――――――京都の
白亜の櫓に金箔の瓦を使用した豪奢な屋敷。曲輪と堀に囲まれた様は天守閣を思わせる。元々は邸宅として築かれた物だが、後に増改築を繰り返し、今の城郭染みた様相となった。これは偏に家主の趣味だろう。
「………………」
そんな「聚楽第」のお白州に、一人の
むろん、その程度の事ならば捕らえている側は百も承知であるが、
『面を上げよ』
と、伏せる男の頭上から声が掛かる。荘厳ではあるものの、何処か色香すら漂う、惚れ込んでしまいそうな声である。とても同性の物とは思えない。
だが、男は面を上げなかった。明らかに上位者だと分かっているにも関わらず。
『どうしました、
すると、別の声が男――――――
しかし、それでも縁壱は面を上げず、それ処か目すら開けていない。お前など眼中に無い、という強い意志の表れであろう。
『そうですか。……
「………………!」
それを見た中性的な声の主が、怒りのままに
「縁壱さん!」
「うた……?」
さらに、この世で最も愛おしく守りたかった存在が、縁壱を抱き起こした。彼女は「うた」。かつて実家を出奔した縁壱と出会い、孤独な彼を十年間支え続けた、心身共に美しい女性だ。
だが、縁壱との子供を授かり臨月を迎えた日、彼が産婆を探しに行っている間に、通りすがりの「鬼」によってお腹の子供ごと殺されてしまった。その時のショックと怒りにより縁壱は鬼狩りの剣士となる決意を固めたのだ。言うなれば、うたは縁壱にとって人生の分岐点となった女性なのである。
そんな今でも愛してやまない、而して会う事は叶わない筈のうたが、目の前に居る。確かな息遣いと、優しい温かみを感じる。そう、彼女は蘇ったのだ――――――、
「フンッ!」
しかし、
『いや、あの……気合で何とかするの止めて貰えます? これ、そういう魔法じゃないから……』
まさか、自身の魔法が気合だけで打ち破られるとは思ってもみなかったのか、中性的な声の主は一瞬で自信を失くしてしまう。何せ【
『素晴らしいな。流石は
だが、色っぽい渋声の主は逆に気に入った様子で、パチパチとわざとらしい拍手を送る。
「………………」
その言葉を聞いて、縁壱は初めて面を上げた。今の彼にとって“神の使徒”など、侮辱か罵詈雑言でしかない。
この時、縁壱は初めて声の主たちの顔を見たのだが……渋い方は「
『貴殿を前に隠し立てする意味も無かろう。故に、改めて名乗らをば。我が名は「シュラハト」。「全知」を司る、魔王の側近だった者だ』
『そして、
そして、かの黄金卿、アウラに続く、三番目と四番目に観測された「真祖吸血鬼」たちは名乗りを上げるのだった。
◆全知のシュラハト
かつて魔王の側近を務めた大魔族。未来を見通す魔法を操り、“千年後の魔族の未来”の為に暗躍し、やがて同じく未来視の能力を持つ「南の勇者」を排除する為、「七崩賢」を率いて彼と戦い、三名の「七崩賢」と共に相討ちとなった。「南の勇者」スゲェ。魔族とは思えない程に協調性があり、八十年後の未来でマハトの記憶を読み込んでいたフリーレンに回想越しに話し掛けるなど、底知れぬ異質さを放っていたが、それらの謎が解き明かされる事無くこの世を去った。
この世界では「真祖吸血鬼」として暗躍。魔王に該当する人物処か魔族すら居ない世界である為か、「今度は自分の好きに生きる」事を指標にしている。何時から秀吉に成り代わっていたのか、そもそも秀吉という人物自体が存在したのかは不明。