ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第百十八話 龍蟲再び

 

 トーナメントでやらかしてしまった私は、ちょっとしょんぼりした気持ちでゲームにログインした。

 

『お帰りなさい! とーなめんととやらの結果はいかがでしたか?』

 

「……ん」

 

 早速テコテコテコ、と走り寄ってくるテレサにちょっと渋い顔をしつつ、俺は戦いについて語って聞かせた。

 

『あらまあ。開始早々に他の参加者に攻撃を受けて全滅させてしまったと』

 

「そうなんだよ。おかげで複数のチームで相手する前提のメタルインセクトの群れを一人で相手する羽目になって……」

 

『あらあらまあまあ。それで奮戦むなしく撃破されてしまったと』

 

 コクコク頷くテレサ。とりあえず話はだいたい伝わったらしい。

 

『それは大変でしたねえ。でもまあそうやって集中砲火されたという事は、ショウさんの機体がそれだけ脅威に感じたのでしょう。誉というやつですよ!!』

 

「そういう知識どこで仕入れてくんの……?」

 

 困惑しつつも励まされてまあ、まんざらでもない。

 

 少なくとも彼女をがっかりさせる結果に終わらなかったようでちょっと安心。

 

 と、テレサが床に正座をすると、自分の膝をぽんぽんと叩くようなしぐさをして私を手招きした。

 

 え?

 

「え?」

 

『……その。膝まくらという奴、どうです?』

 

 ちょっと顔を背けて視線を逸らして、テレサ。その頬は紅潮している。

 

 どうって……。

 

「え、いいの?」

 

『どうぞどうぞ』

 

「じゃ、失礼して……」

 

 幸いにして、体感式VRは胴体と腕にしか機能がない。彼女の太ももに顔を乗せた所でセクハラには……いやでも実行した事には変わらないし……いやでも……。

 

 葛藤しながら、慎重に彼女の太ももに頭を乗せる。視界の半分が、テレサの履いている作業用ズボンで満たされた。

 

 ……よく考えると触感があってもゴワゴワっとしただけかもしれない。

 

『はーい、ショウさん、お疲れさまでした。ショウさんはよく頑張りましたよー』

 

 そうしているとたぶんこちらの頭を撫でながら、テレサがそんな事を囁きかけてきた。しっとりとしたウィスパーボイスに、ぞくっと背中が震える。

 

 これもひとつのAMSRという奴か。VRはサラウンドノイズの為に割と品質のいいヘッドフォン併用するしね……。

 

 これはこれで良いものかもしれない。

 

『うふふふ。ショウさん、可愛い……♪ ふふふ……』

 

 なんだかテレサは上機嫌だ。普段、あんまり触れ合うスキンシップをしていないからここぞとばかりに堪能しているのかもしれない。

 

 しかしなあ。こっちにだけ感覚があるの黙って触れ合うのも……いやでも感覚がない方が普通はおかしいのか?

 

 であればもっとハグとか握手してもおかしいものではない?

 

 いや、いかんな。なんか考えがまとまらない。あとちょっと眠くなってきた……いやいやここで眠ったら数時間コースだ。

 

 しゃっきりしなくては。でもテレサは楽しそうだしなあ。

 

「まあいいか……」

 

『うふふー』

 

 そのまましばらく、私はテレサのやりたいようにさせる事にした。

 

 

 

 さて。

 

 膝枕タイムが終わった後は、再びマップの攻略である。

 

 修復が終わった『アインXソフXオウル』に乗って、雪山マップに出撃する。

 

『~~♪』

 

「ご機嫌だねえ」

 

『ええ、それはそうですとも!』

 

 合体コクピットの中、私の横に座るテレサちゃんはずいぶんとご機嫌そうである。彼女からすると、戦場で撃破されて死ぬリスクよりも私と一緒に出撃できる事の方が重要らしい。

 

 まあ、死亡してもイコンで再生するからノーカン、という価値観なのだからだろうが……。

 

 私は全然よろしくないので、できるだけ撃破されないように気を付けよう。

 

 なんせ、雪山にはアイツがいる。

 

 山の上に立ち込める雷雲、それが今回もやたら低い場所にまで降りてきているのを不安をこめてみていると、テレサもそれに気が付いたのか手をひさしのように翳してモニターを見上げた。

