鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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五分の魂、百まで。

五月(さつき)ちゃん」

 

 脳裏に浮かぶのは、大切な人の顔。彼女の名は「如蔵尼」。壇ノ浦の合戦で滅びた、平 将門の娘である。世間的には父親諸共死んだ事にされているものの、実際は家臣たちの尽力により遥か遠方の会津まで逃れ、「慧日寺(えにちじ)」の尼僧となっていたのだ。

 自分(・・)は、彼女に飼われていた、一匹の野狐。それも体内に特別で恐ろしい「呪い」を宿した、妖怪変化の類であった。如蔵尼と出会ったのは、彼女がもっとずっと幼い頃。怪我をして動けなくなっていた所を助けられ、それ以来人に化けながら遊ぶ間柄となっていた。当然、落ち延びる時も手を貸した。激しい源氏の追撃を撒けたのは、自分(・・)のおかげと言っても良い。

 だからこそ、如蔵尼が出家した後も友人であり続け、今日を迎える事が出来た。このまま静かな余生を送れればと、心から願っていた。

 ……一度だけ、復讐心はあるのかと、聞いた事がある。

 

「無いと言えば嘘になる。……でもね、五月ちゃん。こうして民の暮らしをしてみて、目が覚めたの(・・・・・・)

『………………?』

「それは私の願いでは無く、父の無念なのだと。武家の人間としてかくあれと教えられて来たけど、一度穏やかな生活を知ってしまえば、目も覚める。怖いのよ、死ぬのが。私はこんな事をする為に生まれて来たんじゃない、ってね。……薄情かしら?」

『………………!』

 

 自分(・・)は首を振った。如蔵尼の気持ちは良く分かる。というか、野生動物の目線で言えば、異常なのは武士の生き方である。何で生きる為に産まれて来たのに、死んだ奴らの為に命を投げ打つ必要があるのかと。

 だが、自分(・・)はその考えを、後に己自身が否定する事となる。

 

「見付けたぞ、忌々しい平家の生き残りめ。覚悟致せぇっ!」

「ぎゃあああああっ!」

 

 完全に撒いた筈の追手がやって来て、如蔵尼を問答無用で叩き切ったのだ。それが果たして源氏だったのか朝廷の回し者だったのかは分からないが、そんな事はどうでもいい。問題は心の友が目の前で殺されてしまった事である。

 むろん、自分(・・)は真っ先に気付いて止めようとしたものの、向こうもそれは百も承知だったのか、護衛たる自分(・・)を最初に斬り飛ばし、次いで如蔵尼を殺めた。相当な手練れかつ怪異に慣れた者だったのだろう。そいつは袈裟に斬った如蔵尼の頸をも撥ね、印として持ち帰ろうとした。

 

『……おのれ……おのれぇええええっ!』

「なっ……ぐぁっ!」

 

 しかし、宿主の身体がもう使い物にならないと判断した寄生虫(のろい)が、自分(・・)を食い尽くし暴走、近くに居た追手は勿論、如蔵尼の死体すら吸収し、果ては周囲の村人たちをも手当たり次第に食い散らかした。

 

『もっと……もっと……力を……血肉を……この恨み、晴らさでおくべきか……!』

 

 そして、最早誰の物かも分からない憎悪と呪いを身に宿したまま、休眠状態に移行する。

 

「ひっ……や、やめ……ぐがあああああああああっ!」

 

 さらに、目覚める度に近くの村落を襲い、

 

『グゥゥ……ギャヴォオオオッ!?』

 

 時には妖怪すら食い殺して、満たされるまで続けた末に再び眠り、目覚めの食事を繰り返した。

 そして、九度の目の目覚め。

 

『い、嫌じゃ……わしは静かに暮らしたいだけなんじゃ……! なのに、どうし――――――いぎっ!? うぐぐぅぅ……ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』

 

 最後の生け贄を食って、自分はわしになった(・・・・・・・・・)

 全ては怨念成就の為。自分からあの人を奪った、この世を喰らい尽くすのだ。この空腹を満たし、生き延びる為なら何だってやってやる。

 いや、違う。わしは両親を奪った奴らに復讐を……否、私は殺された妹の仇を……違う違う、そうじゃない、僕は、俺は、わたしは、我は、自分は……?

 いいや、そう、そうだ、自分(・・)は如蔵尼の為に、

 

『……あれ?』

 

 ――――――如蔵尼って、誰だっけ?




◆芽殖孤虫

 遭遇率は死ぬ程低いが、致死率は百パーセントの恐ろしい寄生虫。人体に入ったが最後、SFに出て来るレベルの爆速で増殖、体内を瞬く間に埋め尽くした後、皮膚まで突き破る勢いで侵食する。駆除薬がほぼ効かない為、治療法は外部から摘出するしかないのだが、当たり前だが全身を切り落としたら死ぬので、普通にジ・エンドである。
 個体数の少なさ故か成虫を発見出来ておらず、一説には「ずっと幼虫のままなのでは?」と言われる事さえある。
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