鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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努力が報われるとは限らない。


日神月吼の歩み

「『………………』」

 

 先ず動いたのは黒死牟。次いで縁壱が合流し、彼に追従する。

 もちろん、唯兄弟仲良く逃避行を演じようとしている訳では無い。ソリテール一派を囮とする所までは同じだが、黒死牟は純粋に鳴女と合流する為、縁壱は兄との最後の決着を付ける為に、行動を共にしている。たった一人の英雄で切り抜けられるような局面ではないからだ。

 

『あらあら、何処へ行こうというのかしら?』

『チィッ!』「やはり来たか……」

 

 しかし、二人の行く手を阻むは、【陽の呼吸】を使う大魔族ソリテール。大分消耗こそしているが、それは継国兄弟も同じ事。その上、相手は再び双刃魔法剣を起動している。剣術というよりも棒術に近い使い方が適したそれであれば、天照日(たいよう)と月の猛攻にも対抗出来よう。

 

『グヴァヴヴヴゥゥゥ……!』

『行かせませんよ!』『冗談じゃないわよ、本当に!』

 

 そして、鳴女の行く手を阻むは、アウラとユン。一見、鳴女の方が圧倒的不利に思えるが、彼女の馬鹿力は意味不明なので、アウラとユンの火力を以てしても食い止められるのか若干怪しい。

 

 

 ――――――ドドンッ! ズドドンッ!

 

 ――――――ズダダダダダダダダダッ!

 

 

 さらに、空と海から絶え間なく降り注ぐ砲弾や機銃の雨あられ。化け鯨は沖合からあまり動いていないが、不知火はとっくに四国上空に到達しているので、ミサイルから機銃(口から発射される高温・高圧の消化液)に切り替えたようである。実に邪魔臭いが、隙を突いて流れ弾に当てられれば、盤面は一気に有利となる。

 ようするに、ここからは壮絶な足の引っ張り合いという訳だ。

 

『ハァッ!』「フゥンッ!」

『型を繰り出す余裕も無いようね!』

 

 集中砲火の合間を縫って、継国兄弟とソリテールが剣戟を結ぶ。消耗しているが故に型に嵌まらない攻撃ばかりだが、それでもお互いの頸を掻き切るつもりで仕掛けている。黒死牟が袈裟に斬り掛かれば、ソリテールは後ろも見ずに刃で受け止め弾き、もう片方の刃で縁壱の胴薙ぎを受け流して、彼の腕に蹴りを入れつつ距離を取る。

 

『このっ……!』

『【破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)】』

『ぐぉっ!?』

 

 そして、追撃を仕掛ける黒死牟に【破滅の雷を放つ魔法】を叩き込み、

 

「兄上!」

『【魔弾の射手となる魔法(ディア・フライシュシュッツ)】』

「ぐっ!」

 

 体勢を立て直して加勢しようとした縁壱へ【魔弾の射手となる魔法】を放つ。それらの威力は消耗してい尚凄まじく、黒死牟を壁にめり込ませ、縁壱の日輪刀を叩き壊した。

 

『死になさい!』

『縁壱!』「感謝します!」

『チッ!』

 

 だが、ソリテールが魔法剣で一突きにしようとした時、黒死牟が己の刀を投げ渡した事で、縁壱は九死に一生を得た。黒死牟の刀も、元はソリテールに折り砕かれた彼自身の日輪刀だった物。血鬼術を用いた変幻自在の枝刃刀とは行かないが、ただ一本の大剣としての運用なら、縁壱にも可能である。黒死牟の方も、懐に隠し持っていた不格好な木笛を、漆黒に光る刃を持つ刀に変え、再度ソリテールに挑み掛る。

 

『せぁあああっ!』「てぁあああっ!」

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄っ!』

 

 黒死牟の切り上げが払われ、縁壱の突きが空を切り、ソリテールの踵が縁壱の顎を跳ね上げ、黒死牟の一閃を魔法剣で受け流しつつ彼の顔面を殴り飛ばし、追撃の零距離【人を殺す魔法(ゾルトラーク)】を縁壱が投げた大剣が防ぎ、その隙に黒死牟が空中で数回ソリテールに蹴りを入れて、大剣を拾って縁壱に投げ返し、二人で一気に襲い掛かる。

 

『ドラァッ!』

『ぐぉっ!?』「おのれっ!」

 

 しかし、ソリテールは逃げる処かムーンサルトで回避と同時に背後へ回り込み、黒死牟をタックルで吹き飛ばし、縁壱の大剣を【魔力の盾】が張られた肩を支えに魔法剣で受け止め、反撃の裏拳を叩き込んだ。

 

『フンッ!』

「ぐあっ!」『縁壱!』

 

 さらに、縁壱が態勢を立て直す前に【破滅の雷を放つ魔法】を食らわせ、まるで電磁石のように引っ張り宙へ放り投げて、飛んで来た化け鯨の砲弾にブチ当てた。

 

『貴様!』

『人の心配してる場合かしら!?』

『ぐがががっ!?』

 

 次いで黒死牟の足を鷲掴み、不知火の機銃攻撃の盾代わりに使う。縁壱も黒死牟もまだ死んでこそいないが、手痛いダメージを負ってしまった。

 

『まだまだこんな物じゃ無いわよぉ?』

 

 そんな二人の有様を見て、ソリテールが凄惨な笑みを浮かべる。体力が同程度まで消耗してしまうと、飛び道具を使い慣れている上に格闘戦も得意としている、彼女の方が有利なようである。

 

『小賢しいわぁっ!』「まだ心の刃は折れていない!」

『そういう臭い台詞、もう聞き飽きているのよ! 「お話」もロクに出来ない野蛮人(ワイルズ)が!』

 

 面、胴、袈裟、脚、頬、腹、腰、背中、顎。剣が、刀が、刃が、拳が、蹴りが、肘が、肩が。頭から爪先まで、ありとあらゆる部位を使い、幾多の急所に死の一撃が放たれ、紙一重で受け流し、躱しつつ、少しずつダメージを蓄積していく。お互いの命を奪い合う、死力を尽くした戦いは終わらない。血が流れ、肉が弾け、骨が露出しようと、止まってやる筋合いは無いし、負けるつもりも無いのだ。

 相手が死ぬまで、殺すのを止めるな!




◆化け鯨

 隠岐国や出雲国の近海に出現する、鯨の怨霊。かつて狩られた鯨たちの骨が寄り集まり、一匹の海獣となって現れ、見た者に呪いを振り撒くという。
 その正体は「鯨骨生物群集(げいこつせいぶつぐんしゅう)」がそのまま一つの生命体となった存在。ベースはグソクムシの仲間だが、コシオリエビやホネクイハナムシなどと共生し、化学合成細菌を燃料とした、「全にして個」を体現する群体である。
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