ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
「お、どれどれ」
振り返ると、物陰から顔をちょっとだけ覗かせるテレサの姿。
じっと見ていると、彼女はしばし躊躇った後、えい、と私の前にその姿を露にした。
『ど、どうでしょうか……?』
「おぉ……」
いつもは、水着と作業服を合わせたような、露出が多いのか少ないのかわからないやたらとフェチズムな感じの恰好のテレサ。それが今は、白いエプロンに青いワンピースを組み合わせ、さらにフリフリにリボンで彩ったエプロンドレスという中々に愛らしい衣装に袖を通している。
ところどころに、トランプっぽい白と青のストライプ模様があしらわれたそれは、さながら不思議の国のアリスを思わせる。まあ多分そういうモチーフのコスチュームなんだけど。
当の本AIはこういったヒラヒラした服は着なれないせいか、やたらとスカートの裾を気にしながらもじもじしている。うーん、ロングソックスに包まれたおみ足がプリティーでセクシー。
「可愛いじゃーん。いいね、そういうのも似合う」
『そ、そうですか? か、可愛らしすぎません?』
「そんな事ないない、似合う似合う」
確かにテレサは女性としては背が高い方かもしれないが誤差だ誤差。むしろ、脚がすらりと長い分脚線美が協調されて……ベネ! 露出は殆どないのになんかこう、女性らしい可愛さと凛々しさが強調されてるというか……。
「いいね……うさ耳カチューシャもつけてみない?」
『そ、それは流石に恥ずかしすぎます! か、勘弁してくださーい』
「ははは、ごめんごめん、流石に悪乗りしすぎた。んー、でも似合ってるのは本当だよ。綺麗だ」
揶揄ったお詫びという訳ではないが、ストレートに誉め言葉を並べると、テレサは顔を赤くして視線を逸らしながらも、もじもじとまんざらではなさそうな仕草。わかりやすくて助かる。
『ほ、本当ですか? えへへ……』
「嘘ついてどうするんだよ。よーし、せっかくだから、このまま出撃してみよっか」
『え? こ、この恰好のままで、ですか?』
私の提案に、珍しくテレサが狼狽える。
「? 何か不都合がある?」
『あっ、いえっ、その。こ、この恰好はコクピットに向かないんじゃないかなーって……』
「何言ってるんだよ、普段の恰好も大分あれじゃん」
『そそ、それはそうなんですけどぉー』
そもそも今のテレサが纏っているのはスキンなので、本質的にはいつもの恰好と性能は変わらないはずである。ゲームなんだから、見た目と内情が剥離しているのは当たり前の話。
プレイヤーだって、そういうスキンを装備すれば、見た目はブーメランパンツでも実際はゴテゴテの耐Gサイキックスーツ、なんてことも出来る訳だし。
『や、やっぱ、いつもの恰好に着替えてきますね』
「えー。せっかくプレゼントしたんだから、それ着てきて欲しいなあ」
『う゛。わ、わかりましたよ……この恰好でお供させて頂きます……』
妙に粘るも、ようやくテレサは納得してくれた。
しかしなんだろうな。恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、指先をつんつんさせるのはどこからどう見ても照れてる女の子にしか見えない。前から思っていたが、モーション製作班は性癖をこじらせすぎではないだろうか。グッジョブ、良い仕事である。
「ほんじゃ、いこうかー」
『は、はーい……』
キャットウォークを昇って、機体のコクピットに向かう。ちょっと遅れて、スカートを押さえてついてくるテレサ。
さて。今回の機体は、合体機構を排除した事で単独仕様に変更されている。
見た目も、いつもと比べると随分まっとうに人型をしている。まあ多少ずんぐりしているかもしれないが、ギミックを詰め込んだからね。
胸部は大型化し、前へ多少突き出ている。これは複座型コクピットやビームキャノンを搭載したのもあるが、量子転送装置をフルに活用する為の制御システムが組み込まれているためだ。有線アンカークローの制御に用いたそれをさらに発展させたものだが、量子転送装置の制御はテレサの協力がないと多少重たい。結果、制御コンピューターを増やす事で無理やり対応した。ま、これぐらいは、ミサイルのロックオン短縮とかでどこもやっている事だ。下手に武器を増やすより、レーダーや火器管制システムのリソースを増やす方が有効なのはゲームも現実も一緒らしい。
んで、両肩から前後に垂れ下がってる陣羽織を思わせる装甲がフロートシステムだ。内部にドローンのプロペラを大型化したものが搭載されており、前後に開く事で機体を飛翔させる。安定性が売りだが、速度はあまり出ない。なので普通であれば的になるだけなので、お手軽さに反してあまり使われていないようだ。勿論この機体は普通ではないので問題ない。防御面はビームバリアで補う。
んでもって、攻撃と防御、その両方の中心になる量子転送装置とビーム偏向力場だが、今回は腕に組み込んだ。ビームバリアを使う関係上、出来るだけ機体から突起物が少ない方が制御しやすいからである。腕なら、もともとついてるものだし、角度などの制御も感嘆。手の甲についているのが転送装置で、掌に偏向力場発生装置が組み込まれている。なので、相手のビーム系攻撃なんかは手で払って防御できたりもする。私は反射神経にあんまり自信がないので積極的にやらない方がいいだろうが。
んでもって、頭部には某機動戦士の如くマシンキャノンを搭載して、通常兵器としている。頭部に搭載したから射角が広い……といいたい所だが、流石に主武器になりうる火力だと反動も大きすぎてガクガクする。使う時は首をがっちり固定する事になるので、あんまりそのあたりの利点は得られない。単に両腕と胴体が埋まってるんで仕方なく頭に装備した、というだけの話だ。脚なんかにつけてもしょうがないしね。
以上、再設計した一号機の仕様である。仮に、機体名を“テンペストゥス”とした。
ちなみに一番苦戦したのはカラーリングである。テレサ先生のチェックはなかなか厳しかった。……別に、その報復で可愛い服を買ってきた訳じゃないからね?
