潮騒を追う夜雨   作:竹河参号

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第六幕 千里の猛襲(7)

 ――ずっと不思議だったことがある。

 「鳴式と対峙し、鳴式を倒す力を取り戻す」――忌炎(キエン)に聞かされた、“角”の予言。

 

 

 予言通り、鳴式と対峙した。その眷属を倒した。

 そして今、新たな眷属と鍔迫り合いを交わしている。

 でも、何(・)か(・)を得た感覚はない。

 ただ黙して見下ろすだけの瞳から、何かを奪い取った感覚はない。

 

 

 考えろ。

 そもそも眷属を倒した程度で、鳴式が退くのか?

 他ならぬ“無相燹主(ムソウセンシュ)”、戦いの記憶を編み直す悪食の王。

 その眷属を何度倒したところで、指一本ほどの損失もない。

 (いや、指どころか手足さえ無いけれど)

 倒れた骸を『もっと強い眷属』に作り直せばいいだけの話だ。

 

 

 感じ取れ。

 どうやって周波数を編み直す? その権能(チカラ)の本質はどこにある?

 兵士たちの奮闘を冒涜し、蹂躙する術はどこにある?

 奴の魂を傷つけ、その意志を挫く手段はどこにある?

 

 

 

 

 掴(・)み(・)取(・)れ(・)。

 

 

 

 

「――ぜぇぇあぁぁぁーーッ!!」

 

 

 無妄者が纏う消滅の周波数エナジーに突き刺さったまま、漂泊者は絶叫した。黄金の輝きに、漆黒の波が混ざり始める。

 無妄者が悲鳴を上げた。その周波数エナジーが見る見るうちに衰え、障壁が掻き消されていく。反対に、漂泊者に纏いつく漆黒の波が勢いを増し――ばさりと、その背に宿った。

 いよいよ堪らなくなった無妄者が、絶叫とともに漂泊者へと墜落した。その手に迅刀を模した刃を握り、受け止めた漂泊者もろとも大広間へ激突する。

 

 

「漂泊者さん!!」

 

 

 秧秧(ヤンヤン)の悲鳴を、衝撃波と粉塵が飲み込んだ。辛うじて踏み止まった三人の視線の先にいるのは――地面をしっかりと踏みしめ、無妄者の刃を受け止める漂泊者。

 その背には、漆黒の翼がはためいている。

 

 

「……漂泊者……さん……?」

「その、力は……」

 

 

 愕然とする秧秧(ヤンヤン)と鑑心(カンシン)に構わず、漂泊者は迅刀に気合を込め、無妄者を突き飛ばした。熟練の共鳴者四人を相手に、しかし単独で拮抗してきた無妄者が、明確に凌駕された初めての瞬間だった。

 

 

 鳴(・)式(・)自(・)身(・)の(・)力(・)を(・)使(・)う(・)。

 鳴式が周波数を編み直す権能を有しているのなら、そ(・)の(・)力(・)に(・)こ(・)そ(・)牙(・)を(・)突(・)き(・)立(・)て(・)る(・)。

 奴自身の権能(チカラ)を識(し)れば、それを阻害する猛毒となることも可能だ。編み手の指に迅刀を突き立て、その縫い針そのものをへし折るのだ。

 

 

「――勝負よ!」

 

 

 舞台はようやく整った。

 世界を睥睨する暗紫の瞳と、その恩寵を受けた無妄者。対すること、漆黒の翼纏う音の器。湾刀の戦いの続きが、ここにようやく始まった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 先手は無妄者が取った。暗紫の大鎌を振り上げ、縦横無尽に振り回す。

 

 

『母には……兵器が必要だ……』

 

 

 紙一重で凌いでいく漂泊者は、まだその背の翼を使い慣れていない。その先達を誇るかのように、無妄者は体躯を捩じり黒翼をはためかせて薙ぎ払った。

 

 

『数も……質も……まだ、足りない――!』

 

 

 ぶわりと膨れ上がる消滅の周波数エナジーが、地面をがりがりと掘り返しながら漂泊者を襲う。そこに、秧秧(ヤンヤン)が素早く割り込んだ。

 

