潮騒を追う夜雨   作:竹河参号

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第一幕 惹かれ合う声(2)

 同行を許されていない秧秧(ヤンヤン)熾霞(シカ)とは辺庭の前で別れ、漂泊者と追跡者は職員の案内に従った。何度も辺庭内外を往復し、少し疲れた様子を見せる職員は、しかし二人を門前払いすることなく、奥の応接室へと案内した。大きな盆栽が植えられた廊下の先、龍を象る調度が配された応接室で、二人は待った。

 日中は城外で残像と戦いながら山道を抜け、城内では熾霞(シカ)に振り回された二人の腰を、柔らかなソファが受け入れた。もてなしのために淹れられた茶の香りが部屋全体に広がり、二人をリラックスさせる。応接室に一人の人物が現れたのは、二人が完全に気を緩めたころだった。首元に数珠を提げた、黒衣の怜悧そうな女性だ。これが今令尹(レイイン)近衛、散華(サンカ)という人物か。

 散華(サンカ)はまず、漂泊者を見た。赤い瞳の右片方に、輝く音痕が現れる。骨の髄まで見透かされそうな冷たい視線を、漂泊者は黙って受け入れた。

 ――闇の中に浮かび上がる周波数。生来盲目だった散華(サンカ)の瞳に、澄んだ黄金色が映った。

 

 

(間違いない。この方だ)

 

 

 散華(サンカ)は無言で目つきを緩めた。何も知らない漂泊者は、不思議そうに首を傾げるばかりだった。

 続いて、隣に座る追跡者に視線を合わせた途端――

 

 

「――ッ下がって!」

 

 

 ぎゃりり、と空気が軋み、凍り付いた。

 散華(サンカ)は流れるように漂泊者を背後に庇い、腰の迅刀を抜き放った。瞬時に形成された氷山が、その棘を追跡者へと伸ばす。追跡者は咄嗟に飛びずさりながら、左手を突き出し火焔の波を噴き出した。戦技“炎撃”――内なる魔力を炎に変え、手掌から噴き出す攻撃。“星砕きのラダーン”が率いた、赤獅子の騎士に由来する戦技。氷棘と炎波が衝突し、ばぁんと空気が破裂した。

 

 

「……何のつもりだ?」

 

 

 氷棘と炎波の破片がはらはらと謁見室を舞う中、追跡者は低い声で問うた。兜のスリットの奥の瞳は、すでに獰猛な戦闘者のそれに変わっている。それに真正面から立ち塞がるのは、ぎらりと反射する迅刀を構え、右目の音痕を輝かせながら睨みつける散華(サンカ)

 

 

「これが、『今州流のもてなし』とでも言うつもりか? 随分と野蛮な文化だ」

「とぼけないで」

 

 

 背負った大剣に手を掛け、敵意を漲らせる追跡者を、散華(サンカ)は低い声で牽制した。一瞬の激突により調度を荒らされた応接室は、一触即発の空気に包まれた。

 散華(サンカ)がこのような蛮行に出たのには、理由がある。

 とある海蝕現象から生き延びた彼女は、しかしその眼を残像の周波数に冒され、以後その眼には生物の周波数しか映らなくなった。それは奇跡の代償でもあり、不滅の呪いでもあったが――少なくとも今令尹(レイイン)今汐(コンシ)に仕えるようになってからは、有用な手段として用いてきた。

 ――その眼が、かつてない危機感を伴って、散華(サンカ)に警告を与えている。背後に庇った漂泊者の、澄んだ鮮明な周波数とは根本的に異なる。ただの人間とも、尋常の残像とも違う。複数のノイズが歪み、狂い、おぞましい反響を放っている。およそまっとうな人間のそれではない。

 どれだけ外見を取り繕おうと、その身が発する周波数を隠すことはできない。これほどの異状に対する心当たりは、ただ一つ。

 

 

(まさか、残星組織(フラクトシデス)……? こうもあっさりと引っかかるとは思わなかったけれど……これはこれで、好都合――!)

