その祠は、かつて「
だが、長い時が人々から謂われを忘れさせ、存在そのものを無かった事にされた。結果、古い峠道の脇に打ち捨てられ、朽ちて苔生すだけの石ころへと成り果てる。
そして、全てが零に戻ったソレに、新たな神が宿った……と言っても、神とは名ばかりの、邪な魔物だが。ソレは金銭を求めて通行人を襲う俗物であり、持ち金の無い物はその命さえ奪ってしまう外道であった。
その邪で俗物的な外道の名は――――――、
『「
『そう。みちゆくひとからかねといのちをまきあげるまもの。それが「槐の邪神」』
マジで居たのね、そんな妖怪。零余子曰く「伝承に語られる個体が棲み付いていたのが“槐の根本にあった古い祠”だっただけで広落葉樹の近くであれば何処でも良い」みたい。
つまり、結構ありふれている妖怪だという事。その割には聞かない名だが、“ワモン”も“チャバネ”も嫌いな奴からすれば等しく「ゴキブリ」でしかない、みたいな話なのかも。
じゃあ、「槐の邪神」は何の妖怪なのかしらね?
『……こんな森の中じゃあ、妖怪じゃなくても襲われそうな気がするけどね』
と、アウラが森を見渡しながら呟いた。確かに縊鬼の居た「竜ノ口渓谷」も相当に深かったが、谷間が無い分こちらの方が樹木の密度は濃い気がする。とっても森々してるわ。
『さっき熊も出たよ、アウラ様』
「グゥ~ン……」
『鉞担いだ金太郎かしら?』
何時の間にか、リーニエが熊に跨っていた。どういう状況なのよ、それ?
『ほ~ら、林檎林檎』「ガウガウ」
こら、野生動物を餌付けするのは止めなさい。
「バウッ!」『あ……』
『どうしたの、リーニエ。……あら?』
すると、リーニエの跨る熊が何かを見付けた。私たちも鼻は良い方だけど、身体の構造上やっぱり四足動物の方が、地面を嗅ぎ分けるには有利かもね。それにしても何を見付けたのかしら。
『これは……』
『きんちゃくぶくろ、ですね。においからして、けっかくのくすりをいれていたようですけど……』
『ふ~ん……』
まぁ、そんな事はどうでも良いわ。村人の始末は終わったし、後は槐の邪神とやらを殺すだけ。だから、さっさと出て来て欲しいんだけど……。
―――――置いてけぇ……置いてけぇ……置いてけぇ……有り金、全部置いてけぇっ!
『あら、来たみたいね……』
『意外と堪え性が無いわね』
頭数も考えられない馬鹿なのかしら。それとも人数差なんて関係無いとでも言うのかしらね。何れにしろ、こっちも待つのは嫌だし、さっさと姿を見せて頂戴な。
『コギュィィィヴッ!』
と、森の奥から槐の邪神が現れた。
『う~ん、鎧武者と言うより……』
『ちょ~っと足軽っぽいわねぇ?』
頭は伊達兜、腰回りは西洋甲冑、胸部装甲は女騎士という感じで、とても鎧武者には見えない。女性的なシルエットが分かる程の滑らかさだ。実際にそうなのかは不明だけど、たぶん雌よね?
しかし、全てが女々しいかと言うと、そういう訳でも無く、両腕が異様に太い。丸太と言うか、石柱が二本並んでいるみたいだわ。あれでぶん殴るのだとしたら、随分と野蛮ね。
――――――シュヴォオオオオオッ!
かと思えば、槐の邪神が口から青白いガスを噴射して来たわ。それも浴びた所が、蒸気を上げて溶け崩れてしまう程の威力がある。強酸性なのかしら?
『先手を取るとは、味な真似をしてくれるわね。なら、こっちは寄って集って嬲り殺しにさせて貰うわ。アウラ、リーニエ!』
『はいよ!』『熊、零余子を連れて下がって』「クマッ!」『くまはくまとなかない……』
だから、これはお返し。全員で魔法剣を生成し、斬り掛かった。
――――――バキッ! ボキッ! ベキィンッ!
全部バキボキに折れたわ。その上、槐の邪神には傷一つ付いていない。防ぐ処か棒立ちで真面に入ったのに。いや、嘘でしょ?
『【
『コギィィィヴゥン!』
『『『効いてな~い』』』
さらに、【
『このっ、【
しかも、【陽の呼吸】による殴打も、逆に粉砕骨折しちゃった。それはもう、肉が弾け骨が飛び散る程に。滅茶苦茶痛いわ。
――――――いやいやいや、【陽の呼吸】の拳は
それなのに、何で唯のカツアゲ野郎に通じないのよ、ふざけないで!
『ギキィィィッ!』
『来るわよ! 皆、散開!』『ひぇっ!』『また私の活躍が~』
こうして、まさかまさかの隠しボスとの戦いが始まってしまったわ。ナンテコッタ~!
◆槐の邪神
古びて打ち捨てられた祠を乗っ取る形で棲み付く妖怪。近くを通りすがる者から金銭を巻き上げ、払えない貧乏人は食い殺してしまう。実は金さえ払えばキチンと見逃す、変に律儀な奴だったりする。伝承に残る個体は、神の加護を得ていた青年に手を出したせいで、インディグネイションを下されて死亡した。
正体はカブトムシの化け物。金属を吸収して自分の装甲を強化する能力があり、雄は火炎を、雌は腐食性のガスを武器にする。
そして、年に一度、雄と雌で壮絶な殺し愛の末に子孫を残す。