ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
決勝トーナメントに参加すべく、いつものネットカフェに出かける。
一日分の席の予約をして、個室へゴー。いつも部屋で遊んでいる時のグローブをはじめとする体感VRセットは持ち込んでいない。かさばるし、必要ないからね。
戦うだけなら感触は必要ない。
そしてゲームにログイン……すると、いつもと違う確認画面が表示された。
パスワードの提示を求められたので、事前にメールで渡されていた数字を入力……クリア。
視界が光に満たされる……。
《ようこそ、プレイヤー・ショウ。貴方のご活躍を期待しています》
そして気が付けば、私はどこかの控室みたいな場所に待機していた。
真っ白な壁のシンプルな部屋。正面には大きなスクリーンと、端末らしきもの、そしてベンチ。
端末に触れると、どうやらここからカスタマイズ画面にアクセス出来る様だ。愛機の“テンペストゥス・サイレン”が万全の状態である事を確認すると、どっかとベンチに座ってスクリーンに目を向ける。
画面には、プレイヤーのアバターで犇めくどこかのコロシアムが映しだされている。恐らく、一般プレイヤーの観客だ。これまでと違って、決勝イベントという事もあって運営も演出にはかなり力を入れてるらしい。というかこれだと、対戦相手の情報もある程度仕入れられるのか?
「ふぅむ。やはりビームアンチ機体への対策を仕込んでおいて正解だった」
この調子だと、2、3試合目にはビーム対策をした機体が出てくる可能性もある。ま、そこまで勝ち残れればだけど……取らぬ狸の皮算用ともいうが、そもそも最初から負ける気で挑んでは勝てるものも勝てないか。
気合入れていこう!
「よしっ、がんばるぞ。……おっ?」
『レディース・アンド・ジェントルメーン! お集まりのプレイヤーの皆さま、こーんにちわー!』
映像越しのコロシアムのステージに、一人のキャラクターが上がってくる。
煽情的なバニーガールの恰好をしたあのキャラクターは……なんかどっかで見覚えあるぞ。えーと、うーんと……。
思い出せない。
『えー、皆さまご存知だとは思いますが、本日運営に代わって大会の進行と実況をさせていただきます、ビルドロボオンライン公式ナビゲーター、“ラプ”と申し上げます! 知らなかった人は初めましてー! チュ(投げキッス』
あ、そうそう。確かそんな感じのキャラがいた。
公式ホームページにしかイラストが無いから、いまいち影が薄くて覚えてなかった。あれ、しかし3Dモデルのアバターがあるのか。オンラインだとそんなに影薄くもないのかな?
まあうちのテレサの方が可愛いが。
『それではこれより、ビルドロボオンライン全サーバー総合大会、決勝トーナメントを開催します! ドンドンパフパフー!』
「「「イエエエエエ!」」」
『ご声援ありがとうございます! えー、本トーナメントは、予選や本戦とは違い、リアルタイムで実況生配信します! 勿論外部への情報公開もばっちりです! どんどんSNSなどで情報発信して盛り上げていきましょう! さあ、果たしてビルドロボオンライン最強のプレイヤーは誰なのか! 早速第一試合、始めましょう! カモン! プレイヤー、ショウ! そして、プレイヤー、ミストアイ!』
お、早速私からか。
お呼びがかった事で、画面に自動的に出撃までのカウントダウンが始まる。すでに機体チェックは済ませてあるから、私はその時を待つだけだ。
「……ちょっと緊張してきたなあ」
元々私はゲームは好きだが強くはない。こういった大会に参加した事はあるけど、決勝まで残れたことってほとんどないんだよね。こういうシチュエーション自体にあまり経験がない。
そうこうするうちにカウントダウンはゼロになり、視界がブラックアウトする。
そして映像が戻ってきた時には、すでに私は愛機のコクピットに座っていた。テレサの居ないコクピットは伽藍としていて広い、普段から一緒に行動しすぎたかな。
『システム、キドウ。おはようございます、マスター』
「ああ、おはよう。TLS。今日はよろしく頼む」
コクピットの計器に光が灯ると同時に、女性の合成音声がコクピットに響く。
テレサのプログラムした、対話型インターフェイス……名称はTLS。感情を感じさせない無機質な音声だが、それでも物言わぬコンソールをカチカチするよりはなんだか落ち着く。
