『滅茶苦茶に化け物ね~♪』
眼前の物の怪――――――伝承に照らし合わせるのなら、「
どう見ても化け物の類よね~。全然人型じゃないし。どちらかと言うと、私の知っている魔物にそっくり。でも、これが魔族に似通った姿に進化するとは思えないのよ。
『な、何なのよ、アレ?』
『食った獲物の頭蓋を引き千切り、自らの舌と融合させる事で声真似しているみたい。まさに物の怪ね』
『うへぇ、気持ち悪っ……!』
私の解説にアウラちゃんがドン引きしているわね。
『あなた、自分を棚上げし過ぎじゃない?』
『自分の身体に、それもベロなんかに、人間の一部でも一体化するなんて、虫唾が走るわ!』
『ああ、そういう意味?』
吸血鬼になっても魔族らしくて安心したわ。
『ギャヴォオオオスッ!』
『あらあら、早速襲い掛かって来たわ』『何で平然としてる訳!?』
待ち伏せを止めたからか、以津真伝が襲い掛かってきた。飛行に不向きな体格をしているとは思っていたけど、跳躍力を活かした滑空ぐらいは出来るみたい。翼を刃に見立てて一文字斬りを繰り出して来たわ。
――――――ザグンッ!
……大木を岩諸共一刀両断か。見た目通りの重さもあるみたいだし、真面に喰らったら一発で致命傷かもね。
『ぎゃんっ!』
アウラはしっかり喰らって、上半身と下半身が生き別れになってるわ。それでも死なずに再生する辺り、不死身というのは嘘でも無さそうね。とりあえず、彼女は放っておきましょう。
『さぁ、私とも遊びましょう?』
私は魔法で沢山の宝剣を生み出し、槍衾のように放つ。
『ギャヴヴッ! ギャアアヴォオッ!』
しかし、以津真伝がその場でグルリと旋回、翼や尻尾で剣を薙ぎ払った。胴体部分はともかく、翼と尻尾の強度は相当なようね。どうしようかしら?
『ギャヴォァアアアッ!』
すると、以津真伝の両眼が真紅に輝き、赫い残光を放ちながら、今まで以上に素早い動きで迫り来る。怒りんぼさんなのね、あなた。
――――――シュルンシュルン……ダギンッ!
『くっ……!』
以津真伝が尻尾を逆立て何度か振るったかと思うと、空中で反転しながら思い切り尻尾をビターンと叩き付けてきた。同時に尻尾の側面から結晶状の鋭い針を飛ばしている。咄嗟に宝剣で防いだけど、色合いからして、あれ毒があるわよね~。
『グッ! グゥッ!』
だけど、大技故に加減が出来ないのか、尻尾が地面にめり込んで動きが阻害されているわ。
『――――――【
と、身体をくっ付けたアウラが【服従させる魔法】を発動させ、周囲に散乱している
『フゥゥゥ……ンッ!』
『ギャヴォッ!?』
アウラの【
『グゥゥ……ギャヴォオオオスッ!』
――――――キィイイィィイイイッ!
すると、自分の最期を悟ったのか、こちらを道連れにするかのように、以津真伝が口から黄金色の光線を放ってきた。樹と言わず岩と言わず鉄と言わず雲と言わず空と言わず、軸線上のありとあらゆる物を切って捨てる。断面が鏡になる程の、凶悪な威力だったわ。もちろん、私の右腕と右脚など一撃で刈り取られ、塵になって消えちゃった。
だけど、所詮は最後の鼬っ屁。胴体を持って行かれたらヤバかったけど、手足を失ったぐらいで魔族は死なない。ほんの僅かな時で、ほら元通り。魔族の生命力と魔法の力に乾杯だわ。だのに、この世界だと少し心許無いのは何でなのかしらね?
『や、やっと斃したわね』
『そうね』
斃れ伏す以津真伝を、私とアウラが見下ろす。
『……魔物みたいに魔素へ還ったりはしないのね』
確実に死んだ筈だけど、以津真伝が塵になる様子は無い。やはり、私の知っている魔族とは別の生き物なのだろう。ならば、正体は何なのかって話だけど、
『結局、こいつは何なのよ?』
『たぶん、虫よ。
『虫!? 何処が!?』
『あの刃状の翼、内側の被膜が虫の翅と材質が似ているわ。それに、尻尾の側面に気門のような吸気口がある。おそらく、元々は腹部だったんでしょうね。腕や脚は、翅と六本足をバランス良く融合させた代物って所かしら。いずれにせよ、シルエットにさえ目を瞑れば、元が虫だった要素が大分見えて来るわ』
『骨は?』
『外骨格を筋肉の束で包み、新造の外殻で覆う事で、疑似的な内骨格にしている。切り口の骨の内部、ジェル状の組織液しか流れていないもの。本来の中身は、とっくに退化したんでしょうね。「物の怪」って……「妖怪」って……面白いわ♪』
「鬼」「吸血鬼」「妖怪」「通りすがりの偉丈夫」。私の知らない、魔族や魔物に匹敵する脅威が、未知が、こんなにも蔓延っている。世界にはまだまだ不思議で満ちていて、全然飽きる気配がしない。
居るとは全く以て思わないけど、もし存在するとしたら、この時ばかりは感謝するわ。
『ねぇ、神様♪』
さて、とにもかくにも、
◆◆◆◆◆◆
『無惨様、無惨様』
『どうした鳴女よ』
『
『そうか。ならば、大詰めに掛からないとな。
『上手く行くと良いんですけどね~』
『フン、私が今まで失敗した事などあったか?』
『はい、滅茶苦茶に』
『お前を滅茶苦茶にしてやろうか?』
『もしかして口説いてます?』
『あ~、殺してぇ、こいつぅ~』
◆アウラ
皆大好き不憫可愛い大魔族。魔王直属の幹部「七崩賢」の一人であり、彼女を象徴する【服従させる魔法】と、それにより形作られる【不死の軍勢】に準えて、「断頭台」の二つ名を持つ。しかも、五百年も生きた超凄いエリートなのだが、千年も生きたエルフの罰ゲームを喰らって自害する破目になった。
この世界では魔族ではなく、よく似た別種の「吸血鬼」で、その中でも“最初から吸血鬼”である「真祖吸血鬼」の一柱。名前も「アウラ・フォン・フォルシュトレッカー」とバリバリに高貴。また、【服従させる魔法】の効果が若干変わっており、強化も為されている模様。
ただし、種族や魔法が変わっても、中身はまるで変わっていない為、今作でもしっかりとソリテールに首輪を付けられた。アウラ、不憫しろ。