鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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たぶん、こいつが今作で一番の紳士でカリスマ


芸術鬼の秘め事

 無限城のとある一区画――――――「賭博場」。

 チンチロや花札、盤双六などの日本式の物から、トランプやルーレットと言った海外の物まで、世界のありとあらゆる賭け事の道具(ギャンブル・グッズ)が揃い踏みしている。内装は和風の大広間と言った感じで、高級な座布団仏前に置かれても遜色の無い座布団と漆塗りのお高い机が整然と並んでおり、脚が疲れないよう掘り込まれた座席が用意してあった。いざとなれば座布団を敷布団代わりに休息も取れるし、冷蔵機能付きの戸棚にはおつまみ(肉)が用意され、血鬼術による映像媒体が見られたりと、まさに至れり尽くせりだ。風呂上がりにここで一杯遣りつつ賭け事に興じたら、それはもう至高の領域であろう。人を駄目にする空間とは、こういう物を言うのかもしれない。

 尤も、利用するのは人食いの鬼なのだけれど。それもサウナ上がりの始祖と側近が。世も末だな。

 

『失礼致します』

 

 そんなユルリとした賭博場に、玉壺がスルリと舞い戻った。一仕事終えた証拠として、気絶した零余子を肩に担いで。その様は戦士の凱旋、もしくは鮪を釣り上げた漁師である。見た目のせいで大分損をしている気がする。

 

『……結局、夜行は死んだか』

 

 花札に興じる無惨が出迎える。狙いは「赤短」だろう。

 

『ま、こましゃくれた事しか出来ない雑魚ですからね~。ご自慢の「邪心眼(ミレニアム・アイ)」とやらも全く役に立って無かったし。さかなクンの強化に繋がったのが、唯一の功績なんじゃないですかね~』

 

 その対面では鳴女が「猪鹿蝶」を狙いつつ、無惨の様子を窺っている。

 

『私は玉壺(ぎょっこ)です。お間違え無きよう……』

『何だぁ? ソリテールは良いのに、私は駄目だってか? 黙ってさかなクンと呼ばれてろ。もしくは食わせな』

『………………』

 

 さらに、息を吐くようにパワハラを仕掛けた。花札するなら「勝負」をしろ。

 

『――――――まぁ、お渡しはしましたよ? それでは、私はこれにて失礼』

『何処で何する気だよ、さかなクン』

もちろん(・・・・)自分と向き合い(・・・・・・・)にですよ(・・・・)。ではでは……』

 

 ※この場合、自分を改造手術する事を指す。

 

『待たれよ』

 

 と、少ししっとりとした黒死牟が現れ、玉壺を呼び止めた。お前、絶対に風呂上がりだろ。

 

『おやおや、私などに声を掛けるなど、どういう風の吹き回しで?』

『……そう謙遜する必要もあるまい。貴殿は誰よりも主の役に立っている。能力の便利さも申し分ない。刀でしか物を語れぬ私よりも、遥かに存在価値が在ろう』

『「十二鬼月」は実働部隊。力こそが全てなのですから、あなたの方が正しいあり方だと思いますがねぇ、ヒョヒョヒョ……』

 

 珍しく掛け値なしに褒める黒死牟に対して、玉壺は謙虚な態度を崩さない。この空間で一番紳士的なのは、間違い無く彼であろう。

 

『何だよお前ら、出来てんのかぁ?』

『『誰が衆道者だ』』

『へいへい、後は若い雄同士でごゆっくり~』

 

 そして、淑女さの欠片も無い鳴女が二人を纏めて送り出し、玉壺と黒死牟はとある廃村で二人切りになった。……始まらないよ?

 

『あなたも随分と振り回されていますねぇ?』

『……何時もの事だ。最早気にもならん』

『それはそれでどうかと……』

 

 諦観しちゃってるじゃない。ここにアウラが居ればそう言うだろうが、彼女自身も同じような境遇なので自虐にしかならないのは内緒。

 

『お前こそ、あの女に思う事は無いのか? ……謀反がどうかではなく、単純に同僚として』

『う~ん、正直そこまで興味が無いというか、やるなら他所でやってくれというか……』

『やはり迷惑してるじゃないか。悩みがあるなら聞くぞ?』

『いや、本当にどうしたのですか? あなた、そんな積極的な性格でしたっけ?』

 

 まさか、本当に衆道に目覚めて……?

