ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
そんなこんなで、トーナメントに向けて機体を仕上げるべく励んでいるある日の事。
突如鳴り響いたインターフォンに、私はヘッドセットを外して応対に出た。
「はいはーい、小鳥遊です」
「どうもー、小笠原郵便ですー」
配達員の人にサインを手渡し、荷物を受け取る。
……が、心当たりがない。伝票には確かに私の名前が書いてあるので送り間違いではないと思うのだが。
「なんだろ、まさか郵送詐欺の類……?」
首をひねりながら伝票を再度確認する。ええと、送り主は何々、『タニヤ先進技術開発研究所』? ……あ、もしかして。
「ひょっとすると……あ、やっぱり!」
PCのメールボックスを確認すると、確かに過去にメールを送った記録があった。
送った内容は、抽選会への応募。
最新式の、触感再現VRシステムへの応募企画だ。当選してたのか!
「吃驚した、こういうのって事前に当選メールが送られてくるもんじゃないの? いいか、なんでも。こうして私宛に現物が届いてるんだし……!」
うきうきしながら開封する。
中から出てきたのは、当選を祝う手紙と、梱包材に包まれたVRヘッドセットとボディプロテクター、グローブのようなもの。
このグローブとプロテクターが、このシステムの目玉である。内部には特殊ジェルが充填されていて、電圧で硬度が変わるようになっている。これによって、疑似的に指先に触れた感触を再現するようになっているのだ。またボディプロテクターとグローブを専用ワイヤーで結ぶことで抵抗も間接的に再現。硬い感触がするのに指がめり込むみたいな違和感を抑える事が出来るのである。さらにプロテクターも簡易的ながらも、感触を再現する機能つき。映像だけでなく、五体で仮想現実を体感する事ができるのだ。
まさに最新鋭VRテクノロジーの結晶。
わーい、嬉しい! 早速ビルドロボオンラインで試してみよ。
私はウキウキしながら初期設定を整えて、ゲームにログインしたのであった。
んでもって、ホームに到着。
周囲を見渡していると、テケテケ、とテレサが小走りで走ってきた。最近反応が早いね。
『お帰りなさい、ショウさん! ちょっと用事が出来たという話でしたが』
「ああ、うん。大丈夫、それは済んだ」
『どんな用事だったんですか? 差し支えなければ教えてください』
うーん。まあ、VRシステムがどうとかは意味がないだろうけど、単純な事実なら教えても差し支えないか。
「ああいや、ちょっとあっちのホームに荷物が届いたみたいでね。受け取りにいってた」
『!』
「なんていうか、ほら。あれだ。前に話してた友人からのね……」
AIはこの世界を現実だと思い込んでいる。極力その設定を崩さないように伝えたのだが、はてさて。
『なるほどなるほど。あ、それよりショウさん、来てくださいよ。複数の有線ビームクローをコントロールする、コクピットのレイアウトを思いつきまして』
「ほうほう? 見せて見せて」
『ではこちらに』
興味を惹かれる話題に続きを促すと、テレサはそっと私の横に回り込むと腕を取った。
それ自体は、まあいつもじゃないが時々やっていた仕草なので不思議はない。不思議はないのだが、問題は今、私が何を装備してVRにログインしているか、という事で……。
ぎゅっ、とした感触が胴体を締め付けてきて、私は思わずぎょっとした。
「おぅっ」
『? どうかしました?』
「い、いや、なんでもない」
び、びっくりした。なんかホントに、細い腕が脇に回り込んできたような感触がした……。あくまで胴回りだけの感触だから限定的だけど、あるとないとでは大違いだ。
えっ、これちょっと不味くない?