 

「させません!」

 

 

 大上段から一閃。風を斬る一撃が、黒翼の流れに割り込み、ぱっくりと縦に裂いた。

 ――鑑心(カンシン)との交流で会得した、風の本質。それは立ち向かうのではなく、遮るのではなく、逸らすこと。強大な力とぶつかり合うのではなく、その流れを見切り、しなやかに躱し、すり抜けること。

 果たして、それは奏功した。縦に両断された黒翼の衝撃波が、秧秧(ヤンヤン)の目の前で真っ二つに割れ、二人を傷つけることなく虚空へと逸らされた。

 

 

『あなたたちに……同じ、結末を……』

 

 

 漂泊者もまた行動を起こした。だんと地面を踏みしめ、その身の周波数エナジーを解き放つ。黒翼を広げ、空を踏みしめるながら前方に吶喊し、溢れ出る力を刃に乗せて無妄者に叩きつける。

 

 

「――静寂に沈め!」

 

 

 漂泊者は連撃の最後に、黒翼を振るいありったけの力をぶつけた。見様見真似でも、いやそれこそが、奴らの在り方を紐解く致命の刃となる。循環する周波数エナジーは“消滅”の色を帯び、極大の破城槌となった。無妄者は全身を打ち据えられ、ぐらりと大きく仰け反った。

 

 

『血の代価で……僭越を……』

 

 

 まだ足りない。鳴式の力を奪い取って行使している以上、その色が相似するのは必然。見た目ほど大きなダメージにはなっていないはずだ。

 案の定、無妄者はすぐに立ち直った。ぶわりと黒翼をはためかせて漂泊者から距離を取ると、再び暗黒球を召喚し、無数の追尾弾を放った。思わず身構えた漂泊者と秧秧(ヤンヤン)の脇を、すいと爽やかな風が駆け抜けた。

 

 

「天地万象のままに!」

 

 

 踏み込んだ鑑心(カンシン)がその手に周波数エナジーを翳し、風の力場を創り上げた。ぎゅるぎゅると渦巻く風は、重力に似た強烈な引力を宿し、ひとつの質量となって追尾弾を絡め取っていく。必殺の攻撃が、手負いの道士の一手で擂り潰されていくさまを見て、無妄者が思わず歯噛みしたか、どうか。

 

 

『戦火は……絶えない……私たちは、必ず戻る……』

 

 

 無妄者は再び距離を取ると、三人の届かない上空に移動し、ぐっと消滅の周波数エナジーを構えた。細長く形成されたそれを弓引くような大きな姿勢は、まるでついさっき見た忌炎(キエン)の長槍のようではないか。まさに必滅の意志を込めて放たれたその瞬間、

 

 

「どこを見ている!」

 

 

 大跳躍した忌炎(キエン)の長槍と衝突し、中空で大爆発を起こした。

 ――それは、遥か彼方の伝説に記された戦技。飛翔攻撃そのものを武芸として確立させ、『竜騎士』の象徴として謳われた跳躍攻撃。これもまた、人類技術の収斂進化と言っていいだろう。

 必殺の攻撃を次々に迎撃され、粉砕され、いよいよ窮していく無妄者。その視界に、ひとつの影が飛び込んだ。

 

 

「――はぁぁーーっ!!」

 

 

 裂帛の気合とともに、彼女は空中を飛翔し、無妄者の胸元に一閃を叩き込んだ。

 ――何か、水のようなものを斬り裂く感触を覚えた。

 

 

 感じたことのない激痛に、無妄者は絶叫した。

 その姿に、四人は勝利を確信した。今までの、木偶の坊を叩き続ける感覚とは決定的に違う。漂泊者の刃は、確かに無妄者へと届いたのだ。

 

 

 何より、彼(・)女(・)の(・)破(・)滅(・)は(・)こ(・)こ(・)か(・)ら(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

 

