ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
そういう訳で、森林地帯に進路を変更した私達。
別に遠回り、という訳でもないので判断として間違ってはいない。
問題は、“スコル”の巨体が林立する木々の間を通れるか、というただ一点だが……。
『なんとかなりそうですね』
「無理はするなよ?」
『大丈夫です! そろそろこの機体の操作にも慣れてきましたので!』
キュラキュラ、と木々の間をすり抜けるように進んでいく“スコル”をハラハラしながら見守る。履帯はタイヤと比べて小回りが利かないはずだがよくやっている。流石、というべきだが……。
「実際の所どうよ」
『疑り深いですねえ。まあ確かに、多少小回りが利かない所はありますが、相手が固定物であれば問題ありません。ただまあ、そうですねえ。横にスライド移動とかできれば便利だろうな、とは思います』
「なるほど」
今回の出撃は新エリア攻略もあるが、機体のテストも兼ねている。問題点や改良点があればつぶさに洗い出し、次に生かさねば。
そうなると、これはこれでよいテストになるのかな。
「うーん、キャタピラじゃなくて、そうだな。確かネットだと、重砲運搬役の機体に、ムカデやヤスデみたいにびっしり小さな足を生やすってのがあったな。負担を分散する事で履帯ほどじゃなくても積載量を保持出来て、前後左右に自在に動けるメリットがあるって話だが……」
『あははは、ショウさん? 冗談ですよね??』
「ウン勿論冗談ダヨ?」
おっとしまった、テレサが10対以上の足が苦手なのを失念していた。
まあ自分で動かす分には問題ないから、頭の片隅にでも置いておくか。
「まあしゃあない。効率は悪くなるけど、キャタピラを分割してそれぞれ独自可動するようにするとか? その場でキャタピラ自体が旋回して真横を向くようにするとか」
『うーん、操作は難しくなりますし耐久性も落ちますが、それしかないですね』
良かった、今度の案はお気に召したらしい。
「戻ったらその方向で改良しよう。ま、とりあえずは行く先の索敵に向かうよ」
『よろしくお願いします』
何かあっても“スコル”はすぐには逃げられないので、行く先の安全チェックはこちらの仕事だ。当面の護衛は自律ドローン達に任せて、私は早足で機体を先行させた。
再び分離し、上半身だけの機体でカションカションはしる。歩幅が長い上に機体が結構軽いから、なかなか速度が出る。大きく広がった装甲版も、“スコル”が通れるほど広がっている木々の間に引っかかる事はない。
都合がいいといえば都合がいいが、その事が逆に私の警戒心を刺激する。
「……居るな。確実に」
最初は色んな理由をつけて納得していたこの木々の感覚だが、しばらく歩いているうちにもう一つ理由が追加された。
間違いなく、この地面は踏み鳴らされている。つまり、藪だとか小さな木だとかは、この木々の間を歩き回る何かに踏みつぶされて枯れてしまった、という事だ。その証拠に、踏みしめる大地は森のそれにしては硬い。普段から均されている証拠だ。
推測するに、そこそこ大型のメタルインセクト。それもこの見晴らしの良さで姿がまだ見えないという事は、行動範囲が広い……すなわち高機動型。
推測するに、犬型……狼型か。それが、この森を巡回して地面を踏み鳴らしていると考えるべきだろう。まだ遭遇できていないのは、個体数が少ないか、あるいは……。
「向こうもこちらの存在を把握して、機を伺っている……はっ! しまった、そういう事か!」
『ショウさん! 敵襲です、戻ってきてください!』
考えがまとまるのと、悲鳴の答え合わせはほぼ同時だった。
テレサからの救援要請に、慌てて来た道を引き返す。
「しまった、連中は私達が別行動するのを待っていたのか! まんまとひっかかった、迂闊な!」
スラスターを噴射しての最大速度で“スコル”の元へと引き返す。
はたして、戻った先で繰り広げられていたのはおよそ予想通りの光景だった。
逃げ出す事もなく、巨木の陰で防戦に徹している“スコル”。その周囲には護衛の自律ドローンが防衛線を組んでいるが、襲撃者に成すすべなく破壊され無惨な骸を晒している。今また一機、健気に立ちはだかったドローンが撃破され、その残骸をメタルインセクトの前足が踏みつけた。
灰色の、金属質の毛皮をもった狼型のメタルインセクト。頭部には顎はなく、するどく張り出したユニットの上下に、牙を思わせるブレードが生えている。これを振り回して敵機を串刺しにする、というコンセプトのようだ。脚は四本あり、いかにも機動力が高そうな形状をしており、腰から背部に向かって伸びた排気ノズルが尻尾のようにも見えた。
それが二匹。
