ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
対要塞ミサイルの直撃。
比較的低レベルの爆発スキルで作れる代物だが、それは誘導の遅さと重量のせいで運用に難がありまくるから、というだけで威力そのものは本物だ。
完全に不意を突かれたクラウド・センチピードのどてっぱらに突き刺さったその大爆発は、それが誇張でも偽りでもない事をしっかり証明してくれた。
地上に太陽が出現したかのような眩いオレンジ色の閃光。
隣でテレサがガッツポーズと共に呟いた。
『やりました!』
「それ禁句ぅ!!」
勿論そんな訳がない。
鳴り始めるロック調のBGM。メインモニターに表示されるHPバー。
燃える炎の向こうから、とぐろを巻いた巨大なシルエットが浮かび上がる。
敵は健在だ。
炎を越えて、巨大なボスがその姿を現す。その体には、僅かな焦げ目一つみあたらない。
『嘘でしょ!? 完全に無防備な状態で食らった筈……!』
「やっぱ、そう簡単にはいかないかあ」
恐らく前に見た、不可視の防御障壁。あれがミサイルのダメージを大幅に軽減してしまったのだ。見る限り、あれだけ派手な爆発が起きたにもかかわらずHPはちょっとしか削れていない。
だが、全く無意味だったとは思わない。
大百足の特徴的な長い触覚。それが焼け焦げ、黒い煙を上げているのを確認し、私は小さく頷いた。
あれが防御障壁の発信源だとしたら。恐らく奴はもう、これまでのような無敵の防御力ではない。
「予定通りだ……ここからが本番だぞ!」
『了解です、対クラウド・センチピードモードに制御システムを変更! ドローンをマルチロックします!』
ぴぴぴ、と画面の中にいくつものロックオンカーソルが出現する。それらは百足の本体だけでなく、その周囲に飛び交うドローンにも狙いを定めている。
最初に引き連れていたドローンは爆発で消し飛んだようだが、その体内から次から次に新しいドローンが展開される。機体の大きさを考えると、これが品切れになるのを待つのはあまり賢い考えではなさそうだ。
つまりは予定通り。
スペックでごり押しするだけのメタルインセクトに、人間の知恵を見せてやる。
一方、大百足は傷つけられた自らの触覚を長い足で確かめるように撫でると、ギン、とその複眼で確かにこちらを睨みつけた。カチカチカチ、と打ち鳴らされた牙に電撃が迸る。
無言のまま、滑るようにドローンが前に出てくる。
来る……!
ピピピ、といくつかのカーソルが赤く光り、それに合わせて私はトリガーを引いた。
「喰らえ!」
ビームクローからレーザーが放たれる。同時に、大百足が俊足で駆けだした。
長い脚をぶん回して歩幅を稼ぎ、ドローンを足場に高速移動。瞬間的に音速に迫るであろうその速度は、目と鼻の先といっていいこの距離では人間の反応速度を越えている。
本来であれば、そのまま私は撃破されていたであろう。
だが。
踏み出した大百足の足、その切っ先が空をかいた。
『?!』
バランスを崩し、動きを止める大百足。その無防備な姿に、私は胴体からの主砲を叩き込んだ。
「喰らえ!」
迸るフォトンビーム。ピンク色の粒子の濁流は命中直前、見えない壁に弾かれるように阻まれるがそれも一瞬。抵抗を突破したビームが、大百足の装甲に命中する。
流石に貫通とはいかなかったものの、高熱に装甲が赤熱、HPバーが減少する。……通った!
『ギィイイ!?』
「よぉーし、どうだ無敵のレイドボス様よぉー! 初めて感じる痛みの味は!」
ダメージに仰け反ってリアクションするボスの姿に、思わずガッツポーズ。確認する限り、このクラウド・センチピードに10円傷ですらつけた奴はいない、これぞ歴史的快挙という奴だ、やったね!
