鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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それはこの世の理。


日は沈み、月が昇る

 ――――――ギュィイイイインッ!

 

 

『あははははははっ!』

 

 地表スレスレを、凄まじい速度で飛び抜けるユン。八つ手のような背中の翼は、皮膜や羽毛の類こそ無いものの、代わりに各翼端部に開いている穴から猛烈な勢いで氣を噴き出し、自らを撃ち出すように飛んでいる。これを遥か未来の現代日本人に見せれば、おそらく「生きた戦闘機」か「可変式モビルスーツ」と言うに違いない。飛行魔法も併用する事で安定性もバッチリ。

 だが、これ程のエネルギーと空気を、一体どうやって得ているのだろう。その答えは、ユンの体内器官にある。ユンは強靭かつ魔法的な「気嚢」を備えているのだ。

 気嚢とは、本来は恐竜や鳥類が有する体内器官で、肺の前後に配されていて、空気の流れを一方向化し効率良く運ぶ役割がある。動きとしては、空気を肺と後気嚢で吸い込み、古い空気は前気嚢へ送って、最終的に肺と協力して体外へ送り出す、という形になる。複数のポンプを直列に並べているような物であり、ポンプが二つしかない横隔膜の呼吸よりも酸素の吸収効率が優秀である。

 ユンの場合、戦闘状態の時に限るが、空気の出口が背中の翼に繋がっている。

 つまり(・・・)吸った息をジェット(・・・・・・・・・)の勢いで吐き出し(・・・・・・・・)ているのだ(・・・・・)

 もちろん、そんな事をすれば呼吸器があっさりと燃上する所だが、そこは【万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)】の成せる業だろう。燃える事も破壊する事も叶わない、最強の魔法物質を活かした飛行システムである。こんな物を思い付いたソリテールの頭は、一体どうなってしまっているのか。それはたぶん、彼女自身にも分からない。

 

「【日の呼吸・玖ノ型 輝輝恩光(ききおんこう)】!」

 

 しかし、そのユンの突貫を目視して切り結ぶ、継国(つぎくに) 縁壱(よりいち)こそが一番意味不明な存在であろう。玖ノ型は己を激しい渦と見立て、突き進む技。言ってしまえば、戦闘機に錐揉みシュートで体当たりをかましているような物なのだが、彼は何故無事なのか。

 

『次はどうですかぁっ!?』

「【日の呼吸・伍ノ型 陽華突(ようかとつ)】!」

 

 しかも、空中でUターンして地表へ着弾して来たユンを、あえて伍ノ型で突きを繰り出す事により、傾斜装甲の理論により受け流しつつ、追加の衝撃波から身を守ってみせる。

 違う、そういう事じゃない。受け流し方ではなく、耐久力の話をしているのだ。

 まぁ、そもそも少し変わった特性を持つだけの日本刀で迎撃している時点で、考えるだけ無駄なのかも……。

 

『凄い凄い! 流石は僕の縁壱です!』

 

 ただ、相手(ユン)もまた常識の外側に居る存在。戦闘機ならとっくにバラバラになっているであろう衝撃でも自壊する事無く、左右の鈎爪、翼角による叩き付け、

 

「……っ、【日の呼吸・漆ノ型 斜陽転身(しゃようてんしん)】!」

 

 そして(・・・)槍状に骨格を(・・・・・・)組み替えた(・・・・・)翼の牙突(・・・・)漆ノ型で(・・・・)側転しながら(・・・・・・)刃で着地し(・・・・・)なければ(・・・・)串刺し処か(・・・・・)ミンチになって(・・・・・・・)いただろう(・・・・・)

 ちなみに、巌勝(みちかつ)であれば、今頃は血煙と化している。お労しや、兄上。

 

『【人を殺す魔法(ゾルトラーク)】』

 

 だが、この魔王ユン、容赦しない。鈎爪を地面に突き立て、両翼を手前で合わせるように構え、それぞれの翼端に超高出力の【人を殺す魔法】を形成、それらを一点集中させた極太のビームとして発射。伊予国(いよのくに)三島(みしま)を蹂躙し、海を割り、沖合の股島を吹き飛ばした。

 

『もう一発!』

 

 さらに、軸線上を振り上げるように蹂躙した後、今度は叩き付けるようにもう一発。平石山を三日月状に抉り取る。名山が一つ、この世から消えた。まさに破壊の権化。悪しき赫耀の死兆星である。

 

「――――――【日の呼吸・拾壱ノ型 幻日虹(げんにちこう)】!」

『わぁお♪』

 

 しかし、縁壱はしっかりと回避していた。ズル過ぎるだろ、幻日虹(げんにちこう)。熱量から言って、ちょっと身体を捻って躱した程度では間違い無く蒸発している筈だが、どうしてそうなった?

