シルエットだけなら、ボロボロの法衣と袈裟を纏った、僧侶のそれである。
だが、実際の姿は悍ましい怪物と言い切って良い。何せ、人体のパーツが滅茶苦茶に継ぎ接ぎされて人型を保っているだけなのだから。目は外気を呼吸し、口で排泄を行い、無数の乳首で世界を見て、臍と鳩尾でケタケタと嗤う。袖は髪の毛と破れた皮膚が一体化した鰓で、手と足が逆に付いている。それらの全てを、ムラサキガイのような物が足糸で繋ぎ合わせ、一つの生命体として動いていた。
例えるなら、和製の「フランケンシュタインの怪物」だ。見た目を信じるなら、おそらく水死体を接着している貝類が本体なのかもしれない。
『気色悪い見た目。……でも、ソリテール様やさかなクンとやらは喜びそう』
もちろん、リーニエは遮光板のおかげでハッキリとは見えないが、それでも良く分かるぐらいの気持ち悪さである。ハッキリ言って悪趣味だ。人間の尊厳など気にしないリーニエから視ても、生理的な嫌悪感を抱く程に。妖怪という奴は、どうしてこう悪辣な感性をしているのだろう。それを気に入るソリテールや
『とりあえず、その子は邪魔だから運んでおいて妖精さん』
『らちなの~』『かんきんなの~』『みのしろきんなの~』
一先ず、リーニエは足手纏いの大地を、待機していた妖精さんたちに運ばせた。
さらに、魔法の双剣を装備しつつ、口に炎を蓄え、完全な戦闘態勢を取って、海難法師と対峙する。
相性自体は悪くない。視覚を介した洗脳攻撃は
『さてと……君は一体何かな?』
『キミハイッタイ、ナニカナ?』
しかし、当の海難法師はオウム返しをするばかり。大丈夫なのか、こいつは。初見殺しのチートスキル頼りの相手など、能力を封じてしまえば雑魚と変わらない。これはリーニエの
『――――――きけきゃかははひへへひゃっ!』
『おっと……!?』
だが、それはどうやら杞憂だったようだ。貝同士を足糸で連結させた即席の長い鉤爪で切り掛かって来たのである。その動きは見た目に反して素早く、それでいて優雅な物であり、海月のように舞い芋貝のように刺してくる。貝殻の強度はかなりあるらしく、普通にリーニエの肌を切り裂いた。彼女の皮膚は含水率で硬度を変えられ、玉のように柔らかくする事も、鉄より硬くする事も出来る。それをいとも簡単に破壊した辺り、油断して良い相手では無さそうだ。
『舐めないで……臭っ!?』
『カハァァァァァ……!』
その上、海難法師は口が文字通りの排泄口となっている為、下手に切り結ぶと、至近距離から刺激臭の毒霧を喰らう破目になる。しかも、袖から貝殻を毒針代わりに発射出来るようで、中々どうして芸達者である。幸い毒針は呼び動作が分かり易いので、避けるのは簡単だが、その後の追撃が激しいので、結果的にリーニエは手古摺っていた。
『フンッ!』
『けひゃっ!?』
しかし、リーニエとて負けてはいない。剣に注意を引き付けておいて、大振りの隙を突いて身を低くしつつ、海難法師の足を払う。
――――――カヴォオオオオオオッ!
そして、下手な反撃を食らう前に、爆炎で焼き払った。
『きげぇええええっ!』
金属をも融かす灼熱の炎に晒された海難法師は、火達磨になりながら踊り狂い、海中へと没する。
だが、意外と呆気無いと思った、その時。
『うふひひひ!』『きひゃひゃひゃ!』『げへへへはは!』『あーはっはっはっ!』『きゃはははははっ!』
海面がボコボコと隆起し、幾人もの海難法師が顔を出す。
『――――――コァァアアアアアヴァアアアッ!』
『うへぁ……』
その有様は、海難法師に輪を掛けて気色の悪い物だった。
数えるのも億劫な程の海難法師を、足糸と貝殻で遺伝子の如く数珠繋ぎにして腕(もしくは脚)としており、それらが白くて滑らかで野太い胴体に絡み付いている。頭部は城をも呑み込んでしまいそうな程に大きな二枚貝で、殻の縁には針のように鋭い歯がズラリと並び、ヌラ付いた“舌”がべロリと飛び出していた。
もしも現代人が見れば、それを「ムカデメリベ」に似ている、と言うかもしれない。似ているのはシルエットだけであり、そもそもムカデメリベはウミウシなので、二枚貝の化け物っぽいこいつとは別系統の軟体動物なのだが。
まぁ、今はそんな事はどうでも良かろう。問題は、こいつが海難法師の本体であり、親玉だという事だけだ。
◆『分類及び種族名称:
◆『弱点:足』
『バァァヴォオオオァッ!』
『……やっぱり来るよね!』
◆お化け蛤
正式名「
正体は伝承通りの蛤……ではなく、「シャミセンガイ」の怪物。つまり、正確には貝では無い。足糸に見えるのも、独自に会得した別物である。これは神経や筋肉の役割も担っており、それらを張り巡らせる事で水死体を寄り合わせ、文字通り手足のように扱う。疑似餌として人型の分身を地表に送り込み、幻に見せられた人間を丸呑みにして、体液を絞り切った後、自身の手足に融合させる。