ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
「隠しレイドボス?」
「ええ。最近、プレイヤーの間でそんな噂が……」
トーナメント実装におけるシステム調整のデスマーチもひと段落ついた頃。
のんびりと休憩時間に珈琲を啜っていた開発スタッフの間に浮上してきたのはそんな噂話だった。
なんでも最近、プレイヤー仕様とは思えない機体が唐突にポップしてきて他プレイヤーを惨殺するというトラブルが起きているらしい。
証拠映像もある。根拠のないロアではない。
「なんだそれ? ラプラスデモンの暴走か?」
「最初はそう思ったんですけど、考えてみたらラプラスデモンは確率の調整が仕事であって、レイドボスを投入するとかはあきらかに権限を越えてるんですよね」
ラプラスデモンとは『ビルドロボオンライン』を統括制御している管理AIの事である。運営の意図していなかった狩場などによるプレイヤー間の極端な資産格差が発生しないように調整するのがメインの仕事だが、同時に“偶然”を演出するという機能も与えられている。
例えば、圧倒的強者に対して弱者の窮鼠の一撃が急所を捕らえる。もしくは、ギリギリの極限状態で乾坤一擲分の悪い賭けに出る。そういった、“劇的”な瞬間に介入し、全てのプレイヤーの幸福値が最大になるように働きかけるのだ。
つまりはジャイアントキリングの助長である。
不思議な事に、数値的に圧倒的有利な側が数字通りに劣る側を蹂躙しても、有利側の幸福度はそう大きく上昇しない。が、概ね予想通りに言ったうえで、最後の最後で想定外の要素で逆転されると、逆転した側だけでなくされた側も幸福度が大きく上昇する、という現象がロボゲーではしばしば散見される。
予定調和の蹂躙劇など誰も望んではいない。しかし、だからといって意図的に手を抜くという事はあり得ない。そういった人類のジレンマに介入し、全体の幸福度を向上させるのがラプラスデモンの機能なのである。
勿論、そう頻繁に介入が発生する訳ではない。観測結果を元に、ラプラスデモンが後押しするのは最後の1%だけだ。強者と弱者、その両方が番狂わせを望んだ場合にのみ、そして全ての可能性が尽くされてもなお届かない場合にのみ、確率の悪魔は弱者に微笑む。
「んで調べてみたんですが、これただのプレイヤーですね。オフラインで普段遊んでて、オンラインに来ても回線が弱いのか挙動が不安定なんですよ。そのせいで勘違いされたみたいです」
「なんだそれ人騒がせな」
「ですよねー。まあ面白い話ではあるんで、火消しの必要はないと思います。一応、件のプレイヤーには監視システムがすでに振り分けられて違反してないかどうかはチェック済みです」
プレイヤーから見たらおかしな動きでも、運営はそもそもIPからチェック可能である。とっくの昔に調査済み、という訳だ。
「ま、それならいいや。今は落ち着いたけど、そろそろAIサポーターの実装が近いからな。始まったらまた忙しくなるぞぉ」
「まずはオフライン専用のモデルから実装するんでしたっけ」
「ああ。まずはテレサ、フリーヴァ、ルインの3モデルから実装する。テレサはおっとり天然系の金髪娘、フリーヴァは人当りの良さと毒舌の二面性がある赤髪娘、ルインは引っ込み思案の黒髪娘、だな。ちなみにデザインと性格はプログラマー様の趣味だ」
オフライン版から実装するのは、新機軸AIという事で安定性を重視しての事だ。オンラインという情報過多な環境ではAIがどういう反応をするのか分からない。まずはプレイヤーとの一対一でデータを蓄積するのが狙いである。
「とはいえオフラインモードのプレイ時間が10時間越えてるプレイヤーは、全体の10%にも満たないみたいだからなあ。意外と遊ばれてないよな」
「まあ、AI実装したらそっち目当てで遊ぶ人も増えるんじゃないですかね?」
「だといいんだがなあ……」
今後の事を語り合いながら、開発スタッフ達はコーヒーカップを傾けた。
「お客様サポートから連絡です! どうも、意図しない形でAIが不特定多数のプレイヤーに配布されてしまったようで……!!」
「「ぶふぅ!!」」
どうやら、スタッフのデスマーチは一足早く再開される事になるようだ。
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