ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
宙に立ち込める暗雲の隙間から、長大な大百足がその姿を垣間見せる。まるで見えない階段を降りてくるように高度を落とすその姿には、ある種の優美ささえ感じられた。
それでも蟲は蟲。10対以上の長い足を持つ異形の姿に、ひぃっ、とテレサが悲鳴を漏らした。
「テレサさん、ごめん、ちょっと我慢してね」
『わ、わかってます、今逃げ出したら見つかっちゃいます……でも……ひぃいん……』
涙目の美女に苦笑しながら、しかし俺はカメラ越しの映像に目をこらした。
本来、もっと高い位置にいる筈のクラウド・センチピード。それがこれで地表近くに降りてくるのは二度目だ。偶然ではない、何か条件があるはず。
それさえわかれば、こいつ相手に先手を打つ事が可能になるかもしれない。
どんな些細な情報も逃すまいと、目を皿のようにして状況を見守る。
「一体何が狙いだ……?」
ゆっくりと降りてくる大百足。その行く先には、地表で周囲をしきりに気にしているゾウ型メタルインセクト。
それが自らにかかる影に、ついに上空の存在に気が付いた。雪を巻き上げながら振り返り、鼻を高くかかげて威嚇する。
『パォオオオ!』
プレイヤーから見ても迫力満点の威嚇だったが、大百足は全く動じる様子を見せなかった。静かに無言のままカチカチと顎を慣らし、ドローンを飛ばす。周囲を舞い踊るようなドローンが、ゾウ型との間に点々と道を結ぶ。
直後。雷鳴のような踏み込みが、点と点を線で結んだ。
『あ……っ』
驚愕するテレサの声。俺は見るのは二度目だが、彼女の驚きに同意するしかない。
この距離で、かつ、わかっていても大百足の動きは雷鳴のような神速にしか見えなかった。到底人間が反応できる速度を遥かに超えたスピードで、大百足がゾウ型メタルインセクトに襲い掛かる。
決着は一瞬で着いた。
大百足の牙がゾウ型に深く突き刺さり、一瞬でHPバーがゼロになる。
以前私が撃破された時と同じだ。あの俊足からの噛みつきを食らえば、どんな機体でもひとたまりもない。
だが、注目するべきはここからだった。
撃破されたにも関わらず、ゾウ型が消滅しない。大百足はその巨体を加えたまま頭をもたげ、その牙がバチバチと青白く明滅している。
『電力を……吸い上げている……?』
「そうか。そういう事か……!」
テレサの呟きに閃きを得て、私は膝を叩いた。
大百足はその活動に大量の電気を必要とする。が、一方で、それを補うほどのジェネレーターを搭載すれば、恐らくあんな風に空を軽々と移動できない。つまり奴は機動性を担保するために電力を外部に依存している可能性が高い。そして、巨大なゾウ型メタルインセクトは、奴の腹を満たす電力を蓄えた格好の獲物という訳か。
恐らく友人と遊んでいた時に襲い掛かってきたのも、ゾウ型を狙っての話だ。
初見殺しもいい仕様だが、これは使える。使えるぞ。
「大分無理筋だと思っていたが……これで一筋の光明が見えたかもしれない」
『え?』
「テレサさん。もうしばらく奴を観察しよう。特に、ドローンの動きについてはよく記録しておいて」
そのまま俺達は岩陰に隠れたまま、慎重に大百足の行動を観察した。
奴はその後、さらに2体のゾウ型メタルインセクトを捕食し、道中で襲い掛かってきたサル型の群れを一瞬で殲滅すると、高度を上げて山頂付近に戻っていった。
バリバリ、と最初よりも強く放電する雷雲が上昇していくと、山頂に立ち込める黒い雲と合流する。時折瞬くように明滅する中に浮かび上がる山頂のシルエットを見上げながら、俺は納得に腕を組んだ。
「なるほど……ああやって普段、山頂付近の雷雲に潜んでいるのはああやって雷からエネルギーを吸収する為か。地上に降りてくるときの雲は自前で出したものか? 電力を蓄える機能でもあんのかな」
『おっそろしい相手でしたね……A級メタルインセクトと呼ぶにふさわしい相手です。真正面から戦ったら、この子でも相手になりませんよ。……本当に、アレを仕留める気なんですか?』
「もちのロン」
不安そうなテレサに力強く頷く。
相手の手札は大分明かした。あとはしっかり対策を練るだけだ。
あくまでこれはゲームだ。本当に倒せない相手なんて存在しないはず。ロボットゲームは、何も反射神経とパーツ性能だけが物を言う訳ではない。
あらゆる戦いに通じる真理。それは……。
「メタれば勝てない相手は居ない! よし、今日はよい収穫があった。戻って奴への対策を練るぞ!」
『りょ、了解しましたー』
ふふふふふ、楽しくなってきた!