こんなに渋るとは思わなかった。よくわからんね。
「よーし、出撃だー!」
『は、はーい……』
そして雪山エリア入口から出発、早速空中に浮かび上がって山頂を目指す。
勿論、えっちらおっちら歩いて昇っていたらきりがない。フローターを起動してふわりと崖の上に上がると、そのままホバリングで山稜に沿って山頂を目指す。
いいね、振動とかなくて乗りやすい。まあ高度をちょっと上げると噂の高射砲に撃ち抜かれるんだろうけど……。
『……山頂、まだ雲がかかってますね』
「ほんとだ、クラウド・センチピード倒したら晴れるかと思ったらそうでもなかったか」
テレサの言う通り、目指す山頂には雷雲がまだ分厚くかかっていて、その全容は見て取れない。一瞬、もしかしてセンチピードも復活してたりして、と思ったが、稲光に輝く雲の内部にはそういうシルエットは見えてこない。
そういや、これまで倒してきたボスの殆どはエリアボスだったから復活しないのも納得だったけど、センチピードはレイドボスだよな。やっぱ一定期間で復活するんだろうか。
報酬は凄い美味しかったし、攻略法をもっと洗練させたら稼ぎにつかえないかな……なんてね。それはまたトーナメントが終わってから考えよう。
『あ、ショウさん。レーダーに反応……猿型の群れがこっちに近づいて来てるみたいです』
「む。まあ、一度も接敵できずに山頂までいけるとは思ってなかったが……」
まあ、ちょうどいい。軽くテストと行こう。
機体を戦闘モードに移行する。水平に上げた腕を折り曲げて、胸の前で拳を突き合わせるお約束のポーズ。勿論これは飾りじゃなくて意味がある。ビーム砲は胴体に搭載してるし、転送装置や偏向力場は腕に搭載しているからね。とても合理的で洗練された構えなのだ、ほんとだよ。
「ビームバリア、展開!」
胸部中央に搭載したプラズマビーム砲が閃光を放つ。青い閃光は発射直後に偏向力場で角度を曲げ、さらに転送された偏向力場によって屈折。数度の屈折の後に、ビームは機体周辺をぐるぐる巡回し、高速で飛翔するその残滓が泡のように機体を包み込む。空中にホバリングしているので地形に激突する心配もなく、このバリアに死角はない。
「展開完了。攻撃を開始する」
『了解しました。ビーム屈折プログラム起動します』
画面に表示される3D映像。それに、専用のタッチペンで軌跡を描いたら、あとはトリガーを引くだけ。プログラムが、あとはイメージ通りにビームを曲げて敵を攻撃してくれる。
「発射!」
胴体左右に搭載された二門のフォトンビーム砲、そのうちの一つが光を放つ。発射されたビームは屈折すると、横から猿型の群れを薙ぎ払った。その薙ぎ払った先のビームもまた曲がり、動く二つの点で繋がれたビームが、前後左右からメタルインセクトを焼き払う。
「……あれ、今の指示だけでこんな複雑な動きすんの?」
『えへへへ。プログラム頑張りましたー』
「そ、そう?」
まあテレサとも付き合い長いしな。指示から私の考えを汲み取るぐらいはできる……できるのかなあ? というかそれって私の内面もこの娘にモロバレって事じゃあないの? いやまあ、別に私はそんな内面の深い人間って訳でもなくて単純な生き物だけど。ちょっと微妙な気分。
それはそれとしてやっぱ多段ヒット発生してんなあこれ。運営に処されないよね? まあ虹色ビームに比べれば細やかなもんだし垢BANとまではいかないだろうけど、トーナメント中に修正はいってやり直しとか勘弁してよね。……やりかねんなあ。
まあいっか。その時はその時だ。
『あ、敵も反撃してきましたね。氷飛ばしてきました』
「だね。まあでもその程度はどうとでも」
テレサの言う通り、猿型の皆さんはカタパルトランチャーから硬い氷の礫を飛ばしてくるが、残念ながらそれらはあえなくビームバリアの前に蒸発する。計算上はマシンガンの1マガジン掃射ぐらいなら防ぎきる熱量の壁だ、氷なんぞで突破できるはずもない。
こっちの攻撃は縦横無尽、対して自分達の攻撃は全く通らない。つまりこれ以上戦うのは唯の自殺……それがメタルインセクトの頭でも理解できたのだろうか。
くるり、と踵を返して猿型達が引き返していく。珍しい、本当に珍しい事に、メタルインセクトの逃亡である。珍しいもんを見た。
「まあ手加減する理由もないんだけど」
申し訳ないが、一匹残さず私の経験値とお金と資源になれ。
再び放たれたビーム砲が、一筆書きのような軌道を描いて生き残ったメタルインセクトを一掃するのは数秒後の事であった。