ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~ 作:SIS
「おわっ!?」
放たれた狙撃が、ビームバリアを貫いて肩に被弾する。フロートユニットの一基が破損し、浮力が低下する。
『浮力低下、高度落とします』
「駄目だ、今落ちたら狙われる!」
スラスターを吹かして、無理やり高度を維持する。一瞬遅れて、二発目が機体の足先を掠めていった。あのまま落下していたらドンピシャ胴体コースだ。冷や汗がたらりと流れる。
「ちっ、予想はしていたけど三戦目ともなればガチメタ機体が来るか!」
正面モニターに拡大された映像を睨みつける。
そこでは、山岳地帯、丘陵の岩陰からこちらを見つめる敵機の姿があった。
膝をついてどっしり構え、大型の狙撃砲を構えている。あれだけの大口径と発射速度があれば、プラズマ防壁をもってしても防御しきれない。まあそれは分かっていた事だ、それでもスナイパー相手なら、歪曲ビームでどうにかなるかと思ったのだが……。
「ファイヤ!」
駄目元でもう一発を発射する。放たれたビームは適切な場所で屈折させられ、大きく回り込んで物陰に居る筈の敵機を狙撃した。
しかしそれに対して敵が行ったのは、肩に装備した大型のバインダーを向ける、ただそれだけ。
それだけで、直撃コースにあったビームは見えない壁に当たったように軌道を変えて、地面に突き刺さって消滅した。
『敵機の解析完了。機体名“ゲイザーアイズ”。オプション装備を充実させた重スナイパー機体。両肩の多目的バインダーが特徴で、今回はビーム偏向力場発生装置を搭載しているようです』
「なるほどね。大会で対戦相手に合わせてメタ装備を切り替えるよう設計段階から考えられてる訳か……!」
ビームが完全に封殺されている事に舌打ちする。
メタられる事は想定していたが、ここまで完璧にやられるとは思っていなかった。
一応、そういった状況を想定してバルカンとあと切り札を一枚持ってきた訳だが、相手がスナイパーでは機能しない、遠すぎる。
なんとか距離を詰めようと前に出た瞬間、迂闊な前進を咎めるような狙撃が飛んできて慌てて回避する。相手はどうやらこのまま持久戦に持ち込むつもりのようだ。
『マスター、どうなさいますか』
「……いや。問題はない」
心なしかTLSの無感情な合成音声にも焦りが感じられるが、相手の手札は大体把握した。これならどうにでもなる。
このまま持久戦に持ち込み、こちらのミスを誘って狙撃で仕留める。それは結構だが、逆に言えばそれでもう、あちらの出し物は尽きた、という事だ。
あちらの敗因は唯一つ。ビーム対策に終始して、そもそもこちらの秘密兵器の原理まで考えなかったという事だ。
「転移先の座標を指定。対象は敵機体の胴体内部」
『! 了解しました。……設定完了、いつでもいけます』
「てこずらせてくれたが、これでお終いだ」
TLSの報告に合わせて、必殺ポーズを決める。
だが二本のフォトンビーム砲も、バリアに使っているプラズマビーム砲もどちらも冷却中。私に新たな攻撃方法はない。
それが分かっているのだろう、こちらの攻撃の構えを見ても、敵のスナイパーに動く様子はない。
その余裕が命取りだ。
飛ばすのは、ビームバリアを構成しているプラズマの一部。そして狙いは……敵コクピットに鎮座する、敵パイロットそのもの!
そう、忘れちゃいけない。ビルドロボオンラインにおいては、機体が無事でもパイロットが死ねば終わりだ。
そして粒子転送装置は、ビームの粒子はせいぜいフラッシュになる程度しか飛ばせず、到底機体へのダメージにはならないが……せいぜい厚さ数ミリのパイロットスーツに守られてるだけの人体はどうかな?
