鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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それは人を惹き付ける、望郷の山


忘れずの山

 ――――――奥羽山脈(おううさんみゃく)蔵王連峰(ざおうれんぽう)、「不忘山(ふぼうさん)」。

 

「いや~、中々に有意義な時間だったな~。人間、やっぱり腹割って話さんとな!」

「そうですかね? 滅茶苦茶隠し事されてたと思いますが。そもそも相手、人間じゃありませんし……」

 

 米沢城(よねざわじょう)への帰り道、伊達(だて) 政宗(まさむね)片倉(かたくら) 小十郎(こじゅうろう)は呑気に話しながら、フラフラと歩いていた。

 

「……あいつら、どう動くかねぇ?」

 

 ふと、政宗がそんな事を尋ねる。言葉とは裏腹に、何かを確信しているようだ。人に聞いているようで、その実答え合わせでしかない、独り言のような物である。

 

「それは我々に協力するかどうか、ですか? それとも寝首を掻いて来ないか、ですか?」

 

 しかし、それに答えるのが出来る家臣というもの。

 

どっちもだ(・・・・・)。あいつらが隠し事をしているなんて百も承知だし、狼に人情を求める方が間違ってるだろ。あいつらにとって、俺ら人間は餌でしかないんだからな。あくまで利害が一致しているだけの間柄だよ」

 

 そう、「魔族」も「鬼」も「吸血鬼」も、人食いの化け物である事に変わりは無い。「鬼」とは交渉の余地が無いから排除対象にしているだけ。使える物は使うのが伊達男なのだ。

 

「そもそも、押し掛けて脅したのはこっちだしな。警戒するなってのは筋違いってなもんだ」

「それはそうでしょう。私もあなたの言動には困り果てております」

「……お前、オレの事何だと思ってんだ?」

「エキセントリック少年暴威(ボウイ)

「誰なんだそいつは」

「あなたの事です」

「そうかそうか。とりあえず晒し首が良いか?」

「ご冗談を。唯でさえ冗談みたいな人なんですから、自覚して下さい」

「良い性格してるぜ、お前さん」

「お褒めに与り光栄の至りです」

「褒めてねぇよ」

 

 楽しい主従だった。

 

「――――――それにしても、夜の森ってのも風情があるなぁ」

 

 周囲を見渡しながら、政宗が呟く。昼間なら五葉松や這松、大白檜曽が綺麗な山道だが、夜は黒い針葉が月明りの空を串刺して暗闇に閉ざし、梟や夜鷹の鳴き声が響き、時折狼の遠吠えが轟く、非常に不気味な森となる。これの何処に風情があるのか。

 

「“みちのくに 阿武隈川の あなたにや 人忘れずの 山はさがしき”」

「「古今和歌六帖(こきんわかろくじょう)」ですか。教養だけはあるんですよねぇ、あなた」

「本当に失礼な奴だな。風情が台無しだぜ」

「こんな夜の森で歌うあなたが悪いです」

 

 ご尤もである。

 

「そう言えば、蔵王って昔は「わすれず山」って呼ばれてたんだよな。「不忘山」も元々は「わずれずのやま」って読むし。どんな由来があるのかねぇ?」

「「蔵王」自体は、かの「役小角(えんのおづぬ)」が修行中に顕現した「蔵王権現(ざおうごんげん)」が由来とされているらしいですね。本尊を「吉野(よしの)」から勧請した関係で、そう呼ばれるようになったとか」

「じゃあ、「不忘山」そのものは?」

「あくまで歌枕の名称で、意味合いとしては“忘れられない山”って事です。都から見た感想みたいな物ですね。もっと言えば、その時代は地元では「刈田嶺(かったみね)」って呼んでいたそうですよ」

「つまり、「神道」と「仏教」と「歌枕」の名前があるって事か。中々に面白い話だな」

 

 何とも不思議で、いとおかしい話だ。

 

「そう聞くと、霊験あらたかな場所って感じだな。お祈りでもしておくか?」

 

 そう言って、おちゃらけた感じに政宗が手を合わせる。何処に向けた訳でも無い、何とも空虚な祈りである。とても毘沙門天を信仰している人間とは思えない。

 まぁ、彼は神をも畏れぬ伊達男。戦場のゲン担ぎ以上の意味など無いのだろう。

 

「……そんな事より、気にすべきは別の事でしょう」

 

 すると、小十郎がピタリと足を止め、真剣な声色で言った。

 

さっきから(・・・・・)同じ道を(・・・・)歩いています(・・・・・・)




◆蔵王連峰

 宮城県と山形県の南部県境に連なる山々の総称。古くは「不忘山(わすれずのやま)」「刈田嶺(かったみね)」と呼ばれ、その名残となる神社なども現存している。名前の由来は役小角が信仰する「蔵王権現」で、本尊は奈良にあるのだが、後の時代にこちらへ分祀した為、名称が変わったとされる。今でこそ休火山なものの、何度も噴火している歴史があり、巨大なカルデラ湖が見られたりと様々な地形で成り立っている。
 そんな霊験あらたかな場所であるが、もちろんそこには摩訶不思議な存在が潜む、不気味の谷でもある。
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