宙を舞い、空転しつつ背後から頸を薙ぐ。あの無惨ですら痛みも感じずに頸を撥ねた技である。どうか、この一撃で死んでくれ。せめて苦しまぬように、逝って欲しい。

 

 

 ――――――ガキィンッ!

 

 

 しかし、天は誰にも味方しなかった。私の日輪刀は犀月樹の頸に僅かな切れ込みを入れただけに終わり、それさえも見る見る内に修復されていく。

 この触感(・・・・)覚えがある(・・・・・)兄上と共に戦った(・・・・・・・・)あの真祖の(・・・・・)生み出す黄金(・・・・・・)と同じ物だ(・・・・・)

 

『いきなり何をするんですか、縁壱? どうして首を斬り落とそうとするんですか? 僕たち、友達でしょう?』

 

 訳が分からないよ、と言いた気に頸を摩る犀月樹。

 

『……ああ、そうか、一緒に遊びたいんですね!? そうですそうです、僕も生まれ変わって、こんなにも丈夫になったんですよ! 前は守られてばかりでしたが、今度こそ対等に遊べますよ!』

「………………!」

 

 お願いだ、もう止めてくれ。これ以上、犀月樹を貶めないでくれ。

 

 

 ――――――シュォォォォオオオオオッ!

 

 

 だが、そんな私の願いも虚しく、犀月樹が猛烈な勢いで息を吸い始める。口からだけ(・・・・・)ではなく(・・・・)全身を使って(・・・・・)。常人ならば立っている事さえ難しい、凄まじい吸引力だ。まるで、彼が台風の目になったかのようである。

 さらに、犀月樹の肩甲骨と尾てい骨が変形し、それを白銀に輝く肉身が覆い、一対の翼と一本の尻尾となった。尻尾は棒の如くピンとして、翼に至っては皮膜も羽も見当たらない八手のような形状をしており、とても飛べるような代物には見えないが、そもそも空から降って来たのだから、普通に飛行出来るのだろう。

 いや、そんな事はどうでもいい。二本の角を頂き、翼と尻尾が生えたその姿は、犀月樹が本当の悪魔になってしまった事を示しているようだった。

 きっと、今の犀月樹を見た者は、口を揃えてこう言うだろう。

 

「魔王……!」

『そう、僕は魔王となったのです! 「さぁ、坊やよ、こっちへおいで」……なんちゃってねぇっ!』

 

 

 ――――――ヒィイイイイイイイァァァアアアアアアアアアアアッ!

 

 

 呼吸と変形を終えた犀月樹が、全身に赫々しく禍々とした“氣”を纏い、何かが沸騰したような、もしくは女性の断末魔を思わせる甲高い音を轟かせ、完成へと至った(・・・・・・・)。もしもこれが究極生命体なのだとしたら、なるほど確かに無惨も憧れるであろう。

 自称でも人間でもない、真なる魔王の誕生だ。

 

 

◆『分類及び種族名称:悪しき赫耀の死兆星(ダイナナテンマオウ)=ユン・アルシュベルド』

◆『弱点:不明』

 

 

「フ……フフ……くっくっくっ……はははははははははっ!」

 

 笑わずにはいられない。私の生涯において唯一の心友(とも)が、ここまで堕ちてしまうとは。

 

「嗚呼、天地神明の神々よ……私は……」

 

 これがあなた方の与え賜もうた試練ならば。しくじってばかりの私への罰だと言うのならば。

 

「――――――()は、貴様らを絶対に許さん! ここで果てたとしても、死んで地獄に落ちようとも! 貴様らを必ず呪い殺してやるっ!」

 

 神は死んだ。少なくとも、俺の中では。

 否、最初からそんな者など居なかったのである。そうでなければ、誰一人として報われない。大地も、犀月樹も。彼は先程自分を悪魔と言っていたが、それは違う。

 もし神が居るのだとしたら、そいつこそが本当の悪魔だ!

 

『さぁさぁ、一緒に遊びましょう! 愉しい時間ですよ縁壱!』

「誰も彼も死んでしまえ! こんな世界なんて大嫌いだぁっ!」

 

 そして(・・・)俺が駆け出すと同時に(・・・・・・・・・・)犀月樹が(・・・・)翼の先端から(・・・・・・)猛烈に氣を(・・・・・)噴き出して(・・・・・)光陰矢の如く(・・・・・・)襲い掛かってきた(・・・・・・・・)




◆天の火

 聖書において、悪徳の街「ソドム」及び「ゴモラ」を滅ぼした、天罰の火。その威力はたった一晩で街を壊滅させ、死海の底へ沈めてしまった程。聖書に限らず、天から降って来る焔の伝承は世界各地にある。
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