ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
予選トーナメントから期日を置いての本戦トーナメント開催。
変則的なスケジュールに普通なら困惑するものも多いだろうが、幸いにもビルドロボオンラインにおいてはその事について不平不満をぶち上げる者は少数派だった。
なぜならば、予選終了後公式から公開された映像に、その化け物が居たからだ。
他の参加者を焼き尽くす、機動要塞としか言いようのない破壊の化身。
不遇、産廃と言われてきたビームを駆使して戦場を焼き払う、圧倒的暴威。
誰もがレイドボスと信じて疑わないその怪物は、しかし俺達と同じ一般プレイヤーなのだという。なんでも運営の全く想定していなかったビーム兵器の使い方だったらしく、予選終了後即座に行われた粒子系武器の調整は否応にでもその繋がりを感じさせるものがあった。
二度と、あんな意味不明な暴虐の化身を生み出してはならない。
恐らくその為に運営は調整に追われているのだろうし、その事を考えれば期日が伸びた事に不平不満を言うつもりにはならない。
俺だってあんな意味不明な怪物に遭遇したくはないし。
そんなこんなで、幾度かの細かいアップデートを経てやってきた本戦トーナメント。
俺達は気合を入れて、愛機と共にゲームにログインした。
「よーし、今回は頑張っちゃうぞー」
「おいおい、いつもは頑張ってないのかよ」
「おっと失礼、今回も、だ」
お決まりのフレンド達のじゃれ合いを聞きながら、試合開始の時刻を待つ。
戦場は広大な古戦場マップ。最前線組の俺でも知らない所を見ると、トーナメントの為に用意された特別なステージだろう。
戦場には無数の残骸が転がっているが、その構造や形式にはあまり覚えがない。考察勢からすると、この星の設定について触れる貴重な資料になるだろう。後で考察スレを覗いてみよう。
「さて。じゃれ合ってるのはそこまでだ、試合の流れを確認するぞ。今回の試合形式はサバイバル、押し寄せるメタルインセクトの群れを撃退しながらスコア稼ぎだ。このスコアには勿論、他チームのプレイヤーも含まれる。だが……」
「最初は手出し無用、って事でしょ。類似のゲームを考えると、スタート時点で潰し合うのは下策も下策。やるなら、数ウェーブを経て弱ってるところから、だな」
「スコアを稼ぐには結局、最終ウェーブまで生き残るのが前提だからな。まだ戦闘力を残してる他プレイヤーと交戦して被害を受けるのは避けるべき」
よし。チームメイトもそのあたりはちゃんとわかっている。
問題はいつしかけるか、のタイミングだ。こればっかりは、流れ次第としか言いようがない。これまで最前線で押し寄せる敵の群れ相手に戦ってきた経験がものをいう、それだけだ。
「しかし、他のプレイヤーは何チームあるんだろうな」
「3か5ってとこじゃないか。キリが悪い数字じゃないだろ」
「しっ、お喋りはそこまでだ。カウントダウンが始まるぞ」
正面モニターに試合開始までの残り時間が表示される。減っていくそれがゼロになると同時に、機体の制御系が戻ってくる。即座にチームで全方向をカバーするフォーメーションを取り、死角をなくす。
「報告!」
「こっちからはとくに何も! プレイヤーらしき影がちょこっと」
「おっと、こっちはなんか見えるぜ。煙幕だ!」
さっそく、どこかのチームが動きを見せたらしい。気が早い奴もいるもんだ。
しかし、煙幕? 一体なんのつもりだ?
「どっちだ?」
「あっちあっち。モクモクやってるぜ、なんだろな」
フレンドの言葉に、俺も視線を向ける。
確かに、戦場のど真ん中でスモークが焚かれている。あの煙の勢いだと、ランチャーのスモーク弾を全部撃ち込んだか?