オフラインモードといえど、攻略不能と言われたレイドボスにその目が見えてきた。やったるぞー!
そして友人をびっくらぽん! させてやるのだ、げへへへへ。
そして数日後。
対クラウド・センチピード仕様にカスタムした『アイン・ソフ・オウルVerX』に乗り込み、私はテレサと共に雪山に向かっていた。
今回はもう完全に大百足戦にカスタマイズしてある。ライトグリーンの装甲は、絶縁性の高いものに置き換え、雪山に合わせた白色の迷彩色。機体各部に過電流によるダメージを押さえる為のブレーカーを備え、追加装備として背中から尻尾に見立てた巨大なアースを装備している。
これで万が一、雷速噛みつきを食らっても電撃ダメージだけは軽減できるはずだ。まあ、物理的なダメージだけでも甚大な被害が出るのは想像に容易いから、これだけやっても気休めである、気休め。
武装に関しては相変わらずの有線ビームクローに加え、大型ミサイルを2発。使い捨てで弾速も遅いが、命中すればかなりのダメージが期待できる、今回の切り札だ。
「さて。まずはゾウ型を山の方におびき出すか……」
『この機体なら簡単な事ですね』
「その通りだワトソン君」
小粋なジョークに首を傾げるテレサをよそに、有線ビームクローを伸ばして谷底のゾウ型にちょっかいをだす。こちらをターゲッティングして向かってくるメタルインセクトを、適宜誘導して坂を上らせ、山の上に誘導。
戦場に相応しい開けた場所まで引っ張ってくる。
「よーし、いい子だ。こっちまでおいで」
『ショウさん、サル型が出てきました』
「あ、そっちは及びではないので」
シュシュシーン、と有線ビームクローを伸ばすと、たちまちのうちに蹴散らされる雑魚の群れ。飢えた狼のようにビームクローがクローを打ち鳴らし、あっというまに殲滅してしまう。
うーん、楽でいいね。
静かになった大広場に、のそのそとゾウ型が姿を現す。さーて、やっこさん、これに気が付くかな?
『……! 上空に高エネルギー反応を確認! 奴が餌にかかりました!』
「よおーし! 一旦身を隠すぞ!」
すぐさま、スモークグレネードを乱射。広場全体を煙で満たし、それに紛れて後退する。合体機体のサイズでは物陰に隠れられないが、岩陰に出来るだけ身を小さく顰めると、ワイヤーを伸ばして周辺の雪をかき集めて自分にふりかける。
気分は砂底に身を隠すタコである。もともと真っ白な冬季迷彩を施しているのもあって、ぱっと見ではこれで分からないはず。あとはこれでどこまで誤魔化せるか……。
少なくともゾウ型は完全に騙せたようだ。煙が晴れた雪原には、こちらを見失ってオロオロしているゾウ型の姿。その頭上に、真っ黒な雷雲がゆっくりと近づいてくる。
あとは先日見た光景の焼き直しだ。雷雲から姿を現したクラウド・センチピードが、威嚇をもろともせずゾウ型を一瞬で仕留めると、その亡骸を咥えて頭をもたげる。電力の吸収……完全に奴はこちらに気が付いていない。
「今だ!!」
このチャンスを逃してはならない。
私は機体を立ち上げると同時に、搭載した大型ミサイルを発射した。
無防備な姿をさらしている大百足に、噴煙を上げて鉄の火矢が飛翔する……。
そして。
周辺の雪を全て吹き散らすほどの特大の爆発が、雪山一帯を震わせた。
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