鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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【血鬼術:「無間地獄」】推奨BGM=【閃烈なる蒼光】


勝つのは誰だ

『何なんだ、あれは……!』

 

 狼の遠吠えのような咆哮を上げ、変容した鳴女を見て、黒死牟が唖然とする。無理もない。今の彼女は、おおよそ人間とは掛け離れた姿をしているのだから。

 全身が青白いプラズマ光を放つ無機質な皮膚に覆われており、顔面には蒼く輝く目が一つのみで、口も鼻も無い。琵琶を取り込みほぼ頭皮と一体化している髪の毛は、その実無数の小さな腕が蠢き、天使の翼が如く双方向に広がる。

 その上、今までは無かった二本の角が生えていて、尚且つ途中から蛾の触角を思わせる柔らかい物に変わっていた。実際その役割があるのか、単に落ち着きが無いだけなのか、髪腕共々ユラユラと揺らいでいる。

 何と言うか、頭の形にさえ目を瞑れば人型なのだが、その雰囲気は何処まで行っても“地球外生命体(うちゅうじん)”であった。

 余談だが、変身の際に衣服は全て吹き飛んでいる。獣らしく裸一貫、という事だろうか。何れにしろ、目の前に居るこの女が、世の理の埒外に仁王立ちしている事は間違いない。

 

『(何も見えん……)』

 

 何せ黒死牟の「透き通る世界」で内部を全く見通せないのだから。

 この「透き通る世界」は「無我の境地」や「明鏡止水」のような物であり、脳内からあらゆる雑念を削ぎ落す事で己の存在感を消し去り、自然体のまま敵を殺すばかりか、その絶大な集中力によって相手の肉体構造すら感知し、脳内で映像化する事も可能な、謂わば「心の眼」だ。殺気や闘気に反応する事しか出来ない“唯の強い奴”では対処不可能な領域で、より高次元な戦いの場への入口とも言える。神話級の戦いとは(・・・・・・・・)そういう物である(・・・・・・・・)

 しかし、そんな目を六つも持つ黒死牟でも、鳴女の肉体構造がまるで見通せない。おそらくは縁壱もそうなのだろう。事実、彼の額にも一筋の冷や汗が流れている。

 考えられる要因は、肉体が完全に(・・・・・・)合一の物質で(・・・・・・)構成されているか(・・・・・・・・)、あるいは――――――、

 

「(内包する力が(・・・・・・)強過ぎて目が(・・・・・・)眩んでいるか(・・・・・・))」

 

 そうとしか考えられない。鳴女は今、周囲の命を燃料に天文学的(意味不明)なエネルギーを有している。目の前で閃光弾(スタングレネード)を喰らい続けているようなもの。眩い光は目を潰し、時には焼き切る。鳴女を相手に「透き通る世界」は逆効果でしかない。

 つまり(・・・)ここからは(・・・・・)自分の直視と直感(・・・・・・・・)のみが頼りの(・・・・・・)完全なる野生の戦い(・・・・・・・・・)という訳だ(・・・・・)

 

「兄上」

『分かっている』

 

 以心伝心とは、まさにこの事か。継国兄弟はたった一つの受け答えで、これから始まる闘争の本質を見極められたようである。

 だが、野生とは何が起こるか分からないもの。

 

『――――――キィィィイイッ!』

 

 最初に仕掛けたのは、さっきまで情けなく泣いていた筈のユン。涙は既に無く、代わりに怒りで顔がクシャクシャになっている。子供らしく癇癪を起したのであろう。

 

『グヴゥゥ……ヴォアアアッ!』

 

 対する鳴女は、避ける処か真正面から受け止め、威力を殺し切った所で乱暴に投げ飛ばした。

 

『キァアアアアッ!』

『ヴァォゥッ! グワヴォゥッ!』

 

 さらに、蒼い稲妻が迸る拳にて、ユンの翼角による殴打の反撃を打ち返し、

 

『ギャヴォオオッ!』

『ギィィィ……ッ!』

 

 がら空きになったユンの胴体を、鋭い爪で切り上げた。その威力は凄まじく、咄嗟に張った「魔力の盾」を粉々に砕いた上に骨まで抉り、余波が雷撃となって地走る程。違う漫画なら「風の傷!」とでも叫ぶ所だ。

 

『キキィアアアッ!』

『ヴォァアアアッ!?』

 

 しかし、ユンもやられっ放しではなく、胸を抉られた直後に翼を前に構え、鳴女を両脇から挟み込むように【人を殺す魔法(ゾルトラーク)】の零距離射撃をお見舞いする。これによりユンは反動で距離を取る事に成功し、体勢を立て直す事が出来たのだが、

