ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
控室に戻ってくると、すでにサクサク他の試合も進んでいるようだった。司会進行が人間ではなくAIマスコットである事を利用して、同時に複数の試合を実況中継しているらしい。観客は、手元のコントローラーで好きな試合を観戦できる仕組みのようだ。現実じゃあり得ない、バーチャル空間ならではの演出だな、ちょっと風情がないけど。
まあ、試合数が多いからね。仕方ない。
幸いな事に、控室からでも他の試合の記録映像とか見られるらしいから、ちゃっちゃと次の相手のだけ確認しておこう。
「へえ……次の相手は明らかにセオリー外の機体だな」
戦場を超高速移動する赤い機影に思わず目が丸くなる。
これは……細身の四脚機体、か? あまりの移動速度に、カメラがブレておいついていない。徹底した軽量化、だけじゃないな。それを乗りこなすパイロットの腕あってこそだ。
どうやら武装の方は最小限らしいが、それをハンデともしない試合運び。敵はいわゆるセオリー通りの量産型だが、それは弱いという事ではなく数百数千という戦場で磨き抜かれた安定した強さを持っている、という事だ。
それを一方的に撃破しているのは唯事ではない。
空中に留まる敵を、地上から攻撃回避しながら攻撃を加え、ついにはスラスターが損傷し墜落してきた所に駆け寄ってナイフでトドメ。結局最後まで、敵は有利な空中にいながら地上の敵をまともに捕縛できなかったようだ。
機体性能よりも、パイロットの腕の差がモロにでた感じかな。
「なるほど。強敵だ」
相手の技量が勝つか、こっちの機体の性能が勝つか。勝負という訳か。
敢えて言うなら、敵は軽量さを武器にした高機動型だから、こっちがビーム満載という情報を得ても対策しづらいであろう事が、こちらに有利に働くかもしれないという事か。あの手の機体、ちょっと何か足すとガクリと機動性が落ちるからね。
となると、ある意味、お互い真っ向勝負という訳か。
《プレイヤー:ショウ様。試合開始時間が近づいてきましたので、準備をお願いします》
「おっと。もう出番か」
そしてこちらも悠長に対策している時間はなさそうだ。あとはもう出たとこ勝負である。
第二試合の戦場は、どこまでも広がる砂漠のような光景だった。
どことなく、工業地帯の外に広がる荒野を思い返すが、あちらと違って時間帯は夜、それにさらさらときめ細かい砂が広がる文字通りの砂の海。迂闊に地上に降りると足が沈んで大変な事になりそうだ。
その点、こちらはフロートで浮遊するから関係ない。撃墜されない限りは、だが。
「まああっちも超軽量型、かつ接地面積の広い四脚だからな。そうそう砂に埋まったりはしないだろうが……多少は機動力が削がれるといいんだけど」
そのあたりは流石に望み薄かな。高度を取ってビームバリアを展開した直後、コクピットに警報が響いた。
『7時方向に反応。ロックオンされています』
「え……」
反応するよりも早く、ドタパパパ、と飛来した弾丸がビームバリアに弾かれて消失する。慌てて振り返ると、視界の端を赤い残像が掠めるように過ぎった。
「嘘だろ、もう回り込まれてるのかよ!?」
とにかく敵を視界におさめようと機体を振るが、チラチラ赤い残像らしきものが見えるだけではっきりと敵を認識できない。早すぎる、いや、それだけじゃない。
こっちの視線の動きを完全に読まれてる。読心術でも使えるっていうのか。
「うわあ!?」
きょろきょろしてる間に、再びビームバリアに被弾。この程度ではバリアは消滅しないが、こっちは敵の姿も見えていない。どうしよう?