 

『噂の超大型メタルインセクトですか?』

 

「ああ。本来は山頂の高射砲を守ってるって話なんだけど、理由は不明ながら時折地表近くに降りてきているみたいだしね。遭遇はできるだけ避けたいけど……」

 

『関係ありません、遭遇したらやっつけちゃいましょう! 私達とこの子なら可能です!』

 

 鼻息荒く戦意を訴えながらさすさすとコンソールを撫でまわすテレサ。まあやる気があるのはいいんだけど、流石にそう簡単な話ではない。

 

 まあ、私もアイツにリベンジしたい気持ちはあるけどね。

 

「流石にそこまで簡単な相手じゃないよ。せめて遭遇戦じゃなくてこっちが有利な状況で先手を取りたいところだけど……」

 

『ふむふむ』

 

「せめて、アイツが地上に降りてくる条件が分かればね」

 

 おしゃべりしながら先に進むと、分かれ道に差し掛かる。

 

 ここから左にいけば渓谷の底、右に行けば山沿いに山脈を渡るルートだ。この間は谷底にいってゾウ型と激闘を演じたが、あれからどうなったのだろうか。

 

 レーダーを見るに、そんなに敵の反応はないが……うん?

 

「ゾウ型が、山の方にいるな……」

 

『このあいだショウさんと谷底で暴れたから、生息地を変えたんですかね?』

 

「そういう事もあるか……」

 

 案外、友人は谷底から移動しないみたいな事をいっていたが結構移動もするのかもしれない。

 

 さて、どうするか。

 

「とりあえず様子を見よう。分離して物陰から観察したい」

 

『了解しました!』

 

 私の提案に快くテレサは頷いて、もとのコクピットに戻っていく。二人でそれぞれ一機ずつ、無人機の一機はテレサが有線を繋いでコントロールして連れていく

 

 

 何かあったら戦うのは私の乗る『アインX』の仕事だが、それも戦闘力はかなりこころもとない。ワイヤークローは分離状態では両手の二つしか使えないし、脚と背中のワイヤーは合体する機体に分けて積み込んでいるからだ。極力戦闘は避けるべく、インセクトモードに変形して姿勢を低くし、物陰に身を顰めながら先に進む。

 

「……いた」

 

 立ち並ぶ針葉樹林の裏に身を隠しながら偵察すると、坂を上った先の開けた道の真ん中に、ゾウ型がぼーっと突っ立っているのが目に入った。

 

 やはり何かの条件で谷から出てくるのは間違いないようだ。やれやれ、先行組の攻略情報というのも当てにならない。

 

「さて、どうしようかね……」

 

 一機だけなら倒すのは訳ない。が、特にしかける理由も見当たらない。もう少し観察して、谷から出てくる条件が分かればいいな。

 

 そんな風にのんきに考えていた時の事である。

 

 切羽詰まったテレサの警告が通信越しに響いた。

 

『ショウさん! 上空から超高エネルギー反応! なんですかこれは……発電所でも動いているんですか!?』

 

「!」

 

 滅多に聞けないテレサの動揺しきった声。それに加えて膨大な電力反応……間違いない、奴だ。

 

 まずい。今、こちらは分離状態だ、交戦に入ったら間違いなく一瞬で全滅させられる!

 

「テレサさん、とにかく物陰に隠れて! 見つかったら一貫の終わりだ!」

 

『は、はい!』

 

 慌てて後退、針葉樹なんかじゃ機体を隠しきれない、大岩の陰に移動する。完全に機体を隠した後、ちょっとだけクローを物陰から伸ばして、様子を伺う。

 

 針葉樹林の向こうでは、ゾウ型が何か落ち着かなさそうに鼻を動かしてそわそわしている。その上空に立ち込める暗雲……一瞬の稲光の中、雲の中にのたうつ黒い影が浮かび上がった。

 

「クラウド……センチピード……」

 

 今もなお、オンラインでは撃破報告がないという、攻略不可能とさえ言われた超高難度レイドボス。再び目の当たりにする事になったその異形に、私はゴクリと唾を飲んだ。

 

 

 

 

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