ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~   作:SIS

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第百二十一話 天を制する者

 

 

 ボスの道を作る為に、ドローンが大挙して押し寄せてくる。残り五本となった腕から放たれるレーザーが、正確にルート上のドローンを撃墜。

 

 と同時に、道を失ったボスの巨体が、目の前にコマ落としのように出現する。全く反応できないその移動速度にビビりながらも、腕部ビーム砲のトリガーを引く。

 

「喰らえ!」

 

 突き刺さるビームに、ボスのHPが減少する。ダメージに仰け反るようにして体をもたげたボスが、複眼をギラリと輝かせてそのまま雷撃モーションに入った。慌てて腕からレーザーを乱射した直後、モニターが突如として虹色の光に包まれる。

 

 衝撃に機体が傾き、揺さぶられるコクピット。

 

『きゃあああ!?』

 

「くっ」

 

 ステータスモニターを確認すると、腕が一本、レッドに染まっていた。他の腕にもダメージが波及している。

 

 理論だけで言うなら、腕を一本ずつ交換だがそう上手くはいかないか。

 

 このままだと、ボスのHPを削りきるよりも先にこちらの腕が全部潰される。いや、その前にドローンに対応しきれなくなって一撃食らってお終いだ。

 

 それはテレサもわかっているのだろう、ステータスを確認した彼女から弱弱しい声が上がった。

 

『そ、そんな……このままじゃ……』

 

「……」

 

 復旧した正面モニターには、再び雷撃噛みつきモードに移行するボスの姿。再び押し寄せるドローンの群れ……やはり想定通り、その数には限りがない。体内に3Dプリンターでも内蔵して適宜補充でもしているのだろう、あれだけの電力を操るのだからあり得る話だ。

 

 このままではジリ貧だ。

 

 ならば、動けなくなる前にやるしかない。

 

 ボスのHPは残り四分の一ほど。ちょっと多いが……次の放電モードまで待っていたら、文字通りに手数が足りなくなる可能性の方が高い。

 

 今。

 

 やるしかない。

 

「勝負に出る。テレサさんは、脱出の準備をしておいてくれ」

 

『! い、いえ。最後までサポートします! 御一緒させてください!』

 

「……わかった。」

 

 ぐだぐだ言い合っている時間はない。私はぐっと反論を飲み込んで操縦桿を握りしめた。

 

「次に止めたタイミングで仕掛ける」

 

『了解しました!』

 

 ボスが展開するドローンを、レーザーが迎撃する。だが四本に減った上で稼働率も低下、その処理速度は目に見えて遅い。

 

 ボスの姿が掻き消えて、次の瞬間目の前に現れる。

 

 文字通り目と鼻の先。ほんの僅か、僅差で届かなかった大牙が、目の前でガチンと噛み合わされる。

 

 恨めしそうなボスの複眼と視線が重なった気がする。

 

 残念だったな、あと一歩で。その視線に照準を重ねて、私はトリガーを引き絞った。

 

 胸部と残された腕部全てのビーム砲の最大出力。この距離なら外しはしない。

 

「喰らえぇえ!」

 

『! ギギギィ!』

 

 目の前で始まったチャージに、ボスが慌てて身を引いて逃れようとする。が、その動きはモタモタとぎこちない。

 

 ドローンを足場にする以上、奴はとっさの回避が苦手なのは分かりきっていた事だ。これまでは電磁障壁の圧倒的な防御力により、奴は常に攻め込む側だったから問題にならなかった。

 

 ここにきてその弱点が露呈した形だ。今更危険を感じても遅い!

 

 迸るピンク色の奔流。迫りくるそれを前に、もはや回避は不能と開き直ったのか、クラウド・センチピードは頭をもたげて正面からビームに相対した。

 

 その焼け焦げた触覚が動いて前に突き出された直後、見えない障壁にビームの勢いが押しとどめられる。

 

 ……電磁障壁!?