 

『……別に、どうと言う事は無いさ。単純に付き合いが一番長いから、話易いというだけだ。この鬼道は、お前が誘ってくれたから始められたのだからな』

『そういう物ですかね。まぁ、素直に受け取っておきましょう』

『何だ、疑っているのか? それこそ、さっき喰った「下弦の肆」の力で見通したら良いではないか』

『いやいや、あの呪眼、そこまで便利な物じゃありませんよ? あまりに人間に特化し過ぎていますし、思考を読んでいる間は視界が塞がれてしまいます。感覚としては、読書に近い物がありますね。情報は目を通して入って来ますが、結局それを活かせるかどうかは当人の問題なのです』

『なるほど。右と左を同時に見ろ、と言われているような物か。賭け事や騙し合いならともかく、戦闘の最中では役に立ちそうもないな。だからこその、「下弦の肆」止まりな訳か……』

 

 玉壺の分かり易い説明に、黒死牟が感心する。確かに相手が手を出せないような決まりが無ければ、てんで役立たずな能力と言えよう。

 

『(まぁ、物は使いようですけどね)』

 

 だが、眼の持ち主である玉壺以外は知らない。この眼には、心を見通すだけで無く、心を閉ざす効果もある事を。思考を読むのも読ませるのも、こちら次第というのが、「邪心眼」の本質なのだ。

 

『そもそも、奴は何故ソリテールの思考を読まなかったのだ? あの時こそ使うべきだっただろう』

『それに関しては、単純に相性が(・・・・・・)悪かったから(・・・・・・)、としか言い様が無いですね。彼女は常に頭の中(・・・・・・・・)で余計な事を(・・・・・・)考えながらも(・・・・・・)それを表には出さずに(・・・・・・・・・・)平然と行動している(・・・・・・・・・)。右と左を同時に見れない理論と一緒で、取捨選択し切れないのですよ』

『主なら使い熟せそうな気もするが……』

『どうでしょう? あのお方は他人がお嫌いですから、わざわざ見たくも無いと言いそうな気もしますが』

 

 もちろん、そんな頭などあの男には無い、という本音は言わなかった。何せ零余子が(・・・・・・)唯の人間だと(・・・・・・)信じて疑って(・・・・・・)いないのだから(・・・・・・・)

 

『(あのお方には感謝していますが、現実と理想は別物です。謀反する気などありませんが、盲信する気もありません。あのお方とは主従の関係、仕事における上司でしかない。私にとっての一番は、あくまで芸術なのですから……)』

 

 無惨は益魚儀を玉壺に変えてくれた恩人ではあるものの、感謝こそすれど心酔している訳では無い。あくまでビジネスパートナーであり、力の源泉かつ生命維持装置である。というか、そうでも無ければあのパワハラ上司の下で働けはしないだろう。本音と建て前を完全に分離出来る社畜根性が必須なのだ。

 

『(そもそも、育ての親でも無ければ生みの親でも無いですしね)』

 

 今の“彼”という人格を完成させたのは己自身と、ソリテールである。彼女とは短い付き合いでしか無いが、玉壺の人生に多大な影響を及ぼしている。ある意味でソリテールこそが“彼”の生みの親であり育ての親である、と言えるかもしれない。

 むろん、益魚儀をあっさりと殺そうとしたのは事実だし、玉壺にとって敵であるのは間違いないのだが……倒錯的で複雑怪奇な“彼”の心情は、そう簡単には割り切っていなかった。何せあの(・・)ソリテールと趣味が合うのだ。真面な感性を持っている筈も無かろう。

 

『(ま、あの局面をどう切り抜けるか、愉しみにしていますよ、ソリテール氏)』

 

 玉壺は嗤う。誰にも察せられる事の無い、心の中で独り語りながら……。




◆ミレニアム・アイ

 漢字表記は「千年眼」。七つの千年アイテムの一つであり、闇の力によって相手の心情を視覚化する能力を持つ。他の千年アイテムは持っているだけで効果があるのに、これだけは何故か片目を潰さないと使えず、相手の動きを読むだけなら「千年タウク」の下位互換だったり、何かと不遇な面の目立つ道具。しかも、前任者(アクナディンさん)がバリバリの暗黒卿である為、ある意味一番の特級呪具と言えるかもしれない。
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