答えはすぐにわかる。
こちらをスコープで見据えたままの狙撃機体。そのトリガーにかけられた指は、いつまでたっても引かれる事はない。
私がすうー、と近づいて目の前に降り立っても敵に動きはない。見れば、胴体のハッチから、薄く黒い煙がもくもくと立ち昇っていた。
試合が終了してない所を見るとギリギリ生きてるか? とはいえまあ、もう何もできなさそうだな。
「少しでも動き回っていればそうはならなかったのにな」
普通であれば、動き回る機体相手にコクピットをピンポイントで焼くなんてできはしない。ちょっと歩いてるだけでも、不確定要素が多すぎて狙えたもんではないからだ。
だがこの相手は、対ビーム防御に重きを置くばかりに、完全に動きを止めての狙撃戦を選択してしまった。もしこの相手が多少の機動戦を織り交ぜてきたらこう上手くはいかなかった。
やはり芋砂はロクな事にはならないね。狙撃はやはりラン&ガンだ。
「ま、お疲れさま。来世は芋砂卒業しろよ」
敵の機体のどたまを掴み上げて宙づりにすると、バインダーで防げない至近距離からビームを叩き込む。大穴の空いた敵を崖下に投げ捨てると、遅れて爆発の光が山稜を照らした。
「ふふふ、これで三回戦突破。次は準々決勝だ……!」
次の相手に勝ちさえすれば、ベスト5入りも夢じゃない。この手の大会で上位にはとことん縁がなかった私としては革命的な出来事だ。
「これもなんもかんもテレサの御蔭だ……ぐふふふ、帰ったら出来る限りお礼をしないとなあ」
課金衣装全部買っちゃうか? それともサポーター用のVIPルーム? あるいは彼女に直接要望を聞いてみるのもいいかもしれないな。
「……っと、まだ早合点が過ぎる。次の試合に勝たないと、ベスト5入りなんて夢もまた夢だ」
ちょっと気が早すぎる。いや、負けるつもりは毛頭ないが、さっきの試合を見るにこっちがビーム特化だからと対策してくる傾向が強くなってきた。次の相手はもっとばっちり対策をしてくる可能性が高い。
そろそろ、切り札の出番かもしれない。
「次の対戦相手はどんな機体だ……?」
待ち時間の間に動画を確認する。映しだされた相手はというと。
「これは……所謂浪漫型か……」
ビル街で相手と撃ち合っているのは装甲重視の中量二脚。ずんぐりむっくりしたシルエットは、機動力を残しつつ防御力を高めた結果だろうか? そしてその手に持っているのは、防盾付きのガトリングガン! いやこの場合ミニガンというのが適切なのだろうか。背中に背負った巨大なドラム型マガジンから延々と弾帯を引き出しながら、対戦相手に猛烈な連射で圧力をかけている。
相手も頑張って反撃するが、装甲と防盾に阻まれ、反撃と言わんばかりに猛烈な弾幕の雨を見舞われる。これはゲームではあるが現実のそれに準じているので、朽ちかけたコンクリートのビルなど、戦車をアルミ缶みたいに穴だらけにするガトリングガンの前では盾にもならない。障害物関係なく射線に追い立てられて、ついに捕らえられたその機体が一瞬で粉微塵に吹き飛んだ。
赤熱化しつつある銃身をゆっくりと停止させて勝ち誇るガトリング機。
「なるほど……ガトキチか……」
もしかするとあるいはこういう路線もアリだったかもしれない。カタログ回していって最初に目についたのがビームだったというだけであって、実はガトリングも嫌いじゃないのだ。
ああいや、そういや最初期のラインナップにはなかったんだっけな。ある程度進んでからショップに並んだような気もする。だったやっぱりこっちに進んだ可能性はなかったか?
まあどっちにしろ、相手に取って不足なし。
真面目に考えても強敵だ。間違いなく、何かしらの対ビーム装備で対策してくるのは確定で、その上でガトリングガンの掃射をまともに食らったらビームバリアでも消し飛ばされる。機動力はさほど重視してないようだけど、それでもさっきの芋砂みたく定位置から動かない、という訳でもない。
こちらが勝つにはガトリングガンの掃射を避けつつ、背中のドラムマガジンかガトリングそのものをビームで先に破壊してしまうしかない。
鍵となるのは地形だ。ガトリングガンで破壊できない強固な地形があればそれを盾に地形戦を挑める。逆にそれがなければ真っ向からの撃ち合いになり、言うまでもなくこちらが不利だ。
「いいぜ、面白くなってきた」
真剣勝負は地形ですでに決まってくる。理不尽だが戦いとはそういうものだ。
私はワクワクしながら、戦いの時を待った。
……の、だが。
「……試合が始まらないな」
フィールドに移動するリフトの中。いつまでもたってもひたすら上昇を続けるリフトの中で私はヤキモキしていた。所謂ローディング時間な訳だが長すぎる。今回は家のクソ貧弱な回線ではなく、評判の良いネットカフェにわざわざ来てるんだからこちらの回線の問題ではないはず。
と、なると……。
《対戦相手の信号が規定時間を越えても確認できなかった為、本戦は不戦勝とします》
「ありゃりゃ」
ネットゲームあるある。回線切れ。
まあ本当によくある事だ。まじで。勝負に勝った喜びのあまりコントローラーを引っ張ってしまって、ケーブルで繋がれた本体が引きずり倒されて電源切れたりLANケーブルが引っこ抜けたり。それなりに時間があったのに復旧できなかったとなると、モデムがいかれたかケーブルが千切れたか、かなあ。
滅多にある事じゃないが、この滅多に無い事が致命的なタイミングで起きるのがネットの世界というものである。
「南無南無……」
私は世界のどこかで途方にくれているであろう対戦者の為に、両手を合わせて一しきり祈った。
……さて!
次は準決勝だ!!