鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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壺の値段なんぞ分らん。


芸術的な収斂進化

 私、ソリテール。今、辺境の漁村に居るの。

 

『君は素敵な物を作るんだねぇ~。才能だよ、これは』

「いやいや、ソリテール氏こそ、この短期間で大和言葉を使い熟すとは、勉学熱心ですな!」

 

 そして、目の前に居る紫髪の彼は、この漁村で知り合ったお友達。名前は確か――――――「益魚儀(まなぎ)」だったかしら。

 ともかく、彼はここに訪れた時、最初に出会った人物で、一緒に色々と「お話」をさせて貰ったわ。丁度“作品作り”の最中だったから、こっちもノリノリで手伝っちゃった。その傑作が彼と私の間に飾られてるんだけど、何て言うべきかしら……まるで「深海から来た怪物」みたい。名付けて「半魚獣(フィッシャービースト)」って感じ。星六つだわ。材料になった(・・・・・・)あの子(・・・)も、きっと本望だと思うの。

 

『また明日来るわ。お土産を持ってね~』

「はっはっはっ、期待しておりますぞ~」

 

 一先ず益魚儀の家を後にして、拠点へと向かう。断崖絶壁にポッカリと開いた洞窟の奥にある、元は海賊が使っていたであろう隠れ家を利用させて貰ってるの。位置が位置だから小型の漁船でもないと入れないし、そもそも村民が入る用事がない。潮流の関係で水死体が流れ着く事で有名だからね。好き好んでこんな忌み地に来る人間は早々居ないわ。だから安心安全なの。人に見付からないという意味で。

 

『私も負けてられないわね~』

 

 彼の手掛けた作品を思い浮かべつつ、私も創作活動に勤しむ。今朝方、新鮮な女の子が流れて来たのよ。素っ裸で青痣だらけなのを見るに、たぶん男に捨てられたんでしょうね。これも「愛」の形なのかしら?

 とりあえず、この綺麗な黒髪を一本一本抜き取って、襟巻(マフラー)を作りましょうか。お肉は頂くとして、骨は食器にでもしようかしら。こうして物作りをしていると、心が整うわね。

 

「ぎぇえええええっ!?」

 

 すると、漁村の方から聞き覚えのある男の声が。大方、今までの所業が村人にバレて報復でもされてるんでしょ。散々殺してるもんねぇ、彼。私も人の事は言えないのだけれど。

 

『汚ねぇ声だな。これなら、さっき喰った村人の方がまだマシだぜ』

『……おやおや?』

 

 今度は聞き慣れない声が。これは何処の誰さんなのかしらね。声色と気配からして、ムザンと同じ「鬼」だと思う。凄く三下っぽいけど。

 まぁ、色々と「お話」に付き合ってくれたお礼も兼ねて、顔を出しておきますかね。

 

『見れば見る程、私たち魔族みたいよねぇ』

 

 そうして出戻った益魚儀の家に居たのは、絵に描いたような小物の鬼だったわ。きっと生まれて間もない若造なのでしょう。死臭も殆どしないし、何より雰囲気がねぇ。圧が足りないわ、圧が。

 それでも私たち魔族にそっくりなのは変わらない。これも「収斂進化」という物なのかしら、魔王様?

 

『ん? 何だお前は? 見掛けねぇ顔と髪色だが……渡来人か何かか?』

『そうとも言えるし、違うとも言えるわ』

『訳分かんねぇ事言ってんじゃねぇぞ!』

『それより、さかなクンは何処かしら?』

「益魚儀ですぞ! ……あひぃん♪」

『あら、こんな所に居たのね』

 

 自分の足元を見遣れば、まな板の上の鯉みたいに喘ぐ益魚儀の姿が。

 どうやら、村人に腹を銛で串刺しにされ、放置されてた所を、夜這いして来た鬼に両腕を食い千切られた末に、汚い悲鳴を聞かせたせいで入口に転がされてたのね。踏んでも声がするまで気付かなかったわ。

 それはそれとして、

 

『あなたも彼と「お話」したの?』

『はぁ? する訳無いだろ。何で食い物の鳴き声を真面に聞いてやらなきゃいかんのだ』

『なるほど、身も心も「鬼」という訳ね。益々興味深いわ~♪』

 

 本当に魔族そっくり。この鬼(かれ)とはじっくりと「お話」しなくちゃ♪

 その為にも、

 

『先ずは、ちょっとお灸を据えましょうか。私のお友達を鯉の王様にした罰としてね』

「そこ傍となく馬鹿にされている気がする!」

 

 はねる事しか出来ない雑魚モンスターは黙ってなさい。

 

『ふざけ――――――がはぁっ!?』

『う~ん、やっぱり弱いわぁ~。これぞ雑魚って感じね』

 

 もちろん、結果は圧勝。だってフィジカル任せの暴力しか振るえないんだもの。その暴力も欠伸が出る程遅く、蚊が止まったくらいに弱いとあっては、勝負にすらならないわね。単なる蹂躙よ、こんなの。