 

 

 有象無象の被験者(アーティファイサー)ではない、“監察”が乗り込んできたか。絶好の機会に、散華(サンカ)は凍える闘気を迅刀に纏わせ――

 

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

 

 そこに、漂泊者が割り込んだ。

 

 

「あなたが、散華(サンカ)?」

「自己紹介はあとに。()()を危険な目に遭わせるわけにはいきませんので」

「待って、待って」

 

 

 いつの間にか正面に回り込んだ漂泊者を、しかし構わず背後に庇おうとする散華(サンカ)に、漂泊者は食い下がった。

 

 

「この人は『追跡者』。私と同じ記憶喪失で、悪い人じゃないよ」

「ですが――」

「私が『重要な客人』なのであれば、『便宜を図り、精一杯もてなす』必要があるんでしょ? 私の仲間ってことで、警戒を緩めてくれないかな」

 

 

 えへへ、と間抜けな顔で懇願する漂泊者に、どう相対するのが正解なのだろうか。今にも大剣を抜き放ち斬り掛かろうとする追跡者は参考にならない。兜のスリットの奥で輝く青い瞳は、寸毫もの躊躇を宿していない。

 主君の命令、今州を守る使命、客人の懇願、不審な人物への警戒――散華(サンカ)の脳裏の天秤は、ぐわんぐわんと激しく揺さぶられた。

 

 

「……記憶喪失というのは、本当?」

「全てではないが。少なくとも――瑝瓏という国も、今州という土地も()()()()()()()()

「――……信じましょう」

 

 

 そう言って、散華(サンカ)は迅刀を納め戦意を手放した。

 ――全てを信じるつもりはない。客人には悪いが、無条件に気を緩める理由にはならない。だが……この瑝瓏は今州、その中枢たる辺庭のど真ん中で、「それらを一切聞いたことがない」と言い切るのは、騙しの手品としてはあまりにもお粗末だろう。()()()()()に修正を加えつつ、散華(サンカ)は姿勢を正した。

 一方、何かしらの納得を得られたらしいと判断した追跡者も、戦意を収め大剣から手を離した。彷徨の戦士として旅をしてきた身、謂れのない敵意には慣れている。

 

 

「悪いな。助かった」

「いいや。攀花(パンファ)食堂で奢りね」

「俺は無一文なんだが……」

 

 

 追跡者の礼に対し、漂泊者は軽口を投げた。同じ無一文の身で、つくづくいい度胸をしている。

 

 

「改めまして。令尹(レイイン)近衛の、散華(サンカ)と申します。

 先ほどは、無礼を働き申し訳ありません。令尹(レイイン)様のご命令で、少々気が張っていたようです」

 

 

 先ほどとは打って変わって丁寧な散華(サンカ)の謝罪に、追跡者は無言で手を振った。漂泊者が『重要な客人』である以上、遺恨を起こしてもしょうがない。

 

 

「現在、令尹(レイイン)様は辺庭を離れておいでですが、出立前にあなた様へ――漂泊者様へ、贈り物と『ある印』をご用意されました。本日はそちらをお渡しします」

 

 

 そう言うと、散華(サンカ)は漂泊者に四つの品物を渡した。てっきり直接的な言伝があると思っていた漂泊者は、盛大な肩透かしを食らった気分だった。

 

 

令尹(レイイン)様曰く、言葉で説明せずとも、その『印』が指す場所に、あなたが求める答えがある――とのこと。

 期限は三日。それまでであれば、令尹(レイイン)様に必ずお会いできます」

 

 

 それきり、散華(サンカ)はきりりと口を閉ざした。「これ以上述べることはない」とでも言いたげだ。追跡者を退室させようとしない辺り、『二人きりなら教えてくれる』といった様子でもない。

