鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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思い入れなんて無い。


サ・ヨ・ナ・ラ・故郷

 わたしの名前は×××。この村で生まれ育った、頭が良いだけの穀潰し。

 しかし、その事実はもう意味を成さない。何故なら、わたしの名を知る者は、既に誰一人として居ないからだ。目の前に立つ、こいつら(・・・・)が皆殺しにしたのである。

 目撃者は生かさず殺し、痕跡も残さない。その代わりに噂だけを独り歩きさせ、目的の“何か”を釣り上げる。詳しく聞いた訳では無いが、奴らの目標は概ねそんな所だろう。

 巷で噂の「お手神様」の皮を被った模倣犯、もしくは本物の方か。手広く遣りたいだけのこいつらにとっては、どっちでも良いのかもしれないけど。

 

『いやはや、これはどうした物かしらねぇ?』

 

 すると、リーダー格と思しき魔性の女――――――ソリテールが口だけを笑わせて呟く。こちらと会話をしているようで、その実全てが独り言のような物だ。話したい事だけを話す、そういう性格である。

 

『新しい「真祖吸血鬼(トゥルー・ヴァンパイア)」よ。……まさか日本で生まれるとは思わなかったけど、私たちのせいかもね、きっと』

 

 さらに、その側近らしき女――――――アウラが交じり、わたしの事をじっと見詰める。まるで品定めだ。失礼極まりないが、少なくとも評価を下そうとしているだけ、こいつの方がソリテールよりもマシであろう。

 というか、「真祖吸血鬼(トゥルー・ヴァンパイア)」って何だ?

 「吸血鬼(ヴァンパイア)」自体は聞いた事がある。海の向こうに棲んでいるという、血を吸う鬼の事である。凄まじい再生力と圧倒的な身体能力と引き換えに、日光で身を焦がし、大蒜や銀に激しい拒絶反応を示す、意外と弱点の多い種族の筈だが、アウラがそれらを気にする様子は無い。今はもう夜が明けているというのに。

 ようするに、彼女は全ての「吸血鬼」の頂点に立つ存在で、雑魚の抱える弱点など持ち合わせていないのだろう。

 そんな化け物を従えているソリテールは、一体どんな化け物なのか。虚空から光線を出していたが、妖術使いか何かなのか?

 

『アウラ様、ソリテール様、こいつはどうするの?』

 

 と、もう一人の側近……いや、配下の女――――――リーニエがわたしの顎をクイッと持ち上げ、隅から隅まで舐め回すかの如く観察する。さっき口から爆炎を吐き散らしながら空を飛び回っていた事を鑑みるに、人間ではないようだが、彼女には今、一体何が見えているんだか。

 クソッ、どいつもこいつも、わたしを物みたいに見やがって。わたしをそこらの下郎と同じ様に扱うなよ。

 ……そう言えば、アウラ曰くわたしは「真祖吸血鬼」になったらしいが、何がどういう変化を遂げたんだ?

 事実、身体は以前よりも遥かに軽く、逆に体内は凄まじい力が漲っている。太陽で大火傷を負っていた肌は、今は傷一つ無い柔肌でしかない。絶賛絶体絶命中だが、殺される気が全くしないのだ。同じく勝てる気も全くしないんだけどね。幾ら変化したとは言え、ソリテールたちの方が圧倒的に強いであろう。

 ならば、今は精々利用してやるだけ。勝てないなら負けないようにすれば良い。最後まで立っていた奴が勝者であり、勝った奴が正義なのだから。

 

『そうねぇ。想定外の事態だけど、アウラと同じ「真祖吸血鬼」だって言うのなら、どれくらい殺せば死ぬのか分からないし。アメーバはどう思う?』

『誰が単細胞よ! ……折角だから、仲間に加えたら? 単純に戦力の強化になるし、まだどの勢力(・・・・・・)にも顔が割れて(・・・・・・・)いない(・・・)ってのは、結構重要だと思うわよ?』

『確かにそうね……』

 

 アウラの言葉に、ソリテールが口元に指を当てて考える。仕草だけは可愛らしいけど、その口で散々人肉を平らげていたかと思うと、可愛さの欠片も無い。それを言ったら、「吸血鬼」も大差無いだろうけど。

 

『なら、この子には拠点で私の助手でもして貰おうかしらね』

『何よ、私じゃ不足だっての?』

『嫉妬しなくても良いじゃない』

『別にしてないわよ』

 

 あの、目の前でイチャ付かないで貰えます?

 

『……アウラ様は私のだから』

 

 すると、リーニエがわたしをアウラから遠ざけるように抱き締めた。お前はお前で何を嫉妬してるんだよ。要らないから、別に……。

 

『まぁ良いわ。この村での目的は果たしたし、次の目標を狩りに行くわよ。せめて後数件は解決して、“彼ら”に対抗しないとね』

 

 と、ソリテールが話を切り上げた。やはりと言うか、何処かの誰かを誘き寄せる為に、噂の独り歩きを画策しているのだろう。そうであれば、確かにこの村にもう用はあるまい。次は何処の村を滅ぼしに行くんだか。

 

『そういう訳だから、宜しくね? えーっと……』

 

 こいつ、人の名前を完全に忘れてやがる。少しくらいは解決屋の素振りを見せなよ。

 ……まぁ良いさ。どうせ生まれ変わった命だし、今までの名前は必要無い。これからはわたしの為だけの名を名乗るとしよう。

 そして、わたしは傍に転がっていた“ソレ”をチラリと見て、答える。

 

『――――――わたしは「零余子(むかご)」。「零余子」よ。よろしくね、ことばをはなすまものさん』

『あら、素敵な返しじゃない。想像以上に頭が働くみたいね。気に入ったわ』




◆零余子

 ご存じ下弦の鬼の「不憫可愛い枠」の女鬼。容姿端麗なだけで無く、大正時代には珍しいファーを付けていた事から、「変異前は何処ぞのお嬢様だったのでは?」と囁かれているが、例のパワハラ会議で登場と同時に退場したので、詳細は不明。でも可愛いから人気。鬼滅の刃におけるアウラポジション。
 今作では田舎の芋娘で、アルビノ故に外にも出られず、穀潰し扱いされていた。しかし、縊鬼に両親を殺され、いよいよ進退が極まった時、ソリテールたちに関わった事で、「真相吸血鬼」として覚醒、新たな鬼生の門出となった。原因は素質があった事に加えて、アウラが近くに居たせい。アウラが居なければ、別の何かには成っていた。
 ちなみに、今作の彼女はクォーターである。
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