潮騒を追う夜雨   作:竹河参号

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第三幕 策を奔らせて残星を候ふ (2)

 一方、漂泊者は顔に大きな傷を持つ男――残星組織(フラクトシデス)の“監察”スカーと対峙していた。

 彼女は秧秧(ヤンヤン)と同じく、目の前のスカーが祈池村(きちむら)の惨劇を引き起こしたと断じたが、彼はそれを躱すと、村の手がかりを与え、その惨劇の正体を知らしめようとした。

 

 

――ルールを作る側の『ヤギ飼い』とルールを破る『黒ヤギ』、どっちになりたい?

――狂人の集団の中にいるただ一人の正常者……お前にとって彼は『正常』か? それともただの『異端者』か?

 

 

 スカーに導かれるようにひとり探索を始めた漂泊者は、いつの間にか彼が紡ぐ幻境に陥った。

 嘲笑うような、誘うような声を聴いていると、どんどん思考が錯綜していく。自分が足を進めているのか、後ずさっているのか――そもそもどこに向かっているのか。次第に迷妄していく彼女の思考に、スカーの言葉がするりするりと入り込んでいく。

 

 

――考えてみろ、ヤギ飼いは世界の理じゃない。ヤツがいなくなれば、世界は黒ヤギを受け入れてくれる……

――『加害者』と『被害者』のカテゴリーを無くすことができる!

 

 

 いよいよ漂泊者の意識が断線しそうになったその瞬間、

 

 

「――そうして、お前が『新しいヤギ飼い』になるとでも?」

 

 

 ぎちぎちぎち、と空間が軋んだ。

 爆熱とともに撃ち込まれた鉄杭が、幻の世界を引きちぎる。割れたガラスのように世界がひび割れ、あっという間に砕けていく。漂泊者は一瞬の浮遊感を覚えると、次の瞬間、足の裏に硬い地面の感触を覚えた。

 気が付くと、辺りは淀んだ周波数エナジーを纏った陰鬱な廃墟に囲まれていた。廃墟の中心に刻まれた大きな十字裂傷――覚えがある。彼女は祈池村(きちむら)に帰ってきた。

 漂泊者の両隣を守るように、追跡者と秧秧(ヤンヤン)が立っていた。漂泊者も気を取り直し、目の前に立つ赤い服の男、スカーを睨み据える。あと一歩のところで彼女の魂を捕らえ損ねた彼は、しかし残念がる様子を見せず、追跡者に興味深そうな視線を向けていた。

 

 

「これはこれは、親愛なる隣人。おそるべき夜の追跡者」

「――なるほど。貴様は、俺の素性を知っているのか」

 

 

 恭しく気障(きざ)ったらしいスカーの挨拶に、追跡者はただ冷たい視線を向け、大剣を構えなおすだけだった。

 “夜渡り”という素性か、あるいは()()()()か――どちらにせよ、やるべきことは変わらない。

 

 

「魔術師とは碌な思い出がないんだが、今回ばかりは役に立ってくれたな。貴様が調子に乗って尻尾を見せてくれたおかげで、“幻境”とやらの綻びを見つけることができた。

 ――あとは、貴様を始末するだけだ。傲慢と凶行の報いを受けるがいい」

 

 

 ぞっとするような冷たい声音とともに、追跡者はその大剣をスカーへと突きつけた。

 極大の殺意を向けられたスカーは、しかし不敵な笑みを崩さない。掌の上でくるくると真紅のカードを弄んでいる。三対一という数的不利を覆すことができる秘策でもあるのか、それとも――

 びりびりと空気を締め付ける緊張感の中に、ひとつの赤い影が割り込んだ。血のように赤い華を象ったドレスを纏い、右目を包帯で塞いだ若い女が、まるで舞台に立つ演奏者のように堂々と進入してきた。

 

 

「あの女は……」

 

 

 その姿に、漂泊者は朧げながら見覚えがあった。確か、北落野原の戦場の幻を見たときに、一瞬だけその姿を見たような――?