 ガラスを叩き割るような轟音とともに、暗紫の天がばきりと砕け、何かが落ちてきた。

 煌々と燃えるソレが、神速を以て無妄者の脳天に墜落した。ぎょっとして飛び退いた漂泊者の眼前で、まったく予想外の攻撃を避けられなかった無妄者が、どがん、と重い衝撃とともに地面に縫い付けられ、粉塵を巻き上げた。

 片刃がぼろぼろに毀れた大剣を握り、無妄者の体躯を貫いているのは、翼を模した異国の兜、深青のサーコート――追跡者だ。ついに大彫像の体躯を突き破った彼は、そのまま炎の隕石となって無妄者に突撃したのだ。

 追跡者の攻撃はそれだけに留まらなかった。大剣に魔力を注ぎ込み、薪のようにごうごうと燃え上がらせる。限界まで濃縮された熱は、大剣すら焼き熔かさんばかりに輝きを放ち――

 

 

「――死ね」

 

 

 ぼこんと引き抜く瞬間に炸裂した。

 大広間中の酸素を焼き尽くすかのような勢いで爆裂する火炎に、無妄者の全身が焼き焦がされ、彼女は絶叫を上げた。その悲鳴すら薪にして、ごうごうと炎上していく。

 まるで雑音を流す害虫を叩き潰すかのように、追跡者の大剣が無造作に振り下ろされた。叩き潰されたきり起き上がることもなく、“虚影の月”に叩き起こされることもなく、ただぶすぶすと焼け焦げていく無妄者には一切頓着せず、追跡者は首を巡らせて漂泊者たちを見つけると、そのままくるりと背を向けて歩き出した。

 一方、そんな凄惨な光景を見せられた漂泊者たちは、何とも言えない表情で互いを見合わせた。あれだけ苦労して相手をした強敵を、こんなにあっさりと倒されてしまっては、達成感や驚愕よりも、徒労感が勝る。

 

 

「……これだけ大暴れしといて、美味しいところまでもっていくなんてね」

「何の話だ?」

「何でもないよ。おかえり」

 

 

 すっかり呆れてしまった漂泊者は、軽口とともに拳を突き出した。このしぐさは――覚えがある。追跡者は大剣を背に担ぐと、彼女に倣って拳を突き出し、こつんと重ねた。

 

 

 劣勢を覆せないと悟ったのか、それとも別の何かがあるのか……“虚影の月”は無妄者を蘇らせることなく、ずぶずぶと十字の斬痕の中に埋もれ、姿を隠していく。これで、後はその端末たる無妄者を仕留めるだけ――歩き出した漂泊者は、しかし脳裏に厭な予感を走らせた。

 その瞬間、無妄者がぐらりと浮き上がった。

 漂泊者の右手の音痕と、無妄者の胸元の音核が共鳴し、互いに呼応するように明滅し始めた。その光が臨界に達した瞬間、にぃぃっと不敵に笑った無妄者は、その身を構成していた残響を崩壊させ、ぶわりと膨れ上がるエナジーを暴走させた。まさか、共倒れを狙ったか。

 

 

「漂泊者さ――」

「秧秧(ヤンヤン)下がって!」

 

 

 漂泊者は、咄嗟に背後の秧秧(ヤンヤン)を庇い、右手を突き出した。論理も何もない、ただの反射行動だ。咄嗟に放射する周波数エナジーも、無妄者の起こした爆発に比べれば微々たるもの。反射的にぐっと目をつむる彼女を、そのまま炸裂に巻き込むだけと思われたが――

 ぐるぐると渦巻きながら拡大していく暗黒の爆発。――しかし、来るべき衝撃も激痛も一向に来ない。恐る恐る目を開いた漂泊者は、信じられないものを目にした。

 

 

「……え……?」

 

 

 黄金の周波数エナジーの先に、小さな影が浮いている。子熊のような、イタチのような、既存生物の何物とも比較しがたいそれの前に、消滅の周波数エナジーの爆裂が堰き止められて――

 

 

「――……くぁぁぁー――!」

 

 

 ――いや違う。吸(・)収(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。まるで、鯨が海水ごと小魚を貪るように、拡散する周波数エナジーの爆裂をそのまま飲み込み、吸い上げ、腹の奥で鎮めているのだ。