『システムより進言。ハードロックを行いますが、よろしいでしょうか。その場合、操縦者の操作よりもシステム側の制御が優先されます』
「頼む!」
『了解しました。敵機をハードロックします』
TLSに頼み込んだ直後、機体がガクガク、と痙攣じみた挙動でカメラを振り回した。一瞬後には、モニターの中心に高速移動する赤い影。それを追従して、“テンペストゥス・サイレン”が吊り下げられた操り人形のようにガクガクと動くのが分かる。相手の超高速移動を捕らえ続けるために、かなり無茶をしているようだ。
『敵機の解析完了。機体名“スカルブラッド”。非常識なまでに機動力を重視した軽量四脚型です。地上戦に特化しており、非常に装甲が薄い事から爆発系の範囲攻撃が有効と思われます』
「どう見ても着弾までに爆発範囲から離脱されそうなんだけど!?」
『……失礼。ご指摘の通りです。超高速・超広範囲の範囲攻撃が有効と思われます』
それが有効じゃない敵ってこの世に存在しないと思うんだ。
それはともかく、補足できたのなら勝機はある。相手の姿もまともに見えないんじゃ戦いにすらならない。
少しでも有利な位置取りを取るべく移動するこちらに対し、敵の機体は残像を残すようなスピードでジグザグに移動しながら、手にしたマシンガン……いや、マシンピストルか? とにかく射撃でこちらに牽制をしてくる。その射線を気にして回避した瞬間、気が付けば敵の姿がモニターから消えていた。グギゴギ、と機体が非人間的な動きで身を捻り、再び敵をロックオンする。
「うひー、いくらなんでも自信なくすぞ……」
『敵機は特殊な形状の脚部を採用した事により、前後左右への等速移動を可能にしているようです。人間の目や脳は、無意識に常に映像を補正して認識しているため、想定と違う動きをされると標的を見失う傾向があります。先ほどからマスターが敵を補足できていないのはそれが原因と考えられます』
なるほど。ダッシュと同時に最高速になるゴキブリの動きを見失いやすいみたいなもんか。なんであそこまで軽量化しといて、重量の嵩む四脚なのかと思ってたが、確かにあれなら前後左右に同じように動ける訳だな。全速力でダッシュしながら突然左右にスライド移動したり、場合によっては逆方向に急ダッシュとかも思いのままって訳か。
普通に考えると中の人間がミンチになりそうだが、多分パイロットの耐G性能に全部スキルポイントをつぎ込んでいるんだろう。ゲームならではというか、プレイヤーの人間力にものを言わせた唯一無二の戦術といえる。
これがビルドロボオンラインの最上位層。本来なら私なんかが太刀打ちできるような相手じゃない。
ビームバリアがあってもTLSの助けがなかったらなぶり殺しもいい所だ。
しかし……それにしても、なんだろ。
敵の使ってる武器、なんか見覚えがあるような……。
ドタパパパ、と撃ち込まれる弾丸が再びビームバリアに弾かれる。高度を上げて追撃を回避しながら、私は遠い記憶を呼び覚まされた。
「……ああ! この射撃音、あれか! 最初期の、最軽量型マシンピストル! ……えええ!? 確かに軽量さが売りだから、最前線プレイヤーでも使ってるって事はあるって聞いたけど……武装あれ一つとナイフなの!?」
『それは朗報です。その武装ならデータにもあります、あれではビームバリアを突破できません。このまま突っ立ってるだけでも撃破はされないでしょう』
「んな訳ないでしょうが!? そうか、敵の本命はナイフの方か。スラスターとか破壊して、機動力を奪って地上に引きずり降ろして……そうなったら相手の独壇場だ! 地上戦でアレに勝てる筈がない!」
相手の戦術を看破した所でどうしようもない。
再びドパタタタ、とマシンピストルがバリアを穿つ。しばらくは防げるはずだけど……そう考えてバリアの状態をチェックした私は、それが想定以上に減耗している事に気が付いて目を見張った。
「バリアがかなり減衰してる……なんで!? あんな威力の弾丸で、ここまで減るはずが……」
『敵の弾丸を解析しました。どうやら敵は弾頭に、比重が重く耐熱性が高い金属を用いているようです。一般的に弾丸に使われるような素材ではなく、最初からビームバリアの減衰が狙いだったようです』
「うんげげげげ」
軽量特化だから対策なんて詰めない、その考えが浅かった。予備マガジンなんて重量あってないようなもんなんだから、アンチビーム弾の一つや二つ、用意してきて当然だよね! 私のお馬鹿! 普段からもっと実銃使っておけばよかった!