 一方、女はスカーと並び立つように歩み寄ると、真銀に血赤色を滲ませる瞳をじっとスカーに向けた。静かだが確かな不満を宿した女の視線に、スカーはへらりとおどけた。

 

 

「二人っきりにしてくれる約束だよな」

「条件付きでね」

 

 

 どうやら知り合いらしい――残星組織(フラクトシデス)の同志というところか。へらへらと嘲笑うスカーの笑顔に、女の不満を和らげる効果はないようだった。追跡者と秧秧(ヤンヤン)によって『二人きり』という状態が破綻した今、女も舞台に乱入することを決意したようだ。

 

 

「変なアドリブを入れないで。困る」

「フフ、そんなに急いでお前の脆い『完璧な楽章』を守らなくてもいいじゃないか。

 ……加減は分かっている、わざわざ言わなくていい」

 

 

 互いに含みのある言葉を交わすと、スカーと女はくるりと背を向けた。てっきり女も参戦してくるものと思い込んでいた漂泊者は、思わず呆気にとられ、わずかな空隙を生んだ。

 その姿すら愛おしそうに、どこか名残惜しそうに見やりつつ、二人は背を向け、ずるりと現れた橙色の濁り火へと踏み出した。

 

 

「漂泊者、どうやら今回のデートはこれで終わり……」

「――と、認めるとでも?」

 

 

 そこに、ひゅんと風を切る鉤爪が飛んだ。

 スカーの片腕にぐりんと絡みついたワイヤークローを巻き上げ、追跡者ががりがりと地を削りながら突進する。振り上げた大剣の刃にぼおと火焔を宿し――

 

 

「ああ、ダメだ。()()()()()()

 

 

 ――びぃん、と音を立てて遮られた。

 中空でぎりぎりと大剣を突き立てる追跡者の一撃を押し止めているのは、スカーの右手に構えられた一枚のカード。真紅と漆黒に彩られた灼熱のカードが、大剣の分厚い刃と真正面からかち合い、押し止めている。信じられない光景に、漂泊者と秧秧(ヤンヤン)は愕然とし、乱入のチャンスを失った。

 一方、追跡者はたった一枚のカードに防がれたという事実に動揺せず、じりじりと鍔迫り合いもどきを維持した。この程度、“夜”が起こす理不尽な現象の数々に比べれば、奇異でも何でもない――揺らがぬ殺意を間近に浴びながら、しかしそれすら織り込み済みであるかのように、スカーはにぃと不敵な笑みを深めた。

 

 

「カードを懐に隠したままじゃ、勝負とは言えない。その程度の安いイカサマに乗ってやるほど、優しいディーラーじゃないぜ」

 

 

 スカーがぐりんと腕を振るうと、膨大な周波数エナジーが追跡者を吹き飛ばした。風に舞う木の葉のように吹き飛ばされた追跡者は、即座に空中で受け身を取り、だんと地面に着地した。その姿を見届けると、スカーは次に漂泊者へと視線を向けた。女に至っては振り返りもせず、すでに濁り火の闇の中へ身を溶かしている。

 

 

「――漂泊者、俺の言ったことを忘れるなよ。

 天からの賜り物、公正公平な取引、それとも一獲千金の博打……さあ、お前は最後に何を選ぶのか、今から楽しみで仕方ない。お前は賢いから、そう簡単には決められないだろうな」

 

 

 挑戦的な言葉を投げ捨てると、スカーもまた濁り火の闇の中に足を踏み入れ、あっという間に姿を晦ました。

 後には、三人が残された。ぶすぶすと燃え燻る橙色の闇は、まるで漂泊者を誘うかのように残り火を散らしている。今すぐ飛び込めば、二人の後を追えるかもしれないが……

 

 

「……追いますか?」

「……やめておこう。それより、二人は大丈夫?」

 

 

 秧秧(ヤンヤン)の確認に、漂泊者は否を返した。未だ手の内が知れない強大な敵、迂闊に突撃するのは得策ではない。

 橙色の闇が宙に溶け、残り火が完全に消失してようやく、三人は戦闘態勢を解いた。

 

 

