鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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お前は綺麗じゃないけどな。


月が綺麗ですね

 ――――――私たちの飼っている魔物が逃げ出したから、協力して捕縛してくれない?

 

 

 何処かの(・・・・)誰かから(・・・・)送られた手紙(・・・・・・)には、概ねそう書かれていた。どう考えても罠だけど、魔族(どうぞく)から打診されたとあっては、気になって仕方ない。だからこそ、私は誘いに乗ってあげたのだけれど。

 

『……じゃあ、あなたも最初から騙されてたって訳ね?』

『仕方ないでしょ! 眷属からの打診だったんだから!』

 

 私の嘲笑に、アウラがプリプリ怒ってるわ。

 ハ~イ、こんにちは、もしくはこんばんは。「イノセンス教会」の修道女にして、禁忌の終末思想集団「天導会オプサー」の教祖役、「ソリティア・イノセンス」よ。本名は「ソリテール」。可愛いでしょ?

 さてさて、誰かさんの罠の後始末を終えた所なのだけど、仕掛け人はどう動くかしらね?

 アウラによれば、日ノ本に渡来していた配下の一人に、“そこそこ強そうな吸血鬼(どうぞく)がシマを荒らしているから駆逐して欲しい”と嘆願されたらしいわ。実際は魔力を隠蔽して求道者ごっこしていた私を、同族だと勘違いしていただけなのだけれど。というか、何時から島原は吸血鬼のショバだったのかしら?

 まぁ、それは置いておきましょう。大部分がキリスト教に汚染されている以上、それに付随する金魚のフンが流れ着いて来るのは自明の理だしね。

 問題は、その眷属がアウラの来日を待たずして死んでいた事。真祖と眷属は国を跨いでいたとしても、多少の時差はあれど情報を正確かつリアルタイムで送受信出来るっていう、地味に凄い能力を持っているみたいだから、超特急でやって来たそうなんだけど、結果は間に合わず。元々地固めが済み次第、直接現地で侵攻する腹積もりだったアウラとしては、真祖の面子を保つ為にも、生き残っていた眷属を使って手紙を出したんだって。内容もその子が考えてくれたらしいわ。

 

『……何よ、これ?』

 

 そして、その子も以津真伝を狩りに出掛けている間に死んでいた。

 いえ(・・)正確には(・・・・)既に死んでいたの(・・・・・・・・)この目玉に(・・・・・)擬態した魔物に(・・・・・・・)内側から(・・・・)食い荒らされてね(・・・・・・・・)

 

『分らないわ。……けれど(・・・)知らない感じ(・・・・・・)もしないのよね(・・・・・・・)

 

 何となくだけど、嫌~な予感がするわ~♪

 というか、私の教会の前にわざわざ死体を置いていくの止めてくれないかしら。陽光を浴びれば消えるし、何なら今も塵に還り始めてるけど、普通に邪魔なのよねぇ~。

 

『それ、どういう意味よ?』

『こっちの話よ。それより、あなたの眷属は後どれくらい居るのかしら?』

『えっと、ちょっと待ちなさい……えっ?』

『その様子を見るに、期待は出来なさそうね』

 

 いいえ(・・・)期待出来る(・・・・・)のかしら(・・・・)

 

『これで私の日本支部は壊滅よ……!』

『ウフフフ』

『何がおかしいの!?』

『やはりあなたは「魔族」だわ』

『私は「真祖(トゥルー・)吸血鬼(ヴァンパイア)」よ』

『「魂」の話よ。「座」の話はしてないわ。ウフフフフ♪』

 

 それより、どうしてくれようかしら、この不始末。アウラの都合なんて知った事じゃないけど、売られた喧嘩は買わなくちゃねぇ~♪

 と、その時。

 

『やぁやぁ、お久し振りですな、ソリテール氏』

 

 何処からか、聞き覚えのある声が響いた。発声源へ振り向けば、そこには金魚の描かれた高そうな壺がコトリと置いてある。声は中から聞こえて来た気がするわ。

 