 

『ハァアアアアッ!』

 

 鳴女は両腕で受け止めた【人を殺す魔法】を、力尽くで振り払ってしまった。

 

『【月の呼吸・拾参ノ型 下剋上刀(げこくじょうとう)死魄月牙(しはくげつが)】!』

『【天照日の呼吸・拾弐ノ型 煉獄炎舞(れんごくえんぶ)】!』

 

 そこへ黒死牟と縁壱の合わせ技が飛来。轟く月を翼にした飛竜(ワイバーン)のような灼熱の斬撃が、悪鬼羅刹を襲う。

 

『フゥゥヴァアアッ!』

「『………………!』」

 

 だが、鳴女はそれを片手で薙ぎ払い、打ち砕いた。「死魄月牙」も「煉獄炎舞」も山を割り粉砕する威力を持っているのだが、事もあろうにそれを力任せに打ち払うとは。確かに鳴女は最強の鬼である。それこそ、無惨など目じゃ無いくらいに。彼が暴君なら、彼女は暴君竜と言った所か。そんな奴が無限城という檻まで持っているのだから、堪った物ではない。

 

 

 ――――――ダダギキィィンッ!

 

 

 最早、決闘と言うより乱戦の様を呈して来たが、そこへ新たな横槍が上空より齎される。魔法大剣の群と、魔力で凝り固まった血の散弾。縁壱と黒死牟は神業の体捌きで回避、ユンは単純に翼で防ぎ、鳴女は普通に殴り砕いた。

 

『ウフフフ、本当に待ちくたびれたわよ、本命さん(・・・・)♪』

『チッ、この中で一番か弱いのって私じゃない……!』

 

 そして、狙撃手であろう二つの影が、地表に姿を現す。一人は延棒サイズの黄金の筒を手に自らを乱暴に着弾させ、一人は黄金の拳銃を両手に携え優雅に降り立った。

 

『貴様らは……!』

「こ奴らが……!」

『ソリテール様にアウラ様! 来てくれたんですね!』

『グルルル……ゥフハハハハハハッ!』

 

 乱入者二人――――――ソリテールとアウラに対する反応は、四者四様。黒死牟は苦虫を噛み潰したように、縁壱は恨み骨髄に、ユンはパァッと明るくなって、鳴女は一つ目なのに分かるくらい獰猛に笑う。

 

『ウフッ♪』

 

 しかし、ソリテールは相変わらずの一人遊びで、黄金の筒に莫大な魔力を込めたかと思うと、【魔弾の射手となる魔法(ディア・フライシュシュッツ)】と同じ魔力結晶の刃を両端に形成、双刃の魔法剣に変えた。

 

 

 ――――――PIPHOPAPOPOPOPO……!

 

 

鳴女(あなた)とは、言葉じゃなくて暴力(こっち)で「お話」しましょうか♪ ……【(かげ)の呼吸】……技名は、無いわ』

 

 さらに、電子音にも似た不思議な呼吸により、全身に線状の紋様が翠玉の痣となって浮かび上がる。同時に筋肉が盛り上がり、小柄ながらも逞しい肉体となった。ソリテールは研究の片手間に、独自の「全集中の呼吸」を編み出したようだ。

 

 

 ――――――ゴロゴロゴロ……ピシャアアアンッ!

 

 

『私だってまだ(・・)無いわよ。……【(いなずま)の呼吸】』

 

 しかも、それを教え込んでいたのか、アウラも落雷を思わせる呼吸で己を強化した。全身の至る所に虎柄とも雷とも取れる痣が浮かび、左額と右頬には曼殊沙華(ヒガンバナ)の紋様が発現する。自分はあくまで獅子身中の虫だと主張するかのように。青い電撃を纏い黄金銃を構える様は、まさに「(いなずま)の反逆者」である。

 かくして(・・・・)ソリテールが(・・・・・・)想定していた(・・・・・・)役者が舞台に出揃った(・・・・・・・・・・)。理由はもちろん、敵陣営の最高戦力を根こそぎ壊滅させる為。

 

『ヴヴォァアアアッ!』

 

 そして、真っ先に鳴女が動き出した事で、大乱戦のGONGが掻き鳴らされた。




◆陽の呼吸

 縁壱や巌勝との戦いで興味を持ったソリテールが開発した、独自の「全集中の呼吸」。人間が扱う物とは仕様が若干異なり、酸素の吸収効率ではなく魔力の循環率を上げる事で、爆発的な戦闘能力を得る。イメージとしてはチャクラや氣のコントロールに近い。
 あと、発動時の見た目は、何処かの上弦の参とそっくりである。
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