現代人が見れば、それを「エチゼンクラゲ」と答えるであろう。
だが、傘の表面には真実を見通す魔眼が紋様のように、かつ放射状に広がっており、その頭上には「
『……天使かしら?』
『目ェ腐ってんの、あんた?』
ソリテールの発言に、アウラがジト目を向ける。こんな天使が居て堪るか。
『アウラ様、これ食べれる?』
『食べれるように見えるの?』
『なら、さっさと殺しちゃお』
と、後ろで様子を窺っていたリーニエが【
『いひひゃひはははははっ!』
むろん、縊鬼も自身を害する存在に好き放題される気は毛頭無く、触手をブワァッと展開し、括られた死体に雄叫びのような悲鳴を上げさせる。唯の声と侮るなかれ、その威力は凄まじく、物理的な衝撃波を発生させるのと同時に、電磁パルスを放って三半規管を狂わせてきた。思わずリーニエも墜落しそうになったが、奈落に落ち切る前に体勢を立て直し、再び夜空へ舞い戻る。
『(……敵は電気を吸収して、それを攻撃に転換する能力がある。あの括られた死体は、その触媒。なら、それらを斬り落とせば良い。だけど、問題は近付こうとすると、叫喚の
リーニエは状況を分析し、対策を考えるも、そう簡単に思い付く訳も無く、距離を取りつつ様子を窺う。叫喚の障壁は僅かながら呼び動作があるので反応出来るが、射程範囲が広角過ぎて防ぎようが無い。接近戦を挑むのは実質的に不可能と言えるだろう。
――――――カァァァ……ゴヴォオオオオオオオオッ!
『きひゃひゃひゃっ!?』
リーニエの口角から熱気が漏れ出たかと思うと、地獄の業火を吐き出し、縊鬼をローストする。火の粉や火の玉なんてちゃちな物では無い、火炎放射と言っても良い大火力である。周囲を旋回しながらそれをされる為、今度は縊鬼が対処しようが無い。炎で視界が塞がれる上に、狙いを定めている暇が無いのだ。
……実は傘の魔眼は強力な「邪視」を発動でき、敵を意のままに操る事が可能なのだが、図らずも炎壁が盾となって防いでいる形である。
『コォォォ……』
その上、成す術無く焼かれる縊鬼に、リーニエが更なる追撃を仕掛ける。
――――――グヴァォオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!
蒼い炎が洪水となって、リーニエの目に映る全てを浄化する。生木が塵となり、岩石が気化して、夜空さえ昼間の如く照らすその炎によって、「竜ノ口渓谷」は谷間が三倍に広がった。あまりの威力に、吐いているリーニエが反動で仰け反り、新たに展開した竜の翼で補助しなければ、自身が流星となって吹き飛んでしまう程。
もちろん、その火中に居た縊鬼は痕跡も残さず蒸発した――――――かに思われたが、強力な電磁場によってある程度軽減していたらしく、フラフラと彷徨うように浮いている。
しかし、触手と首吊り死体は残らず火葬され、魔眼も一つしか残っていない……が、充分だ。
『きひひっ!』
『あ……っ!?』
魔眼の効果など知る由も無いリーニエは、目を合わせた瞬間、縊鬼の操り人形となった。
『【
『……っ、助かった、アウラ様』
だが、彼女が何かをする前に、アウラが【服従させる魔法】であっさりと支配権を上書き。
『【
しかも、高みの見物をしていたソリテールまでもが参戦し、【人を殺す魔法】で縊鬼の最後の魔眼を潰して、完全に対抗手段を奪い取る。
『折角の私の初陣を穢してくれたお前には、
『げひゃひひゃぁっ!』
そして、焔を纏ったリーニエの魔剣が、縊鬼を一刀両断した。ついでに火炎放射で爆殺するのも忘れない。
こうして、幾多の村人を奈落の底へ突き落とし、その死体を弄び続けた悪霊は払われた。本物のお手神様による、最初の怪事件の解決である。
『さて、問題は――――――』
と、ソリテールが眼下の森を見下ろす。
『………………』
そこには、すっかり完成されてしまった、新たな「
『名前、聞かないとね……』
アウラが笑う。久方振りの同族誕生の瞬間に。
……夜が、明けようとしていた。
◆リーニエの火炎
ユンとは別系統の戦闘体系として、リーニエに組み込まれた武器。体内の専用器官にて魔力を燃焼させ、それを猛烈な勢いで吐き出す事で火炎放射としている。威力は彼女の匙加減だが、一般的な火炎放射器から完全燃焼を伴う地獄の烈火炎まで自由自在である。
ちなみに、リーニエは魔力を目視出来る関係上、精神攻撃系にもある程度耐性があるのだが、流石にそれを専門にしている縊鬼の凶悪な洗脳攻撃までは防げなかった。
まぁ、アウラが居れば万事解決なんだけど。