「く、くそ、このままだとバリアの再展開を狙われる! その前に仕留める、攻撃準備!」
『了解。敵機を確実に補足、破壊できる射撃ルートを構築します』
「ファイヤ!」
お約束のポーズをとって、ビームを発射。転送された粒子によってがくっと曲がったビームが、地上の敵を真上から強襲する。が、直撃寸前に、敵はその射線上から回避。
『逃しません』
そしてそれを予測していたTLSがさらにビームを曲げる。二つの歪曲点を経由して、ビームが地表を扇状に薙ぎ払う。
TLS自身が言った対策方法。超高速の範囲攻撃。いかなあの赤い機体でも、これを回避できるはずがない。そう思われたが……。
ビームの照射が終わった瞬間。ドタパパパ、と放たれた弾丸が、攻撃の為にバリアに開けられた穴を通して機体の銃口に飛び込んだ。ボボン、と小爆発と共に、片方の砲口が煙を吹く。
「……は?」
『敵機健在です。反撃でビーム砲が破壊されました』
「何故何どうして?」
さっきの超高範囲の薙ぎ払い、どれだけ早くても回避できるはずがない。困惑する私に、TLSが記録映像を表示して説明してくれた。
『命中した瞬間、ナイフを盾にしてガードされたようです。どうやら特殊合金製のナイフらしく、こちらのビーム兵器でも破壊できませんでした』
パリィかよ!?
いや理屈は分かる。ビームで広範囲を薙ぎ払おうと思ったら、どうしても交差は一瞬になる。その一瞬だけガードでやり過せばいい、ってのは分からなくもない。
でも理論上可能って話でしょそれ!? 歪曲ポイントは三次元的に発生するんだぞ、どうやってビームのコースを予測するんだよ?! そして予測した所で反応できるものなの!? 本当に同じ人間!?
「い、いや、オンラインゲームの上位勢とはそういうもの! 同じ人間だと思ったこっちが悪い……!」
『敵機、なおも追撃。ビームバリアの出力、急速に低下中』
「くそおお、まさかビーム対策以前の問題でここまで追いつめられるとは……!」
ここぞとばかりにせめて立ててくる敵機。このままではバリアを突破されるのも時間の問題だ。
だが、まだだ! まだビーム砲は残ってる!
そしてその使い道も思いついた!
「TLS! ビームで鳥籠を作れ!」
『……?! なるほど、了解しました!』
「いっくぞお!」
下がりつつある高度を上げて、敵の上を取る。機体そのものを傾けて、地上に向けてビーム砲を向ける。
砲口を狙うなら狙うがいい。一発撃てれば、こっちはそれでいい!
「ファイヤ!」
残り一門となったビーム砲が光を放つ。それは途中で二度の屈折を挟んで、敵の頭上から襲い掛かった。また同じ手か、と言わんばかりに回避行動をとる敵機。だが……。
『偏向粒子転送』
そのビームの進路上に、偏向粒子を展開。それによって、直進していたビームが複数に分かれる。原理的には指ビームと同じだ、一本のビームを枝分かれして複数に増やす。
そしてそれは、敢えて敵機を避けるようにして、その周囲に降り注いだ。指示通り鳥かごのように、ビームの柱が聳え立ち……それすら反応してみせた結果、一瞬だけ敵の動きが止まる。
今だ。
「バルカン!!」
ヴロロロロロ、と機体の頭部に備え付けたバルカン砲が火を噴いた。高速連射されたそれは消えかけていたバリアを突き破り、敵に向かって降り注ぐ。
たかがバルカン、されどバルカン。通常の機体相手であれば決定打にかける火器だが、極限まで軽量化を施された“スカルブラッド”の装甲はそれに耐えられなかった。割りばしのような細い脚部が砕け、マシンピストルを構えた腕が肘から吹き飛ぶ。コクピットのあるであろう胴体にも風穴が数発撃ち込まれ、がくり、と赤い死蟲が砂漠に突っ伏す。
直後、ジェネレーターの誘爆で機体が爆発。夜の砂漠に、赤く燃える火柱が上がった。
《YOU WIN》
「ふぅ……なんとかなったか」
『お疲れ様でした、マスター』
燃え上がる火柱を前に、ゆるゆると高度を落とす。途端、ビームバリアが限界を迎えて解除される。
本当にギリギリの戦いだった。
ぶっちゃけると、あのビーム網、スカルブラッドの最高速度ならギリギリ振り切れたかもしれない、という感じだった。相手があの超高速機を完全に乗りこなし、あの瞬間に一番安全な拡散ビームの内側に留まるという対応をしたからこその勝利。
言うなれば相手が超一流だったからこそその不意を突けた訳だ。
心臓に悪い、もう二度とやりたくない。
「でもこれまだ二回戦なんだよなあ……」
いまのがたまたま優勝候補と当たったのだと思いたい。
そう願いながら、私はどっかりとソファに身を預けた。