そんな事を思っていたら、今度は指先に冷たい何かがひょいっと触れた。
「ひふえっ」
『? ショウさん?』
「な、なんでもないっ。ていうか、何故に手を握るので……?」
ぞわぞわっとした感触の正体はテレサの指。こちらの腕を取った指先が、絡みつくようにこちらの指先に擦り合わされていて……その感触が……。
『何故って、いつもこうしてたじゃないですか。どうしたんです、変なショウさん』
「えっ、そうだったっけ?」
そうだったかな? そうだったかも……。いやVRって一人称だから、見えてない所は見得てないんだよね。感触のない3Dアバターの指先がどうだったかなんてイチイチ見てないし、覚えてないし……。
まあでもテレサがそういうならそうなんだろうな、嘘をつく理由がないし……。
「をほん、まあ、そんな話はどうでもいいか。それより、どんな操縦席を作ったの?」
『はい! 以前の立体映像をタッチするのは分かりやすくていいんですが、ワイヤーが増えると指示を振り分けるのが難しくなってきますので。それで、こんなのを考えてみました』
ウィーン、ガション、とハンガーに座する『アイン』のコクピットが開く。キャットウォークを渡って操縦席に入ると、操縦桿の形状が様変わりしていた。
以前は合体すると、立体映像を投影する為のテーブルのようなものが迫り出していたコンソール。だが今は、操縦桿の左右に新しい操作端末が追加される形になっている。サイドテーブルのようなものに埋め込まれているのは、これはトラックボール?
私は操縦席に座りこんで、それらに触れてコロコロと回してみる。お、感触再現の御蔭か、指先で本当にボールを転がしてるみたいな手応えがある。すごいなこれ。
感嘆していると、テレサも操縦席に乗り込んできて、って、わわわ。
『よっと、狭いけど失礼しますね。それじゃ、説明します』
「そ、それはいいけど、君まで入ってくる必要があるかなぁ?!」
『? いつもの事じゃないですか、今更何を言ってるんです?』
おかしなショウさんですねえ、という顔をするテレサだが、こっちはいつも通りじゃないんだ。な、なんか、胸周りに軽くて柔らかい何かが押し付けられてるような感触がするぅ! すごいねタニヤさん、正直やりすぎだと思うんですけど!
え、ええい! 落ち着け私、新鮮な体験だからって煩悩に溺れすぎだろ! テレサに失礼だ、冷静になれーっ。
「うぉっほん。な、なんでもないよ。それで、このトラックボールを転がして、ワイヤークローのターゲット選別をする感じ?」
『はい。複数のターゲット切り替えを、より直感的に出来るようにしたらどうかなって。デモを製作したので、体験してみましょう』
「お、おう」
ウィーン、とコクピットハッチが閉鎖されて、一瞬視界が真っ暗になる。計器に明かりが灯ると、暗闇の中にテレサの横顔が浮かび上がった。
金髪の白い肌、ルビーのような赤い瞳。あまりにも整いすぎた横顔は、逆に現実感のない幻のようだ。その非人間的な美しさに、私は思わず目を奪われる。
なんだろう、彼女とこうやってゲームをするようになって長いのに。……感触再現のせいか? まるで彼女がそこに居るように重さや手触りを感じた事で、改めて彼女の存在を意識したのだろうか。
だがそれは全て錯覚だ。数字と電気が生み出した、曖昧な感覚の誤認に過ぎない。
だけど……。
『もう、今日のショウさんなんか変ですよ? 私の顔に何かついてます?』
「あ、ああ、いや。そうだな、何か変かも……」
『ちょっと休みます? 最近、機体の仕上げに根を入れすぎたのかも。デモ中止しますね』
「いや。大丈夫だ、せっかくだし。気にしないで立ち上げてくれ」
ふぅ、と深呼吸して気持ちを落ち着かせる。幸い、締め切った部屋に漂う微かな芳香剤の香りは、私の気持ちを平常に戻すのに十分な働きをしてくれた。
「よし、気持ち切り替えた。早速テストといこう」
『了解しました。では、スクリーンにターゲットを表示するので、トラックボールでターゲット切り替えを実際にやってみてください』
「良し来た!」
実際にテストを始めれば、もう細かい事は気にならない。
私達はしばらく、有線ワイヤークローの制御方法について意見を交わしながら調整に勤しんだのだった。
そして、ついにトーナメントの次の試合、その日がやってきたのである。
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