「こちらは大したことはない。二人だったからな。

 それより、奴と一対一だったお前の方が気がかりだ」

「そうですね。漂泊者さん、スカーとは何が……?」

 

 

 気になるのは漂泊者の身の安全だ。頑丈さを伴う残像の群れだったとはいえ、攻撃そのものは大した脅威ではなかった雑兵を退けただけの二人とは異なり、あのスカーと対峙したのだ。

 二人を安堵させようと口を開いたとき、漂泊者の視界の隅でがさりと茂みが揺れた。はっと三人が振り返ったそこには、小さな体躯をふよふよと浮かせるウカカ。

 

 

『キキ……キキ……おに……おにいちゃん……』

「……さっきの残像? どうしてここに……」

「さっきは怖がって隠れていたのかも?」

「これほどの知能を持つ残像は初めて見ました……」

 

 

 漂泊者の大胆な予想に、秧秧(ヤンヤン)は大きく驚かされた。周波数エナジーを求めて彷徨うわけでもなく、ただそこに在るだけというのも希少なのに、周囲の状況に合わせて複雑な思考判断ができると?

 ウカカは相変わらず、『たすけて……おにいちゃん……』と言葉を繰り返すだけだった。先ほどと、何が違う? ただの残像でしかないコレを、どんな感情が突き動かした?

 

 

「……まさか――スカーが『お兄ちゃん』?」

 

 

 漂泊者のとんでもない予想に、追跡者と秧秧(ヤンヤン)は思い切り瞠目した。

 

 

「いや、そんなはず……」

「……いえ、あり得るのかも知れません。スカーもかつてここに来ていたのですから……」

 

 

 いやいやと手を振る追跡者とは対照的に、秧秧(ヤンヤン)は考え込んだ。この村の惨状がスカーの仕業だというのなら、彼がここに来て村人たちと接触していた可能性は、極めて高い。あるいは裏で糸を引いていた張本人であるにも関わらず、偶然訪れた善意の持ち主に扮して、この残響の主と関わりを持ったか。

 

 

祈池村(きちむら)で起きた惨劇の真相……どうやらあの儀式と深く関連しているようですね」

「スカーが話す『物語』にも、何か意味があるみたい」

 

 

 そして漂泊者は、スカーに教えられた物語を話した。

 狼とヤギ、そしてヤギ飼いの喩え。狼の牙から群れを守ったヤギ飼いは、群れの長に収まり、そして悪魔の契約を持ち掛けた。じわじわと訪れる破滅から目を逸らす白ヤギたちと、声を上げても聞き届けられない黒ヤギ。そしてついに――

 

 

「下らんな」

 

 

 そんな説明に、追跡者は淡々と吐き捨てた。

 

 

「お前は賢いのだから、こんなことに引っかかってどうする。いや、賢いからこそ引っかかる罠なのか……?

 とにかく、あんな詐欺師に言いくるめられるな。あんな安い戯言を言うような奴と一緒に、世界滅亡の戦争でも起こすつもりか?」

「あなたは、彼の言葉を信じないと?」

「信じるも何もあるか」

 

 

 あくまで証言の一つとして扱うつもりの漂泊者とは対照的に、追跡者は短く吐き捨てた。「思いを馳せることすら不快だ」と言わんばかりの不満感が、兜越しに伝わってくる。

 

 

「要するにたとえ話を使って、自分の立ち位置を良く見せかけたんだろう? 自分自身がヤギ飼いぶった狼のくせに、黒ヤギだと偽って話をすり替え、お前を思い通りに操ろうとしたんだ」

「私も同意見です。スカーはよく『物語』を使って、自分の理念と立場に大義名分を与え正当化させます。彼の言葉の真意を確かめるには、実際に『儀式』が行われた場所を調べるしかありません」

 

 

 頑として譲らない追跡者を宥めつつも、秧秧(ヤンヤン)自身、スカーに懐疑的な様子だった。これまで彼とその手先が起こしてきた数々の惨劇を思えば、鵜呑みにする理由など思い当たらない。

