私は……
『いやぁ、すいませんでした! まさか居合わせているとは思ってなくて! 一緒に挽き肉にしちゃってたら、後悔してもし切れませんよ~♪ あっ、そうだ!
以前と変わらぬ朗らかな口調で、世にも悍ましい鬼畜な発言をする犀月樹。これが、あの彼なのか?
最早、犀月樹は人間ではない。身も心も、鬼ですらマシに見える程の、悪魔と化してしまった。ならば、せめてもの手向けとして、自分が――――――。
「【日の呼吸・漆ノ型
己が身を天に捧げるように宙を舞い、空転しつつ背後から頸を薙ぐ。あの無惨ですら痛みも感じずに頸を撥ねた技である。どうか、この一撃で死んでくれ。せめて苦しまぬように、逝って欲しい。
――――――ガキィンッ!
しかし、天は誰にも味方しなかった。私の日輪刀は犀月樹の頸に僅かな切れ込みを入れただけに終わり、それさえも見る見る内に修復されていく。
『いきなり何をするんですか、縁壱? どうして首を斬り落とそうとするんですか? 僕たち、友達でしょう?』
訳が分からないよ、と言いた気に頸を摩る犀月樹。
『……ああ、そうか、一緒に遊びたいんですね!? そうですそうです、僕も生まれ変わって、こんなにも丈夫になったんですよ! 前は守られてばかりでしたが、今度こそ対等に遊べますよ!』
「………………!」
お願いだ、もう止めてくれ。これ以上、犀月樹を貶めないでくれ。
――――――シュォォォォオオオオオッ!
だが、そんな私の願いも虚しく、犀月樹が猛烈な勢いで息を吸い始める。
さらに、犀月樹の肩甲骨と尾てい骨が変形し、それを白銀に輝く肉身が覆い、一対の翼と一本の尻尾となった。尻尾は棒の如くピンとして、翼に至っては皮膜も羽も見当たらない八手のような形状をしており、とても飛べるような代物には見えないが、そもそも空から降って来たのだから、普通に飛行出来るのだろう。
いや、そんな事はどうでもいい。二本の角を頂き、翼と尻尾が生えたその姿は、犀月樹が本当の悪魔になってしまった事を示しているようだった。
きっと、今の犀月樹を見た者は、口を揃えてこう言うだろう。
「魔王……!」
『そう、僕は魔王となったのです! 「さぁ、坊やよ、こっちへおいで」……なんちゃってねぇっ!』
――――――ヒィイイイイイイイァァァアアアアアアアアアアアッ!
呼吸と変形を終えた犀月樹が、全身に赫々しく禍々とした“氣”を纏い、何かが沸騰したような、もしくは女性の断末魔を思わせる甲高い音を轟かせ、
自称でも人間でもない、真なる魔王の誕生だ。
◆『分類及び種族名称:
◆『弱点:不明』
「フ……フフ……くっくっくっ……はははははははははっ!」
笑わずにはいられない。私の生涯において唯一の
「嗚呼、天地神明の神々よ……私は……」
これがあなた方の与え賜もうた試練ならば。しくじってばかりの私への罰だと言うのならば。
「――――――
神は死んだ。少なくとも、俺の中では。
否、最初からそんな者など居なかったのである。そうでなければ、誰一人として報われない。大地も、犀月樹も。彼は先程自分を悪魔と言っていたが、それは違う。
もし神が居るのだとしたら、そいつこそが本当の悪魔だ!
『さぁさぁ、一緒に遊びましょう! 愉しい時間ですよ縁壱!』
「誰も彼も死んでしまえ! こんな世界なんて大嫌いだぁっ!」
◆天の火
聖書において、悪徳の街「ソドム」及び「ゴモラ」を滅ぼした、天罰の火。その威力はたった一晩で街を壊滅させ、死海の底へ沈めてしまった程。聖書に限らず、天から降って来る焔の伝承は世界各地にある。