【血鬼術:「決闘王国」】――――――それは夜行が抱いた、在りし日の夢。彼がかつて人間だった頃、毎夜の如く見ていた桃源郷、その遊戯。少年の時に観た「鳥獣戯画」へ憧れて、自分自身の思い描く世界観を落とし込んだ絵札である。
しかし、始まりはもっと前で、子供らしい理由からだ。
「
「
後に夜行となる男――――――「
「ワタシを置いて、逝ってしまうのでスカ、理沙……」
「けほっ……けほっ……ごめんなさい、天――――――」
「……理沙! 理沙! うぁああああああああああ!」
そして、天馬の目前で理沙は逝った。力が抜けて、糸の切れた人形の如く。静かだが、確実に。見えなくなくても、魂が霧散したのが分かった。分かってしまった。その喪失感は、目にした天馬にしか理解出来ないだろう。
「おい、うるせぇぞ、穀潰し!」「ついでだからお前も逝っちまえよ!」「むしろ、女が目の前で弄ばれる前に死ねて感謝するべきだろうがぁ!」
「………………」
だが、周囲の人間たちに、その想いが理解される事は無い。天馬も理沙も、農村にとっては単なる穀潰しである。金も米も作れない人間など何の役にも立たないし、価値も無いというのが、この時代における常識なのだ。
ついでに言えば、理沙は村人たちから恨みを買っている。
正確には彼女の父親が悪党な地主であり、その娘たる理沙も復讐の対象となっていたのだ。
その最中で天馬は理沙を看取られた。偶々やって来ていた彼だが、この後どうなるかなど分かり切っている。沈黙が答えと言えよう。やはり、天馬は生まれる時代を間違えてしまったのである。
「……大体、何だこの下らない絵札は!」
「大して上手くも無い絵で、面白くも無い遊びなんぞ考えやがって! お前は本当に生きてる価値が無いな!」
「どうせこの女とも、裏でイチャイチャしてたんだろ!? 良いご身分だな、おい! お遊びなんだよ、お前の何もかもがぁ!」
「………………』
しかし、理沙と己の作品を侮辱された事だけは、絶対に許せない。……
『アナタたちは、
「「「はぁ?」」」
『理沙も愛したこの世界を、否定する者は許しまセン! 【血鬼術:「
「「「うわぁあああっ!?」」」
そう、天馬は既に力を手に入れている。無惨という素晴らしい男に巡り合っていたのだ。だからこその茶番である。せめて、死に逝く恋人をきちんと見送る為に。不治の病は、無惨の血でも治す事は叶わず、理沙は先立ってしまった。実際は虚弱な彼女が地に適応出来ず、それが止めとなったのだが、その事実を天馬が知る事は無い。何故なら、無惨にとって天馬など、実験動物の一人に過ぎないのだから……。
そんな事など、天馬も分かっている。普通の鬼は一方的に無惨から頭を覗かれてしまうが、
だからこそ、天馬は更なる力を求め、ソリテールたちを探し始めた。これは無惨からの命令でもあったが、自分自身の為でもあった。鬼の力を呪眼の能力を高める事に利用すれば、何時かは無惨の呪いから逃れる目も見えてくるかもしれない。
「
『
そうとも、
彼女が本当に愛していたのは、もっとずっと遠く……「川内」に住む別の男。自分語りの多い幼馴染より、偶々見掛けた何処ぞの田吾作の方が素朴で素敵だと、心中で抜かしやがった。内心、何でもかんでも見抜く天馬の事を気味悪がっていたのも知っている。病弱な癖にコソコソ逢引して、子供までこさえている辺り、余程嫌いだったに違いない。
そして今、天馬はソリテール(とアウラ)を「決闘王国」の術中に嵌め、対峙している。後はこの決闘を制するのみ。
『挑戦者はあくまでアナタの方デ~ス! 掛かって来なさい、ソリテール!』
『良いわ、私のターン!』
さぁ、決闘を続けましョウ!
◆天馬・K・ジェイフォード
「下弦の肆」こと「夜行」の前身となる人間。父親が南蛮貿易で日本へ訪れていたポルトガル系の商人であり、現地のキリシタンの生娘を寝取る形で生まれた為、村人からは嫌われている。特に生娘と当時付き合っていた男……村長の息子には殺意さえ抱かれていた。そんな中でも理沙は彼に優しくしてくれたが、それは不思議な力を秘めた天馬の恨みを買わず、逆に上手く利用する為であり、本当は蜥蜴の如く嫌っていた。そこに愛はあるんか?