『あの時はよくも見捨てて下さいましたねぇ……!』

 

 さらに、壺からニュルっと、変な物が出て来た。死蝋化したかのような陶磁色の肌に、両眼が口で本来は口と眉間の位置に目玉がある異形の顔、髪の代わりに複数生えている小さな腕。胴体に手足は無く、壺に寄生した海綿動物にも見える。

 こんなクリーチャーだけど、私には分かるわ。

 

『あら、あなたさかなクンね?』

益魚儀(まなぎ)ですぞ! いえ、今は“あのお方”から「玉壺(ぎょっこ)」という名を賜っております。以後、お見知り置きを……』

 

 やっぱり、漁村で見捨てたお友達のさかなクンだわ。前よりもずっと活きが良さそうね♪

 

『何よ、その気色悪い生き物と知り合いなの?』

『ちょっとだけ「お話」したお友達よ♪』

『へぇ……よく生き残れたわね、そいつ』

 

 さかなクンの姿に嫌悪感を示しつつ、私には呆れ果てるという、中々に器用な真似をするアウラ。あらあら、顔を合わせてから三日も経ってないのに、私という魔族をしっかりと理解してくれているようで何よりだわ~♪

 

『それで、さかなクン』

『頑なにその名前で呼びますね。拘りでもあるんですか?』

『何か響きが良いのよ。それでなんだけど……どうして獲物(・・・・・・)が捕食者の前に(・・・・・・・)わざわざ姿を(・・・・・・)現したのかしら(・・・・・・・)?』

『今は違いますぞ。獲物はあなた(・・・・・・)の方です(・・・・)

君のって事(・・・・・)?』

『まさか。……おっと(・・・)来たようですぞ(・・・・・・・)

 

 すると、街道の奥から砂利を踏む草履の音が。……足運びに無駄も油断も無いわね。きっと、「将軍」クラスの達人だわ。

 

「――――――鬼がこれ程に群れているとは。何の冗談だ?」

『………………!』

 

 やがて、姿を現したのは、何時か見た偉丈夫……に似た侍。雰囲気や容姿は瓜二つなんだけど、何かこう、ちょっとだけ見劣りするような、そんな感じ。一体何処の誰なのかしら?

 

縁壱(よりいち)が取り逃がした鬼が居ると言うから来てみれば……何だ、白昼を歩く以外に能の無い、有象無象ではないか」

 

 私たちを心底詰まらなそうに見遣りながら、侍が刀を抜く。やはり似ている。あの時の刀身と(・・・・・・・)同質の材料で(・・・・・・)同じ場所で(・・・・・)作られた業物ね(・・・・・・・)

 

「しかし、それでは縁壱も浮かばれまい。貴様に恨みは無いが、その首刈らせて貰う」

 

 そして、名前も知らない侍は、嬉々とした顔で(・・・・・・・)襲い掛かって来た(・・・・・・・・)




◆玉壺

 ご存じ自称・天才芸術家。初見でこの名前を振り仮名無しで読めた人は居たのだろうか。魚っぽい使い魔を操り、自ら手掛けた壺を転移装置として用いる、割と厄介な能力を持つ。当人の性格に問題があり過ぎて、能力を持て余し気味だったりするのだが。
 元はとある漁村に住む「益魚儀」という名の青年で、少年時代に漁業中の事故で両親を亡くした孤児であり、村人からも温かく見守られていたのだが、本性はただのサイコパスで、両親の水死体を「美しい」と感じて以来、小動物を殺してがっちゃんこする変態と化した。そして、遂に村人の子供に手を出してしまい、報復として腹を銛で突かれて半日間放置されていた所に、通りすがりの無惨が現れ、心身共に鬼となった。
 今作ではソリテールと関わってしまったばっかりに、まさかのお労しい兄上よりも前に勧誘される誉れを受ける破目になった。酷い、酷過ぎる。
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