 ――つまり、こうだ。

 今すぐ会うことはできない。場所も明かせない。三日以内に『印』の謎を解き、自分に会いに来い。

 漂泊者はうーむと考え込んだ。頭を抱えたい気分だった。令尹(レイイン)の言う『周囲で起きている奇怪な現象』を、御自ら増やされた気分だった。

 

 

「――聞きたいことがある」

 

 

 そんな漂泊者の横で、追跡者が手を挙げた。

 

 

「『印』と期限のことであれば、私から申し上げることはできません」

「それはいい。謎解きは俺の得意分野じゃない」

 

 

 二人の想像通り、散華(サンカ)は『印』に関する回答を拒んだ。あるいは彼女自身、『印が意味するもの』を直接知っているわけではないのかも知れない。

 無論、それに付いて食い下がる気はない。自分にできることは戦うことであって、暗号を解読することではない。あるいは()()()()がいれば、その知恵を借りることも可能だったかもしれないが……――無為な仮定はよそう。今となっては、どうしようもないことだ。

 

 

「お前たちは、“エルデの黄金樹”を知っているか?」

「……? 何のこと?」

「――……分からないのなら、いい」

 

 

 心底不思議そうに首を捻る散華(サンカ)に対し、追跡者は話題を切り上げた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ひとしきり説明を終えた散華(サンカ)は、去り際に漂泊者へと声を掛けた。

 

 

「デバイスを貸していただけますか?」

「デバイスを? 連絡先の交換?」

 

 

 このおちゃらけた反応をする漂泊者を、そろそろ止めるべきだろうか。追跡者は迷った。少なくとも目の前の散華(サンカ)が好意的な反応を見せていない辺り、今州で一般的なやり取りというわけではなさそうだ。

 

 

「……私の配慮が不十分でした。巡寧所などの公共機関の連絡先を、あなた様のデバイスに登録しておきます。

 また、通行権限の認証にはデバイス操作が必要です」

 

 

 漂泊者の冗談に付き合わず、散華(サンカ)は「併せてデバイスをアップグレードします」と述べた。機能が追加され、野外での活動がしやすくなるらしい。

 ――『印』の謎を解くにあたって、今州城のみならず、野外に探索に行くことを想定しているのだろう。逆らう理由もなく、漂泊者はデバイスを差し出した。

 

 

「そうだ。私はデバイスを持っているけど、追跡者は持っていないんだ。融通してくれると助かるんだけど」

「分かりました。夜帰軍の厳彦(ゴンゲン)という教官に問い合わせてください。予備を支給するよう通達しておきます」

 

 

 漂泊者のデバイスをコンソールに接続し、慣れた手つきでアップグレード作業を進める傍ら、散華(サンカ)は漂泊者の依願に応えた。最初から了解済みだったのか、それとも……いずれにせよ、仕事のできる女は好印象だ。

 やがてアップグレード作業が終わり、散華(サンカ)はデバイスを返却した。何気なく受け取った漂泊者は、そこに残されていた一つのメッセージに瞠目した。

 

 

『もしも追跡者が不審な動きを見せれば、すぐにご連絡を』

 

 

 漂泊者は思わず散華(サンカ)を見た。彼女はつんとすまし顔を保ったまま、漂泊者と追跡者を見守っていた。追跡者への警戒を緩めないのもさることながら、このような仕込みまでやってのけるとは、とんだ鉄面皮だ。漂泊者は思わず圧倒された。

 

 

「失礼ながらお尋ねですが、宿泊される場所はお決まりですか? もしまだでしたら、令尹(レイイン)様が辺庭内に手配された部屋をご利用ください。追跡者様の分も、これより支度します」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「ご入用でしたら、私にお声がけください。すぐにご案内いたします」

「いや。今は仲間を待たせているから」

 

 

 それを最後に、二人は散華(サンカ)と別れた。辺庭の外へと向かう廊下で、追跡者は漂泊者に耳打ちした。

 