 

『そんな、まだこの出力で障壁を展開できたなんて……!』

 

「奥の手を隠してやがったか……!」

 

 悪知恵の回る奴だ、HPバーの表示を信じてギリギリまで粘ったらこれで詰むって訳か。

 

 だが出力は落ちてる。ビームを防ぐほどじゃないはず。

 

 その予想通り、障壁が粒子を押しとどめたのはほんの一瞬、次の瞬間には勢いを取り戻したビームがボスの装甲を貫いた。

 

 直撃弾。HPが大きく削れるが……。

 

「まだ足りないか!」

 

 ほんの僅か、5%ほどを残して減少が止まる。障壁で威力を落とされたか……いや、これもまだ想定の範囲内。

 

 まだ手はある。

 

「こいつを食らえ!」

 

 残された四本の腕からクローを射出。ボスの体にクローが喰らいつき、メリメリと音を立てて握りつぶしていく。大百足は悶えてそれを振り払おうとするが、弱った出力では振り払えない。

 

 このまま残ったHPを継続ダメージで削りきる……そのつもりで攻撃を続行するコチラに対し、ギラリ、とボスの複眼が睨みつけてくる。

 

 その牙に迸る青白い電撃……コイツ、このまま放電を放つつもりか!?

 

 まずい、今の状態では回避出来ない!

 

『だ、駄目です! 相手のHPを削りきるより、電撃を放つ方が早いです!』

 

「だったら、これで……駄目押しだぁ!」

 

『え、ええ……きゃああ!?』

 

 全力でワイヤーを巻き取ると同時に機体を大きく跳躍。浮くために軽く作られているとはいえそれはあくまで他の同格ボスに比べての話、合体していてもプレイヤー機より遥かに質量の大きいボスを引き寄せる事はできない。

 

 代わりに全力でこちらの機体が引き寄せられる。その勢いに乗りながら、私は思い切り頭部を振りかぶった。そして……。

 

「必殺……シャイニング頭突きぃ!!」

 

『ギィィガ!?』

 

 そのまま、ボスの顔面に叩き込む。三体分の質量を乗せられた頭部フレームは一撃でへしゃげ、首元までめり込んだ。コクピットにも火花が生じ、天井がめこっと嫌な音を立てて凹んだ。テレサが悲鳴を上げてしがみついてくる。胴体に回される手の感触が妙にリアルだった。

 

 一方、クラウド・センチピードは頭部をへこまされて、ふらふらと後ろに仰け反った。複眼にも罅が入り、内部からの光が漏れている。バチバチ、と放電していた牙のアーク光がふっと途絶えて、その巨体はまるでドミノ崩しのように尻尾から地面に崩れ落ちる。最後に、光を失った頭部がずん、と地表に崩れ落ちた。

 

 その周囲に、ぽとぽとと絶命した蚊のようにドローンが落下していく。ガンガン、ごろん、と転がるそれらは、もうぴくりとも動かない。

 

 私は茫然とモニターに表示されるボスのHPバーを見上げた。

 

 長大なゲージはもう、ただ白一色に染まっていて……見ている前でそれが砕け散る。同時に、ボスの巨体が細かく罅割れ、無数のオブジェクトの破片へと変換されていく。堆く積もった雪の結晶のようなそれが、一筋の風に攫われるようにして消えてなくなり……後には、激闘によって荒らされつくした雪原だけが残された。

 

 まるで悪い夢を見ていたよう。

 

 だが夢ではなかったと証明するように、遅れてコクピットにメッセージが届いた。

 

 

 

《コングラッチュレーション! おめでとうございます、貴方は クラウド・センチピード を 撃破しました》

 

 

 

《特殊ボスの撃破により、アビリティ“粒子転送装置”を入手しました》

 

 

 

《特殊称号“天を制する者”を入手しました》

 

 

 

 いつもと違う、メッセージからの撃破報告。

 

 じわじわと実感が漲ってきて……それが一気に爆発する。

 

「………っしゃあああああーーーーーーーーーー!!」

 

 まごう事なき勝利報告に、私はコクピットの中でガッツポーズと共に(アパートの迷惑にならない程度に抑えて)あらんかぎりの快哉を上げた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

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