鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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一狩り行こうぜ!


雲仙岳の物の怪

 「吸血鬼(ヴァンパイア)」。西洋諸国に根を張る、「鬼」の一種。

 文字通り“血を吸う鬼”であり、血を吸われた者もやがては同じ吸血鬼と化してしまう、病原体のような性質を持つ。その本体は血液その物だと言われ、不死身に近い生命力を誇り、所謂「魔法」と呼ばれる怪しげな呪術すら操るという。

 だが、対策が全く無いという訳でも無く、銀製品や大蒜に強いアレルギー反応を示し、土地柄のせいか十字架を筆頭とした聖なる物質を苦手としている。特に陽光に関しては浴びただけで塵に還ってしまう程に弱く、日焼け止めを塗った程度では防げない為、日中は完全な闇の中で過ごす。

 しかし、それらの弱点が効果を成すのは、一般的な吸血鬼――――――“噛まれて変じた感染者”のみ。

 「真祖(トゥルー・)吸血鬼(ヴァンパイア)」と呼ばれる存在、つまりは“最初から吸血鬼として生まれた感染源”には通用しない。よく聞く弱点が意味を為すのは、人間に感染する事で変質し、劣化するからだと考えられる。

 そして、「真祖吸血鬼」と「一般吸血鬼」との関係は、真祖を頂点とした無機質かつ生物的な社会性であり、真祖が死ねば配下の吸血鬼も共に滅びる運命にある。新たな真祖に関しては奇跡的な偶然か、眷属内での蠱毒を制した強者が選ばれるのみ、なのだと言う。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『つまり、「吸血鬼」は「真社会性昆虫(蟻や蜂)」と変わらないって事ね』

『酷い言われ様ですが……その通りです、ソリティア様』

 

 私の質問に、すっかり従順になってしまったアウラちゃんが答える。でも駄目ねぇ、そんな堅苦しい態度じゃあ。

 

『アウラちゃん、もっとリラックスしなよ』

『いえ、そういう訳には――――――』

『ウフフフ♪ “アウラちゃん、タメ口を利きなさい”』

『そ、そんな!?』

『私としては、別に自害を強要しても良いのだけれど?』

『うっ、むぐぐぐぐ……分かったわ、ソリテール』

『それで良いのよ、それで♪』

 

 魔力が上の相手に不遜な態度を取るだなんて、魔族の常識では有り得ない事だけど、それは「吸血鬼」にとっても同じみたい。可愛らしいお顔をクシャクシャにしちゃって、とっても(・・・・)そそられるわ(・・・・・・)

 

『ところで、私たちは何処へ向かっているのかしら?』

 

 ふと、アウラちゃんが周囲をキョロキョロと見渡しながら呟く。

 私たちは今、「雲仙岳(うんぜんだけ)」の山中に居る。信者が耳に入れた噂によると、最近この辺りに人の声真似(・・・・・)をする物の怪(・・・・・・)が出るのだとか。

 実に興味深いわ。魔族も助けを求める振りをして人間を誘き寄せる魔物を祖先とした種族だけど、件の物の怪も同じ進化の道筋を辿っているのか、それとも全くの別物が収斂進化をしたのか。気になって仕方ないのよね~♪

 

『というか、「モノノケ」って何よ?』

『魔物の類よ。人ならざる人を喰らう化け物。それをこの国では「物の怪」もしくは「妖怪」と呼ぶのよ』

『へぇ……それはそうとして、私を連れ歩く理由は何なのかしら?』

わざわざ(・・・・)言わなきゃ(・・・・・)分からないかしら(・・・・・・・・)?』

『くっ……』

『大丈夫、見捨てたりなんかしないわ』

 

 使い潰す気ではいるけどね♪

 

 

 ――――――スケ……テ……タスケテ……助けて!

 

 

『『………………!』』

 

 おっと、早速だけど、謎の助けを乞う声が森の奥から聞こえて来るわ。丁度、申し訳程度の山道を僅かに外れた、人が怪我をして蹲るには最適な場所から。これを聞いた通行人は、思わず遭難者を疑い、助けに行こうとするだろう。

 

 

 ――――――待って! 行かないで! 放っておくの!? 何時まで放っておくの!?

 

 

 さらに、こちらの良心に訴え掛けるかのような、迫真の声が続く。“何時まで”と付ける事で、焦燥心をも刺激する、上手いやり方ね。

 けれど、残念。狩るのは私たちの方よ♪

 さぁさぁ、私たちと「お話」しましょ、まだ見ぬ物の怪さん♪

 

 

 ――――――何時まで! 何時まで! 何時まで! いツまDE! いツマデデデアデアァアアアアッ!

 

 

 そして、何の躊躇も無く闇地に足を踏み入れた私たちの眼に飛び込んで来たのは、血の涙を流した青白い死者の顔、

 

『ギャヴォオオオオオオオスッ!』

 

 ……のようなベロを持つ、巨大な化け物だった。

 宝石染みた大きな眼と鉄仮面を思わせる頭部、大きく裂けた口を持ち、その内部に死人の顔をした舌がある。野太い恐竜染みた腕にはブレード状の申し訳程度の翼を有し、剣山のような羽毛に覆われた趾行性の脚は走鳥の如く強靭だ。尻尾は胴体と同程度、もしくはそれ以上に長く、それ自体が鈍器と為り得る程に立派だった。

 総じて、その容姿は鎧で身を包んだ飛竜(ワイバーン)に近く、魔族とは似ても似つかなかった。

 

 

◆『分類及び種族名称:死霊怪鳥=以津真天(いつまで)

◆『弱点:舌顔』




◆以津真伝

 野晒しにされた死体の無念が呼び寄せるとされる、恐ろしい姿をした怪鳥。鳴き声は「何時まで死体を放っておくのか」という意味で、召喚者たちの恨みつらみが窺える。
 まぁ、現実は人の声を真似て獲物を誘き寄せる物の怪でしかないのだが。どう見ても怪鳥や飛竜染みた姿をしているが、祖先はヒラタシデムシの仲間であり、元無脊椎動物だったりする。
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