鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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※四国の時にちょっかいを掛けて来ていたこいつらが漸く表に出て来ました。


全知と奇跡の怪物

 ――――――京都の内野(うちの)、「聚楽第(じゅらくだい)」。

 白亜の櫓に金箔の瓦を使用した豪奢な屋敷。曲輪と堀に囲まれた様は天守閣を思わせる。元々は邸宅として築かれた物だが、後に増改築を繰り返し、今の城郭染みた様相となった。これは偏に家主の趣味だろう。

 何せ(・・)()は今でこそ(・・・・・)関白であるが(・・・・・・)かつては(・・・・)魔王に仕えた(・・・・・・)武将だった(・・・・・)のだから(・・・・)

 

「………………」

 

 そんな「聚楽第」のお白州に、一人の武士(もののふ)が縛り付けられていた。それも【万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)】で作られた鎖縄で。とても人間(ヒト)一人を縛り上げる為に使うには、どう考えても過剰な代物だ。

 むろん、その程度の事ならば捕らえている側は百も承知であるが、同時に眼前の(・・・・・・)この男に対しては(・・・・・・・・)これでも(・・・・)心許無いのも(・・・・・・)分かっている(・・・・・・)。何せこいつは「真祖吸血鬼(トゥルー・ヴァンパイア)」すら屠ってみせた、あの男なのだから。

 

『面を上げよ』

 

 と、伏せる男の頭上から声が掛かる。荘厳ではあるものの、何処か色香すら漂う、惚れ込んでしまいそうな声である。とても同性の物とは思えない。

 だが、男は面を上げなかった。明らかに上位者だと分かっているにも関わらず。

 

『どうしました、継国(つぎくに) 縁壱(よりいち)。豊臣様の御前ですよ?』

 

 すると、別の声が男――――――継国(つぎくに) 縁壱(よりいち)を咎めた。男とも女とも取れる中性的な声質で、聞くだけでこちらを惑わす感覚がある。

 しかし、それでも縁壱は面を上げず、それ処か目すら開けていない。お前など眼中に無い、という強い意志の表れであろう。

 

『そうですか。……人間の分際で(・・・・・・)。ならば、思い知らせてあげましょう。己の無力と、種族の差を(・・・・・)。【楽園へと導く魔法(アンシレーシエラ)】』

「………………!」

 

 それを見た中性的な声の主が、怒りのままに魔法を発動した(・・・・・・・)。同時に縁壱の視界が揺らぎ、懐かしい景色と温かさが彼を包む。

 

「縁壱さん!」

「うた……?」

 

 さらに、この世で最も愛おしく守りたかった存在が、縁壱を抱き起こした。彼女は「うた」。かつて実家を出奔した縁壱と出会い、孤独な彼を十年間支え続けた、心身共に美しい女性だ。

 だが、縁壱との子供を授かり臨月を迎えた日、彼が産婆を探しに行っている間に、通りすがりの「鬼」によってお腹の子供ごと殺されてしまった。その時のショックと怒りにより縁壱は鬼狩りの剣士となる決意を固めたのだ。言うなれば、うたは縁壱にとって人生の分岐点となった女性なのである。

 そんな今でも愛してやまない、而して会う事は叶わない筈のうたが、目の前に居る。確かな息遣いと、優しい温かみを感じる。そう、彼女は蘇ったのだ――――――、

 

「フンッ!」

 

 しかし、そんな都合の(・・・・・・)良い幻想(・・・・)など、縁壱には通じなかった。

 

『いや、あの……気合で何とかするの止めて貰えます? これ、そういう魔法じゃないから……』

 

 まさか、自身の魔法が気合だけで打ち破られるとは思ってもみなかったのか、中性的な声の主は一瞬で自信を失くしてしまう。何せ【楽園へと導く魔法(アンシレーシエラ)】に取り込まれた者は全ての感覚が狂わされ、幻を現実の物として体感してしまう代物だ。誤認なんて生易しい物ではない。目に見え、臭いを嗅ぎ、耳で聞いて、肌で感じるのである。常人処か専門家たる陰陽師や妖術師、自身と同じ(・・・・・)魔性の類(・・・・)ですら、術中に嵌まれば抜け出せなくなる。それを気合の喝で一発とか、自信を失くしても仕方ない。

 

『素晴らしいな。流石は鬼舞辻(きぶつじ) 無惨(むざん)を斃す為に生まれた男。神の使徒という訳だ』

 

 だが、色っぽい渋声の主は逆に気に入った様子で、パチパチとわざとらしい拍手を送る。

 

「………………」

 

 その言葉を聞いて、縁壱は初めて面を上げた。今の彼にとって“神の使徒”など、侮辱か罵詈雑言でしかない。

 この時、縁壱は初めて声の主たちの顔を見たのだが……渋い方は「豊臣(とよとみ) 秀吉(ひでよし)」、中性的な方は秀吉の側近たる「石田(いしだ) 三成(みつなり)」、その人であった。

 しかし(・・・)縁壱には(・・・・)分かっている(・・・・・・)その姿が(・・・・)まやかしで(・・・・・)本性は全くの(・・・・・・)別物だと(・・・・)いう事を(・・・・)。どちらも日本人離れした若々しい容姿をしている上に、両者共に二本の角が生えている。どう考えなくても人外だ。それもかつて縁壱と巌勝が討ち取った黄金卿と同じ「真祖吸血鬼」である。日本の頂に立つ者たちが、危険な外来生物に取って換わられているなど、悪夢という他無いだろう。

 

『貴殿を前に隠し立てする意味も無かろう。故に、改めて名乗らをば。我が名は「シュラハト」。「全知」を司る、魔王の側近だった者だ』

『そして、(わたくし)は「グラオザーム」。「奇跡」を体現する、「七崩星(グロセ・ベーア)」の一柱です。以後、お見知り置きを……』

 

 そして、かの黄金卿、アウラに続く、三番目と四番目に観測された「真祖吸血鬼」たちは名乗りを上げるのだった。




◆全知のシュラハト

 かつて魔王の側近を務めた大魔族。未来を見通す魔法を操り、“千年後の魔族の未来”の為に暗躍し、やがて同じく未来視の能力を持つ「南の勇者」を排除する為、「七崩賢」を率いて彼と戦い、三名の「七崩賢」と共に相討ちとなった。「南の勇者」スゲェ。魔族とは思えない程に協調性があり、八十年後の未来でマハトの記憶を読み込んでいたフリーレンに回想越しに話し掛けるなど、底知れぬ異質さを放っていたが、それらの謎が解き明かされる事無くこの世を去った。
 この世界では「真祖吸血鬼」として暗躍。魔王に該当する人物処か魔族すら居ない世界である為か、「今度は自分の好きに生きる」事を指標にしている。何時から秀吉に成り代わっていたのか、そもそも秀吉という人物自体が存在したのかは不明。
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