 さてどうしようか、と漂泊者は考え込んだ。残星組織(フラクトシデス)が企てた惨劇と、迷妄がもたらした血みどろの儀式、犠牲者の無念が残る反響……いや待て、そもそもこの村に来た理由は――

 漂泊者は背嚢から紫の葉っぱを取り出した。()()()()()()に汚染された植物……手がかりは、もう一つある。

 

 

「残像周波数の痕跡が二つ……そういうことですか。

 風が導く方向は――あちらです。行きましょう」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 秧秧(ヤンヤン)が辿る風の声を頼りに、村はずれへと歩き出した三人。海蝕現象によって汚染された黒い岩棘の崖の上に、一枚の木札が落ちていた。――当たりだ。先に拾った木札と、ちょうど組み合わせることができる。割符のようなものだったらしい。あとは、揃った木札を使う場所がどこかに……

 目当てのものはすぐに見つかった。崖の下、深い池のそばに、ぽつんと石碑が立っている。ちょうど木札を嵌めることができそうな窪みがある。二つ合わせた木札を嵌め込むと、ごろごろと重低音が辺りに響き始めた。見れば、すぐそばの池が水面を揺らし、見る見るうちに水位を下げていく。やがて水が完全に引き、そこにはぽっかりと大穴が残るばかりだった。

 

 

「……水が引いた……」

「降りてみよう」

 

 

 自然池ではなく、人工的な溜め池だったのか。三人が一斉に飛び込むと、ぶわりと上昇する周波数エナジーに包まれた。海蝕現象の一つ、“重力喪失”だ。デバイスのパラシュート機能を使えば、上昇気流に乗ることができるかもしれない。

 ともかく、三人は大穴を降下していった。直径も深さも数メートルはある大穴は(すぼ)んでいくのではなく、ぽっかりとした巨大な空間に繋がっていた。崖上の祈池村(きちむら)を丸ごと飲み込むことができそうな、大きな空間だ。

 

 

「下にこんな空間があるなんて……」

 

 

 だんと三人は着地した。穴から降り注ぐ陽光が、地面や周辺の植物を照らしている。

 

 

「変ですね。水の下にあったというのに乾燥していて、水溜まり一つありません。植物もよく育っています……」

「まるで霊気流だな……」

「それは何?」

「『霊なるもの』に干渉して、高く放り上げる気流があるんだ」

 

 

 自然池ではなく、只人の手による溜め池でもなく、海蝕現象を利用した人工池……生贄を要する神秘の儀式とはいえ、随分と手が込んでいる。本当に、ただの村人たちと少数の異能者だけで成立する土地だろうか?

 

 

「これもスカーの仕業?」

「確かに彼の能力であれば、そう難しいことではないはずです」

 

 

 整地されていない荒い崖を降りていった先に、大きな十字裂傷が見えた。無音区の証だ。そういえば、祈池村(きちむら)の中心にも無音区があった。――まさか、一つの土地に二つの無音区が生じ、その周波数エナジーが重なった……?

 その証拠はすぐに見つかった。

 

 

「あの木……綺麗……ですが、綺麗だからこそ……恐ろしくも見えます」

 

 

 秧秧(ヤンヤン)が指差した先にあるのは、地下の暗い空間の中で、紫の燐光を放つ大木。漂泊者は手元の葉っぱを改めて注視した。――同じ色だ。同じ光、同じ周波数を纏っている。この木から取られた葉っぱということだろう。

 

 

『た……たすけて……』

 

 

 三人の前に、先のウカカが姿を現した。まるで三人を導くように、ふよふよと体を揺らしながら、紫の大木のもとへ進んでいく。

 

 

「私たちに何か伝えようとしている……? ここには……特別な何かがある……?」

 

 

 三人は静かにその後を追った。やがて大木の根元へと辿り着いたウカカは、そこでふっと姿を消した。そこに残ったのは、燐光をざわつかせる大木の葉と――

 

 

「……消えた?」

「これは……日記のようですね」

 

 

