鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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しとしと……死と死と。


雨月の物語

 少女は今から数十年前、とある山村に生まれた。母親は妖狐だが父親は人間という、所謂「半妖」であり、二人は愛し合っていたものの周囲の目は冷たく、人間からも妖怪からも蔑まれながら暮らしていた。

 そんなある日、村に七人の落ち武者が流れて来た。おそらく、応仁の乱で負けた何処ぞの豪族だったのだろう。やんごとなき身分の姫君と僅かばかりの財宝を持っていたのだ。

 すると、村人は彼らを受け入れる振りをしつつ、村総出で夜襲を仕掛けて殺し、金品を奪い取った。姫君に関しては散々に弄んだ挙句、山中に捨ててしまう始末。やっている事は山賊と大差は無かった。

 さらに、少女の両親は夜襲に反対していたのだが、他の村人は大賛成だった為、日頃の差別も相俟って、「生意気だ」「恩知らず」「分を弁えろ」「穢れた奴らめ」などと、謂れのない理不尽な言い分で殺されてしまう。

 少女は逃げ出した。悪鬼羅刹のような村人が両親を血祭りに上げたのを見て、山の奥深く――――――半妖でもなければ立ち入れないような険しい深山に逃げ延びたのである。

 その後、村で何があったかは知らない。何時の間にか滅んで、廃墟と化していた。大方、殺された姫君や落ち武者の霊にでも祟られたのだろう。

 だが、それすらも関係ない。何故なら少女は長い年月を重ねる事で、並みの妖怪を超える存在となったのだ。誰の干渉も受け入れず、縄張りを侵さなければ攻撃する事も無い、自由気儘な生活を手に入れた。今更、過去の事に拘って平穏を乱して何になる。だからこそ、少女は過去に目を瞑り、今まで生きてきた。

 しかし、そんな彼女でも対処出来ない問題が起きた。半月前程から、森の中に得体の知れぬ輩が棲み付き始めたのだ。“それら”は狐狸の類よりも人に化ける事に長け、己をも超える力を有している。その上、正体が全く掴めないときた。“それら”は瞬く間に少女の縄張りを侵し、こんな森の外れに追放した。この忌まわしい土地に……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「ようするに、縄張り争いに負けたから、代わりに“それら”を退治してくれって事か」

『端的に言うと、そういう事じゃな。それに、これは人間側も無関係ではない。奴らは山を通り掛かる人間を次々と取り殺し、今や里へ降りようとまでしている。わしは精々追い返すだけじゃが、その時が(・・・・)来たら(・・・)ロクな事にならぬぞ』

「………………」

 

 とりあえず、狐娘の話に耳を傾けていたが、何の事は無い。単純にやくざ者をやれ、と言われているに過ぎなかった。しかも、正体不明の奴らを相手に命を懸けろという。実に割に合わない話で合った。

 

「(……大体こいつの話が本当だった保証も無い。受ける意味があるのか?)」

「(ですが、放置するには危険です。ここ一帯の峠を塞がれると、南部への動きが大きく制限されます)」

「(う~む……)」

 

 とは言え、そんな輩が山を手に入れるだけに飽き足らず、里を目指しているとなると、話は変わってくる。後の事を考えると、見過ごす訳にもいかなかった。

 

「――――――良いだろう、受けてやる。お前の()縄張りとやらに案内しな」

『おお、そうかそうか、受けてくれるか! じゃあ、早速案内するかのう!』

 

 政宗の返事に、狐娘は心底嬉しそうに駆け出した。その無邪気な様は思わず毒を抜かれてしまうが、それが彼女の本性かどうかは分からない。

 

「(少女の涙、か……)」

 

 だが、先程見た涙は間違い無く本物であった。狐娘の精神は、逃げ出したあの時から止まっているのだろう。哀れな話である。

 

「(下らない。目で見て、聞かぬ話など、信ずるに値しない。昔語り程、尾鰭は付くもんだ。ましてや、目の前に居るのは化け狐。真面目に応じて何になる)」

 

 もちろん、“それが本当なら”という枕詞が付いてしまうが。人を化かす狐相手に、真面に向き合うなど馬鹿のする事だ。

 

「(はてさて、どうなる事やら……)」

 

 と、その時。

 

「雨か……」

 

 急に雨が降り出した。雲一つない星空にも関わらず。森の木々が傘替わりとなっているおかげで濡れはしないものの、少なくとも吉兆では無いだろう。

 

 

 

 ――――――雨月の夜、物語は始まる。




◆狐の嫁入り

 妖狐が嫁入り前に降らせるという、不思議な雨。空に雲一つないにも関わらず、しとしとと雨が降り出し、止むまでは山に立ち入ってはならない。単なる俄雨とか言ってはいけない。何故なら目に見える物だけが真実とは限らないのだから……。
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