鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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血でも飲んで行き~や。


無限の束の間

 鏡の中でも無ければ夢幻でもない、無限城の一画。

 

『ヒィ……ヒィ……フゥゥ……死ぬかと思いましたぞ……しかし、ご覧の通り、どうにか

無事に回収しましたぞ、我が君……ほへぇあぁぁ……』

 

 新品同然の畳の上で、水揚げされた魚のように転がる玉壺(ぎょっこ)。彼が居なかったら鬼側の勢力は全滅していたかもしれないと考えると、その功績は計り知れないだろう。

 

『(あのちみっこ共と一時的にとは言え、手を組んだのは業腹ではあるが、それでも最悪の事態は避けられた。何より私が生きている。生きているって素晴らしい!)』

 

 玉壺はあの時、砲撃が始まったと見るや否や、人造魔族たちに共闘を持ち掛けた。

 正確には、包囲網に穴を開ける為に、一時的に戦力を集中させようと誘ったのだ。人造魔族たちは最初こそ聞く耳を持たなかったものの、四国全土が海からも空からも取り囲まれ、一点突破でもしなければ逃げ出す手立てが無いと考え直し、半強制的に協力体制となったのである。幸いにして、どちらも航空戦力を有しており、攪乱程度なら何とかなりそうだったので、どうにか切り抜ける事が出来た。

 もちろん、最終的に無限城への退避を成したのは城主たる鳴女のおかげだが、安全圏まで避難出来たのは、紛れも無く玉壺の働きがあってこそだ。まさに鬼側の英雄である。無惨がどう評価するかは分からないけれど。

 

『はぁ……はぁ……』

 

 そんな玉壺の傍には、息も絶え絶えに膝を着く黒死牟(こくしぼう)の姿が。彼が最後に放った技は、謂わば【天照日の呼吸】の【月の呼吸】バージョン。ほぼ火事場の馬鹿力であり、鬼の身でも命を削る程の深刻なダメージを受けるような代物だ。再現しろと言われても不可能に近い。だからこそ、こうして立ち上がる事さえ儘なっていないのだが。

 

『………………』

 

 その二人の傍らには、大の字で仰天する鳴女(なきめ)が居た。身体こそ再生出来ているものの、通常形態に戻るだけで精一杯で、衣類の復元も成されていない為、裸一貫である。むろん、大事な場所も一切隠されていない。

 

『………………』

 

 そのあられもない姿の鳴女を冷たく見下ろす、鬼舞辻(きぶつじ) 無惨(むざん)。呆れが多分に含まれているが、「今なら呪いを掛けられないかな」という思惑も混じっている。決して鳴女の裸体に興奮している訳では無い。

 

『どうだぁあああああぁっ!』

『どうだ、じゃないんだが!?』

 

 しかし、ここまで弱っても、鳴女に呪いを掛けるのは不可能らしかった。同程度の怪我で、無惨はあっさりと珠世に逃げられたというのに。一体どうやったら、この暴君竜に首輪を繋げられるのだろう。

 まぁ、首輪を掛けられたとしても、手綱を握っていられるかは別問題なのだけれど……。

 

『……まぁ良い。私の血をくれてやるから、さっさと回復しろ』

 

 こうなっては更なる強化を施して、己により懐かせるしかないと判断し、無惨は鳴女に血を与える事にした。

 

『お前たちにも褒美をやろう。存分に飲むが良い』

『おおっ、有難き幸せ!』『……感謝いたします』

 

 さらに、今回の功績を鑑みて、玉壺と黒死牟にも血の褒美を取らせる。玉壺の作品であるお高い瓶に多量の血を注ぎ、それを彼らの前に出した。

 なるほど、これなら飲み易い。直接血管に打ち込んでも良いのだが、今の二人の弱り具合では逆効果になる可能性もある為、瓶に注いでやったのだ。まさに配慮の鬼だ。

 

『無惨様、無惨様』

『何だ、鳴女よ?』

『私、無惨様から直接飲みたいな~♪』

『お前……』

 

 すると、鳴女がとんでもない事を言い出した。ようするに、吸血したいから手首か首筋を差し出せ、という事である。不敬にも程があるものの、発言したのが鳴女なので、無下にするのも危険と言える。

 

『……えっと、席を立った方が良いでしょうか?』『………………』

『要らん気を利かせ『そうだそうだ、見世物じゃないんだぞー』……お前という奴は!』

『『では失礼します』』

 

 そんな怪しい現場に居た堪れなくなったのか、玉壺と黒死牟がそそくさと退散する。

 

『……黒死牟(おまえ)、少しは面白くなったじゃないか』

『貴様に褒められても嬉しくは無い。少しは自重しろ』

 

 去り際に鳴女が黒死牟の背中に笑みを投げ掛けたが、彼は振り返る事無く行ってしまった。この後は、事前に繋げておいた出口から、玉壺共々現世へと戻るのであろう。

 これで無惨と鳴女、二人っ切りだ。

 

『それじゃあ、頂きます♪』

『………………』

 

 鳴女にチューチューされつつ、無惨は考える。

 

『(あの時現れた物の怪共は、一体何だったのか……)』

 

 化け鯨も不知火も、事前に知らされた命令で動いているようだった。それも人を乗り込ませて。人間を餌としか見做していない彼らが、何故従順に人間の指揮下に入っていたのか。

 そして(・・・)その人間たちを(・・・・・・・)従えていたのは(・・・・・・・)一体誰だったのか(・・・・・・・・)

 もちろん、唯人の筈が無い。妖怪は人間如きが操れるような存在ではないのである。

 ならば、自分と同じ鬼という可能性もあるが……逃れ者でしかない珠世に、そんな真似が出来るだろうか?

 

『(一番可能性が高いのは、「真祖吸血鬼(トゥルー・ヴァンパイア)」だが……)』

 

 そう考えれば、騎乗していた人間たちの正体も自ずと判明する。

 だが、日本に侵入している真祖吸血鬼のアウラは、妖怪たちの攻撃目標に指定されていた。つまり、彼女の配下ではない。

 そうであれば(・・・・・・)一体誰の戦力(・・・・・・)だったのか(・・・・・)それが問題だ(・・・・・・)

 

『(考えたくは無いが、別の真祖が居ると考えた方が良いな……)』

 

 つまりは(・・・・)そういう事である(・・・・・・・・)

 

『無惨様、もうちょっと抱いて下さいよ~』

『良いからさっさとしろ』

 

 と、鳴女の声が聞こえた事で現実に戻された無惨は、とりあえず考えるのを止めた。焦ってもどうにもならないのだから、対策は後で立てれば良かろう。

 

 ……鳴女が無惨の何処に噛み付いたのかは、誰も知らない。秘密なのだ。




◆無惨の血液

 無惨の力の源であり、本体とも呼べる代物。この血は人間にとっては猛毒なのだが、一部の適応者が鬼となり、一蓮托生の配下となる。むろん、鬼からしても摂り過ぎは毒になるのだが、鳴女は血のプール程に飲んでも平然としていられる。
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