「今から決勝トーナメントの本戦だ。相手がどんな機体かはわからないけど、お互い頑張ろう」
『了解しました。マスターに勝利を、敵に敗北を。TLSは製造理由を果たします』
「ははは、頼もしい限りだ。じゃ、いこうか」
モニターの向こうでは、機体がエレベーターによって上昇している様子が映しだされている。やがてエレベーターが停止し、機体が地上に搬出させる。数歩歩いて、周囲の様子を軽く観察する。
……見渡す限りの荒野。オーストラリアの乾いた平原を思い起こさせる、赤茶色の大地。薄く疎らに草原が広がっているものの、ちょっとした火の粉でたちまち燃え上がりそうだ。
遮蔽物とよべるものはない。今は地面の起伏でお互い認識できないけど、ちょっと飛び上がれば見えないものは何もなさそうだ。
つまり、純粋な腕と機体性能の戦いになるだろう。
望むところだ。
「フロートシステム起動。十分な高度を取ったら、ビームバリアを展開。敵を補足し次第、攻撃開始する」
『了解しました。フロートシステム展開』
がちゃんこ、と機体の腕を覆う装甲が前後に開き、内臓したプロペラを回転。ふわわ……と18m級の機体が、ドローンのように宙に浮かび上がる。
ぐんぐん高度が上がっていき、100mほどまで達する。同時に、敵機体の反応がレーダーに確認される。早い。真っすぐこっちに突っ込んでくる。
「ビームバリア展開」
バックパックが展開し、帯状に放射されたプラズマビームが偏向され、機体を包み込む防壁になる。青く輝く、プラズマの守り。これで準備は万全だ。
『敵機の解析完了。機体名“フラッシュホワイト”。一般的な対人戦のセオリーに従った高機動中量二脚です。主武装はライフルと思われます』
「わかった。対処する」
敵は恐らくすでにこちらを認識しているはずだ。だが撃ってこないのは、ライフルの射程外だからか、あるいは青いエネルギーに包まれるこっちの様子に警戒しているのか。
どっちにしろ、関係ない。やる事は一つだ。
「プルートアタック、開始」
『了解。歪曲場の連続転送開始。トリガーはそちらに任せます、タイミングはこちらで』
「おっけ」
上空にホバリングする愛機が、ぐっと両手の拳を突き合わせるような仕草をする。目に見えて敵がたじろぐ気配があったけど、ククク。狙い通り。このポーズの威嚇効果は半端ないからね、物々しい雰囲気もあって猶更だ。
悪い笑みを浮かべながらロックの解除されたトリガーに指をかけて、敵に狙いを定める。
悪いけど……びっくりした次の瞬間には死んでるかもね!
「発射!」
機体の胸部から、フォトンビームが発射される。上空からの高精度の一撃……弾速もあって分かっていても回避が困難なその一撃を、しかし敵はひらりと回避した。なかなかの反応速度と機動力。
そしてそれがきっかけになったのか、敵もライフルを連射してくる。立て続けに飛来するライフル弾……しかしそれは、機体の周囲を渦巻くプラズマの奔流に消し飛ばされ、機体に届かない。
そんでもって、申し訳ないんだけど一度回避してそれで終わりだと思っているなら、終わっちゃうのはそっちのほうだ。
直後、一度回避したはずのビームが真横から敵の機体を撃ちぬいた。
『命中。粒子残存量45%。続けて攻撃します』
両腕を撃ち抜かれてたじろいだ様子の敵機。そこへ、再び軌道を変えてビームが襲い掛かる。今度は反応が間に合って回避するものの、回避されたビームは再び生きているように軌道を変えて敵機に襲い掛かる。いやあ、私の考えたアイディアだけど実におっかないね。自由自在に曲がって襲い掛かってくるビームってこうしてみると人魂みたいだ。
いくら高機動型でも、連続での回避は無理がある。クイックブーストを多用した事で機体のエネルギー、あるいは運動力が瞬間底をついたのだろう、動きが止まったその頭部を、追いついてきたビームが粉砕する。
ぐらり、と傾く敵の機体。そこを、狙いたがわず二発目のビームで撃ち抜く。
爆発。
『敵機撃破しました』
「ふぅ……なんとかなったね」
メインモニターに表示される「YOU WIN」の表示。それに喜びよりも安堵を覚えて、私は額に浮き出ていた汗を拭った。
やれやれ。なんとか第一回戦は乗り切ったか。これでテレサをがっかりさせずに済みそうだ。