ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
激戦の果てに、ついにクラウド・センチピードを撃破した私達。
私は一しきり喜んで、そういえばここにはもう一人、それを分かち合える事を思い出して振り返った。
「っとと、私一人の勝利じゃないんだったな。ありがとう、テレサさん。君のおかげで助かった……」
『…………』
「……テレサさん?」
振り返った先で、見目麗しい我が相棒は、ぼーっとこっちを見上げたまま固まっていた。その白い頬が、今はほんのり桃色に上気している。そのルビーのような瞳には、大きく私のアバターの顔が写り込んでいた。他には、何も見えていない。
心ここに在らず、といった状態のテレサ。声をかけても反応がないので、私は控えめにその肩をゆさゆさ揺さぶった。
「テレサさん? どしたの?」
『……はっ!? え、あ……ショウさ……をほんっ!! し、失礼しました、ちょっと忘我しておりました。凄い戦いでしたので……』
「そう? 無理してない? どこか悪かったら言ってね?」
『だ、大丈夫ですはい! なんともありません、そうなんとも! ねっ!』
なんだかやたらと挙動不審ななテレサ。ちょっと変ではあるが、AIである彼女が怪我とかするはずもないし、まあ彼女も強敵撃破でハイテンションなのだろう。けっこう気分屋さんなのはこれまでの付き合いで分かっているし。
『それにしても流石です、ショウさん! あんなA級メタルインセクトを撃破するなんて……これは歴史に残るべき偉業ですよ!』
「ははは、大げさだってば。……それに正直、ギリギリ勝てたって感じだしね」
言って、私は地面に転がるビームクローを見下ろす。
投げ出されたそれらは、火花を吹いてぴくりとも動かない。最後の瞬間、四本がかりとはいえ合体機体の重量を無理やり引き寄せた事で限界を超えてしまったらしい。コンソールのステータスも全てリンクロストしており、ここまで破損したら修理も不可能だ。
しぶしぶ、全ての腕部を本体から排除する。
これで完全にこの機体は丸腰だ。あの頭突きで仕留められなかったら、反撃が無かったとしても完全に詰み、であった。
まさに紙一重の勝利である。
が、勝利は勝利というのもまた事実。
やったぜ。
「ふふふ……さーて。何か妙なアビリティも貰ったようだし、急いで戻って確認しよう!」
『はーい!』
撃破不可能とさえ言われたレイドボス。オフライン版で体力等は調整されているだろうけど、強敵には違いない。それを倒して手に入れたスキル……きっと凄い奴に違いない。
私はガタガタ軋む機体を宥めすかしてホームへの帰路につく。と、隣の席のテレサが抱き着くように身を寄せてきたが、まあ協力プレイで好感度でも上がったのだろう。気にしないことにする。
好かれて悪い気はしないしね。
◆◆
『ショウさん、ショウさん……マスター。私の、私だけのマスター……マスターだけの、私……ふふふふふふ』
「?(ぞわっと寒気) 部屋のクーラー効かせすぎたかな……」
◆◆
「んでもって、新しいアビリティなんだけど……」
早速ホームに戻り、カスタマイズ画面を確認する。
「粒子転送装置……ねえ。どういうものなんだろう」
『説明を見るに、物質転送装置の一種のようですね。極めて微量の粒子を、任意の場所に飛ばせるようです』
「物質転送装置……? ああ、ホーム間のテレポートみたいなものか」
考えてみれば、ゲームでは当たり前みたいに存在する拠点間の移動とか、アイテムの共有とかってそういう事だよな。現実では物質転送なんて理屈のりの字も出来ていない完全なるSFの領域であり、比較的きちんと科学的考証をやってるこのゲームらしくないといえばらしくない。が、これが無かったら不便なんてもんじゃないしな。
屁理屈の為にゲーム性を投げ捨ててもロクな事にならない。仕方ないね。
一人納得していると、傍らのテレサが不思議そうに首を傾げた。
