鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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死の危険から逃げるのは、生き物として普通。


逃げるは恥だが役に立つ

「……はっ!?」

 

 と、ソリティア教の教祖代理の女――――――「世良(せいら) ゾリテール」は目を覚ました。

 

「チッ、目ェ覚ましやがったか。そのまま寝てる方がマシだったのによ」

「あ、あなた……ぐえっ!?」

 

 賽之目(さいのめ) 泰斗(たいと)に俵の如く担がれ、運ばれている状態で。後方を見遣れば、水尾根(みずおね) 大地(だいち)も追従している。

 そう、三人は今、物凄い勢いで下山していた。岩を跳び、木々に着地し、道なき道を突き進んでいる。時々木の枝がゾリテールの服を掠め、破り、色々な物が見えてしまうが、泰斗も大地も遠慮をする様子は無い。とにかく麓を目指して一直線だ。何をそんなに急いでいるのだろう。

 

「ちょ、ちょっと、これはどういう事なんですの!? 何で私、担ぎ上げられているのですか!? 他の信者たちは!? 誰か何とか言いなさいよ!」

「皆死んだよ、お前以外はな。これで良いか?」

「は?」

 

 ポカポカと泰斗の背中を叩いていたゾリテールが絶句する。

 

正確には(・・・・)空から降って来た(・・・・・・・・)化け物に殺さ(・・・・・・)れたんだ(・・・・)。ありゃあ、最早隕石だな。縁壱(よりいち)様が庇ってくれなきゃ、誰一人として生き残れなかっただろうぜ。……まぁ、俺も頑張ったんだがな。おかげでほら、この通り(・・・・)

「………………!」

 

 さらに、泰斗が失った右腕の側を見せた事で、いよいよ以て二の句が付けなくなった。詳細は不明だが、彼がゾリテールを庇った結果、右腕が吹き飛ばされてしまったらしい。

 

「ど、どうして私を……?」

「近くに居たからだよ。証人の一人くらい残しておかないとな」

「そ、そんな嘘を! それに、剣士のあなたが腕を失うのは……」

「うるせぇなぁ。だから寝てろってんだよ。お前もそこの女(・・・・)も、ぐちぐちごちゃごちゃ喧しいぜ。助けられたのなら、黙って救われてな。唯でさえ迷惑なんだし」

「「………………」」

 

 その言葉に、ゾリテールだけでなく大地も唇を噛み締める。泰斗は言っているのだ、迷惑な女たちだと。実際、彼は二人のせいで右腕を失っている。

 

「――――――まぁ、刀は問題無く振るえるよ。元から俺は片手剣だし、そもそも左利きだしな」

 

 それでも流石に言い過ぎたと思ったのか、泰斗が注釈を入れる。そう言えば、彼は常に左手だけで刀を振っていた。

 

「えっと、右手の方は?」

お前と同じ物だよ(・・・・・・・・)。誇り高い剣士様や、慢心した鬼には効果抜群だぜ。“銃は剣よりも強し”って訳さ」

 

 泰斗がゾリテールを見据える。ようするに、彼は「銃刀(ガン=カタ)」スタイルという事である。幼い頃から暗殺稼業も続けていた泰斗にとって、誰にも知られる事無く隠し武器を仕込むのは簡単な事だ。鬼殺隊で銃を扱うのは珍しいが、命が助かっただけマシだったと思うべきであろう。

 

「……あのサムライは?」

今戦ってるよ(・・・・・・)魔王とな(・・・・)。だからこそ逃げてるんだ。あんなのが相手じゃあ、俺らは足手纏いだしな。特にゾリテール(おまえ)大地(おまえ)

「「………………」」

 

 泰斗の指摘に、ゾリテールと大地は答えず、沈黙で応えた。これ以上何かを言っても恥を晒すだけである。

 

「……それでも、信者たち(かれら)は家族だったのですよ、私にとっては」

「………………」

 

 今度は泰斗が黙る番だった。それからは三人共一言も喋る事無く山を降り、麓を越え、人目に付かぬよう林の中を駆け抜け、「讃岐国(さぬきのくに)」経由で海を目指す。これ以上この地には留まれない。四国全土が(・・・・・)危険地帯なのだ(・・・・・・・)。本来なら住民の避難をすべきなのだろうが、あまりに範囲が広過ぎるし、何より鬼殺隊は政府非公認の組織である。大々的には動けない。

 そう、産屋敷(うぶやしき) 犀月樹(さつき)の末路を確認し、縁壱が殿を務めてくれている時点で、泰斗たちに出来る事は何も無いのだ。尤も、縁壱に足止めや囮のつもりなど更々無いのだろうが。今の彼は、世を呪い、全てを投げ打った、死に急ぎ野郎(じさつしがんしゃ)でしかないのだから。

 泰斗たちは、あまりにも無力であった。

 

『あらあら、あの子たち、よく逃げ切れたわね』

『鬼殺隊ってのは化け物しか居ないのかしら?』

 

 そんな逃亡者たちを、地表より遥か高空……成層圏から、ソリテールとアウラが見下ろしていた。突っ込みたくてウズウズしていたユンを嗾けた後、文字通り高みの見物をしていたのである。二人は臆病者だからね、しょうがないね。

 

『……化け物同士で、お似合いなんじゃない?』

『だけど、何時までこうしているつもりなの?』

役者と舞台が(・・・・・・)揃うまでよ(・・・・・)本命がまだ(・・・・・)居ないわ(・・・・)

 

 そう(・・)折角罠に(・・・・)掛かって(・・・・)あげたのだ(・・・・・)狩人が来る(・・・・・)のを待とう(・・・・・)その為に(・・・・)来たのだから(・・・・・・)

 

『それまでは、存分にお友達と遊びなさいな、ユンちゃん♪』

 

 ソリテールは嗤う。これから訪れるであろう、甘く激しい夜を夢見て。




◆飛行魔法

 魔族であれば誰でも使える基本魔法。人間で言えば歩く事と同じであり、それ故に人類は常に制空権を握られた状態で戦いを強いられて来たが、長い時間を掛けて人類側も遂に飛行魔法をある程度解析し、魔法使い限定ではあるが、同じ土俵に立つ事が出来るようになった。
 今作では魔族であるソリテール及び真祖吸血鬼のアウラ、その血を継いだユンが使用可能。鬼や鬼殺隊は基本的には使えない。
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