無限城のとある一区画――――――「賭博場」。
チンチロや花札、盤双六などの日本式の物から、トランプやルーレットと言った海外の物まで、世界のありとあらゆる
尤も、利用するのは人食いの鬼なのだけれど。それもサウナ上がりの始祖と側近が。世も末だな。
『失礼致します』
そんなユルリとした賭博場に、玉壺がスルリと舞い戻った。一仕事終えた証拠として、気絶した零余子を肩に担いで。その様は戦士の凱旋、もしくは鮪を釣り上げた漁師である。見た目のせいで大分損をしている気がする。
『……結局、夜行は死んだか』
花札に興じる無惨が出迎える。狙いは「赤短」だろう。
『ま、こましゃくれた事しか出来ない雑魚ですからね~。ご自慢の「
その対面では鳴女が「猪鹿蝶」を狙いつつ、無惨の様子を窺っている。
『私は
『何だぁ? ソリテールは良いのに、私は駄目だってか? 黙ってさかなクンと呼ばれてろ。もしくは食わせな』
『………………』
さらに、息を吐くようにパワハラを仕掛けた。花札するなら「勝負」をしろ。
『――――――まぁ、お渡しはしましたよ? それでは、私はこれにて失礼』
『何処で何する気だよ、さかなクン』
『
※この場合、自分を改造手術する事を指す。
『待たれよ』
と、少ししっとりとした黒死牟が現れ、玉壺を呼び止めた。お前、絶対に風呂上がりだろ。
『おやおや、私などに声を掛けるなど、どういう風の吹き回しで?』
『……そう謙遜する必要もあるまい。貴殿は誰よりも主の役に立っている。能力の便利さも申し分ない。刀でしか物を語れぬ私よりも、遥かに存在価値が在ろう』
『「十二鬼月」は実働部隊。力こそが全てなのですから、あなたの方が正しいあり方だと思いますがねぇ、ヒョヒョヒョ……』
珍しく掛け値なしに褒める黒死牟に対して、玉壺は謙虚な態度を崩さない。この空間で一番紳士的なのは、間違い無く彼であろう。
『何だよお前ら、出来てんのかぁ?』
『『誰が衆道者だ』』
『へいへい、後は若い雄同士でごゆっくり~』
そして、淑女さの欠片も無い鳴女が二人を纏めて送り出し、玉壺と黒死牟はとある廃村で二人切りになった。……始まらないよ?
『あなたも随分と振り回されていますねぇ?』
『……何時もの事だ。最早気にもならん』
『それはそれでどうかと……』
諦観しちゃってるじゃない。ここにアウラが居ればそう言うだろうが、彼女自身も同じような境遇なので自虐にしかならないのは内緒。
『お前こそ、あの女に思う事は無いのか? ……謀反がどうかではなく、単純に同僚として』
『う~ん、正直そこまで興味が無いというか、やるなら他所でやってくれというか……』
『やはり迷惑してるじゃないか。悩みがあるなら聞くぞ?』
『いや、本当にどうしたのですか? あなた、そんな積極的な性格でしたっけ?』
まさか、本当に衆道に目覚めて……?
『……別に、どうと言う事は無いさ。単純に付き合いが一番長いから、話易いというだけだ。この鬼道は、お前が誘ってくれたから始められたのだからな』
『そういう物ですかね。まぁ、素直に受け取っておきましょう』
『何だ、疑っているのか? それこそ、さっき喰った「下弦の肆」の力で見通したら良いではないか』
『いやいや、あの呪眼、そこまで便利な物じゃありませんよ? あまりに人間に特化し過ぎていますし、思考を読んでいる間は視界が塞がれてしまいます。感覚としては、読書に近い物がありますね。情報は目を通して入って来ますが、結局それを活かせるかどうかは当人の問題なのです』
『なるほど。右と左を同時に見ろ、と言われているような物か。賭け事や騙し合いならともかく、戦闘の最中では役に立ちそうもないな。だからこその、「下弦の肆」止まりな訳か……』
玉壺の分かり易い説明に、黒死牟が感心する。確かに相手が手を出せないような決まりが無ければ、てんで役立たずな能力と言えよう。
『(まぁ、物は使いようですけどね)』
だが、眼の持ち主である玉壺以外は知らない。この眼には、心を見通すだけで無く、心を閉ざす効果もある事を。思考を読むのも読ませるのも、こちら次第というのが、「邪心眼」の本質なのだ。
『そもそも、奴は何故ソリテールの思考を読まなかったのだ? あの時こそ使うべきだっただろう』
『それに関しては、
『主なら使い熟せそうな気もするが……』
『どうでしょう? あのお方は他人がお嫌いですから、わざわざ見たくも無いと言いそうな気もしますが』
もちろん、そんな頭などあの男には無い、という本音は言わなかった。
『(あのお方には感謝していますが、現実と理想は別物です。謀反する気などありませんが、盲信する気もありません。あのお方とは主従の関係、仕事における上司でしかない。私にとっての一番は、あくまで芸術なのですから……)』
無惨は益魚儀を玉壺に変えてくれた恩人ではあるものの、感謝こそすれど心酔している訳では無い。あくまでビジネスパートナーであり、力の源泉かつ生命維持装置である。というか、そうでも無ければあのパワハラ上司の下で働けはしないだろう。本音と建て前を完全に分離出来る社畜根性が必須なのだ。
『(そもそも、育ての親でも無ければ生みの親でも無いですしね)』
今の“彼”という人格を完成させたのは己自身と、ソリテールである。彼女とは短い付き合いでしか無いが、玉壺の人生に多大な影響を及ぼしている。ある意味でソリテールこそが“彼”の生みの親であり育ての親である、と言えるかもしれない。
むろん、益魚儀をあっさりと殺そうとしたのは事実だし、玉壺にとって敵であるのは間違いないのだが……倒錯的で複雑怪奇な“彼”の心情は、そう簡単には割り切っていなかった。何せ
『(ま、あの局面をどう切り抜けるか、愉しみにしていますよ、ソリテール氏)』
玉壺は嗤う。誰にも察せられる事の無い、心の中で独り語りながら……。
◆ミレニアム・アイ
漢字表記は「千年眼」。七つの千年アイテムの一つであり、闇の力によって相手の心情を視覚化する能力を持つ。他の千年アイテムは持っているだけで効果があるのに、これだけは何故か片目を潰さないと使えず、相手の動きを読むだけなら「千年タウク」の下位互換だったり、何かと不遇な面の目立つ道具。しかも、前任者(アクナディンさん)がバリバリの暗黒卿である為、ある意味一番の特級呪具と言えるかもしれない。