絡繰りは簡単だ。
奴がドローンを足場にして高速移動してくるのは分かりきっているし、故にドローンを破壊する事で脚を止める事ができるのも把握済みだ。
だが複数のドローンのうち、どれが足場になるのかを瞬間的に判断するのはかなり難しい。私が以前、一度目を防げたのはほとんど偶然だ、事実二撃目には反応すらできなかった。
手あたり次第に破壊するのも悪くはないが、それでは阻止に手一杯になってボスに攻撃できないし、何より先に弾が尽きる。
だからテレサに専用のプログラムを組ませ、センチピードがどのドローンを足場にしてくるのか瞬時に識別、それを有線ビームクローで破壊する、という戦略を取った。
これが可能なのは、合体している事でこちらは一機であるが故に、パターンが絞り込めるからだ。これがもし仮に、複数機での正式なレイド戦であった場合、ターゲットがばらけて毎回複数のパターンを想定しなくてはならなくなるため、とてもじゃないが対応しきれない。
あくまでこちらがオフライン、事実上のソロだからこそ取れる対策だ。
そしてそれは、このレイドボスに確かに刺さった。
『ギ、ギギィ!』
「おっと、そうはいかないぞ!」
再びドローンを展開する大百足。だが先ほどと同じように足場になるドローンを瞬時に識別、先手を取って破壊する。足場を失い、スタンした大百足に今度は腕からのビームを叩き込む。
出力の低下した防壁を打ち破り、再びボスのHPが減少する。
あとはこれの繰り返しだ。
事前に組み立てたメタ戦術によって、その場から一歩も動く必要もなく、ボスのHPが削られていく。
戦況は完全にこちらに優勢だ。
だけど、まあ最後までこのまま楽勝、とはいかないだろうな……もうじき、ボスのHPが半分を切る。果たして何を隠し持っているのやら……。
『ふふふ、楽勝ですね、ショウさん! このままやっつけちゃいましょう!』
「だから禁句はやめて」
不吉なテレサの発言が聞こえたからではないだろうが、ついにボスが新しい動きを見せた。
『ギギギィ……』
まるで蛇使いの操るコブラのように、まっすぐ高く首をもたげるクラウド・センチピード。その周囲には、ドローン達が護衛のように集まってきている。
何をするつもりか分からないが、ただ座して見る訳にはいかない。
腕を大きく広げ、ドローンをマルチロックする。
「片っ端から落とす!」
『了解しました!』
ビビビビ、とレーザーが連射され、ボスの前に壁のように立ちはだかるドローンを撃墜する。一方、ボスは落とされていくドローンには全く頓着しないまま、小さく体を震わせると牙を開いた。二本の牙の間で電力がスパークし、フラッシュでモニターが虹色に塗りつぶされる……。
直後。
衝撃と共にコクピットに警報が鳴り響く。ダメージと共に、突如として左腕の一つのステータスモニターが真っ赤になった。
全損。全システムダウン……?
「何が起きた!?」
『す、ステータスチェック中! ログを確認……規格外の大電圧によりサーキットが焼き切られたようです! 幸い、腕部に増設したブレーカーと絶縁帯が機能して本体の損害は小さかったようですが……この腕はもうだめです、修理も出来ません。パージします!』
うそだろ、無数のユニットで構成されているワイヤーは、そのユニット全てに半ば冗談のノリで絶縁帯を設けてたんだぞ!? それをぶち抜いて本体側のブレーカーを落としてきた!?
バスン、と切り離されるビームクロー。瞬間的な重量の変化に機体が傾ぐ中、ボスは悠々と構えたまま、静かに牙を帯電させている。
まさか……あの牙から、ありったけの大電圧を放出してきた? 雷と同じことを、たかがメタルインセクトの身で!?
「化け物め……だ、だがなんで助かったんだ?」
『腕部に命中したから……』
「そうじゃない、なんで腕に電撃が落ちた? 奴は間違いなく本体を狙ったはずだ」
奴の狙いは間違いなくこっちの本体だった。なのに放った電撃は、大きく左右に広げていた腕の一つに命中した。電撃なんて細かい制御ができるようなもんじゃないから、狙ったのがたまたま外れた、という可能性もなくはないが……。
本当にそうか? 私の直観が違和感を訴えている。
「……待てよ? 雷の制御……? っ、そうか、そういう事か!」
『え、ちょ、ショウさん? 一人で納得されても……』
「誘雷だ! ビームクローから照射されたレーザー、あれが奴の放った電撃を誘導したんだ! それで本体への直撃を避けられた……!」
昔、科学雑誌で読んだ事がある。避雷針以外に雷の落下先を誘導するための試みとして、レーザーを用いる実験が行われた、と。詳しい原理は忘れたが、それと同じことが今たまたま起きて、本体を狙ったはずの電撃が腕に落ちた、と考えれば腑に落ちる。
逆に言えば、その偶然が無かったら今の一撃でこっちはお陀仏だったという訳だ。偶然に助けられた形になるが……。
「いや、そう甘い話でもないぞ……!」
再びとぐろを巻くようにして、噛みつきモードに映る大百足。奴の超高速移動を封じるには、ビームクローを総動員してのドローン撃墜が必須だ。落雷攻撃が行われる度に腕を囮にしていたら、そのうちこの攻撃に対応できなくなる。かといって、あの落雷攻撃を防ぐ手段は今の所ない。直撃すれば即死間違いなしである以上、腕を犠牲にして凌ぐしかない……!
ギリギリのチキンレースだ。ボスのHPを削りきるのが先か、こっちの手数が足りなくなるのが先か……!
『ショウさん、再び高速噛みつきが来ます、対応を!』
「っ! へっ、流石は超高難度レイドボス! 楽しくなってきたじゃないか……!」
だが、勝つのは……私達だ!