 

「ところで、何を受け取ったんだ?」

「これ」

 

 

 追跡者の問いに、漂泊者は渡された『印』を取り出した。

 微かな香りがする黒い果実。珍しい紫色の葉っぱ。複数の文字が刻まれた小型装置。真珠のような丸い飴。

 

 

「ただの贈り物、という感じではなさそうだな」

「これを手掛かりに、令尹(レイイン)の居場所を探れってことなんだろうね」

「……謎解きは苦手だ。一人で頑張ってくれ」

「おい」

 

 

 露骨に兜を逸らす追跡者の言葉に、漂泊者が思わずツッコんだ。折角、一緒に考える頭脳が増えたと思ったのに……

 ともあれ、辺庭から出た二人を、秧秧(ヤンヤン)熾霞(シカ)が出迎えた。

 

 

「結構時間がかかったね。もしかして令尹(レイイン)様、けっこう話が長いタイプ?」

「それが……」

 

 

 熾霞(シカ)の軽口を躱し、漂泊者は一連の説明をした。令尹(レイイン)自身には会えなかったこと、代わりに『印』を渡されたこと、三日以内にその謎を解かなければならないこと……

 漂泊者の説明を危機ながら、見る見るうちに顔を青ざめさせていく秧秧(ヤンヤン)に、最初に気付いたのは追跡者だった。

 

 

秧秧(ヤンヤン)、どうした」

「……風の中に不穏な、怪しい気配が漂っています」

 

 

 彼女の不安はもっともだろう。次々と蘇る無音区、未観測の強大な残像、そして令尹(レイイン)の不在――不吉の前兆としては、あまりに揃い過ぎだ。

 

 

「今州は、どうなってしまうのでしょうか……」

 

 

 深く俯く秧秧(ヤンヤン)に、熾霞(シカ)はかける言葉が見つからなかった。中天の太陽はすでに沈み、四人のいる辺庭も闇に覆われ始めている。市井の灯りは、闇を振り払うにはあまりに心細い。

 そんな中、

 

 

「それより、晩御飯何食べる?」

「そうだなぁ、お腹空いたから今州ごった煮――ってちょいちょいちょーい! 秧秧(ヤンヤン)は真面目な話をしてるんだよ!」

 

 

 漂泊者の呑気な言葉に、思わず流されそうになった熾霞(シカ)は、身を滑らせながらツッコんだ。

 不吉の前兆、その渦中――それにしてはあまりに平然としている漂泊者に、秧秧(ヤンヤン)は思わず顔を上げた。

 

 

「焦っても、悩んでもしょうがない。やれることを順番にやっていく――それが一番だよ」

「そうだな。浮足立つより、一歩ずつ前に進む。そうしなければ、道を切り拓くことはできない」

 

 

 泰然自若――まさにそれを体現する漂泊者と、それに同意する追跡者。二人の言葉に、秧秧(ヤンヤン)はふっと笑った。

 そうだ、足を止めて悩んでいても仕方ない。焦らず、恐れず、できることを積み上げていくしかない。

 

 

「……そうですね。お二人もお疲れでしょうし、まずは晩御飯にしましょうか」

「じゃあ、攀花(パンファ)食堂にレッツゴー!」

 

 

 元気を取り戻した熾霞(シカ)の案内で、四人は今州市場へと降りていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、食べた食べたー! 二人はどう? 満足した?」

 

 

 攀花(パンファ)食堂。今州ごった煮に王者ラージャンを利かせた逸品を平らげ、熾霞(シカ)は満足げにお腹をさすった。

 

 

「すごく美味しかった。さすが熾霞(シカ)の行きつけだね」

「旨かった」

 

 

 同じように満足げな表情を浮かべる漂泊者と、言葉少なに兜を被り直す漂泊者。

 ――美味だった。瑝瓏特産の香辛料を利かせた煮込み料理は、故郷の味を思い起こさせなかった。

 