 やがて爆裂の拡散よりも、小動物の吸収の方が勝り始め、暗黒の爆発は見る見るうちに衰えていった。その最後の残り滓までしっかり吸い上げて、

 

 

「……げぷぅ」

 

 

 小動物は満足そうにげっぷした。

 あまりに突飛な事態に、全員が困惑した。あれだけ苦労して倒した無妄者による最後の足掻きが、こんな小動物に食われておしまい? 何か悪い冗談に思えてきた。歓喜より、疲労感より、困惑が五人の胸中を支配し、しばらく、誰も動くことができなかった。

 最初に沈黙を破ったのは――当然、その小動物だ。振り返ったその先で漂泊者を見つけると、まるで親猫を見つけた子猫のようにすいと飛来し、咄嗟に受け止めた漂泊者の胸の中で、愛おしそうに頬ずりした。

 

 

「くんくん……んぅ?」

「……この子は……いったい……?」

 

 

 不安げな秧秧(ヤンヤン)を咎めることなど、誰にもできなかった。彼女の流れ息でさえ、目の前の小動物に異常を見出すことができなかった。……それはそれとして、その白い毛並みを「ちょっと撫でてみたい」などと思っているのは、伏せておくのが賢明だろう。

 一方、忌炎(キエン)は“虚影の月”が消え、十字の斬痕を残すのみとなった暗紫の天を見上げた。あるべき異常を失った昏い空は、しかしそれきり何の変化も見せない。これを創り上げた異形の瞳は、虚空に消えたまま。

 ――『倒した』と楽観するのは、彼の理性が許さなかった。しかし現実として、その姿も周波数も消失しているのは事実。だとすれば、

 

 

「――……あの、戦争の鳴式が――逃げた、のか……?」

「……何かを避けてるみたい」

 

 

 呆然と呟く忌炎(キエン)の言葉に、漂泊者は硬い表情のまま同調した。奴が何を思って逃げたのか、どこに消えたのかは分からない。いずれ、再び対峙することもあるだろう。その時こそ、全てを紐解き、完全に調伏する――二人は、そんな決意を固めた。

 

 

「ひょ、漂泊者、どの……それは……?」

 

 

 一方、秧秧(ヤンヤン)と鑑心(カンシン)の興味は、変わらず小動物に向いていた。鳴式の眷属に立ちはだかり、その周波数を平らげたという偉業は、その愛らしい容姿とはまるで結びつかない。それこそ、“無相燹主(ムソウセンシュ)”の権能を解き明かす絶好の手がかりになるかも知れないが――

 しかし小動物は、うーんと伸びをすると、そのまま浮き上がり、黄金の光に変じた。ぎゅるぎゅると渦を巻きながら入り込んでいったのは――当然というべきか、漂泊者の右手の音痕。五人がそれを見つめる中、音痕はちかりと一瞬だけ輝きを見せたきり、何事もなかったかのように沈黙した。

 狐につままれた気分の五人の耳に、ごろごろと鳴動する重低音が割り込んだ。“無相燹主(ムソウセンシュ)”が隠れたことで、大彫像自体が自らを形成する力を失ったか。

 

 

「――もうここは保たない。詳しい話は、ここを出てからだ」

 

 

 追跡者の言葉に、四人は頷き、駆け出した。苦労して大敵を倒したというのに、瓦礫に埋もれて帰らぬ人になった――などとは、笑い話にもならない。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 後日。

 講談師の漫談に、一つの演目が追加された。

 

 

 『驟雨夜戦譚』――そのように名付けられたソレは、『湾刀の戦い』に並ぶ名演目と称されるようになったが、しかし識者によると、観客たちが抱く印象はまるで真逆だという。

 曰く、怪談のように不気味。曰く、泣き喚く赤子が思わず涙を止めた。曰く、悪名高い追放者(ごろつき)が雨に怯えるようになった。

 

 

 あらすじはごく簡潔。「魂を焼く驟雨とともに、恐ろしき“無貌の王”が現れ、“無相燹主(ムソウセンシュ)”もろとも残像たちを洗い流した」――短くまとめれば、それだけの噺。

