ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
株式会社ソル・クリエイト。
その第三開発室では、今日もビルドロボオンラインの運営・開発に携わる社員が頑張って働いている。
本日はそんな彼らの、ある一日の様子を見て見よう。
「黒沢ー。例のアップデートパッチの話どうなったー?」
「難航してまーす」
パソコンデスクが立ち並ぶオフィスで、社員達がやりとりしている。最新鋭のコンピューターテクノロジーを扱う会社であれど、オフィスの様子は普通の会社とそう変わらないようだ。
「天才様がヘソ曲げてまして。俺達の組んだプログラムは完璧なんだから、それを十全に運用できないプレイ環境が悪いの一点張りだそうです」
「ああもうこれだから自分を職人か芸術家と勘違いしてるアホは! 俺達はサラリーマンだろうが、お金貰ってんだから割り切れよー!」
部下からの報告に、部長が頭を抱える。
ビルドロボオンラインのシステムは、ある種の天才によって構築された非常に高度なシステムだ。しかしあまりに緻密に作り込まれたそのシステムは、理想的な環境が揃った開発環境でなければ十全に機能しない。一般的な感性を持ったシステムエンジニア達の手で、常識的な環境でも動くようにデチューンされているが、いかんせん元が天才もとい人間不適合者の組んだプログラムであり、その全容を理解できていないという事もあってしばしば問題が発生する。
その多くは場当たり的にパッチやアップデートで修正して潰しているが、いくつかそれでは対処できない根本的な問題もある。
そのうちの一つが、ビーム兵器をはじめとする粒子砲兵器の挙動である。
粒子一つ一つを高度に演算するそのシステムは、そのまま国の研究設備に応用できるだけの非常に素晴らしい完成度を誇るが、だからこそ一般環境では機能していない。
結果ビーム兵器は一般プレイ環境では産廃の名をほしいままにし、考察班によって原因を特定されてからは開発は無能のレッテルを押される原因になっている。
頭の痛い話である。
「まあうちの給料で働いてくれてるだけマシじゃないですかね。アレを思うように動かそうとしたら一体どれだけ支払えばいいのかわかんないですし」
「そりゃまあうちの社長が好き勝手やらせるって条件で雇ってる訳だけどさあ……限度ってもんがあるでしょ」
「一応、場当たり的な対応パッチの開発は進めてますけど……これはこれで問題が生じますよねえ」
はあー、と上司部下そろって溜息をつく。
現状でこそ産廃もいい所のビーム兵器だが、もしそのフルスペックを発揮できるようになったらそれはそれで問題だ。流石に超技術を用いた次世代兵器という事もあって、その性能は下手をすれば他の武器を食い散らかしかねない。SFアニメやマンガだって、最終的にはビーム兵器に全部置換されるのがお約束である。
それが分かっているので、どうしても調整には慎重になる(なおそれで対応を見送った、その代償をトーナメント予選で運営は目撃する事になる)。
ちなみにリリース前にどうしてその問題に対応しなかったのか、どうしても駄目ならいっそ開放しない方向で行けなかったか、というのは、そもそも件の天才がリリース直前に捻じ込んできた要素だからである。
「天才はまじで天才なんですけどね。開発段階ではどうしても無理だった処理プログラムを、エウレーカ、って感じで僅か半日で完成させてきたのはびっくりしました……」
「なんか考えれば考えるほど、アイツがこの会社で働いてるの人類の損失じゃね……?」
「でもアレが野に放たれたらそれはそれで怖くないです?」
再びはあ、と互いに溜息。
と、そこで別の部下が部長に呼びかけた。
「ぶちょー。なんか新しい開発データが届きました。確認してください」
「? 何の話だ、何も聞いてないぞ」
「ええと。新機軸の自律制御プログラム……単独でシンギュラリティを突破しうる自己研鑽能力を持った新型の人工知能、その雛型を作ったとかなんとか。これまでバランス調整に使ってたプログラムとは別口らしいです」
これって何の事なんですかねー、という声を他所に、部長は話し込んでいた部下と顔を見合わせた。
「すまん、俺は頭が悪いからわかりやすく教えてくれ。どういう事だ?」
「ええと。多分っすけど……最近はやりの生成AIってあるじゃないですか? あれってようは人間がどういうのが好きか、ってのを認識して、あくまでそれっぽいもんを出すだけのプログラムで、知能じゃないんですよ。人工知能じゃなくて人工無能。だから、基本的に学習したデータを“劣化”させる事しかできないみたいな。自分の考えがないから、人間みたいに好みとか理想とかを基準にして、方向性を決める事ができないんで。基本的に総当たりをするだけのプログラムなんでハルシネーションなんかも起こすし、よく言われるデータセンターの電力消費問題とかもそれが原因とも言えますね」
「ふんふん」
「……んで。あの天才は多分、その問題を解消した……“単独でも方向性によっては劣化とも進歩ともいえる変化を遂げられる”システムを構築しちゃったんじゃないですかね……?」
つまり。
著作権の怪しいグレーよりのマッドブラックみたいな事をしなくても、人間のように自己研鑽してデータを発展させる事が出来、さらには電力消費やハルシネーションといった問題を解決した、人々が夢見た理想のAIに近い物であるという事である。
「よくわからんが、それってゲームの一要素として出していいものなのか?」
部長は素直にそう思ったが、とりあえず実装に向けて動く事にした。
彼はあくまでサラリーマンなのである。
こうして実装されたのが支援AI達であり、その第一号がテレサと呼ばれる事になる。
なお、このテレサ実装時にまたひと悶着あったのは別の話。
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