 

「漂泊者さん、追跡者さん。これからのご予定はありますか?」

「そうだね……令尹(レイイン)からもらった『印』について、調べようと思う」

「見せて貰えますか?」

 

 

 秧秧(ヤンヤン)の問いかけに、漂泊者は『印』の四つを取り出し、皿を除けながら卓に広げた。それを覗き込んだ二人も、漂泊者と同じ肩透かしを味わったようだった。

 

 

「何か思ったより小さいね。特別なところは見当たらないけど……」

「二人は、何か見覚えがある?」

 

 

 ここから先は、今州に馴染み深い二人に懸かっている。熾霞(シカ)はまず、飴玉を拾い上げた。

 

 

「これは――丸っこい! 子供のころに食べたことある、まさに飴玉って感じ!

 でも今じゃあまり見ないよね……もう流行ってないのかな?」

「懐かしい……これ、とても甘いんですよね……

 子供のころ、注射が苦手だったのですが、注射を終えた後に看護師さんから、ご褒美としてこのような飴をもらいました」

 

 

 秧秧(ヤンヤン)の懐かしむような言葉は、漂泊者の心のノートにしかと書かれた。子供のころ――病院に関係する――

 次に、追跡者が小型装置を取った。表面に文字のような、模様のようなものが描かれている。

 

 

「これは……文字か。何が書いてあるんだ?」

「まず外側にあるのは、瑝瓏の『十二支』――十二刻を司る獣の名です。内側にあるのが『四霊』――四方を司る聖獣の名ですね」

「時刻と、方位を示すということか」

「つまり、日時計ということでしょうか……? しかし、一般的な日時計の目盛りは二十四……季節や月の表示がある場合もあるのですが、この日時計の文字盤はそれとも少し違うようですね」

「そもそも、日時計は昼間しか使えないものだ。これ自体を使えという意味ではない……?」

 

 

 灯りの下でくるくると傾けてみても、変化は現れない。何か特別な周波数エナジーが宿っているようにも見えないが――これをどうしろというのだろうか。

 次に、熾霞(シカ)が紫の葉っぱを取った。

 

 

「この葉っぱの色、変わってるね。何て名前かは知らないけど」

 

 

 秧秧(ヤンヤン)が「もしかしたら、何か感知できるかも」と申し出たが、残念ながら成果は出なかった。複雑な周波数エナジーを纏っているようだ。

 最後に、黒い果実。追跡者の脳裏に、既視感が走った。

 

 

「これは……見覚えがあるな。たしか――」

「マンゴスチン……でしょうか? 今州では輸入品しか手に入らないのですが、近くの市場で売っていますよ。

 ですが、常に販売されているわけではありません。今州はしばしば残像潮が発生し、戦闘も頻繁に起こる場所……なのでそういった交易路が遮断されてしまうことがあるんです」

「これを、何のために……?」

 

 

 モノとしては不審な点などないが、これを何のために預けたのかが不可解だ。まさか輸入商社の真似事をしろとでも?

 一通り眺め終えた秧秧(ヤンヤン)が、総括すべく口を開いた。

 

 

「これらの『印』――特に飴玉に対しては、私も熾霞(シカ)も子供のころの思い出がありました……お二人はどうですか?」

「……飴は高級品だ。俺には、あまり与えられなかった」

「特に覚えはないかな」

「飴と言えばお菓子、お菓子のことなら今週の子供が一番詳しいんじゃない?」

 

 

 この場では進展は見込めなさそうだ。腹も膨れたし、眠気が湧いてくる。ひとまずこの日は解散となり、漂泊者と追跡者は辺庭に戻った。

 特別な客人ということで、割り当てられた客室には、ふかふかの布団が敷かれていた。その柔らかな感触に、失われた記憶が刺激されるというわけでもなく、二人はそれぞれあっという間に眠りに落ちた。

 

 

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