そんな伝説の地の夜空を切り裂き、二つの箒星が流れて行く。
『友達だと思っていたのに! 酷過ぎますよ、縁壱! 絶対に許しませんからねぇ!』
「……許しなど、元より要らん。お前を斬るのが、私なりのけじめなのだ、
もちろん、正体はユンと縁壱である。ジェットエンジン染みた翼を持っているユンはまだしも、人間である縁壱が当たり前のように空を駆けているのは意味不明が過ぎるが、今更なので割愛しよう。ここに人間など居ない。
ちなみに、ユンは全員を弾き飛ばす前に傷を塞いだ上に、ちゃっかり自分の腕を拾って繋げており、五体満足の状態である。それは縁壱も同じだが……。
『キァアアアアッ!』
と、早速ユンが体当たりをかまして来る。普通の戦闘機では有り得ない、音速超えの状態で直角に方向転換したユンの攻撃は、あっさりと縁壱を捉えた。
「【天照日の呼吸・拾壱ノ型
……かに思われたが、それは単なる幻であり、それ処か無数の分身を生み出して、ユンの行く手を阻んだ。
「【天照日の呼吸・伍ノ型
さらに、分身全員が炎虎が飛び掛かるような突きを一斉に放つという、対空防御ならぬ対空攻撃としか言い様のない、縁壱の理不尽な暴力がユンを襲う。
『【
しかし、ユンも伊達に魔王をやってない。翼を大きく広げると、無数の【
むろん、撃ち漏らした分身も出て来るし、流れ弾が地表を焼き払うが、どちらもそれを気にしている余裕など欠片も無かった。何せ縺れ合った二人は、隕石の如き勢いで不時着したからだ。多くの民家が吹き飛び、村人の大半が蒸するも、何故か志度寺だけ無事なのは、どういう因果の巡り合わせか。後にここへ訪れる者は、おそらく「忌み地」と呼ぶ事であろう。
『キァアアアアッ!』
そんな忌み地具合など気にも留めず、ユンは翼を槍に変形させて、今まで以上の速さで突きを繰り出す。一撃、弐撃、次いでグルリと旋回して、最後に爆発を伴うアッパーを繰り出す。
「……やはり戦闘慣れはしていないようだな! 【天照日の呼吸・肆ノ型
だが、縁壱はそれらの全てを回避して、ユンの右翼の一部を叩き落した。
『……痛いぃぃぃっ! 痛いよぉぉおおおっ! 何でこんな事するんですかぁ! また僕を見捨てるんですか、縁壱ぃいいいっ!』
その瞬間、ユンがまた大泣きしながら引っ繰り返る。翼が斬り落とされたまま再生せず、痛がっている辺り、黄金の骨格は破損すると接着するしか治す方法が無いのかもしれない。
「……っ、犀月樹……!」
『――――――あははははははは!』
「ぐぅっ!?」
『これにて絶交ですよ、縁壱ぃいいいっ!』
ユンは鈎爪を神槍の如く伸ばす不意打ちで縁壱を後退させ、その隙に体勢を立て直しつつ、翼を拾って再生させ、更なる攻撃を仕掛けんとする。
――――――ァァヴヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアッ!
大気を赫々と染め上げ、絶対的な殺意と破壊力を込めた翼が、狂戦士の雄叫びを思わせる音を轟かせた。
『死ねぇええええええっ!』
そして、遂に翼が振るわれ、志度という村が日本地図から消滅する。自らも振り回してしまう程の旋回撃は、文字通り全てを灰燼に帰した。
「――――――【天照日の呼吸・漆ノ型
『がはっ!?』
しかし、縁壱を仕留める事は出来なかった。「幻日蛟竜」で周囲の衝撃と熱波を全て切払い、翼本体の攻撃を「斜陽転生」で躱しながら反撃したのである。やっぱりこいつ、人間じゃないわ。
『このぉおおおっ!』
「くっ……!」
だが、縁壱もまた仕留め損ねた。ユンの心臓ごと袈裟に斬ったつもりだったが、踏み込みが甘かったか、それとも心の甘さか。それは最早、縁壱にも分からない。
分かっている事は、この哀しき殺し合いがまだまだ終わらないという、虚しい現実であった……。
◆命乞い
“人の言葉と姿で欺き食らう魔物”たる魔族が使う常套手段。その言葉に人間らしい感情は一つも乗っておらず、油断を誘う手段でしかなく、場合によっては逆転の一手にも繋がる、「魔法のような言葉」である。
もちろん、魔族をしっかり理解している人間には通用しないが、それでも“魔族を言葉の通じる人間の亜種”だと誤解する一般人の被害が後を絶たない。
言葉が通じたとしても、話が通じる保証は何処にも無いというのに……。