 という事で剣と魔法による「雑魚鬼の活け造り」の完成よ~♪

 

『へぇ、切り離すと塵に還るのね』

『うぐっ、くぅ……!』

『しかも、心臓を貫いたくらいじゃ死なない。生命力は私たち以上ね。頭だけなのに、少しずつ元に戻ろうとしてるし。なら、頭を潰せば死ぬのかしら?』

『や、止め――――――ぐげっ!?』

『そう言って命乞いをした人間を、一体何人殺したの? 私は数え切れないわ♪ だって、沢山「お話」したんだもの♪ さぁさぁ、もっともっと私と「お話」しましょ? 夜は長いんだから♪』

『ヒィ……!』

 

 あらあら、追い詰められると命が惜しいのは「鬼」も同じなのね。まるで捨てられた子犬みたいで可愛いわ♪

 

「あの~、ソリテール氏。私も死にそうなんですが?」

『大丈夫よ、あなたは死なないわ。私が食べるもの♪』

「はぁ!? な、何故ゆえに!?」

『だって、両腕を失った芸術家に未来はないでしょ? 安心して、苦しまないように殺してあげるから。私の血となり肉となって、共に生きましょ?』

「――――――い、嫌だぁ! 絶対に死にたくない! この世の全てを犠牲にしてでも、私だけが生き残って然るべきなんだぁ!」

『凄~い♪ ここまで生き意地汚い人間、久々に見たわ~♪ だけど、その自分勝手さ、嫌いじゃないわよ♪』

 

 やっぱり俗人はこうあるべきよね~♪

 

『まぁ、さかなクンは捨て置いて、「お話」の続きを――――――』

 

 と、その時。

 

『こんな所に隠れ潜んでいるとは。浅ましいな』

『お邪魔しま~す』

『ムザン、ナキメ……』

 

 何とビックリ。突然ムザンとナキメが現れた。おそらく、あの襖を召喚する能力で転移して来たのでしょうけど、どうしてここが分かったのかしら?

 

『そうか、雑魚鬼の視界を――――――』

 

 対象の五感をも支配する魔法があったくらいだし、「鬼」の統率者なら配下の視界をジャックするぐらい簡単な事なのかも。射程が不明なナキメの能力も併せて、ちょっとズル過ぎるんじゃない?

 

『陽光を克服した鬼よ、光栄に思うが良い。我が糧と成り、究極生命体へ至る為の礎となれ』

『ようするに日陰者は嫌だから、日焼け止めの材料になってよ、という事です』

『おい、言い方。それじゃあ、まるで私が穀潰しみたいだろ』

『えっ、違うんですか?』

『本当に大概にしろよ、貴様』

 

 ま~た夫婦漫才してる。腹立つわ~。

 しかし、私が絶体絶命なのも事実。だから、ちょっとしたアイテムを使う事にするわ。拠点に隠してあった財宝の一つに不思議な鉱石があったんだけど、何故かは知らないけれども、魔力を沢山込めると滅茶苦茶に光るの。石に「富竹」と刻まれてたから、【富竹フラッシュ】とでも名付けようかしら。

 

『えいっ』

『『うぉっ、眩しっ!?』』『ぎゃああああ!?』

 

 眩い閃光が益魚儀の家を満たし、私はその隙に海へ逃亡する。雑魚鬼が蒸発した事を鑑みるに、どうやら太陽光と同じ性質があるみたいね。

 とにかく、さよなら、もう会わない日まで~♪

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 一方、ソリテールをまんまと取り逃がした無惨と鳴女はと言うと、

 

『おい、貴様! よくも私を盾に使いやがったな!?』

『だって、私は無惨様と違い、真面に浴びたら即死しちゃうんですから、仕方ないでしょう?』

『言っておくが、私が死ねばお前も死ぬんだぞ?』

『ダイジョウブ、ムザンサマ、シナナイ、ゼッタイ』

『こっち向いて言えコラ』

「あ、あの~、どなたかは存じませんが、助けて頂けないですか?」

『……何だお前、生きたいのか?』

「めっちゃ生きたいです!」

『良かろう。お前がついでに作った壺は、高く売れそうだからな』

『金策目当てとは浅ましいですね』

『喧しいぞ阿婆擦れが』

『いや、私処女ですけど?』

『えっ、嘘。全くそうは見えないんだけど?』

『貫禄って奴ですかね』

『腹立つわ~』

「は、早くお助けを~」

 

 今日も彼らは平和だった。




◆鬼舞辻 無惨

 ご存じ「鬼」の始祖たる男。元は死に掛けの病弱な貴族の嫡男だったが、ヤバい闇医者の純然たる善意により鬼と化し、それ以来、陽光すら克服する究極生命体を目指すようになった。たぶん、終わらない闘病生活の反動。
 圧倒的な力で「鬼」を支配しているものの、カリスマ性があるかと言われるとかなり怪しく、共感性の無さと傲慢な性格が災いして失敗する事も多い。完全なる恐怖支配である。
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