 秧秧(ヤンヤン)は、根元に隠されたように置かれた、一冊の古びた日記を拾い上げた。これ自体は特に反響を宿しているわけではないようだ。秧秧(ヤンヤン)はその表紙を開き、中身を検め始めた。

 ――それは、破滅の記録。

 祈池村(きちむら)というコミュニティの安泰のために、多数を生かすために少数を犠牲にし続ける、後ろ暗い儀式の証明が、拙い筆跡によって綴られていた。初めこそ言われるがままに義務的に従っていた少女も、次第に浮き彫りになっていく破滅の構図に気づいたようだ。最後には恐慌を起こした村人たちの恫喝の声が綴られ、乱れた筆跡はそこで終わっている……

 

 

「最後まで……あの女の子は、村の人たちの無事を願っていました。でも、誰かの犠牲によって、人が救われることなどありません……

 あの残像も、あの女の子の願いを伝えるためにここに残っているのでしょう」

 

 

 言いつつ、秧秧(ヤンヤン)はぶるりと身を震わせた。封じられた地下のひやりとした空気が、その肌を冷やしたのか、それとも……それを見た追跡者が、すぐさま口を開いた。

 

 

「……寒いか?」

「あ……」

「ここを離れよう、漂泊者。もう見るべきものはないはずだ」

 

 

 手がかりは正しく三人を導いた。追跡者は秧秧(ヤンヤン)の腕を引き、半ば強引に二人を連れて、地下空間を出て行った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 崖を上りなおし、上昇気流で飛び上がり、地上の村はずれに戻ってきたころ。秧秧(ヤンヤン)は、ようやく落ち着いたようだった。

 

 

「すみません……あそこ、少し不気味な感じがして……風はほとんどなかったのですが、それでもたくさんの時間を超えた感情や思いが、あそこには渦巻いていました。

 期待、憎悪、絶望……そしてあの日記が綴っている悲しみと思い……日記の主は何を思っていたのでしょうか……? 過去の平穏な暮らし、それとも自分の家族……?」

 

 

 地下の淀んだ風が、そこに込められた悲嘆の感情が、秧秧(ヤンヤン)の心に重くのしかかった。心を掻き乱す感情の嵐に、彼女はじっと耐えることしかできなかった。漂泊者と追跡者は、それをじっと見守った。

 

 

「……すみません、考え込んでしまいました」

「ゆっくりでいい。気持ちは分かる」

 

 

 やがて気を取り直した秧秧(ヤンヤン)は、しかし暗い表情のまま、祈池村(きちむら)の方を見やった。形なき恐怖に駆られ、手ずから惨劇を引き起こし、やがて滅んだ廃村を。

 

 

「今後、こんな惨劇はもう起きない、と胸を張りたいところですが……私にはそう断言する自身も、勇気もありません……」

 

 

 ぽつりと語り始めた秧秧(ヤンヤン)を、二人はじっと見守った。

 

 

「これも私が踏白に加入した理由の一つ……このような惨劇を阻止できるよう、自信と勇気を付けたいという理由です。

 この世界の悲鳴を阻止することはできません。でも、せめて身近な悲鳴を止めたいのです」

「きっとできる」

「ありがとうございます、漂泊者さん……そう言ってくれて嬉しいです」

 

 

 漂泊者の短く端的な言葉は、しかし秧秧(ヤンヤン)に勇気を取り戻させたようだった。

 少しだけ気分が晴れた秧秧(ヤンヤン)は、柔らかな笑顔とともに二人へと振り返った。

 

 

「もう起きてしまったことを、引き摺ったり嘆いたりするのは良くありません。帰ったら、ここで起きた事件と得られた情報を整理して報告しましょう。

 では、帰りましょうか。一緒に」

 

 

 秧秧(ヤンヤン)の言葉に、二人は深く頷いた。

 

 

 これで令尹(レイイン)から与えられた手がかりは解き明かし、情報は揃った。あとはその謎を整理し、令尹(レイイン)本人に会いに行くだけだ。

 

 

 




 狭間の地といい祈池村(きちむら)といい、割符の使い方が間違っている気がするのは作者だけでしょうか。
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