 

「フゥゥゥ……!」

『おやおや、息が上がってますよ!? 流石に限界ですかぁ!?』

 

 だが、やはり勝ち目は無い。何せ縁壱の攻撃では掠り傷しか入れられないのに、ユンの攻撃は全てが一撃滅殺。その上、呼吸器官の違いによる体力差が顕著だ。このままでは反撃処か、削り殺されるだけである。

 不条理、理不尽、無慈悲。ユンの奏でる絶望の音色は、確実に縁壱を追い詰めていた。彼が巌勝であれば、もっと楽に死ねたであろうに……。

 

『もっと遊んでいたい所ですが、すっかり日も暮れましたし、そろそろ終わりにしましょうか!』

 

 すると、ユンが最終通告をしつつ天高く上昇し、電離層にて反転、唯一つの隕石となって落ちて来る。オゾンより上でも問題無かった。

 

「【日の呼吸・参ノ型 烈日紅鏡(れつじつこうきょう)】」

 

 しかし、縁壱は退かず、媚びず、省みない。直撃しようが避けようが、山一つが湖に変わる程の威力を持つ隕石攻撃(メテオ・ストライク)を、あろう事か受けて立つつもりのようだ。参ノ型は迎撃技だが、そういう事じゃない。

 

『【天魔開焉星(デェア・フェアファル)】!』

 

 

 ――――――ィィィイイン……ッ!

 

 

 そして、ユンが着弾する。赫い閃光が全てを飲み込み、大分後になってから音が響く。光が晴れれば、そこには最早「穴」と言っても良い程に抉れてしまった龍王山に、

 

「くっ……!」

 

 それでも原型を留めている縁壱。上着が吹き飛び、全身から煙を上げているが、まだ生きている。おそらく、接触する瞬間、横から刀で切り払う事で軌道を逸らしたのだろう。こいつ、生物じゃねぇ。

 だが、流石に限界である。縁壱は遂に膝を着いてしまった。

 

『いやぁ、本当に頑丈ですね! でもでも、そろそろ諦めましょう? 僕、もっと縁壱と「お話」したいなぁ~♪』

 

 そんな縁壱に迫る、疲れ知らずのユン。まだまだ余裕がありそうだ。どう足掻いても絶望でしかない。

 

『――――――それは、私を斃してからにするんだな』

『おやおや?』

 

 と、縁壱とユンの間に割り込む人影が。

 

「兄上……!」

『貴様を超えるのは、この私でなければならない。故に無様を晒すことは許さん。特に目の前の(・・・・・・)無様な有様(・・・・・)の男にはな(・・・・・)

 

 現れたるは、黒死牟。今や人間を辞めて鬼と化した、巌勝であった。

 

(そうか、もう夜になってしまったのか……)

 

 そう、時刻は既に戌一つ時。ここからは百鬼夜行の時間である。

 

『立て、縁壱。その程度で終わる貴様では無かろう』

「そうですね。私は化け物ですから……」

『わぁ、凄い凄い! 兄弟揃って剣を構えるなんて、まるでかの黄金を万物に変える真祖との戦いみたいですねぇ! 僕にとっては御伽噺でしかなかったそれを再現してくれるなんて、やっぱり縁壱は僕の心友です!』

 

 さぁ、神々の黄昏と洒落込もうか。




◆悪しき赫耀の死兆星

 ユンの戦闘形態。何時ものユンにバルファルクの翼と尻尾をくっ付けた、一見シュールにも思える姿をしているが、その実力は本物……というか天災その物であり、ジェットの勢いで轢殺し、変幻自在の翼で八つ裂きにして、破壊光線をぶっ放してくる、とんでもない形態である。仕組みとしては気嚢で吸い込んだ空気を肺で魔力に変換し、それを「氣」という形で噴出している。つまり、霞を食って神通力を発揮する仙人みたいな奴が、ユンなのだ。
 それを迎撃しているそこの縁壱、お前は人間じゃねぇ。
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