しかし一体何のために。姿を隠すつもりでも、あれだと逆に悪目立ちするだけだ。
困惑している俺達の目の前で、“ソイツ”は煙の中からその姿を現した。
《ギィイイイ……イン》
「あ……おい……」
「なん……だと……?」
スモークを突き破って姿を現す、ライトグリーンの巨体。通常の機体の数倍以上の背丈を誇るソイツが大きく頭をもたげると、まるで身震いするように機体を震わせた。その左右から、ガシャガシャと音を立てて展開されるのは、翼膜の無い蝙蝠の翼。よくよく見ればそれは三対の腕だと分かるのだが、大きく広げられるそれは悪魔の翼にしか見えなかった。
ギギィ、と各部に赤いセンサーの光を煌めかせながら、規格外の巨体が動き出す。
たちまち俺達は騒然となった。
「なんだ……なんだあれ?!」
「プレイヤー? 合体機とか……?」
「馬鹿いえ、メガフレームが三機合体してもあんなアホみたいな背丈にならねえよ! 全高何メートルあるんだあれ、30越えてるんじゃないか!?」
フレンドの意見には全面的に同意だ。伊達や酔狂でメガフレーム三体合体、みたいな事をやってるギルドは見た事があるが、あれはここまで異形でもなければ巨大でもなかった。全体的に関節数が多すぎて、何がどう動くかぱっと見で理解できない。一体何をモチーフにしてるんだ、あれは。
「お、おい、あれ見ろ! あいつの背中からなんか火花が……」
フレンドの言葉にカメラを拡大する。
確かに、その機体の背中から光が。見ると、レール状のパーツの上で、何か修復アームらしきものが動き回っている。
一体何を……。
見ている前で、アームが作業を終える。ごろん、とレールから円盤状の何かが排出されると、地面に転がり……それは一人でに動き始めた。
それが一機、二機、と増えていく。
あれは、まさか。
「……雑魚敵を、排出した?」
「メタルインセクトの襲撃ウェーブって、そういう事かよ! 攻撃しろ、アイツが第一ウェーブ担当だ! ほっておくと、再現なく敵が増えるぞ!!」
フレンドの声に、慌てて俺も狙いをつける。
てっきり、外周から敵が押し寄せてくるもんだと思ったが……まさかの現地生産方式!? 流石というか、運営も変なもんを送り出してくる!
早速攻撃を開始する。
同じことを他の参加者も考えたのか、全方位から射撃が降り注ぐ。
すぐに謎のエネミーは撃破されるものと思われたが……。
「あ、くそ、アイツ硬い!」
「おまけに動きが不規則で当たらねえ、予測射撃きれきれ! 手動で狙いつけろ!」
想像以上に、相手がしぶとい。実弾のみならず、バズーカ、さらにはビームまで飛び交ったが、相手はそれすらも凌いで見せた。何かの特殊な防御装置を持っているのか。
だけども、流石に誘導兵器相手は無理だろう。どこかの誰かが発射した無数のミサイルが、逃げる敵を正確に追尾して突き刺さった。
爆発に包み込まれる巨体のシルエット。
流石にこれなら少しは……。
《ィィイイイ……ン》
「効いてない!?」
爆発の中から姿を現した敵は、ほとんど無傷だった。そればかりか、その翼……否、無数の多腕の先端と頭部らしき場所のセンサーが、禍々しく赤く輝いている。
明らかに何か大技の前兆に、俺達は慌てて手近な塹壕に飛び込んだ。
「大技来るぞー!」
「伏せろ!」
警告の直後、極太のビームが戦場の空に舞い上がった。
直撃すれば前線基地の壁でも粉砕できそうな怒涛の一撃は、しかしどこにも向かわず空に昇っていく。
……なんだ? 皆が隠れたから狙いを見失ったのか?
そんな呑気な事を考えられていたのは、空中でそのビームが炸裂し、その一部が明らかに狙っているとしか思えない精度でこちらへ降り注ぐのを見るまでだった。
……分散ホーミングビーム!?
そんなものがこのゲームのシステムで実装できたのか!?
「うわああ!?」
「ぎゃー!?」
直撃、あるいは至近距離に命中するビーム。いくら塹壕といえど、真上から降ってくるビーム相手では意味がない。
流石に一撃死とはいかなかったものの、機体にかなりのダメージを受ける。
「大丈夫か!?」
「あ、ああ。なんて奥の手を隠してやがったんだ……」
「無抵抗に逃げ回ってるように見えたのはこれを準備してたからか? くっそ、ふざけやがって」
比較的損傷の少なかったフレンドの機体が、武器を構えなおす。まだまだやる気は衰えていない様子。
だが……。
「う、後ろ! 後ろ!」
「あん? うしろ(ブツン)」
通信が途中で断線する。上半身を失ったフレンドの機体が、力無くその場に崩れ落ちた。
その、背後。
どこからか姿を現した竜の頭が、食い千切った機体の上半身のコクピットをかみつぶし、その場にぽいっと吐き捨てる。
「な、なんだこいつは!?」
《ヒィイイン》
咄嗟にチームメイトと弾幕を張るが、怪物の頭はひゅんひゅんと生きているような動きで攻撃を回避する。見れば、その後ろから長いワイヤーが伸びていて……有線クロー? そういえば、多少変形しているがこのデザイン、あの正体不明機の腕に似ているような。
まさか。
まさか……!
「あいつ……六本腕全部にこんなものを……?!」
だとしたら、今ごろは他のプレイヤーも……。
その事実に思い当たった俺を嘲笑うように、ビカッとクローの先端が光った。レーザー!?