『え? ホーム間で物質転送なんてしてませんよ?』
「え?」
『私達はイコンに記録された記憶から再生されているので……理屈としては、移動する際に肉体を移動先で再構成しているだけです。機体も同じですね。テレポートだと思ってたんですか?』
今明かされる衝撃の事実。私は思わず自分の体をぺたぺたと障った。
「待って、待って。じゃあ、移動元の残された肉体はどうなるの?」
『無難に冷凍保存して、また必要になったら再使用してるんじゃないですか? いちいち処分するほどの余裕はないでしょうし』
一瞬、頭の中に“転送元の肉体は処分されてるのでは”という最悪の想像が過ぎったが、テレサから帰って来た答えは思ったよりも穏便なものだった。
そ、そうだよな。過去の拠点に戻る事もあるし、不必要になったから処分してます、とか流石にないよな。
なんかほっとした……。
「って事は、拠点を作った人類の技術でも物質転送装置は作れなかったって事か……」
『恐らく。多分これは、メタルインセクトが独自に保有している技術だと思われます。どういう原理なんでしょうね』
「だとしても、なんで物質転送装置なんだ? あの大ボスに、そんな要素あったか?」
あるとしたら、大出力ジェネレーターとかバッテリーとか、放電システムになると思うんだが……。
その疑問も、テレサが説明いてくれた。
『戦闘中のデータを解析してたんですけど、あのドローン、どうもバッテリーとか本体からの無線送電で動いている訳ではないようなんですよね。それにしては出力が高すぎます。まるで直接、キャパシターに大電力を転送されているみたいでした。これはあくまで想像なんですが、奴はこの粒子転送装置で、電力そのもの、あるいは荷電粒子のような極大電荷を帯びた粒子をドローンに転送して、その活動エネルギーにしていたんじゃないでしょうか』
「ああ……なるほど……」
そう言われるとちょっとしっくりくるかもしれない。ゲームではよく便利に使われる無線送電だが、あれってようは電気を別の形に変換して送ってるだけで、電気そのものが空間と距離を飛び越えている訳ではないんだよね。有名なのが、某月面機動世紀で、あれは宇宙からマイクロウェーブで地球上の主人公機に送電されていた訳だけど、そのせいで受ける側には湖を蒸発させるほどの膨大な熱が発生する。それに耐える為に主人公機は意味不明なレベルの機体強度と強力な放熱システムを備えていたけど、そういった安全装置の類はボスの使うドローンには見当たらなかった。
だがこの量子転送装置とやらで、電気そのものを直接ドローンに供給していたのなら、あの不自然なまでの大出力も納得がいく。なんせ、あの巨体の足場になってもほとんど沈まないだけの浮力を備えていた訳だからね。下手な機体よりも高い出力を持っていたはずだ。
「てことはこれ、遠隔送電に使えって事なのかな」
『それも一つの手だとは思いますが、きっと他にも色々使い道があると思います。試してみましょうよ』
「そうだねー。どんな使い方があるかなー……なんて、とりあえず一つ試してみたい事があるんだけど」
そう、転送装置と聞いた瞬間から実は思いついていた事がある。
某宇宙戦艦のアレっぽい事、できないかな?
『早速何か思いついたのですね。大分悪い顔をしてますよ、ショウさん』
「えっ、マジで!?」
にやにやしているとテレサに指摘されて、慌てて顔をぺたぺたと触る。だが帰って来たのはVRゴーグルの硬い感触ばかりで……。
「って、よく考えたら私は常時ヘルメット被ってるじゃん! 顔見れる訳ないでしょ、ひっかけたな!?」
『えへへへ、ごめんなさいー』
「ええい許さぬ。梅干しの刑だー」
両腕をわざとらしく振り上げると、テレサはキャーキャー言いながら逃げ出した。
それから十分ぐらい、私達はなんかよくわかんないテンションのまま追いかけっこに興じるのだった。
何やってんだろ。
◆◆