 英雄譚のような爽快さもなく、冒険譚のような高揚感もなく、寓話のような意味深長さもなく、それこそ『湾刀の戦い』のような絶望と希望の対極もなく、ただただ昏くおぞましい物語。謎とも畏怖ともつかぬ、形容しがたい感情を観客に抱かせるそれは、故にこそ語り手の技量が求められる怪奇譚として、後年人気を博した。

 

 

 「“無貌の王”とは何者だったのか」――文化史研究者、歴史家の間では、まずこれが議題に挙がる。『戦争』という概念そのものを糧とし、人類の原罪を突き付ける恐怖の鳴式“無相燹主(ムソウセンシュ)”とは異なり、その出自が一切不明、前兆もなく唐突に現れた謎の存在。そも鳴式が『人類文明の内に巣食う負の感情の集積』である以上、それに匹敵する存在もまた、ヒトの感情の集積存在に違いなく、『来歴不明の怪物』という定義は根本的にありえない。多くの歴史家が、その正体を探るべく様々な歴史書を紐解き、しかしその試みの全てが徒労に終わった。この研究について、講談師の次に儲けたのが古書店だったと言えば、笑い話になるのか、どうか。

 ある者は「歳主が遣わした救世主」と唱えた。ある者は「新しい鳴式の先触れ」と唱えた。ある者は「遥かな宇宙よりやってきた侵略者」と唱え、ある者は「それを止めに来た正義の味方」と唱えた。果てには、「極限状態の兵士たちが見た幻覚」「講談師が勝手に付け足した架空の存在」「人口に膾炙するうちに生じた機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」などとも唱えられた。不可解な神性存在に対して明朗な回答を見出せず、結論に窮し、妄想の産物と貶めるのも、あるいは仕方のないことなのかも知れない。

 

 

 さて、そんな謎めいた“無貌の王”だが、民衆の間ではあまり話題に挙がらなかった。

 むしろ彼らが恐れたのは――魂を焼く雨、心を惑わす夜。形なき災いに晒された、兵士たちの恐怖。百戦錬磨の夜帰軍兵士たちが、しかし一様に畏怖を抱いたまま語る、“夜”の存在感。兵士たちを恐怖に駆り立て、残像たちを押し流し、何もかもを溶かしていく闇だった。

 人が闇を恐れるのは、そこに見えない者が巣食うからだという。しかし夜を恐れないのは、いずれ明けると知っているからだという。

 ――では、明(・)け(・)な(・)い(・)夜(・)があるとすれば? 晴れることのない暗がりに、命の音を掻き消す驟雨に、希望の光すら焼き消す呪いに、どうやって立ち向かえばいい?

 

 

 講談師によって幾度も脚色され、尾鰭背鰭が付いていく『驟雨夜戦譚』が、もはや真実を教えることはない。

 ただ一つ、確かなことは。

 その昏い物語を聞いた夜――人々は必ず夜空を見上げる。

 そこに星の海があるならいい。儚い輝きが、しかし力強く照らしてくれるのならいい。

 だがもし、そこに暗雲があったのなら。

 一も二もなく、急いで帰ろう。堅く扉を閉め、窓を塞ぎ、雨音が聞こえないように閉じ込もろう。

 “夜”に呑まれたら、取り返しがつかなくなる。雨に濡れるなどもってのほかだ。何もかも曖昧になり、心ごと塗り潰され、やがて“夜”の一部に溶かされていく。

 

 

 

 

 ――あるいは、その驟雨の最中に。

 あの“無貌の王”が再び、どこかで目を覚ますのではないか。

 

 

 




無貌の王
 北落野原で観測された、巨大な残像。危険度は津波級と認定された。
 “災いの雨”を連れ歩く、怨嗟の王。その正体は謎に包まれている。

戦技「灼熱の襲撃」
 剣身に火炎を纏い、回転しながら前方に跳躍し
 その勢いのまま、武器を地に突き立てる戦技
 引き抜くとき、火炎の爆発を伴う
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