「うわっ!?」
「しまったっ」
シュイン、と薙ぎ払われた赤い光が、こちらの武器を破壊する。基本的に武器は非装甲部位だ、あの程度の出力のレーザーでも十分に破壊できる。しかしだからって、狙いが正確すぎる。たかがワイヤーで繋がれてるだけのアームが、なんでああも自由自在に動ける!?
「く、くそ、このままやられてたま(ブツリ)」
隣で戦っていたはずのフレンドの通信が途絶える。
振り返ると、彼の機体は背後から伸びてきたクローに胴体をぶち抜かれ、そのまま塹壕の奥に引きずられていく所だった。
「く、そおおお!」
駄目だ、このまま分離したクローと戦っていても埒があかない。
一か八か、本体にしかけるしかない!
俺は塹壕から飛び出すと同時に、バックパックとアーマーを分離させる。それらは自動的に変形して、バイクのような形状になる。それとドッキングし、戦場を全力で駆け抜ける。
これが俺の切り札。機体フレームそのものは極限まで軽量化し、バイク型マシンを分解して機体にアーマーとして装備する。これによって疑似的にサポートメカをトーナメントに持ち込む事を可能としたのだ。単なるローラーダッシュでは荒れ果てた荒野を走る事は出来ないが、サスペンションを備えたオフロードバイクなら!
このまま最高速まで加速して、あの化け物に体当たりする。さしものやつも、この質量がこの速度で突撃してきたらただではすまない!
障害物を避けて走るこちらの背後に、クローが追いすがってくる。だが、さすがにスピードで負けるわけにはいかない。アクセルスロットを最大まで回し、加速力でクローを置き去りにする。
正面モニターには、どんどん近づいてくるライトグリーンの巨体。やはり奴は腕からワイヤークローを伸ばしており、それによって戦場のプレイヤーを攻撃しているようだ。その巨体から長いワイヤーを伸ばしてうねらせている様は、まるで邪悪な荊のようである。
こちらに気が付いて振り返ろうとするそいつに、牽制でライフルを撃ち込む。大口径ライフルの被弾で、バランスを崩して動きを止める巨大な怪物。
よし。これならそのまま……?!
「うわ、なんだ!?」
突如、横合いから強い衝撃を受けて機体のバランスが乱れる。モニターを見ると、得体のしれない円盤状の小型メカがこちらの機体に取り付いていた。
……しまった、こいつの事を忘れていた!!
後悔するも後の祭り。さらに一、二匹と追加で小型メタルインセクトに取り付かれ、完全に身動きを封じられてしまう。直後、凄まじい衝撃に視界が散り散りに乱れ、正面モニターがノイズに満たされた。
……どうやら、背後から追いついたクローに一撃くらったらしい。
ステータスモニターは真っ赤っかだ。自慢のバイクは大破し、機体も上半身だけ。どうやらここまでのようだ。
「?」
しかし、いつまでたっても画面が暗転しない。訝しんでいると、衝撃から復旧した正面モニターに映像が映し出された。
「ひっ」
そこには、ギラリと光る深紅の一つ目。
あの巨大な化け物の顔が、ドアップでモニターに映し出されている。その目が、徐々に強い光を帯びて……。
次の瞬間、視界の全てが光に満たされ、一転して暗黒に染まった。
《“アインXソフXオウル” に 撃破されました》
そして本戦トーナメント行程終了後、公開された映像で俺は見た。
全方位から押し寄せる、百をこえるメタルインセクト相手に大暴れの限りを尽くす多頭竜の姿を。
あれもプレイヤーだったのかとか、流石にインチキがすぎないかとか、それでも最終ウェーブは乗り越えられなかったとか、まあそもそも最終ウェーブは無限沸きらしいから絶対死ぬんだけどな、とか色々思う所はあったが最終的に抱いた気持ちは唯一つ。
「……決勝トーナメント、楽しみにしてるぞ」
銃火を交えたなら、それは宿敵(トモ)。
進めなかった俺達の代わりに、どうか精々暴れてくれ。
無名の隠者よ。
●無名の隠者●
詳細不明。オフラインで活動しているらしく、ごくまれにオンラインで目撃される事がある。ビーム兵器を偏愛しているらしく、調整前からビーム兵器を中心としたアセンブリを行っている。問題なのはそのアセンブリが規格外かつ奇天烈な発想であり、あまりにも常軌を逸した仕様からプレイヤーではなくレイドボスと思われていた。少なくともこれまで報告されていた隠しレイドボスと思われる機体の内、“バーニングスフィンクス”“詳細不明(通称デス恐竜)”“タイタンコア”“アインXソフXオウル”は彼ないし彼女の機体である事が運営のコメントで発覚している。やらかしすぎて運営にも目をつけられてるとか草も生えない。
別名、野生のレイドボス。
~雑談掲示板より一部抜粋~
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