「
脳裏に浮かぶのは、大切な人の顔。彼女の名は「如蔵尼」。壇ノ浦の合戦で滅びた、平 将門の娘である。世間的には父親諸共死んだ事にされているものの、実際は家臣たちの尽力により遥か遠方の会津まで逃れ、「
だからこそ、如蔵尼が出家した後も友人であり続け、今日を迎える事が出来た。このまま静かな余生を送れればと、心から願っていた。
……一度だけ、復讐心はあるのかと、聞いた事がある。
「無いと言えば嘘になる。……でもね、五月ちゃん。こうして民の暮らしをしてみて、
『………………?』
「それは私の願いでは無く、父の無念なのだと。武家の人間としてかくあれと教えられて来たけど、一度穏やかな生活を知ってしまえば、目も覚める。怖いのよ、死ぬのが。私はこんな事をする為に生まれて来たんじゃない、ってね。……薄情かしら?」
『………………!』
だが、
「見付けたぞ、忌々しい平家の生き残りめ。覚悟致せぇっ!」
「ぎゃあああああっ!」
完全に撒いた筈の追手がやって来て、如蔵尼を問答無用で叩き切ったのだ。それが果たして源氏だったのか朝廷の回し者だったのかは分からないが、そんな事はどうでもいい。問題は心の友が目の前で殺されてしまった事である。
むろん、
『……おのれ……おのれぇええええっ!』
「なっ……ぐぁっ!」
しかし、宿主の身体がもう使い物にならないと判断した
『もっと……もっと……力を……血肉を……この恨み、晴らさでおくべきか……!』
そして、最早誰の物かも分からない憎悪と呪いを身に宿したまま、休眠状態に移行する。
「ひっ……や、やめ……ぐがあああああああああっ!」
さらに、目覚める度に近くの村落を襲い、
『グゥゥ……ギャヴォオオオッ!?』
時には妖怪すら食い殺して、満たされるまで続けた末に再び眠り、目覚めの食事を繰り返した。
そして、九度の目の目覚め。
『い、嫌じゃ……わしは静かに暮らしたいだけなんじゃ……! なのに、どうし――――――いぎっ!? うぐぐぅぅ……ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』
最後の生け贄を食って、
全ては怨念成就の為。自分からあの人を奪った、この世を喰らい尽くすのだ。この空腹を満たし、生き延びる為なら何だってやってやる。
いや、違う。わしは両親を奪った奴らに復讐を……否、私は殺された妹の仇を……違う違う、そうじゃない、僕は、俺は、わたしは、我は、自分は……?
いいや、そう、そうだ、
『……あれ?』
――――――如蔵尼って、誰だっけ?
◆芽殖孤虫
遭遇率は死ぬ程低いが、致死率は百パーセントの恐ろしい寄生虫。人体に入ったが最後、SFに出て来るレベルの爆速で増殖、体内を瞬く間に埋め尽くした後、皮膚まで突き破る勢いで侵食する。駆除薬がほぼ効かない為、治療法は外部から摘出するしかないのだが、当たり前だが全身を切り落としたら死ぬので、普通にジ・エンドである。
個体数の少なさ故か成虫を発見出来ておらず、一説には「ずっと幼虫のままなのでは?」と言われる事さえある。