鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

9 / 47
その理想郷は黄金に輝いているか?


黄金の国「ジパング」

『実に下らんな』

 

 そいつは、部屋の中を見渡しながら吐き捨てた。

 

『こんな物を手に入れる為に、何故こうも争うのか』

 

 さらに、窓外の景色を眺めつつ、追加の毒も振り撒く。

 もちろん、ここはこいつの言うような、下らない場所ではない。この屋敷はとある貴族から奪い取った物であり、家具や調度品は当然として、壁も床も天井も窓も扉も外観も庭園も、全てが一級品である。誰がどう見ても文句の付けようが無いだろう。

 眷属だって、きちんと作っている。屋敷を奪った時に取り込んだ当主、令嬢、執事の三人は、新たな真祖に為り得る程に成長した。「真祖(トゥルー・)吸血鬼(ヴァンパイア)」の一角として、当然の事をしたまでだ。

 少なくとも、こいつにとやかく言われる筋合いは無い。こいつは同じ真祖だと言うのに、眷属を作るでも覇権を争うでもなく、常に独りである。

 しかし、こいつは他の真祖には無い物を持っている。

 

『こんな物、俺の手に掛れば、全て無意味だ』

『ああっ、私のおやつが!』

 

 奴が指で弾くと、おやつに用意していた林檎が一瞬で黄金に変換された。

 

『いや、触れるまでもない。眷属も、権力も、俺の視線にさえ耐えられないのだ』

『ちょっと、お気に入りの銀の十字架(ロザリオ)を金にしないでよ!』

 

 林檎だけではない。奴が見遣るだけで、何もかもが黄金に変えられてしまう。

 そう、こいつが隠居した爺みたいな生活を許されている理由が魔法(これ)だ。こいつは探知・認識した物を黄金に変換出来る、【万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)】を操る。この魔法で変えられた黄金は、そう見えるだけで実際は“絶対に破壊不可能な呪物”であり、彼はそれらの黄金を武器や盾、拘束具として使う。この呪い染みた魔法の前には、人間の英雄処か同じ真祖でさえ相手になり得ない。

 その上、魔力も相応に強く身体能力も高いので、魔法抜きでも間違いなく別格の真祖である。少なくとも、私たち七柱の真祖集団「七崩星(グロセ・ベーア)」では最強と称しても過言では無い。

 事実、私では全く相手にならないし、そんな私が黄金の調度品に変えられていないのは、偏にこいつの気紛れであり、幼馴染という立場のおかげだろう。本当に嫌になるくらい差が付いた物だ。

 

『――――――俺はこれから「ジパング」に向かう』

 

 と、私への嫌がらせを終えて満足したのか、突拍子も無い事を言い出した。

 

『「ジパング」って、例の黄金郷でしょ? “黄金の眠る極東の島国”。……あんな物、唯の噂話じゃない。あんた、マルコ・ポーロの与太話を信じてる訳?』

『信じるか信じないかは、俺の勝手だ。伝説とは、そういう物だろう?』

 

 だが、私が苦言を呈しても、奴が気にする様子は無い。

 

『大体そんな島国に行って、何をするのよ?』

『……俺は“黄金のような体験”をしたいんだ。たった数日、一陣の風にも満たないような物だとしても、情熱的な一時を味わいたいのさ。ここで、それが叶う事は無い。だからこそ俺は、俺だけの黄金郷を見付けに行く』

 

 しかし、私の率直な疑問には答えてくれた。まるで人生に疲れた老人のような、それでいて夢見る少年を思わせる雰囲気で。顔が無表情過ぎて、本当にそうなのかは分からないけれど。

 

『何よ? 私と話す時間さえも無駄だったって事?』

 

 というか、共に過ごした時間を下らないと、他ならぬ本人の前で言い切るのもどうなのよ?