戻って来たこちらに気が付いたのか一匹が振り返る。その頭部を覆う半透明な樹脂の向こうで、ぎらり、と赤い一つ目が輝いた。真正面から見ると、鼻先に生えたブレードでその光が分断されて、まるで二つ目のようにも見えなくもない。
「テレサ、待ってろ! 今引きはがす!」
『気をつけてください、こいつら、早いです!』
踏み込むと同時に、スラスターを噴射。私の操る“ハティ”が跳躍と同時に両足を投げ出すように敵へと殴りかかる。
その強襲を、ターゲットとなった狼型メタルインセクトは素早く回避した。疾風のような動きでこちらのクローをかいくぐった敵は、そのまま走り出すと周囲をぐるぐる旋回するような動きにはいる。それに呼応して、自律ドローンを蹂躙していたもう一機も残骸を振り払って走り出す。
こちらを中心にして、ぐるぐるとサテライト軌道を取る二匹の狼型メタルインセクト。
まずい。某強襲コアの古い作品だとこれをやられると詰みってぐらい強いムーブだぞこれ。なんせ一匹を追う限りもう一匹に背後を取られ続ける上に、相手が動き続けるのでそれを追う事に精一杯になる。
この対処は……。
「相手の戦術に付き合うな、だ!」
スラスターを噴射してその場を離脱。大きく距離を取って敵二基を視界に収める。
「喰らえ!」
両肩の装甲版をひっくり返し、裏にマウントしていたマイクロミサイルを露にする。二体の敵をマルチロックオン。
「発射!」
シュボボボボ、と煙を引いて発射されるマイクロミサイル。小判型のミサイルはゆっくりとした速度で、放物線を描く独特の軌道で二体の狼型メタルインセクトへと降り注いだ。
このゆっくり、というのが回避する側からすると面倒なんだ。誘導弾相手だと引き付けて回避しないといけないからね。そして、単なるエネミーであるメタルインセクトに、そこまで戦術的な動きが出来るかな?
『ガルルゥア!』
『ウォフゥ!』
案の定、メタルインセクト達は単なる横移動でミサイルを回避しようとした結果、それぞれ無数のミサイルに包囲される事になった。降り注ぐミサイルのうち何発かは木に当たって不発に終わるものの、それでも大半のミサイルは命中した。爆発に包み込まれる灰色の毛皮。
ダメージよりも何よりも、その反動で相手の足が止まる。勿論、その絶好のチャンスを逃すはずがない。
「まずは、一匹!」
ビーム砲のトリガーを引き、まずは一射。迸るピンク色のフォトンビームが、ミサイルでHPを削られた狼型のどてっぱらを捕らえた。直撃を受けた狼型の胴体を貫通し、反対側に突き抜ける粒子ビーム。
撃破された敵が粉微塵に砕け散ると同時に、残った相方が憤るような声を上げた。
『ウォルルルウゥ!』
牙を剝いて吠え猛ると、ぐるりと頭を翻してまっすぐこちらに向かってくる最後の一機。
仇討のつもりか? いいだろう、受けて立つ。
肩の装甲版を元に戻して、両足を大きく広げて向かい合う。
機動戦を挑むにはスラスターが心もとない。最大速度を出せるのは恐らく一度だけ。
早撃ち勝負だ。
相手と私、間合いに入ったタイミングで先に踏み込んだ方が勝つ。恐らく相手もそのつもりでまっすぐわき目もふらずにこっちに向かってくる……いいね、シンプルで良い。
「かかってこい」
『グガア!!』
そして、両者がタイミングを伺い、跳躍の為に身を低くしたその瞬間。
『今です!!』
横合いから支援射撃。バルカン砲と小口径ビーム砲が、敵の足元を掠めた。一瞬それに機を取られるメタルインセクト……その隙を逃さず、私はブーストを全開にした。
モニターに映る彼我の距離が一瞬にしてゼロになる。突撃の勢いを乗せたクローを首元に叩き込み、そのままパイルバンカーを連続で撃ちこむ。
4発目で、敵のHPがゼロになった。砕けるようにして消滅する敵のシルエットを見下ろして、私はふぅ、と安堵の息を吐く。
《フォレストファング を撃破しました》
「ナイス援護、助かった」
『いえいえ』
「それはそれとして、その。ちょっとこう、手心とかは?」
助かったのは助かったけど、相棒の仇討のために向かってきた敵との決闘に支援射撃は無慈悲すぎないかな。批判ではないけど、こうちょっと情緒的な……。
『??? え、何か問題でしたか?』
「いや、別に問題ではないんだけど……」
『もしかしてあの二匹が番だったとか考えてるんですか? ないない、ないですよ、メタルインセクトですよ? たまたま一緒に行動してて、たまたま最後に突撃を選択しただけという話です。そこに何かの情緒的な意味合いを見出すなんて無意味ですよ、おかしなショウさん』
そうかー?
本当にそうかー??
いやまあ理屈では確かにそうなんだけど……そういう所に何か意味と意義を見出すのが人間という生き物なのであって……ええい、AIには分からない話か。
窮地を乗り越えたけども、なんだか今一つ釈然としない私なのだった。
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