 すると、奴は私の方を金属のように冷たい目で見遣り、

 

『そうかもな。お前は本当に下らない。魔力も魔法も取るに足らず、正面からでは「七崩星」の誰にも敵わない。何時もコソコソと俺の後ろに隠れ、人間の魔女狩りからさえも逃げ出す、真正の臆病者だ』

『滅茶苦茶に見下げ果てるじゃない。それが幼馴染への言い草?』

『事実だろう。だからこそ生き延びているとも言えるが。……お前はずっと、そのままでいろ』

 

 そう言って、奴は今度こそ踵を返し、本当にジパングへ行ってしまった。

 そして、そのまま人間たちに討ち取られ、異国の地で果てる事となった。馬鹿みたい。結局は死んでるじゃないのよ。しかも、現地の戦闘集団と全面戦争した末に、戦力を八割方減らして事実上の壊滅状態にさせてるし。争いなんて下らないんじゃなかったの?

 まぁ良いわ。おかげで脅威は大分減ったし、あいつの手柄を横取り出来れば、少しは意趣返しになるでしょ。事実、目を掛けた眷属の大幹部三人衆である「首切り役人」を先遣隊として送り込み、目立たないよう慎重に事を運んだからか、あっと言う間に九州地方は手中に収められた。本土の方だって、何れ支配してやるわよ。

 ……そう思っていたのに。

 

『来るわよ、アウラちゃん♪』

『何なのよ、まったく……!』

 

 現在、私は命の危機に瀕している。

 というか、少し前からロクな目に遭っていない。ソリテールとかいう意味不明な化け物に、私の【服従させる魔法(アゼリューゼ)】を逆用されて、今やこいつの奴隷みたいな物だし。

 さらに、何者かが仕掛けた罠に掛かったらしく、知らぬ間に「首切り役人」は全滅していた。眷属、領地、拠点……最早、私には何も残っていない。

 そして今、あいつを討伐した剣士の片割れらしき侍に襲われている。恨みはないとか言ってるけど、顔がウッキウキですよ。あと、何かポッと出の壺魔人みたいな奴は、さっさと逃げ出したわ。壺に引っ込めば転移出来るとか卑怯でしょ。

 

『くっ、舐めんじゃないわよ! 【服従させ(アゼリュ)――――――』

「遅い」

『ぐふっ!?』

 

 【服従させる魔法】を使おうとしたら、一瞬で距離を詰められて、先ずは腕を、次いで全身を切り刻まれ、あっさりと完全敗北してしまった。何よこいつ、強過ぎるじゃない。これじゃあ、本当にあいつの言う通りの雑魚じゃないのよ。

 だけど、舐めないで欲しいわ。私の再生能力は「七崩星」では最高峰。例え自害を命じられて己の首を刈ってしまおうが、当たり前のように修復してみせるわ。

 

「フン、まるで火虫のような生命力だな。汚らわしい」

 

 おい、それゴキブリの事だろ、ふざけんなよ。

 

「そう言えば、貴様も真祖のようだが、奴とは知り合いなのか? 名は確か……「ミダス」だったか?」

『全然違うわよ!』

 

 あいつ、何で歴史に偽名を刻もうとしてんのよ。しかも「ミダス(そいつ)」、フリギアの馬鹿王じゃないの。どうしてドイツの真祖がギリシャ人を名乗ってんのさ。黄金郷を探している暇があったら、ロバの耳でも生やしてなさい!

 

「まぁ良い。貴様など、奴とは比べるべくもない。……業腹だが、奴は確かに強かった。縁壱一人では仕留め切れないと確信出来る程に。だが、貴様はどうだ? 取るに足らない火虫よ。目障りだ。お前はずっと(・・・・・・)そのままでいろ(・・・・・・・)

『………………!』

 

 その言葉だけは、お前に言われる筋合いは無い。言わせてなる物か。

 私は「アウラ・フォン・フォルシュトレッカー」、最弱にして最初の「七崩星」なのよ!




◆七崩星

 ドイツを中心としたヨーロッパ諸国を支配する、七人の「真祖吸血鬼」。有象無象の真祖とは別格の存在であり、彼らの操る魔法は神の領域に達しているとさえ言われている。特に【万物を黄金に変える魔法】の使い手は最強の存在とされ、同じ「七崩星」でも相手にならない。その目的は釈然としないが、「七崩星」すら超える“神の如き存在”を生み出そうとしているとか、していないとか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。